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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査40巻5号

1996年05月発行

雑誌目次

今月の主題 心筋梗塞の生化学的マーカー

巻頭言

心筋梗塞診断のための血液化学的検査の変遷

河合 忠

pp.503-504

 食生活の欧米化,車社会での運動不足,環境汚染の悪化,喫煙習慣の若年化,ストレス社会,など多くの要因が重なり,虚血性心疾患が激増してきた.しかも,表向き"快適な近代文明生活"を享受している間に,虚血性心疾患が徐々に忍び寄るから,ついついその予防を忘れがちとなる.そして,ある日突然心筋梗塞で倒れる.

 虚血性心疾患には,狭心症と心筋梗塞がある.これらの疾患は,冠動脈の狭窄または閉塞によって心筋への血流がとだえて,心筋虚血状態に原因する.狭心症では可逆的な心筋障害にとどまるが,心筋の一部壊死まで進むと心筋梗塞である.両者は根本的に治療法が異なるので,早期に鑑別しなければならない.そのためには,心筋壊死の存在と程度を知ることと,心機能の障害度を知る必要があり,心電図および生化学的検査が行われる.

総説

心筋梗塞の生化学的診断法

西村 敬史 , 矢崎 義雄

pp.505-511

 生化学的診断法は,過去の心筋梗塞の既往や心電図異常に影響されずに心筋壊死を診断・評価することのできる優れた診断法であるが,近年の急性心筋梗塞診療の進歩により,診断のスピードや心筋特異性,梗塞サイズの正確な評価などが要求されてきている.また,多くの新しい検査法が登場し,臨床医はそれぞれの検査法の特性を熟知することが必要となり,病院の検査体制にも新しいものが求められている.〔臨床検査 40:505-511,1996〕

心筋(細胞)逸脱酵素の臨床検査〔総論〕

心筋(細胞)逸脱酵素の考え方

前川 真人

pp.513-517

 冠動脈の血流の停滞・途絶により心筋が壊死に陥り細胞膜が破綻し,心筋細胞内の酵素が血中に流入する.この血中の心筋由来酵素を心筋梗塞の診断に用いる場合,感度・特異性が優れたものが必要である.近年推奨されている早期治療に対して早期診断が重要になってきた.そのためには,半減期・ターンオーバーの短い酵素や分画比が診断マーカーとして使用される.一方,時間を経過した心筋梗塞の診断には半減期の長い酵素が必要であり,目的に応じて検査項目を選択すべきである.〔臨床検査 40:513-517,1996〕

心筋(細胞)逸脱酵素の臨床検査〔各論〕

CK-MB活性および蛋白量

片山 善章

pp.519-524

 CK-MBの測定は急性心筋梗塞の早期診断に有用であることはよく知られている.また急性心筋梗塞におる心筋壊死巣の大きさとその過程を知るうえで,もっとも重要な指標がAMI発作後からのCK-MBの経時的変化を測定することが行われている.CK-MBの測定は従来から免疫阻害法が用いられているが,ミオキナーゼ,ミトコンドリアCK,マクロCK, CK-MMのサブタイプなどはCK-M抗体では阻害されないので,これらのCKが存在するとCK-MB活性値は高くなる.これらの問題点を解決しているのがCK-MB蛋白量を測定する方法である.したがって本稿ではCK-MBの活性および蛋白量の測定の特徴と問題点について述べる.〔臨床検査 40:519-524,1996〕

