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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査41巻12号

1997年11月発行

雑誌目次

今月の主題 標準物質

巻頭言

標準物質の供給がなぜ必要なのか

中 甫

pp.1601-1602

 分析により得られる定量検査の結果には必ず誤差が含まれる.この誤差は測定の精密さに関連する偶然誤差と測定の正確さに関連する系統誤差に大別できる.系統誤差はさらに試料濃度に関係なく一定方向に一定比率で偏りが生じる比例系統誤差と,試料濃度に関係なく一定方向に一定の大きさで偏りが生じる一定系統誤差に分けて取り扱われる.近年の測定法,測定機器の著しい進歩と内部精度管理の普及と努力により施設内の測定の精密さは著しく向上している.一方,種々の精度管理調査の結果からも明らかなように,測定値の施設間差が無視できない項目が存在する.精密さが確保されている現在,これらの施設間差は正確さの偏りが原因で,誤差成分としては主として比例系統誤差である.このような比例系統誤差の主な原因は,測定値の正確さの物差しとなる標準物質に負うところが大きい.したがって,適切な標準物質が存在し,それを共有することにより定量値の正確さの保証が可能になることはいうまでもない.

総説

標準物質についての国際的動向と今後の展望

河合 忠

pp.1603-1607

 標準物質に関する国際的なガイドラインは国際標準化機構からすでに公表されているが,これらは主として工業分野でのものである.臨床検査分野での標準物質については,WHO,IFCCなどの国際団体から国際規格が公表されているし,国際標準物質もいくつか作製されている.1994年からISO/TC 212が発足し,臨床検査分野により適合した国際規格案作りが進行中である.この動向に合わせて,わが国でも日本臨床検査標準協議会を中心に標準物質の標準化が進んでいる.

生物学的製剤における国際標準物質の動向

菅原 孝雄 , 伊藤 喜久

pp.1608-1612

 抗原抗体反応を利用した免疫学的診断法は,感度・特異性ともに優れていることから,感染症の診断や腫瘍マーカーの検出など,数多く使用されている.これらの検査試薬は,診断用生物学的製剤とも呼ばれ,体外診断薬に属している.

 診断試薬の品質管理は,製品のガイドライン,GMP (適正製造規範)なども必要であるが,標準物質による性能の確保が最も重要と考えられる.免疫学的な診断試薬の標準品は,国際的にはWHOが中心となり,世界規模で供給してきた.また最近は国際臨床化学連合(IFCC)の血漿蛋白標準品CRM 470/RPPHSが用いられるようになってきた.国内的には,AFP,CRP,免疫グロブリン(GAM),ASO,HBsが作製され,国立感染症研究所から交付されてきたが,CRM470との関連で,交付できるのはAFP, ASO, HBs抗原のみとなっている.

標準物質に関する用語とその意味

桑 克彦

pp.1613-1619

 臨床検査における標準化は,患者を含めて関係する人々の間で,利便が公正に得られるように種々の取り決めをすることにある.特に定量検査においては測定項目によって,物質濃度測定,酵素活性測定,免疫成分測定のそれぞれについて,測定法あるいは標準物質が設定される.このうち最も重要なのが標準物質である.管理血清や検量用の標準液などは標準物質ではない.標準物質の定義と意味を理解することが標準化の目的に合った使い方につながる.

標準物質の現状

NISTおよびIRMM(BCR)か供給している標準物質(臨床検査関連)

梅本 雅夫

pp.1620-1624

 認証標準物質を世界的に供給している代表的な機関としてはNISTとIRMMが挙げられる.これら2者は設立の経緯も,付随する目的も異なり,かつ,標準物質の種類も大きく異なる.2者の間では同種類の標準物質はあまりみられず,ユーザーは,両者の標準物質の種類をよく知って入手するようにすれば真値の目安を知るのにおおいに役立つと思われる.

尿蛋白国際標準品

伊藤 喜久

pp.1626-1629

 国際的血漿蛋白標準品CRM 470/RPPHSに準じて,尿蛋白個別成分測定のための標準品が国際臨床化学連合(IFCC)から作製準備中である.対象成分はアルブミン,トランスフェリン,IgG,α1-マイクログロブリン,レチノール結合蛋白,α2-マクログロブリン,χ,λ抗原7種8項目で,健常者プール血清に精製品を添加し,マトリックスとしてへペス緩衝液を用いた人工的な標準品である.これまでの作製の現状をまとめ報告する.

