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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査41巻8号

1997年08月発行

雑誌目次

今月の主題 臓器移植と臨床検査

巻頭言

臓器移植と臨床検査

関口 進

pp.853-854

 長い間論議を重ねてきた脳死問題も,継続審議・廃案などを経てやっと臓器移植法案として衆議院で可決され,さらに参議院で修正された案で討議され可決された."脳死判定・本人の同意が条件"といった理解し難い法案の論議が,本当に意義があり現実性のあるものか否かはなはだ疑わしいが,従来法律もなかったことに比べれば,前進としなければなるまい.腎・骨髄以外の移植がこれで法案が通れば可能になるかは将来の解決にゆだねるとしても,心・肺・肝・膵などの移植医療が,今までよりも一段と現実味をおびてきたことは否定できない事実である.この時期に"臓器移植と臨床検査"の特集が企画されたことは誠にタイムリーと言うべきであろう.

 臓器移植時の臨床検査には術前・術中・術後と長期のfollow-upに分けられるが,手術直前・術中・術直後が重要で,このためには検査室の24時間体制・即時対応の体制が必要である.最もよい歴史を持つ腎移植でも免疫血清学的検査,非免疫血清学的検査に大別できる.術前では,移植手術で特異なことは当然のことであるが,ドナーとレシピェントの検査を行わなければならないことである.検査は,一般状態の把握から組織適合性検査へと進められていくが,腎・骨髄移植では特に組織適合性が重要である.現在,組織適合検査には,従来のHLA検査のほかにDNAを用いた検査も加わっている.今まで血縁者間の移植でも,一卵性双性児は別として,すべて血清学的に同一でも必ずしも術後の経過は順調とはいかず,1970年の国際学会では"HLA抗原の適合は腎移植の予後と相関しない"という衝撃的な結論が出て,われわれHLAを研究していた者たちは大変ショックを受けたことを忘れない.その後,HLA-DR・DQ・DP抗原の発見があり,HLA抗原の数も飛躍的に増加したことや輸血と移植の関係が取り上げられ,かなり1970年の結論は修正された.

総説

臓器移植の現況と将来―免疫寛容の人為的導入の視点から

柏木 登

pp.855-860

 現在行われている臨床臓器移植は組織適合検査と免疫抑制剤の2本柱により支えられている.しかしながら,実際に組織適合抗原を一致させることはきわめて難しく,免疫抑制剤には常に副作用が付きまとう.組織適合が十分に得られず,しかも免疫抑制剤を最少限に抑えた条件のもとで,移植を成功に導く方策は果たしてないのだろうか.ドナーの組織適合抗原遺伝子によるレシピエントの遺伝子治療がその問題に対する解答を与えてくれつつある.

脳死と臨床検査

竹内 一夫

pp.861-865

 新しい死の概念として脳死が導入されて以来,医学界でも一般社会でも,この"見えない死"に注目するようになった.従来からのいわゆる3徴候(心拍停止,呼吸停止,瞳孔散大・対光反射消失)による死(心臓死)と異なり,客観性に乏しい脳死では,すでに臨床の現場に普及していた脳波の平坦化が,判定上の重要な所見と考えられた.確かに脳波検査には種々の利点があり,判定基準の必須項目にも取り入れられている.しかしその後,主として英国から"脳幹死"の概念が提唱され,脳波活動の消失が必ずしも脳死判定の必須条件とはならない場合も起こってきた.

 脳波以外にも客観性のある所見を求めて,今日まで多くの検査法が脳死判定に試みられきたが,これらのほとんどがこの目的に対しては,残念ながら参考になる程度である.脳死判定の主役は依然として生命徴候と神経所見である.

移植に必要な検査

腎移植における拒絶反応のモニタリング

酒井 謙 , 長谷川 昭

pp.867-871

 拒絶反応は,早期治療により回腹可能な急性拒絶反応と治療法が確立していない慢性拒絶反応とに大きく分けられる.急性拒絶反応は,通常,移植後3か月以内の急激な腎機能低下として現れるために,感染症やほかの腎前性因子,薬剤性腎障害との鑑別を的確にかつ迅速に行わなければならない.このため,臨床症状,臨床検査はもちろんのこと,画像診断や病理診断による総合的な判断が日々要求される.また,3か月以後も定期的に腎生検を行い,病理組織の経時的変化を中心に評価して,その長期生着に向けた管理をすることが重要である.