CKアイソフォーム

安部 智 , 田中 弘允

pp.525-530

 心筋から血中に遊出したクレアチンキナーゼ(CK)は組織型アイソフォーム(MM3,MB2)から血清型アイソフォーム(MM2, MM1,MB1)へと変換される.CKアイソフォームの分析により組織型アイソフォームの増加を鋭敏に検出することは,CK, CK-MBに比し急性心筋梗塞の早期診断や再灌流療法の効果判定に有用である.従来,測定には主に電気泳動法が用いられてきたが,免疫阻害法による迅速測定法が開発され緊急検査へ応用可能となった.今後は,高い心筋特異性を持つCK-MBアイソフォームの臨床応用も期待される.〔臨床検査 40:525-530,1996〕

m-AST/s-AST比

米田 孝司 , 片山 善章

pp.531-537

 AST(またはGOT)アイソザイムは,組織傷害により大部分s-ASTが血中に出現し,組織構造が著しく破壊されるとm-ASTが流出する.したがって,ASTアイソザイムによる急性心筋梗塞(AMI)時の臨床的意義は,発症後数日経過した遅い段階で判断する重症度の程度や予後の判定に関する報告が多く,発作後数時間内の初期段階における報告は少ないのでAMIにおける意義を報告する.AMI発症後のm-AST/s-AST比の経時的変化は,他の心筋マーカー(ミオグロビンなど)よりも早い時間(発作後3±2時間)に最高値(41±19%)を示し24時間以内に減少した.また,入院時すでにピークを示すものもあり心筋壊死を伴わない単なる虚血状態でもm-AST/s-AST比が増加する可能性がある.さらに,m-AST/s-AST比の遊出動態(減少率)から再灌流療法の成否判定は可能である.また,m-AST/s-AST比の算出には特別な装置を必要とせず簡便かつ迅速に測定が可能なため,従来から報告されているAMIの予後および重症度だけでなく,早期診断や再灌流療法の成否判定としても有用である.〔臨床検査 40:531-537,1996〕

LD1アイソザイム

岡部 紘明 , 杉内 博幸 , 宇治 義則

pp.539-544

 LD1の臨床的意義についてまとめた.LD1アイソザイムは急性心筋梗塞の診断的価値が高く,血清LD1と総LD (LDT)はともに発症後上昇する.LD1はピーク到達後の消失がLDTよりも緩徐で高値を示す.胸痛発作後12時間以内のAMIの診断率はLD1よりもLD1LDT比の方が優れ,併用による6時間以内での感度・特異性はCK,CK-MBとほぼ同じで,12時間後では100%となる.陳旧性心筋梗塞(OMI)の40%にLD1の上昇が認められるが,狭心症では上昇しない.心筋壊死量はCK総流出量と相関性が高いが,LD1との相関も他の逸脱酵素よりも良く,再灌流の影響を受けにくいので発症後時間が経っても壊死量の計算が可能である.〔臨床検査 40:539-544,1996〕

ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)

林 泰三

pp.545-549

 ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)は各種疾患患者210例において,全体としてはAST,LDと有意の相関関係を示した.心疾患においては,CK,AST, LDと,肝疾患においてはASTと,悪性腫瘍においてはLDと,有意の相関が著明であった.救命センターへ緊急入院した,心筋梗塞と脳卒中の急性経過において,PGAMは心筋梗塞の発作後2時間以内には,CK, AST, LDとともに上昇はみられなかった.6~12時間後には,一転して著明なピークをとり,以後低下した.B/Tは著明に低下した.脳卒中においては,PGAMは発作後2時間以内に上昇し,高値に達し,以後低下傾向をとるが,B/Tは正常範囲にあった.〔臨床検査 40:545-549,1996〕

心筋構造蛋白の臨床検査〔総論〕

心筋構成(構造)蛋白の考え方

高木 康

pp.550-554

 心筋構成成分は心筋傷害を推測する特異的な生化学的指標として注目されている.心筋構成成分は心筋が真に傷害されないかぎりは血中に出現しないため,心筋傷害の正確な指標となりうる.また,トロポニンのように細胞質に遊離型としても存在するものは,心筋傷害が生ずると直ちに血中に遊出・出現するため早期指標としても優れている.心筋特異性の高い抗体を用いた測定系により微小梗塞の検出も可能であり,今後の発展が期待される.〔臨床検査 40:550554,1996〕