JSCC常用酵素標準物質

伊藤 啓

pp.1630-1635

 本秋季(1997年),公布予定の常用酵素標準物質(ERM)について規格の作成経過,性状および形態について記載する.またその規格に従ったERMの製造経過,認証過程について述べ,今後新しく生ずるERMを用いた測定体系について記載する.

HECTEFが供給している標準物質

谷 渉 , 梅本 雅夫

pp.1636-1640

 測定値の信頼性は,各検査項目の指標設定(個人の生理的変動幅,集団の基準範囲)や経年変化,国際比較などの解析のペースとなる.ここで紹介する生化学検査用の標準物質は,検査室の測定者自らによる,測定値の信頼性(正確さ)の確認と維持を可能とするものである.

標準物質の活用

測定体系における標準物質の役割

菅野 剛史

pp.1641-1644

 臨床検査領域での測定体系には,①秤量可能な物質に対して,②酵素活性測定に対して,③血漿蛋白などの蛋白成分に対しての3とおりの体系が存在する.これらのそれぞれの体系に対して標準物質の役割をまとめた.

 標準化は画一的な測定法を用いることではなく,この測定体系を作動させて上位の測定法の計測値を正しく日常の分析法へ伝達する道筋である.

標準物質による正確さの確認と校正法

細萱 茂実 , 尾崎 由基男

pp.1645-1650

 標準物質を用いた正確さの確認と測定法の校正は,臨床検査の標準化における実践上の最も重要な過程である.正確さを適切に確認しまた伝達するには,測定体系に関する基本的な理解と,それらを具体的に実践する方法論に関する知識が不可欠である.そのためには,分析化学的技術と計量論的アプローチの両者が必要であり,ここではそれらの統計的側面を中心に考察する.特に,校正に関与する変動要因の制御と,測定法間の患者検体と標準物質の間の比例互換性(com-mutability)の評価は,正確さを伝達・維持する際の要となる.

精度管理調査結果からみた標準物質供給の効果

中 甫

pp.1651-1656

 現在,国内において臨床化学検査,免疫化学検査,血清学検査に関連する一部の標準物質が供給されているが,その供給の効果は精度管理調査の結果を詳細に検討することにより推定できる.過去8年間の日本医師会臨床検査精度管理調査結果を中心に,一部予防医学事業中央会第9回精度管理調査結果を加えて検討したところ,標準物質が供給されている項目の多くは経年的に施設間差が縮小しており標準物質の供給効果が明らかになった.

話題

NCCLSの最近の動向

河合 忠

pp.1657-1658

1.NCCLSの沿革

 1967年,College of American Pathologists(CAP,アメリカ病理医会)の呼びかけにより設立されたNational Committee for Clinical Lab-oratory Standards (NCCLS,米国臨床検査標準委員会)は,臨床検査における標準の開発,広報ならびに利用を目的とする産官学共同体の非営利教育団体である.当初は,15の学会・団体が加盟したが,現在では約400の会員団体から構成されている.NCCLSは,1975年に国内事務所を設置し,1977年にはAmerican National Stan-dards Institute (ANSI,アメリカ規格協会)から認定され,1985年にはWorld Health Organiza-tion (WHO,世界保健機関)の臨床検査標準協力センターに指定された.その後,ヨーロッパ先進各国,ヨーロッパ連合に同様な組織が設立され,わが国では1985年に日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical LaboratoryStandards;JCCLS)が発足した.

 1991年からは国際標準を検討するプロトコールを正式に承認し,国際的な標準化に向けての活動方針を打ち出した.その後,国際委員会での討議を踏まえて,次の4つの大きな変革を決めた.