組織適合性検査

佐田 正晴 , 辻 隆之

pp.873-879

 HLAは自己―非自己を識別する分子として機能し,移植臓器の生着や拒絶の決定に重要な役割を演じている.腎移植にとって,ドナー―レシピエントのHLA抗原適合度の良否やレシピエント血清中に存在する前感作抗体の把握は,移植後の予後を左右する最も重要な因子である.PCR法を用いたクラスⅡDNAタイピングにより,困難だったドナーのDR抗原の同定が正確かっ迅速に行われるようになり,最適なレシピエントを選択し移植することが可能となった.臓器移植の全国ネットワークが具体化し,移植の共通言語である組織適合性検査はますます重要となるであろう.

感染症検査

奥野 博 , 吉田 修

pp.881-884

 臓器移植後の感染症は免疫抑制療法に起因する日和見感染症であり,また,その時期により特徴がある.なかでもサイトメガロウイルスによる問質性肺炎は移植後2~4か月に発症し,しばしば予後を左右する重篤な感染症となるため,これを熟知し,早期に対応することは重要である.近年開発されたCMVアンチジェネミア法はCMV感染症の発症予知診断と治療の指標として有用な方法として注目されている.

血中薬物検査

戸塚 実 , 日高 宏哉 , 勝山 努

pp.885-888

 移植医療における免疫抑制剤の血中濃度レベル測定は,有効血中濃度域の比較的狭い同剤を十分効果的に利川するうえで不可欠である.現在,多種多様の免疫抑制剤が知られているが,シクロスポリン,タクロリムスなどが代表的なものと言えるであろう.血中レベルのモニタリングは一般的にトラフレベルを用いることが多いが,吸収障害や遅延のある患者では必ずしも十分とは言えず,area under the curveの利用によるモニタリングも考慮する必要がある.

無菌室の検査

舟田 久

pp.889-892

 無菌室の検査は,清浄度と居住性のための環境診断からなる.とりわけ,微生物学的清浄度が臨床検査の対象となるが,"無菌"への過度の執着は不要な培養検査の繰り返しとなりかねない.無菌室での治療の効果は,敗血症の減少というよりも浮遊胞子の吸入により起こる肺アスペルギルス症などの肺炎の著明な減少となって現れる.したがって,無菌室の検査は,治療中の明らかな汚染の発生を除けば定期的な無菌室性能測定で十分であると思われる.

臓器移植に必要な検査

腎移植

中村 宏

pp.893-896

 腎移植は,慢性腎不全末期の患者に行われ,手術的にpoor riskの状態にあることも多い.術前には十分な病歴聴取,理学的身体所見を得て患者の全身状態を把握しておくことが必須であり,したがって,多岐にわたる検査を行う必要がある.腎移植後は拒絶反応,種々の合併症,特に手術手技的合併症,感染症,肝機能障害,糖尿病,心血管系合併症などがしばしばみられる.したがって,移植後は経時的に多くの検査が行われる.

造血幹細胞移植

正岡 徹

pp.897-902

 造血幹細胞移植では,強力な化学療法,極度の骨髄抑制と他人の造血細胞の生着があり,また,重篤な合併症の発生など多彩な経過を呈するが,その間に多くの検査により適切な処置を行うことが治療成績を向上させる必要条件となっている.

 本稿では,患者とドナーについての検査,合併症についての検査,移植30~100日までの重篤な合併症の発生する時期の入院および外来での検査などについて述べる.