心筋構造蛋白の臨床検査〔各論〕

ミオシン

永井 良三

pp.555-558

 心筋ミオシンは構造蛋白の1種で,虚血時の筋原線維の崩壊に伴って血中に放出される.古くから用いられている逸脱酵素と異なり,急性心筋梗塞に伴う心筋壊死を反映する指標である.流出過程は発作後早期より血中で上昇し,広範な梗塞では2週間程度高値を持続する.したがって発作の数日後に入院した症例でも診断が可能である.さらに高値上昇例では心室瘤やdyskinesisの発生がみられ,予後や合併症の予測にも有用である.〔臨床検査 40:555-558,1996〕

トロポニンT

清野 精彦 , 富田 喜文 , 星野 公彦 , 子島 潤 , 高野 照夫 , 説田 浩一

pp.559-564

 心筋トロポニンTは,心筋細胞内で筋原線維に94%,細胞質可溶性分画に6%と特徴的な分布をしていることから,その遊出動態を分析することにより種々の心筋傷害の病態生理を分析することが可能である.本稿では急性心筋梗塞の早期診断,再灌流療法の評価,不安定狭心症における心事故発症の早期予知などについてレビューする.さらに特異性と鋭敏性を向上した第二世代のELISA測定系,スティック上で末梢血をそのまま滴下して異常値を判定できる迅速判定法などの有用性についても述べる.〔臨床検査 40:559-564,1996〕

心筋細胞質蛋白の臨床検査〔総論〕

心筋細胞質蛋白の考え方

岡部 紘明

pp.565-569

心筋細胞質蛋白であるミオグロビンおよびヒト心臓脂肪酸結合蛋白の心筋梗塞で診断意義について述べる.両蛋白とも可溶性低分子蛋白で膜透過性が亢進すると細胞から血中に遊離してくるので,急性心筋梗塞の早期診断の指標とされる.ミオグロビンは酸素をミトコンドリアに伝達するのに重要な役割を果たしているが,骨格筋にも含まれ臓器特異性はない.脂肪酸結合蛋白は心筋のエネルギー源として重要な脂肪酸の細胞内転送などを行い,心筋特異性のある蛋白で,虚血の影響を受け,心筋梗塞発症後早期に血中に現れる.〔臨床検査 40:565-569,1996〕

心筋細胞質蛋白の臨床検査〔各論〕

ミオグロビン

石井 潤一 , 石川 隆志

pp.570-574

ミオグロビン(Mb)は心筋と骨格筋に存在するヘム蛋白質であり,酸素の貯蔵体である.Mbは筋細胞の細胞質内に豊富に存在する低分子蛋白(分子量:17,200)であるため,壊死心筋から容易に血中に流出し,再疎通による影響を強く受ける.しかも,ラテックス凝集比濁法により簡便・迅速(測定時間:約10分)に測定できるため,心筋特異性が低いという欠点はあるが,現時点では心筋梗塞の早期診断および再疎通の判定におけるもっとも有用な生化学的マーカーであると考えられる.ラテックス凝集比濁法によるMbの血中濃度の測定は緊急検査の項目として急速に普及してきている.〔臨床検査 40:570-574,1996〕

心筋型脂肪酸結合蛋白(h-FABP)

田中 孝生 , 宗宮 浩一 , 岡本 文雄 , 河村 慧四郎

pp.575-580

 脂肪酸結合蛋白(fatty acid binding protein; FABP)は,細胞内で脂肪酸の運搬・緩衝に携わる蛋白質である.心筋型脂肪酸結合蛋白(h-FABP)は,心室筋の細胞質に豊富に存在する可溶性の低分子量蛋白で,他の臓器に存在するものと免疫学的手段により鑑別可能である.したがって,h-FABPが心筋傷害の生化学的マーカーとなりうると考え,その測定法を開発し,心筋梗塞時におけるh-FABP濃度の推移,心筋梗塞サイズの推定,ならびに特異性などを検討したので紹介する.〔臨床検査 40:575-580,1996〕

話題

トロポニンI

高木 康

pp.581-583

1.トロポニンIとは

 トロポニンは3つのサブユニット,すなわちトロポニンC (TnC),トロポニンI (TnI),およびトロポニンT (TnT)からなり,トロポミオシンとともに筋肉収縮を調節している蛋白である.