日本臨床検査標準協議会(JCCLS)における認証委員会

菅野 剛史

pp.1659-1660

 認証とは技術的に妥当な,国際的にまたは国内的に相互に了解されている手続き(分析法)によって標準物質などの計測値を確定することである.その認証の水準は国際的な機関によって認証されるものから,国の行政のレベルで認証されるもの,専門家集団である学会などで認証されるものなど多岐にわたることになる.認証は認証書が発行されることであるから,認証書を発行する認証団体は国立の機関であったり,学術団体であったり公的に認められた団体など,異なった水準の多岐にわたる団体がこれを発行することになる.

 測定結果(測定値)の認証書には,標準物質の使用目的をはじめとして,特性値(計測値)の決定方法,標準物質の使用方法,保存方法,取り扱いの注意事項などが記載されている必要がある.

今月の表紙 深在性真菌症の臨床検査シリーズ・7

二形性真菌による地域流行型感染症(1)

山口 英世 , 内田 勝久

pp.1596-1597

 病原真菌の中には,同一菌でありながら,環境条件および(または)栄養条件次第で,酵母形で発育したり菌糸をつくったりするものがある.このように2つの異なる形態の栄養形で発育する能力を持つ真菌は,一般に二形性真菌と呼ばれる.真菌全体の中では二形性菌の占める比率は低いが,病原真菌として重要な菌種がいくつも含まれているため,医真菌学領域では以前から重要視されてきた.このシリーズですでに取り上げたSporoth-rix schenckii, Candida spp.(C.glabrataを除く),Trichosporon beigeliiなども二形性真菌に属する.

 しかし最も典型的な二形性真菌として古くから注目されてきたのは,生体組織内または体温に近い温度(35~37℃)で培養した場合に酵母形,通常の培養温度(25~30℃)ならば菌糸形で発育するタイプの病原真菌である.このように生体内,培地上を問わず,発育形態を左右する主たる要因が温度であることから,これらの真菌は温度依存性二形性真菌とも呼ばれる.ただし,通常の培地上では培養温度を上げただけでは酵母形発育が不完全な場合が多く,栄餐源の登富な培地(例,血液添加BHI寒天,トリプティケート・ソイ寒天)を用いると,より完全な酵母形発育がみられる.

コーヒーブレイク

けんさの開拓者

屋形 稔

pp.1607

 1997年の9月横浜の日本臨床検査自動化学会総会の第一日目,柴田進先生が急逝された報せを当日会場の一隅で報された.83歳であられたがその生涯はわが国臨床病理学の開祖として,また臨床検査の今日を築いた柱としてあまりに有名で,巨星おちて天下の秋を知るという心境であった.

 私も35年に及び先生から学問的,精神的に大きな影響をこうむり,斯学の指針をすべて仰いだといっても過言でない.今までもたびたびそのこ偉業については筆にしたことがあり,本誌36巻13号1343頁(1992年)にも"汝の道を歩め,而して人をして語らしめよ"という先生の座右の言葉をテーマに語らせていただいたことがある.

サザエさん

寺田 秀夫

pp.1635

 むし暑い土曜日の午後,"サザエさん"第9号,10号が届いた.亡くなられた長谷川町子さんの傑作まんがシリーズ全33巻が今春から朝日新聞社で発行され,毎月2冊ずつ配本されてくる.

 親切で陽気でそそっかしいサザエさんを中心に,醸し出される平和な中流家庭での,ほのぼのとした雰囲気が各号に溢れている.幼いカツオ,ワカメ弟妹との暖かいこっけいな会話,そしてフグ田マスオと結婚し,タラちゃんという赤ちゃんを背負ったユーモア溢れる母親としてのサザエさんの日々.そして昭和21年から書き始められたこのマンガ集の中には終戦後の貧しい日本社会を物語るラジオ,コタツ,ラッパ型の電話器,丸い赤い郵便ポスト,井戸水など当時を偲ばせるなつかしい絵が描かれている.特に"童は見たり,野中のバラ……"の童謡を口ずさみながら,たらいと洗濯板で洗っているサザエさんとその傍で張り板で布を糊つけして張っているお母さんの絵(第5巻)は,亡くなった母の遠い昔を思い起こさせるに十分であった.この"サザエさん"全集に満ち溢れている古い良き時代の人々の暖かさと和やかさが,今日もあったら日々メディアで報道される痛ましい事件も起こらないのではないかなど思ったり,高度成長と最先端の進歩した科学至上主義は,真に人間に幸福をもたらすのかと深い疑問に陥ってしまう.この"サザエさん"を描いた長谷川町子さんが72歳で亡くなられたが,生前からお姉さんに3つの誓いを約束していた."その1つは病気になっても入院させないでください.もう1つは病気になっても手術をさせないでください.そして密葬にしてください"と.そのため彼女は1992年7月に亡くなられ密葬をすませて1か月後に初めて公に知らされたわけである.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