肝移植

松川 啓義 , 阿曽沼 克弘 , 田中 紘一

pp.903-906

 肝移植においては,一般腹部外科手術に必要な臨床検査に加えて,臓器の移植という特殊な状況であるがために,いくつかの特殊な術前術後検査が必要となる.とりわけ,移植肝に対しての拒絶反応のコントロールという観点から,免疫能や組織適合性などの検索と免疫抑制剤のモニタリングなど,免疫反応に関する検査は必要不可欠である.さらに,移植後は免疫抑制療法下における易感染状態になるので,ドナーを含めた術前感染症のスクリーニングや,日和見感染を念頭に置いた感染源の早期診断などが重要となる.

膵移植

葛西 眞一 , 稲垣 光裕

pp.907-910

 インスリン依存性糖尿病は重大な合併症を引き起こし,糖尿病性網膜症による失明や糖尿病性腎症により長期の透析療法を強いられる.インスリンを用いた治療が有効であるが,1980年代から膵移植が試みられ,症例数の増加とともに,近年良い臨床結果が報告され始めている.今回,膵移植,ラ氏島移植の現状について,移植膵・ラ氏島の機能,拒絶反応検査などを中心に述べる.

話題

心移植

白倉 良太

pp.911-914

1.はじめに

 世界最初の心臓移植に成功したのが1967年12月であるから,もうすぐ30年になろうとしている.この間,世界では,260近い施設で総計約40,000例の心移植が行われてきた.わが国でも1968年8月に1例の心移植(世界で30例目,81日の生存は9番目の成績)が行われた.不幸なことに,その後日本では腎臓以外の臓器移植ができなくなったが,その反省のうえに立って,ようやく再開のめどがたちかけている.すなわち,つい先日(1997.6.17)脳死を人の死としたうえで臓器移植を可能とする"臓器移植に関する法律"案が衆・参両院で可決された.日本で心移植,肝移植などが受けられる日を一日千秋の思いで待ち望んでいる患者さんにとって大変な朗報である.しかし,本人が脳死判定後の臓器提供を文書で生前に示していて,家族がそれを拒まないときのみ臓器提供が可能とされており,臓器提供の機会が極端に制限される.早ければ,本誌が読者のもとに届くころには"心移植再開"のニュースに湧いているかもしれない.

肺移植

松村 輔二 , 近藤 丘 , 藤村 重文

pp.915-917

1.はじめに

 肺移植は,欧米先進国では終末期の肺疾患に対する究極的な治療法として普及し,近年では年間1,000例以上の移植が行われ累積症例数も6,000例以上となり,現在は腎,心,肝移植に続いて臨床移植医療としての地位を確立したと言える1).一方,わが国では脳死を前提とする臓器移植はまだ行われていない.しかし,"臓器の移植に関する法律案"が1997年6月に国会で修正の後,成立したことから,わが国でも脳死者からの心,肝移植に続いて肺移植が開始される日も近いと思われる.そこで,本稿では欧米の臨床成績,現在の問題点と肺移植開始に向けたわが国の現況を述べる.

骨髄バンク

赤座 達也

pp.918-920

1.日本骨髄バンク

 骨髄移植は,白血病など主に血液疾患の患者の根本的治療法として確立されてきた.骨髄を提供できるのは,HLA (ヒト白血球抗原)型の合った人である.HLA型が合う確率は,兄弟間で1/4であるが,非血縁者間で骨髄移植のために必要なHLA型が合うことは非常にまれである.そのため,HLA型の合った血縁者のいない患者のために,骨髄提供の意思を持ったボランティアのHLA型を検査してドナーとして登録し,その中から患者とHLA型の合ったドナーを探すことを目的とした骨髄バンクが求められた.アメリカで全米骨髄バンクが1987年に作られて以来,世界各国で作られ,日本では,1989年に民間の東海骨髄バンクが作られ,次いで1992年には国の主導による公的骨髄バンクがスタートした.

