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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査42巻5号

1998年05月発行

雑誌目次

今月の主題 注目されている感染症―Emerging Infectious Diseases

巻頭言

Emerging Infectious Diseasesとは

猪狩 淳

pp.501-502

 栄養状態や衛生環境の改善,予防接種の普及,抗菌化学療法やワクチン療法の進歩により,"感染症はもう恐くなくなった","感染症はもはや過去の病気"という認識に傾き,感染症は解決済みの疾患とされ,現在社会の人々は感染症に鈍感になっていた.

 ところが最近になり,世界各国で新しい感染症が出現している.わが国でも1996年の夏,全国各地で集団発生が相次ぎ,社会問題にまでなった腸管出血性大腸菌(いわゆる病原大腸菌O 157)感染症が新しい感染症として注目された.そのほかにもクリプトスポリジウムによる集団下痢症,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による院内感染症が話題になった.

総説

Emerging Infectious Diseasesの現状と対策

和田 攻 , 柳澤 裕之

pp.503-511

 感染症は,過去の病気でなく,現在でも全世界の人々の死亡の1/3を占めている.最近,新しく出現した感染症(emerging infectious diseases)は1973年来30種以上に及び,すでに制圧したと思われた感染症の再流行(re-emerging infectious diseases)も20種近くにのぼっている.現状を認識するとともに,感染症情報ネットワークの完備と活用,アウトブレーク時の迅速な対応,個人の衛生の再認識と実施が重要である.

Emerging Infectious Diseasesとエコロジー

稲松 孝思

pp.512-518

 現在の生態系は40億年の生命の歴史の中で,分化,共進化を遂げ,多様化した生物が共生する全体として1つの生命体ととらえることができる.その構成員であるヒトと微生物は,相互にさまざまな影響を与えながら,共存できないものは淘汰されながら,共存を目ざして進化している.生活様式の進歩/変容,人為を超えた地球環境そのものの変化は,今後も生命の歴史のうえで続いていくものであり,その中で,ヒトと微生物の共存点を求めて共進化し続けていくものであろう.生活様式,環境が変化する際に生じる,生態系の空白部分を埋めるように生じるのが,emerging and re-emerging infectious diseasesであろう.このようにして,必然的に生じうる感染症の起こりかた,実害を常時監視しながら有効な対策を求め続けることが必要なのである.

技術解説

新型コレラO139(ベンガル型)感染症

古谷 信彦 , 山口 惠三

pp.519-522

 1992年の秋ごろからベンガル湾沿岸地域に流行したVibrio cholerae O 139による新型コレラはわが国でも十数例の輸入例が報告されており,油断できない感染症の1つとなっている.V. cholerae O 139は細菌学的性状がエルトール型V. cholerae O 1に極似しており,臨床症状もほとんど従来のコレラと変わりがない.したがって,コレラ様症状を呈するにもかかわらず,原因菌がV. cholerae O 1に対する抗血清で凝集しない場合にはV. cholerae O 139によるコレラの可能性も考慮し,精査していく必要がある.

レジオネラ症

小出 道夫 , 齋藤 厚

pp.523-528

 レジオネラ肺炎の診断には,臨床症状が進行の早い急性肺炎の病型をとり,かつレジオネラが培養で検出されるか血清抗体価が陽性であることを必要とする.このほかに補助診断として直接蛍光抗体法による検体中の本菌の確認,EIAによる尿中菌体抗原の検出,遺伝子診断(DNAテクノロジー)がある.しかし入手法,診断価値,迅速性などすべての条件を満足する方法はないので,いくつかの診断法を組み合わせることが望ましい.

デング熱・デング出血熱

五十嵐 章

pp.529-534

 デング熱とデング出血熱はデングウイルス感染による急性熱性疾患であり,近年患者数の増加,流行地域の拡大,重症型の出現によって,世界の熱帯地域における大問題となっている.日本では現在デングの流行はないが東南アジアへの旅行者での罹患者が多い.デングの拡大は熱帯諸国の経済発展と関連している.実験室内診断法はウイルス分離と血清診断が基本である.最近ではRT-PCR法による遺伝子検出とIgM-ELISAが導入されている.