PCR-PHFA法

岡 孝紀

pp.1661-1665

はじめに

 近年の遺伝子操作技術の進歩により,多くの病気と遺伝子変異との関連が急速に解明されている.遺伝子診断によりこのような遺伝子の変異を検出することで,病気の出生前診断や癌の早期診断が可能である.また,ヒト白血球抗原(HLA)や血小板型抗原のような遺伝子の多型を調べることにより,骨髄移植や適切な輸血が可能となる.

 今回ここで紹介するPCR-PHFA (PCR-Preferen-tial Homoduplex Formation Assay)法1,2)は,標識デオキシリボ核酸(DNA)と非標識DNAが完全に同一の配列を持つか否かを,マイクロプレートによるELISAの操作により簡単に判定する方法である.この方法は特定の変異遺伝子,あるいは遺伝子多型の検出だけでなく,位置,種類の不特定な遺伝子変異の検出をも可能とし,しかも大量の検体処理に適したものである.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

赤血球酵素異常症

藤井 寿一 , 三輪 史朗

pp.1666-1673

はじめに

 赤血球酵素異常による遺伝性溶血性貧血は,赤血球機能を保つうえで重要な酵素の質的ないし量的な異常により起こる疾患である.解糖系,五炭糖リン酸回路,グルタチオン代謝・合成系,ヌクレオチド代謝に関連した約16種の酵素の異常により遺伝性非球状性溶血性貧血をきたすことが明らかになっている1,2)

 現在までに筆者らは,14種246家系285例の赤血球酵素異常症を発見している(表1).溶血性貧血を伴う例に限ると,最も症例数が多いのはピルビン酸キナーゼ(PK)異常症で,次いでグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)異常症,ピリミジン5'-ヌクレオチダーゼ(P5N)異常症となるが,その他の酵素異常症は10家系以下とまれである.

トピックス

(1→3)-β-D-グルカン結合蛋白

田村 弘志

pp.1674-1675

はじめに

 カブトガニの血球(アメーバ細胞)抽出液を用いるリムルステストは,ウサギの発熱試験に代わるエンドトキシン〔グラム陰性菌細胞壁の構成成分でLPSとも呼ばれるリポ多糖(Et)〕の鋭敏な試験管内検出法として実用化され,注射薬や医療用具のEt汚染のチェックならびにグラム陰性菌感染症の早期血清診断に広く使用されている1,2).日本産カブトガニ(Tt)のアメーバ細胞には,エンドトキシンが引き金となって進行するセリンプロテアーゼ前駆体の一連のカスケード凝固反応系(C因子系)が存在する.その研究過程で,真菌類の細胞壁を構成する主要な多糖である(1→3)-β-D-グルカン(BG)がEt同様リムルス反応を活性化することが見いだされ,このセリンプロテアーゼ前駆体の一連のカスケード凝固反応系(G因子系)を応用した真菌感染症の血清診断法が大林らにより確立された2~4).それを用いたファンギテックGテストならびにGテストMK (生化学工業)が,深在性真菌症の早期診断や抗真菌剤の治療効果の判定に有用であることが示され,検査薬として広く用いられている5)

 最近,われわれは,Ttのアメーバ細胞抽出液中に,BGと特異的に結合することによりG因子の活性化を抑えるBG結合蛋白(T-GBP)の存在を見いだした6).そこで今回は,T-GBPを用いたBG検出への応用について紹介したい.