 日本の骨髄バンクにドナーとして登録できる条件は,20歳以上50歳までの健康で,体重が男性45kg以上,女性40kg以上と,家族の理解が得られることである.ドナーの登録は全国の赤十字血液センターに置かれた骨髄データセンターと,指定された保健所で受け付けられ,HLA検査は血液センターで行われている.患者は主治医を通じて骨髄移植推進財団に登録する.中央骨髄データセンターは全国のドナーのHLAデータなど検索に必要なデータを統合し,骨髄移植推進財団の依頼によりHLA型一致のドナー検索を行っている.患者とHLA型が一致したドナーは,コーディネーターにより骨髄提供の意思を確認後,健康診断とHLA型適合の高次検査を受け,骨髄提供へと進む.ドナーの登録数はマスコミなど広報に影響される部分が多い.発足以来の月別,累計および有効登録者数をグラフにして図1に示した.1997年の4月末で,累計約90,600人のドナーと約5,100人の患者が登録され,開設の1年後から始まった骨髄移植は,1,107例が行われた.これは,登録された患者の4.6人に1人が移植を受け,ドナーの約82人に1人が提供したことになる.

臓器移植ネットワーク―わが国の現状と課題

寺岡 慧 , 園田 孝夫 , 水戸 廸郎 , 吉永 馨 , 黒川 清 , 井形 昭弘 , 前川 正信 , 折田 薫三 , 藤見 惺 , 石川 清治 , 野本 亀久雄

pp.921-925

1.はじめに

 1995年4月に日本腎臓移植ネットワーク(JKTNW)が発足して以来,2年が経過した.1997年6月17日には"臓器の移植に関する法律案"が参・衆両院で成立し,わが国においてもいよいよ本格的な臓器移植の幕あけが到来するものと期待されている.これを機にJKTNWも定款の変更を経て,多臓器対応のネットワークに再編される見通しである.

 移植ネットワークの目的は,死後善意により提供された貴重な臓器を公平・公正かつ迅速に配分し,移植臓器の有効な活用を目指すものである.欧米においては,United Network for OrganSharing (UNOS), Eurotransplant Foundation(EF)などの移植ネットワークをすでに稼働しており,着実に成果を上げている.本稿では,わが国における臓器移植の現状を踏まえて,現在の腎移植ネットワークの現状とこれを基礎に今後多臓器移植ネットワークを構築してゆくための課題について概説する.

今月の表紙 深在性真菌症の臨床検査シリーズ・4

酵母様真菌による感染症(2)―生化学的性状検査

山口 英世 , 内田 勝久

pp.848-849

 真菌症患者から分離される真菌が,少なくとも酵母であるか否かは,直接鏡検での形態学的特徴や,分離培地上の発育コロニーの性状から判明する.また前号で述べた鑑別培地を使用すれば,コロニーの色調などからある程度菌種を推定することができる.しかし酵母菌種を確実に同定するためには,分離菌の純培養を用いて培養検査を行わなければならない.

 一般に,真菌における菌種同定の主な指標となるのは,形態学的性状と生理学的(生化学的)性状である.酵母は,糸状菌とは対照的に形態学的特徴に乏しいところから,Candida albicansにみられる厚膜分生子形成能や発芽管形成能を除けば,菌種同定に役だつほどの形態学的特徴はどの菌種にも見当たらない.また血清学的特異性(抗原特異性)も菌種同定に利用されるが,その適用範囲は一部の菌種に限られる.

コーヒーブレイク

出会いとさだめ

屋形 稔

pp.865

 ひとは一生の中で自分の人生を左右するような人間に1人か2人は巡り合うと言われる.私も振り返ってみると,いつも感謝の念で忘れ難い友人,知己が多数に及ぶが,上述のごとき方と言えば学問の師鳥飼龍生先生とForsham PH先生(カリフォルニア大学)こそぴったりと思われる.