新型インフルエンザ

菅谷 憲夫

pp.535-540

 欧米では,老人と基礎疾患を持つハイリスク患者群に対して,積極的にインフルエンザワクチン接種が進められている.日本では,学童集団接種が中止されてから,インフルエンザワクチン接種はほとんど実施されていない.新型インフルエンザの出現も近い状況下,日本でも早急に,老人,ハイリスク群の接種を開始し,接種率を高めワクチンの生産能力,接種システムの効率化を図ることが必要で,それが最も有効な新型インフルエンザ対策である.

クリプトスポリジウム症・サイクロスポーラ症

井関 基弘 , 木俣 勲

pp.541-546

 クリプトスポリジウム症とサイクロスポーラ症は,ともに激しい下痢を主徴とする.近年,水道水や食品を介した大規模な集団感染が先進国でも発生し,大きな問題になっている.病原体は胞子虫綱のコクシジウム類に属する腸管寄生原虫で,患者の糞便には多数のオーシストが排出される.診断は便検査でオーシストを検出すればよいが,ショ糖遠心沈殿浮遊法や抗酸染色法などを実施する必要がある.

Global issueとしてのマラリア―原虫と臨床

金子 明

pp.547-554

 世界におけるマラリアによる死者は,今なお熱帯諸国の小児を中心に,年間約2百万人を数え,その対策は国際社会における重要な課題である.また国内ではさまざまな形で輸入されるマラリアに,いかに対処すべきかという問題が派生している.いずれの観点においても重要なのは脳性マラリアなどへの進展を抑えマラリア死を防ぐための早期診断治療である.日本人医療従事者としても,マラリア問題の真髄を理解し,その対処法の基礎を修得しておくべきである.

話題

ネコひっかき病の病原体

松本 哲哉

pp.555-557

1.はじめに

 ネコひっかき病(cat scratch disease)は,その名前からもわかるとおり,ネコに引っかかれたり噛まれたりした後に,局所の皮膚病変と,所属リンパ節の腫脹,発熱などの症状が現れる疾患である.本疾患がネコから感染した何らかの病原体によることはかなり以前から推測されていたものの,多くの研究にもかかわらずその正体は長い間不明のままであった.最近になってようやくその病原体が確定されつつあり,本疾患の詳細も明らかになってきている.そこで本稿ではこれまでの歴史的経緯を含めて,ネコひっかき病の全体像について概説する.

プリオン蛋白とは

寺尾 安生

pp.558-560

1.はじめに

 プリオン病とはヒトと動物にみられる一連の伝播状海綿状脳症の総称であり,後に述べるプリオン蛋白がその病態や伝播に関与していると考えられている.Creutzfeldt-Jakob病(CJD),Gerst-mann-Sträussler-Scheinker病(GSS),クル,スクレイピーなどが含まれる.最近ウシの海綿状脳症からの伝播の可能性が話題となった新しいタイプのCJDもこの範疇に含まれる.

Q熱の血清学的診断法

小田 紘

pp.561-562

1.はじめに

 Q熱は世界中に存在する人獣共通感染症である1,2).病原体はCoxiella burnetiiというリケッチアの一種であるが,節足動物ベクターの介在がなくても伝染しうる点でほかのリケッチアと異なる.Q熱を臨床所見のみで診断することは困難で,微生物学的検査が不可欠となる.最近の研究で,本疾患が日本にも存在していることが明らかとなり2,3),実験室診断の必要性が高まってきた.本稿では間接蛍光抗体法を中心に,血清学的診断法について述べる.

ヒトのエキノコックス症の診断

神谷 正男

pp.563-565

1.はじめに

 エキノコックスのうち世界的に分布する単包条虫Echinococcus granulosusと北方圏諸国を中心に分布する多包条虫E. multilocularisが特に重要である.前者が主に家畜間で伝播するのに対して,後者が野生動物間で伝播する.世界的には多包条虫によりも単包条虫による被害のほうが大きいが,最近,野生動物の餌となる厨芥,畜産廃棄物の増大などにより感染源動物(キツネなど)が殖えて多包条虫の分布が拡大し問題になっている.キタキツネやイヌの糞に混じったエキノコックス虫卵が水,食物などを介してヒトに経口的に感染すると肝臓に移行した幼虫は無性増殖し致死的な肝機能障害をもたらす.