免疫および発癌と関連する新種の細胞質蛋白質.プラスチン

四宮 博人

pp.1676-1678

はじめに

 プラスチン(plastin)は,筆者ら(マウスプラスチン/PP 65)およびLinら(ヒトプラスチン)によって,それぞれ独立に見いだされた新種の細胞質蛋白質である.すなわち,筆者らはマウスマクロファージを細菌性リポポリサッカライド(LPS)で刺激したときに,細胞内で特異的にリン酸化される65kDa蛋白質(pp 65)を精製し,新種の蛋白質と同定した1~3)).一方,Linらはヒト線維芽細胞を癌化させたときに発癌特異的に細胞内に出現するリン酸化蛋白質を精製,同定し,プラスチンと命名した4)).その後の研究で,プラスチンには三種のイソフォーム(L-プラスチン,T-プラスチンおよびI-プラスチン)が存在することが明らかになっている(表1).

 本稿では,L-プラスチン/PP 65が,情報伝達系,発癌,自己免疫という,一見無関係なそれぞれの分野で最近注目を集めていることから,このイソフォームに焦点を絞って最近の知見を述べる.

クリプトスポリジウム症の集団発生例と診断のための検査法

山本 徳栄 , 羽賀 道信

pp.1678-1681

はじめに

 クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)は,胞子虫綱のアイメリア亜目に属するCryptosporidium parvumという原虫の感染による,激しい水様性の下痢と腹痛を主徴とする人畜共通感染症である.C.parvumの宿主はヒトをはじめウシ,ヒツジ,ブタ,イヌ,ネコ,ネズミなど幅広く宿主特異性は低い.寄生部位は腸管粘膜上皮細胞の微絨毛内であり,有性生殖と無性生殖を繰り返しながら激しく増殖する1,2).有性生殖で形成された莫大な数のオーシスト(oocyst)が糞便とともに排出され,これが環境を汚染し感染源となる.オーシストは塩素剤など消毒薬にきわめて強く,通常の使用濃度では不活化されない3).そのため,欧米では水道水,公共のプール,モーテルのプールや公園の池の水を介してクリプトスポリジウム症の集団感染が多数発生している4).日本では1994年に神奈川県内の雑居ビル内で5),そして1996年には埼玉県内で大規模な集団発生が起こっている6)

 本稿では埼玉県における事例の概要とC.par-vumの検査方法の要点について述べる.

質疑応答 一般検査

細菌検査における糞便の塗抹検査の意義

中村 文子 , K生

pp.1682-1684

 Q 便の細菌検査は,従来から塗抹検査が省略あるいは不要とされています.しかし,例えばCampylobacterなどが塗抹検査で推定できれば,臨床側にとって有用な情報を迅速に提供することができるのではないかと思われます.便の塗抹検査は本当に必要ないのでしょうか.ご教示ください.

質疑応答 微生物

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の分離,同定における注意点と菌株の保存方法

是永 陽子 , K生

pp.1684-1686

 Q Streptococcus pneumoniaeは主として喀痰などの気道・呼吸器系材料から検出されますが,これらの材料からは常在菌も同時に分離されます.最近では分離に用いられる血液寒天もさまざまな製品が市販され,その選択に迷うことがあります.培地や培養方法の違いによって集落の性状が異なることはないのでしょうか.S.pneumoniaeの分離における注意点,および同定のコツについてご教示ください.

学会だより 日本臨床検査自動化学会第29回大会

サイエンスに裏うちされた臨床検査技術の絶え間ない発展を目指して

中 恵一

pp.1687-1688

 本大会開催地の"みなとみらい"とは何ともすてきな地名だと思う.臨床検査の技術と知識も日本でできたものがどんどん欧米に,またアジアに輸出される時代ではあるが,改めて横浜のこの地で開催されて海の香りとともに希望が胸に溢れる気がする.