 筋肉は太いフィラメント(ミオシン)と細いフィラメント(アクチン)が互いに滑り込むことにより収縮する.静止筋ではTnIがアクチンと結合してミオシン頭部がアクチンと接触するのを阻害している.これが筋肉が収縮するときには,まず活動電位によって放出されたCa2+がTnCに結合し,これによりアクチンとTnIとの結合が弱まり,トロポミオシンが側方に動くことが可能となる.トロポミオシンが側方に動くとアクチンのミオシン頭部に対する結合部位のおおいが取り去られ,アクチン線維とミオシン頭部との相互作用が可能となり,収縮が起こる.TnIはアクトミオシンのATPase活性を阻害することで,TnCとカルシウムの結合を阻害しているのである.

今月の表紙 表在性真菌症の臨床検査シリーズ

皮膚系状菌症 2.分離培養と発育コロニーの形態学的特徴

山口 英世 , 内田 勝久 , 楠 俊雄

pp.498-499

 皮膚糸状菌症(白癬)は,病変が生体のどの部位に生じるかによって,足白癬,体部白癬などさらに細かく分けられる.しかし,頭部に生じる白癬(頭部白癬およびケルルス禿瘡)を除けば,あらゆる白癬の原因菌の大半は,Trichophyton rubrumおよびT. mentagrophytesの2菌種で占められる(前号参照).これら以外の原因菌種の分離頻度は桁違いに低いが,そのなかでは,Epidermophyton floccosumとMicrosporarm canisが比較的多く分離される.M. canisは本来イヌ,ネコなどの動物の白癬の主要原因菌であり,ヒトでは頭部白癬原因菌の過半数を占めるという特徴的な菌種である.

 以上挙げた4菌種以外にも白癬原因菌種は多数知られているものの,これまで国内で分離例があるのはM. gypseum,T. violaceum,T. verrucosum,T. tonsuransなどに限られ,いずれも分離頻度はきわめて低い.

コーヒーブレイク

静ひつな幸せを

屋形 稔

pp.517

 平成7年の暮れから新年にかけてハワイでのんびりと過ごしてみた.ハワイには何回となく足を留めているがあの雰囲気は一種特別で心身を癒やすものがある.それでも今までは仕事を抱えたりしてやや気ぜわしい点もあったが,何もなしに過ごすというのはこんなに良いものかと怠惰の中に身を浸した.

 正月は日本からの客が多いといわれるが,米国本土からの人々も相応に多く交歓もできた.日本からは若い人々,特に女性2人連れとか男女のカップルが多いのはいつ頃からの現象だろうか.ディナーの席や浜辺,ゴルフ場などでこうした若者たちと会話をすると,年のわりに大人びていて礼儀も正しく常識もあるのに気づく.ヨーロッパの旅で会った女性2人連れなどより何となく安心して見ることができた.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

HPA法

石田 一雄 , 賀来 満夫

pp.585-588

はじめに

 最近の分子遺伝学の進歩に伴い,多くの分野で遺伝子を利用した疾患の診断が臨床的に用いられるようになってきた.この遺伝子を利用した診断は,感染症,遺伝病,悪性腫瘍などの分野で基礎的研究および臨床応用などが検討されており,特に感染症の分野ではすでに診断キットが開発され,臨床応用されてきている1~3)

 本稿ではDNA診断法の1つであるHPA法(hy-bridization protection assay)について,すでに臨床応用されている抗酸菌同定用キットを例としてその原理,方法,同定の実際について述べる.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

抗酸菌

岡田 淳 , 田澤 義明

pp.589-594

はじめに

 抗酸菌の感染が原因となる感染症としては古くから結核症が重要な疾患である.結核症は抗菌剤の発見と生活環境の向上により急速に減少してきたが,近年ではHIV感染の拡大に伴い,結核菌感染の増加が世界的に危惧されるようになった.またわが国においても,1970年代後半から結核罹患者数の減少が鈍化しており,2次感染を防止するうえで,感染初期における迅速診断の重要性が示唆されている1)