 わが国においても北海道を中心に分布が拡大している.1997年5月には札幌市の中心部の住民が新たに患者として認定され,さらに,隣接する地域の飼いイヌがエキノコックスに感染していることが明らかとなった.現在の対策は主にヒトの診断と早期治療に努力が払われている.しかしながら,まだヒトのすべての症例に適用できる完全な治療法がなく,また,ヒトからヒトへ感染する疾患ではないので,当然のことながら,この対策では感染を予防することはできない.したがって,感染源であるキツネやイヌなどの終宿主を中心にした動物対策は重要である.これを実施しなければ患者数は増大し,さらに流行が本州へ広がるとして憂慮されている.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・5

急性骨髄性白血病(AML-M4)

栗山 一孝 , 朝長 万左男

pp.496-497

 急性白血病のAML-M4は,骨髄中に芽球増殖と同時に顆粒球と単球をそれぞれ20%以上認める.しかしときに,単球が骨髄中20%に満たないことがあり,この場合は末梢血液中に5,000/μ1以上あるいは血中または尿中リゾチーム値が正常上限の3倍以上であればよい.したがって,骨髄所見からはAML-M2であっても,末梢血液像とリゾチーム値からAML-M4の場合がある.典型的なAML-M4は,骨髄中に芽球に加え,成熟単球と顆粒球の増殖を認める(図1).さらに,単球は非特異的エステラーゼ(Esterasebutyrate; Es-bなど)を有しているので,顆粒球が持つ特異的エステラーゼ(Esterase chloroace-tate; Es-chなど)と同時に二重染色すると,単球と顆粒球の混在が一目瞭然となる(図2).しかし,約10~20%の症例では,Es-b陰性である.この場合,一部のAML-M 2に認められる脱顆粒と核形態異常の著明な成熟好中球と鑑別を要する.myeloperoxidase (MPO)染色で単球は陰性あるいは弱陽性であることから,MPOが明瞭に陽性である顆粒球と鑑別することができる.M4の一部に骨髄中に好酸球増多(5%以上)を示すタイプが知られ,AML-M4 with eosionphilia (AML-M4eo)とFAB病型では分類されている(図3).AML-M4eoでは,染色体inv (16)(p 13;q22)を伴っており,遺伝子レベルではCBFβとMYH11との融合遺伝子が形成されている.PCR法でこの融合遺伝子のmRNAを検出することができ,これは染色体inv (16)より高頻度に発見される.inv (16)を有するAMLは,予後良好群の1つであるから,遺伝子レベルでの検討も診断に必要であることが指摘されている.またM4では骨髄3血球系(赤芽球系,顆粒球系,巨核球系)の形態異常を伴うAML with trilineage dysplasia (TLD)がM6に次いで多いことが知られており,予後不良群を形成している.

コーヒーブレイク

虹に魅せられ

屋形 稔

pp.540

 今年の年賀状に映画好きの友人から「寅さん亡き後は虹(をつかむ男)にでもしましょうか」という便りをもらった.一見するとまことに映画を虹にたとえた山田洋次監督の着眼が光る.私も物心ついたころから映画好きで現在のテレビ好きにもつながっており,人生大半の時間を映画を観るに費やしたという淀川長治さんには及ばないがずいぶんと多くの時間をこれに使った気がする.

 旧制中学からの親友のS君は私に輪をかけた映画狂であった.叔父さんが昭和10年代新興キネマのチャンバラ王と言われた大谷日出夫という俳優であったせいで彼もこの世界に身をおくのを宿命と感じたか,定年まで高田馬場辺の劇場のマネージャーを務め,虹の主人公役と同様の軌跡をたどった.