 中井利昭先生(筑波大学臨床医学系臨床病理学教授)が大会長を務められた本学会は,同時に開催される展示会がアジアでは最大規模を誇るものに成長し,今回も諸外国からの参加者がツアーで来られていると聞き,改めてアジアにおける日本の役割を実感するところがあった.今大会のメインテーマはいささか難解であった.そのテーマとは,"テクノロジーとサイエンスの昇華"である.英語への翻訳では,"New in-sights into medical technologies and sciences-Thepromise and the challenge"とされた.この"学会だより"の中で大会長のご真意をお伝えできるかどうか心もとないが,大会長講演をお聞きし,学会のシンポジウムをはじめとする企画の意図を図るならば,次のようなことを宣言されたように思う.本学会はその主旨として臨床検査における機械と人間の融合による医療への貢献であることは言を待たないが,これまで本学会を中心に進められてきた技術論は今日究極として,搬送システムと情報処理システムに支援された自動分析装置という全体システムが,フルオートメーションの臨床検査室を実現し得るようになり,技術的には高度に上り詰めたものを完成したと言ってよいだろう.一方で,医療環境について考えるならば,医療機能の分担の明確化により国全体における医療システムの体系化が進められ,経済的な考察と併せて制度の変革が行われつつあり,医療機関そのものにとっては"Man-agement science"の発達がますます望まれる時代となってきている.しかし,あくまでもManagementscienceの必要性は医療機関の経営上の生き残りの問題であって,臨床検査というものを考える場合,新しい疾患に対する診断法の確立と治療法の開発と普及は,上に言うフルオートメーション化された検査室の経営の問題とは別個に捉えられなければならない.すなわち,医学における発見と医療における発展はこれからもますます活発に行われるものとして肯定的に捉え,臨床検査はその中にあって,診断と治療に対し正確な情報をさらに提供する必要がある.そのために,サイエンスに裏打ちされた技術の絶え間のない発展が欠かせないというのである.

研究

著明な血小板減少を契機に原虫の確認に至った輸入マラリアの一例

浦上 晴美 , 小野 益伸 , 高橋 雅志 , 藤村 紫 , 磯谷 治彦

pp.1689-1693

 インド旅行後に著明な血小板減少を伴い発症した三日熱マラリアの一例を経験した.血小板減少の精査により血液塗抹標本を観察中に原虫を検出し,原虫種の確定も含め,早期の診断に至った.同時に検討したアクリジンオレンジ染色は少数の原虫でも検出可能であるが,日常検査ではギムザ染色による原虫種の確定が必要である.当院の総合血液学検査装置(Bayer H*1)のサイトグラムからも異常が出現したため,マラリアの診断のスクリーニングに有用であった.

プロウロキナーゼ(Pro-UK)特異的酵素免疫測定法の基礎検討

森本 卓二 , 吉田 信幸

pp.1695-1698

 Pro-UKのような活性のないプロ型酵素を測定する方法は,今まで必ずしも満足できるものでなかった.われわれは,UKのA鎖とB鎖の各々に対する2種類のMoAbを組み合わせるサンドイッチEIAにおいて,測定する蛋白質のジスルフィド結合をあらかじめ切断しておくことで,Pro-UKを特異的に測定するEIAを確立することができた.またこのEIAは臨床的に十分応用できることが示唆された.

急性虫垂炎の診断における血液検査と腹部超音波検査の意義

前川 芳明 , 黒済 和代 , 岡山 幸成 , 山中 亨 , 松尾 収二

pp.1699-1702

 急性虫垂炎において,発症から96時間までは重症になるに従いCRPは高値となったが,96時間を超えると重症例においてもCRPが低下する傾向がみられた.これは抗生剤の投与が原因と考えられた.エコー検査において虫垂壁肥厚描出像は軽症例や中等症例においては高率に描出できたが重症例では低頻度であった.ただし,重症例においては重症な急性腹症の所見である膿瘍形成や腹水貯留像が描出された.

井戸水の大腸菌群試験方法の比較検討

篠原 弘 , 金井 健一 , 金子 治司 , 八木沢 勝美 , 森 雄一

pp.1703-1706

 大腸菌群の試験方法として特定酵素基質培地法である.XGAL-MUG法を使用する機会を得た.災害応急用井戸の水質検査として依頼のあった井戸水2,983件のうち40件を対象とし,XGAL-MUG法とLB-BGLB法の比較検討を行った。両法の成績一致率は100%であった.検水から両法の菌の分離,同定を行った結果,両法の相関は良かった.これらからXGAL-MUG法は,迅速・簡便で公定法と同等の成績が得られることを確認した.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

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今月の特集2 筋疾患に迫る

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62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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