 一方,結核菌以外の抗酸菌感染症は,種々の免疫不全状態に伴う感染症として年々増加の傾向にあり,結核症との鑑別診断が臨床上必要になっている2)

トピックス

ミトコンドリアDNA異常症

良本 佳代子 , 原納 優 , 片山 善章

pp.595-596

はじめに

 ミトコンドリアDNA異常症とは,ミトコンドリアの機能異常によって起こる疾患の総称である.ミトコンドリアは,生物のエネルギー源であるATPを好気的に産生する細胞内小器官であるため,その異常により,エネルギー需要の多い神経および筋組織を中心に多彩な症状を呈する.最近では,遺伝子解析法の進歩により,ミトコンドリアDNAに変異を認めるミトコンドリア脳筋症の遺伝子異常はほぼ明らかとなった.また,ミトコンドリアDNAの異常と糖尿病との関連について報告され,NIDDMの成因の1つとしても注目されている.

ミニセルによる遺伝子産物の解析

松浦 基博

pp.596-598

 細菌が増殖する場合,通常は細胞の中央部に隔壁を合成し,染色体をはじめ,もとの細胞と同一の成分を有する相同の2個の細胞に分裂する.ところが,細胞分裂に異常をきたし,細胞の末端近くに隔壁を合成し分裂するため,分裂後の一方の細胞は正常であるが,もう一方の細胞として正常細胞に比べてはるかに小さい細胞(ミニセル)を産生する変異株(ミニセル産生株)が存在する.このような変異株によって産生されるミニセルは,細胞壁や細胞質膜の構成成分および細胞質に含まれる種々の蛋白質やRNAなどは,元の細胞と変わらないが,染色体DNAは含まないという大きな特徴を有している.そのため,ミニセルは一般の代謝機能は有しているが,ミニセル自体がさらに分裂,増殖を行うことはできない細胞である.したがって,ミニセルを増やすためには,ミニセル産生株を増殖させ,その分裂に伴って産生されるミニセルを蓄積させるという方法を取らなければならない.

 このようなミニセル産生株がプラスミドを保持している場合には,プラスミドDNAは染色体DNAとは異なり,ミニセル中にも複製されるという特性を有していることが見いだされた.プラスミドは,細菌細胞内で染色体DNAとは独立して存在する環状DNAであるが,プラスミド上にコードされた遺伝子も染色体遺伝子と同様に発現されるため,菌の表現型に大きな影響を与える.

ウイルス感染病態におけるNOの意義

赤池 孝章

pp.598-599

 近年,ヘルペスウイルスをはじめとする各種脳炎ウイルスの生体内増殖において,NO合成の亢進が明らかにされており1~3),この様はウイルス感染症における誘導型NO合成酵素(inducible isoform of NOS:iNOS)の誘導は,主にinter-leukin1β(IL-1β),tumor necrosis factorα(TNF-α),interferonγ(IFN-γ)などの炎症性サイトカインの産生を介していることがわかっている.一方,われわれは,マウスのインフルエンザウイルス肺炎モデルにおいて,ウイルスの肺組織内での増殖に対する生体反応の1つとして,ウイルスの感染局所にiNOSが誘導され,過剰なNOの生成が誘導されることを見いだした4)

 これに加え,われわれは,マウスインフルエンザウイルス肺炎モデルの感染局所において,スーパーオキサイド(O2)の産生系の1つであるキサンチンオキシダーゼ(XO)が過剰に誘導され,このO2の生成をスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)やXOの阻害剤により抑制することにより,ウイルス肺炎病態が改善することを報告している5)

質疑応答 輸血

輸血用赤血球製剤中のカリウム濃度の変化

浅井 隆善 , 平山 義夫

pp.600-601

 Q 赤血球濃厚液中のカリウム濃度は保存日数とともにどのような変化をするのでしょうか.