生きがいを求めて

寺田 秀夫

pp.560

 6年前某医の依頼で80歳の老紳士を診察することになった.この患者さんは某大学病院に1週間入院精査の結果,異常蛋白血症と血小板減少を指摘され,直ちに治療を勧められた.しかし,自覚症状もないため,治療を拒否して退院後,私の外来を訪れたのである.必要最小限の検査から,良性単クローン性マクログロブリン血症と診断した.初診時IgMは1,650,IgG 883,IgA 75 mg/dlで,EDTAによる偽性血小板減少(血小板107,000/μl)を伴っていた.今日まで無治療で経過を観察してきたが,85歳の現在なおまったく元気でおられる.いつも温和で気品のあるこの方と通院のたびに楽しく話し合っているうちに,この老紳士が東京美術学校卒業後,イタリアに留学し今日まで数多くの優れた作品を描いてこられた有名な画家であり,現在も毎日絵筆を離さず制作を続けていることがわかった.そして自分は絵を描くことが生き甲斐であると話された.丁度そのころのある日曜日に,都内の美術館でグランマ・モーデス(1860~1961)の絵を観賞する機会があった.会場一杯に展示された数多くの絵に驚歎し,すっかり魅了されてしまった.どの絵を見ても彼女の絵には,故郷に近いニューイングランドの自然と生活が,美しい色彩で至るところに満ち溢れている.何の飾りも誇張もなく,素朴な可愛いい彼女の作品を見れば,誰でもやさしい気持になれるのではなかろうか!?

 1960年ニューヨーク州グリニッチの農家の10人の3番目の子供として生まれ,質素な平凡な生活を送ってきた彼女は,70歳から絵を描きはじめ,101歳の誕生日まで約1,600点の作品を描き,この間1949年トルーマン大統領から"女性のためのナショナル・プレスクラブ賞"を受けている.しかし有名になっても彼女の生活は変わらず,95歳になっても朝6時に起きて,コーヒーを入れ,綿のドレスに着替えて自分の部屋でエプロンをつけ,制作に取りかかっていたという.101歳の7月身体の衰弱から入院し,医者から絵筆を持つことを止められてから数か月後に亡くなった.絵を描くことに没頭することが大きなエネルギーとなり,彼女は100歳を超えるまで天寿を全うできたのである.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

Nested-PCR法による化膿性髄膜炎の遺伝子診断法

猿田 克年 , 庵原 俊昭 , 町田 勝彦

pp.566-578

はじめに

 感染症の患者に良質かつ適切な治療を提供するには,原因となる病原微生物を正確に検出・同定しなくてはならない.細菌感染症の場合には,治療を始める前に必要とされる各種の培養検査を行い,病原細菌が判明するまでは経験に基づいた初期治療(エンペリックセラピー)を行う.次いで病原細菌が同定されたら,必要に応じてより感受性のある抗菌薬に変更するのが基本である.しかしながら,細菌感染症であることが明らかな場合であっても,培養検査に先行して前医などにおいて既に抗菌薬による治療が開始されている場合などは病原細菌が検出されないことも多い.こうした定石どおりの対応がとれない症例ほど,症状が重篤であったり,治療に緊急性を要することが多いのである.したがって,細菌感染症の治療成績を向上させるためにも,新しい迅速診断法の開発が期待されている.ここでは,多種類の細菌を広範に検出し系統的に同定する新しい遺伝子検査法として,Nested-PCR(ネステッドポリメラーゼ連鎖反応)法を紹介する.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

LDH欠損症

須藤 加代子 , 前川 真人 , 菅野 剛史

pp.579-583

はじめに

 乳酸脱水素酵素(LDH)はH (B)とM (A)の2種のサブユニットの4量体で活性が認められ,H4,H3M1,H2M2,H1M3,M4の5種のアイソザイムが存在する.これらは各細胞・組織で特異的なパターンを示すので,LDH総活性,アイソザイム分析が損傷臓器の診断の目的で臨床検査に用いられている.血清LDH活性が非常に低い例からHサブユニット欠損症が1),LDHとほかの血清酵素活性の上昇との間の理解しがたい解離からLDHアイソザイム分析が依頼され,Mサブユニット欠損症が発見された2).Hサブユニット欠損症の中には,完全欠損ではなく,赤血球のLDHアイソザイムパターンで完全に5型(M 4)のみではなく,4型や3型も観察される不完全欠損例も存在する3).パナマやコスタリカのインディアンには,ホモテトラマー,1型(H4)のみが活性を失う遺伝性多型LDH-BGUA 1が報告されている4)

