特集 神経系疾患と臨床検査
Ⅰ.生化学・遺伝子
12.エメリードレイフス型筋ジストロフィー
著者:
土屋勇一1
荒畑喜一1
所属機関:
1国立精神・神経センター研究所疾病研究第一部
ページ範囲:P.1287 - P.1289
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エメリードレイフス(Emery-Dreifuss)型筋ジストロフィー(EDMD)は小児期発症の筋疾患であり,臨床的には,①肘やアキレス腱,後頸部筋の早期拘縮,②上腕―腓骨筋型の筋萎縮・筋力低下,および③重篤な伝導障害を伴う心筋症を3主徴とする1).本症の拘縮は筋力低下が明らかとなる以前の早期から現れ,典型例では前腕は肘で半屈曲位をとり,頸部の前屈が障害される.筋萎縮・筋力低下としては,主に上腕二頭筋,上腕三頭筋,前脛骨筋腓骨筋が初期に障害され,後に肩甲―上腕―下肢帯―下腿型に至る.他のタイプの筋ジストロフィーと比較すると進行は緩徐である.しかし,骨格筋の筋力低下とともに心筋症が存在し,臨床的には徐脈として,心電図上ではPR間隔の延長として現れる.そのため失神や心不全症候を呈することがあり,さらに伝導障害が顕著な場合には突然死の原因ともなり得る(~50%).血清クレアチンキナーゼ値は軽度から中等度の上昇を示すにとどまる.筋電図所見は筋原性変化が主体となり,これに運動単位電位数の減少,高振幅,持続時間の延長といった神経原性変化を示唆する所見が混在する症例が多い.筋生検では筋の壊死・再生や筋線維の大小不同,結合織の増生,中心核の増加,筋線維のsplittingの存在など一般的な筋ジストロフィーとしての変化がみられる.仮性肥大は認めない.剖検心筋では心房筋の脂肪組織への置換,心室中隔ならびに左室後壁を中心とした線維化が認められたとの報告もある.
EDMDは通常X染色体劣性遺伝形式をとるが,まれに常染色体優性遺伝形式を示す家族も知られている.1994年Bioneらは,Xq 28領域に存在するSTA遺伝子に変異をきたしたEDMD患者5例を報告し,疾患責任遺伝子を明らかにするとともに,この遺伝子産物をエメリンと命名した2).さらに1995年にはSTA遺伝子の全ゲノム配列を報告した3).