質疑応答 微生物

髄膜のような無菌的な場所になぜウイルスがいるのか

庄司 紘史 , K男

pp.602

 Q 髄膜炎はウイルス,細菌などによって起こりますが,なぜ髄膜のような無菌的な場所にウイルス,細菌などがいるのでしょうか(なぜ,細菌,ウイルスが髄液に侵入するのか)をご教示下さい.

研究

好酸球性胸水の臨床病理学的検討

畠 榮 , 横山 奈穂子 , 大倉 貢 , 広川 満良

pp.603-606

 好酸球性胸水の臨床病理学的特徴を検討した.胸水中に10%以上の好酸球増多を認めた110症例を対象とし,原因疾患と好酸球数との関係について比較検討した.好酸球性胸水症例の原因疾患は,悪性腫瘍は110例中51例(46.4%),感染症25例(22.7%),気胸11例(10.0%),肺梗塞4例(3.6%)であった.

 胸水と末梢血の好酸球数の割合の関係は,Pearsonの相関関数でt=3.072(df=103),p=0.0027という相関を示し,悪性腫瘍51例中の7例(13.7%)に末梢血の好酸球増多を認めた.好酸球性胸水中の白血球分類について,リンパ球優位型は42例(38.2%),好酸球優位型は36例(32.7%)で,悪性腫瘍がともに首位を占めていた.

 今回の検討で,好酸球性胸水の原因疾患でもっとも高頻度に認められたものは悪性腫瘍であった.リンパ球優位型の好酸球性胸水では悪性腫瘍を念頭におき検索する必要があると考えられた.しかし,好酸球数で好酸球性胸水を引き起こす疾患を断定することは困難であった.

ヒトIgM型抗マウス抗体(HAMA)による血清CA-125測定における偽陽性反応の解析

森山 隆則 , 上原 聡 , 鷲尾 明子 , 信岡 学 , 池田 久實

pp.607-610

 臨床経過と矛盾する持続性の高CA-125血症が1例が経験された.このCA-125高値は,患者血清中のIgMの免疫吸収および還元処理によって消失したため,IgM型HAMAによるCA-125偽陽性反応と考えられた.本例のHAMAは,OC-125 MAbに対する反応性が正常マウスIgG 1に対する反応性の約3倍示し,正常マウス血清では吸収されないこと,認識部位の異なる他の抗体とは反応しないことより,OC-125 MAbに対する抗イディオタイプ抗体であることが示唆された.

呼吸を刺激法として用いたSSR(smypathetic skin response)の検討

吉良 保彦 , 荒巻 駿三 , 小倉 卓 , 平澤 泰介

pp.611-615

 交感神経機能の評価法として臨床的にも用いられてきているSSRは,元来,電気刺激法により誘発してきた.しかし,この刺激法から得られる電位は,慣れを生じやすく出現様式も多様性に富み,しかも,心理的変化にも影響を受けやすく客観的評価が困難である.今回われわれは,意識的に呼吸を行わせる呼吸刺激法と,従来の電気刺激法により得たSSRのパラメーターを比較し,呼吸刺激法の有用性を検討した.呼吸刺激法によるSSRは慣れ現象が認められず,波形の動揺性が少なく,そのうえ,電気刺激法に比し,より大きな振幅の反応が得られた.

資料

同一試料ガスを用いた3種の13CO2呼気分析装置の比較検討

野田 温也 , 立川 哲也 , 大住 孝彦 , 梶原 正宏

pp.617-621

 13CO2呼気検査に用いられる3機種の13CO2呼気分析専用装置について,CO2濃度および13C/12Cの比が既知の種々のCO2ガスを測定試料として比較検討を行った.GC-MS装置であるABCA-G (Europa Scientific),Breath MAT(Finnigan Mat)は,直線性,再現性,感度,精度などの基本的な性能が良好であり,13CO2呼気検査に十分な性能を有していた.また,赤外分光装置であるEX-130S (日本分光)も基本的性能はほぼ良好であった.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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