トピックス

中皮細胞の免疫組織化学的特徴―新しい中皮マーカーを中心に

伊藤 仁 , 長村 義之

pp.585

 臓側,壁側の漿膜表面を覆う中皮細胞は,炎症などに伴い異型性を有するため,体腔液細胞診では腺癌との鑑別がしばしば問題となる.また,その腫瘍である中皮腫は組織学的に上皮型,線維型(肉腫型)および二相型(混合型)に分類され,上皮型は腺癌,線維型は肉腫との鑑別が困難となる場合が多い.これらを鑑別するために,中皮細胞および中皮腫の特徴について細胞学的,組織学的,組織化学的,電顕的,免疫組織化学的な種々の手法を用いて検討されてきた.なかでも,近年飛躍的に普及した免疫組織化学的手法は,この鑑別診断に最も有用な技法の1つとなっている.

 中皮細胞は免疫組織化学的にケラチン,ビメンチン,デスミンの3種の中間径フィラメントが陽性を示す.特に肉腫型中皮腫におけるケラチンの証明は,肉腫との鑑別診断上重要である.また,卵巣癌の腫瘍マーカーであるCA 125が高率に陽性を示し,epithelial membrane antigen (EMA)は中皮細胞では陽性率が低いが,中皮腫,特に上皮型では高陽性率を示す.また,従来からcar-cinoembryonic antigen (CEA)が腺癌との鑑別に有用なマーカーとして応用されている.CEAと同様に中皮腫では陰性を示すマーカーとして,Ber-EP 4, Leu-M 1,VU-1 D 9, B 72.3などのモノクローナル抗体が知られている.また,新しい上皮性マーカーとしてMOG-31(Dako)と言われるモノクローナル抗体が市販されている.筆者らの体腔液を用いた検討では,腺癌は高い陽性率を示し,中皮細胞の陽性率は低く,陽性を示す症例でもその数はきわめて少ない(表1).

アマゾンから持ち帰ったスナノミ―裸足やサンダル履きで歩くな

山田 誠一 , 條永 哲

pp.586-587

 海外渡航者が年1,500万人以上にものぼり,また,最近,青年海外協力隊やそのほかたくさんのNGOsが発展途上国で活躍している.あるいは探検といって発展途上国に出かける人たちもいる.彼らは,発展途上国で民衆の中に入り込んで現地の人々と一緒に生活することが多い.

 今年の夏,アマゾンに出かけたあるNGO所属の女性から,足の爪の間に虫に住み込まれ,腹部に卵を持った,黒い芯のようなものに気づいて,皮膚から取り出したものを標本として当教室に送ってきて,同定の依頼を受けた.

IgA腎症と尿中マクロファージ

堀田 修

pp.588-590

1.はじめに

 IgA腎症は原発性糸球体腎炎の中で最も頻度の高い疾患であると同時に,末期慢性腎不全の主要疾患の1つである.IgA腎症は1968年に初めてフランスのBergerら1)により報告された.IgA腎症は進行が緩徐であるため,当初は予後良好な疾患と考えられていた.そのため1980年代まではIgA腎症に対する積極的な治療はまれにしか行われていない.しかし,1990年代になり20年の経過で約40%のIgA腎症患者が末期腎不全に至るという悲観的な長期予後が判明し,近年,特に実地の臨床医家の間でステロイド剤を含む積極的な治療が行われるようになってきた.IgA腎症に対し積極的な治療を行わないのであれば,臨床的見地からは腎生検によって得られた組織の一部を蛍光抗体法により検索しIgA腎症であるという確診を得ればそれでよい.もっと極端な言い方をすれば,有効な治療をしないのであれば腎生検でIgA腎症の診断を得ることは学問的には意味があっても,患者自身にとって,たいした意味はないことになる.実際,最近の20年間に腎生検により莫大な数に上るIgA腎症患者の診断がなされ,分子生物学の隆盛とあいまって学問的には有意義な多くの研究が行われてきた.しかし,これらの研究がlgA腎症患者に有益な成果を直接もたらすに至っていないのは最近20年間の慢性糸球体腎炎の新規透析導入患者数がまったく減少傾向を認めていないことから明らかである.現在,われわれはIgA腎症に対し積極的治療を行う時代に入ったと考えている.IgA腎症に積極的治療を行う際,最も重要な点は腎症の病勢の正確な把握にある.われわれの施設では,尿中のマクロファージの解析がIgA腎症の病態評価に際してきわめて有用であることを見いだし,日常診療の場で活用しているのでここに紹介したい.