 鳥飼先生は大学卒業後内科の教室に入って以来現在まで,約50年手をとって指導していただいており,先生にとっても教授就任後最初の弟子の1人でもあり,あのような人格,識見超一流の師に巡り合えたのは,私にとってラッキーなさだめと言うほかない.今でも仙台でかくしゃくとして週何回かは患者の脈をとり,私たちの生きがいとなっておられる.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

染色体の電子顕微鏡観察法―透過電顕法

飯野 晃啓 , 稲賀 すみれ

pp.927-931

はじめに

 染色体は,DNAとヒストンからなるクロマチンが,細胞分裂中期にコンパクトに詰め込まれて形成される,いわば高次構造を持つクロマチン凝集体である.その染色体の高次構造を形態学的に詳細に明らかにしようとするのが電子顕微鏡観察法(electron micro-scopy)である.現在,染色体の観察に用いられている電子顕微鏡には,透過電顕(透過型電子顕微鏡transmission electron microscope;TEM)と走査電顕(走査型電子顕微鏡scanning electron micro-scope;SEM)の2つのタイプがあり,それぞれに適したさまざまな試料作製方法が開発されている1,2)

 そもそも染色体の構造については,"染色体らせん説"が100年以上も前から提唱されている3).これは古くから光学顕微鏡によって植物の染色体にらせん構造がしばしば観察されてきたためである.ところが,動物細胞の染色体ではらせん構造はなかなか観察できず,特殊な処理を施すことによってヒトの染色体で明瞭ならせん構造を観察することに成功したのは1960年代に入ってからである4,5).それと前後してTEMが染色体構造の研究に盛んに応用されるようになり,染色体を構築している基本線維の存在6)やその微細構造が次第に明らかになってきた.すなわち,染色体を構成するクロマチンの基本構造としてヌクレオソーム粒子構造(ヒストン蛋白のコアにDNAが巻きついたもの)が発見され7,8),次いでヌクレオソームの高次構造として,ソレノイドモデルが提示された9).現在,ソレノイドモデルについては異論もあるが,これらを染色体基本線維の微細構造として支持する研究者が多い.

 一方,SEMによる染色体立体構造の研究は1970年代から始まり,試料作製技術の改良の結果,らせん構造が電顕的にも証明されるようになり,今口ではDNAから染色体に至るまでの一連の構造モデルが三次元的に示されるようになった.しかしながら,染色体は試料作製方法や観察方法の違いによって実にさまざまな形態を示すため,構造モデルも"多重コイルモデル","折りたたみ線維モデル"10),"骨格とループモデル"11),"らせん状ループモデル"12),"クロマチンネットワークモデル"13)などさまざまで,真の微細構造の詳細や光顕レベルのらせん構造との関係など,いまだに一致した見解には至っていない.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

血友病

稲葉 浩

pp.932-936

はじめに

 血友病は,伴性劣性の遺伝形式をとる先天性の出血性疾患であり,血液凝固第Ⅷ因子の欠損・異常に起因する血友病Aと第Ⅸ因子に起因する血友病Bに分類される.男児における発生頻度は,血友病Aでは5,000人に1人,血友病Bでは30,000人に1人である.

 X染色体長腕(Xq 27-28)に存在する第ⅧおよびⅨ因子の遺伝子は,ともに1980年代前半に単離され,その構造が明らかとなった1-6).第Ⅷ因子遺伝子は全長186kbの巨大な遺伝子で,X染色体の約0.1%に相当する.この遺伝子は26個のエクソンから構成され,mRNAは約9kbの大きさである.第IX因子遺伝子は第Ⅷ因子遺伝子から約40メガベース,セントロメア側に位置し,全長34kbで8個のエクソンから構成され,mRNAは約1.5kbの大きさである(図1).

トピックス

最近注目され始めた腸管寄生原虫Blastocystis hominisの検査法と鑑別診断法

阿部 仁一郎 , 𠮷川 尚男

pp.938-943

はじめに

 Blastocystis hominis (ブラストシスチス・ホミニス)は,1912年に熱帯地域のヒトの糞便から見いだされ,形態学的観察などから酵母の一種として報告された1).1950年代には電子顕微鏡による形態学的研究が始まり,嫌気性にもかかわらずミトコンドリアを有しているなどの特異な生物学的特徴が明らかとなり,近年研究が盛んになってきた単細胞性の微生物である2).しかしながら,寄生虫に関する国内の教科書にはまだあまり記載されておらず,B.hominisについて知らない検査技師が多いのではないかと思われる.

 本稿では主に検出と鑑別診断法についての種々の方法について述べる.