質疑応答 血液

血小板の部分凝集

武内 恵 , T生

pp.591-593

 Q 血小板の測定において特定の患者検体にいつも部分凝集がみられます(スライド塗抹染色で確認).抗凝固剤はEDTA-2Kですが,クエン酸Naを代用してすぐ測定しても同じ結果です.すでに2~3週間続いており,患者は肝硬変がありますが,抗生剤,抗癌剤などは使用していないとのこと.測定値は1.0×104/μ1以下で,医師に聞いても血小板減少はあるものの1.O万以下というのは信じられないというのが感想で,今のところ,出血傾向もみられてはいないそうです.測定機はコールターのMD Ⅱです.どのようなことが考えられるのでしょうか.ご教示ください.

質疑応答 資格制度

博士取得の方法

永江 学 , K生

pp.593-594

 Q 博士(学位)を修得する方法をご教示ください.大学によってもその方法は異なるのでしょうか.

臓器移植コーディネーターの資格取得

西垣 文敬 , H生

pp.594-596

 Q 臨床検査技師として血液検査に携わるようになってから,臓器移植全般について強い関心があります.臓器移植コーディネーターになるには,何が必要なのか,どんな人でもなれるのか,またどのような機関に所属するのかにつきまして,教えてください.

資料

デジタル脳波計ネットワークシステム―ペーパレス脳波の臨床的有用性

吉子 健一 , 北野 俊雄 , 根来 民子

pp.597-604

 当院のデジタル脳波計ネットワークシステムについて報告した.導入効果は,脳波の保存・管理の簡便化と判読時に多彩な脳波表示機能を利用できることであった.一方,デジタル脳波ではA/D変換器の飽和による脳波の平坦化現象や,CRTの波形表示性能の限界を認めた.日常脳波検査において本システムは有用であるが,デジタル記録の特性を把握すると同時にデジタル記録に適する記録法や判読法の確立が必要であると考えられた.

学会だより 第9回日本臨床微生物学会総会

"今日から役立つ"臨床真菌検査の重要性を再認識して

白土 佳子

pp.605

 近年,血液疾患における化学療法の進歩により,特に白血病や悪性リンパ腫患者での寛解導入率は著しく向上している.しかしその反面,免疫能の低下による日和見感染症対策が問題となり,なかでも本症に関連した深在性真菌症は診断が困難であり,効果的な抗真菌剤も少ないことから,以上の疾患の予後において深刻な問題となる感染症として挙げられている.したがって,真菌症に対処するためにはより早期の十分な検査法や治療法が今日望まれている.以上の現状を踏まえ,本総会ではメインテーマとして"真菌症"が取り上げられ,招待講演でのラローンDH博士による"新たな病原真菌の出現"やシンポジウムでの"真菌症の診断","臨床真菌の検査"などの多数の注目すべき演題が取り上げられ,臨床における真菌検査の重要性が今日強く示唆されていることを肌で感じることができた.

 ラローンDH博士の講演では,真菌検査において"検査は得られた検体が持つ情報を超えることはできない"という基本理念から,まず信頼性の高い検体の採取が重要となることを示唆し,①検査室は検体採取のガイドラインを設ける,②大部分の"汚染"は検体採取部位で起こる,③検査室への迅速な検体輸送と適切な培地への接種が必須,④臨床医と検査室とのコミュニケーションが最も重要であると述べられた.これは真菌検査のみではなく,すべての細菌検査において同様に重要であると感じ,さらに,新たな病原真菌出現の中でMalassezia furfurは今後注目すべき真菌症であると思われた.また,本講演のテキストは大変わかりやすく,直ちに日常検査に役立つものと感じられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

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今月の特集2 臨床検査とIoT

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64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

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今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

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今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

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今月の特集2 COPDを知る

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今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

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62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
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62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

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今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

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今月の特集2 筋疾患に迫る

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62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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