SI単位最近の動向

戸谷 誠之

pp.944-945

はじめに

 SI単位系の導入については18年前のmedicina誌に,昭和大学の石井暢教授(現名誉教授)は"単位の標準化"と題する解説記事の冒頭で次のように述べておられる1)

 『種々の計量単位は人類が社会生活を営むうえで必要欠くべからざるものである.

質疑応答 一般検査

糞便の脂肪染色

高橋 二美子 , 伊藤 機一 , 柯 建興

pp.946-948

 Q 糞便の脂肪染色について,陽性時,その臨床意義と結果を,どのように報告すればよいか,お教えください.

質疑応答 臨床化学

骨格筋グリコーゲン合成酵素遺伝子多型性の検査の有用性

三家 登喜夫 , 下村 裕子 , N生

pp.948-951

Q 糖尿病性慢性腎症の発症に関する危険性の予知について骨格筋グリコーゲン合成酵素遺伝子多型性の検査の有用性をお教えください

学会だより 第46回日本臨床衛生検査学会

愛と知 好きです人間―原点に学び,さらなる発展へ

加藤 隆則 , 伊藤 仁 , 静 怜子

pp.952-954

 第46回日本臨床衛生検査学会が1997年6月14~16日にわたり,愛知県の名古屋国際会議場において開催された.本学会では,公開講演3題,学術講演1題,シンポジウム3題,パネルディスカッション6題,一般演題711題が行われた.なお次回は大阪府の大阪厚生年金会館他で1998年5月7,8日両日にわたり開催される予定である.

研究

熱傷患者皮膚にみられる黒色色素の微小部X線分析による解析

成富 真理 , 鐵原 拓雄 , 広川 満良

pp.955-957

 熱傷患者皮膚の表面に黒色色素が観察された5症例について,黒色色素の本態を明らかにするために,微小部X線分析を用いて黒色色素の解析を行った.黒色色素は角化層がない皮膚では皮膚表面から組織深部の間質にも侵入しており,治療薬の浸透によると推測された.黒色色素X線分析の結果,全症例で銀が検出された.銀を含むスルファジアジン銀が全症例の皮膚に塗布されていたことから,黒色色素はスルファジアジン銀が沈着したと考えられた.また,5症例中4症例にヨウ素も検出された.消毒薬のポビドンヨードに含まれるヨウ素も受傷皮膚に沈着すると思われた.病理組織診断において熱傷患者皮膚に黒色色素がみられた場合,微小部X線分析を併用することによって,生理的な黒色色素と治療薬にる黒色色素との鑑別ができると思われた.

PCR法とPCR-SSCP法を用いた消化管悪性リンパ腫におけるclonalityの検出

岩崎 正幸 , 津田 真寿美 , 谷澤 徹 , 神山 隆一

pp.959-962

 消化管の悪性リンパ腫では,組織形態や免疫組織化学的検索のみではリンパ腫であるのか,反応性病変であるのか判断困難な症例も多く,その診断には腫瘍細胞のpheno-typeやclonalityの証明が重要である.今回,PCR法とPCR-SSCP法によりclonalityを解析した結果,PCR法単独よりもPCR-SSCP法を加えることにより,clonalityの検出率が高まり,診断精度が向上するとの結果が得られたので報告する.

資料

酵素サイクリング法による高感度血中ケトン体測定法の検討

菊野 晃 , 渡辺 伸一郎 , 岡田 尚子 , 松井 静代 , 北田 増和

pp.963-967

 酵素サイクリング法による高感度ケトン体測定法(総ケトン体カイノスおよび3-HBカイノス)について検討した.希釈試験ではT-KBが200μmol/lまで,3-HBが225μmol/lまで,ほぼ原点を通る良好な直線性を示し,TKBおよび3-HBの最小測定感度はおのおの5μmol/l,2μmol/lであった.T-KBと3-HBの同時再現性および回収率はいずれも良好な結果を示した.したがって,本法は従来法に比べ10μmol/l以下の低値域においても高感度の測定が可能であった.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 成人先天性心疾患

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今月の特集2 実は増えている“梅毒”

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今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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