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文献詳細

雑誌文献

臨床検査42巻7号

1998年07月発行

文献概要

今月の主題 多発性内分泌腫瘍症(MEN) 巻頭言

MENの概念とその歴史的変遷

著者: 高井新一郎12

所属機関: 1大阪大学 2聖徒病院

ページ範囲:P.729 - P.730

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 医学を含めてすべての科学は,A)現象の観察と記載,B)それらの整理と分類,C)現象の本質の理解,D)新たに得られた知見の応用,といった段階を経て進歩する.ある段階から次への移行は,突然起こることもあるが多くは漸進的である."多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia; MEN)"も,このような過程を経て理解が深まっていった.
 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)については,1903年のErdheim以来,2型(MEN2)では1932年のEisenberg & Wallerの報告以後,一例報告が散発的に続いた時期が上記のA)の段階に当たる.次に,それらを整理して共通した特徴を抽出し,1つの独立疾患として報告した研究者が,Wermer1)およびSipple2)である.1968年に至ってSteinerら3)は,Wermer症候群とSipple症候群とでは関係する内分泌腺の組み合わせが異なり別個の疾患であることを指摘し,前者をMEN1型,後者をMEN2型と呼ぶことを提唱した.SteinerらはMEN2が常染色体性優性の遺伝性疾患であることも明確に指摘した.そのうちにMEN2の中に特異な顔貌など,いくつかの外見的特徴を持つ一群があることが明らかになり,これを区別しようとする動きが出てきた.Khairiら4)とChongら5)である.ここでちょっとした混乱が生じることになった.すなわち,KhairiらがMEN2の中の特異な顔貌を持つ一群をMEN3と呼んだのに対して,ChongらはもともとのSipple症候群をMEN2A,特徴的な外見を示す患者をMEN2Bと名付けることを提唱した.Khairiらの命名法は今でもときどき使う人がいるので気をつける必要がある.われわれは一貫してChongらの呼び方を採用してきた.それはMEN2Aと2Bの類縁関係はきわめて近いと考えたからであった.後述のごとくこれらが同じ遺伝子の異なった変異によって生じる2つの疾患であることが明らかになった今日では,2A/2Bの呼び方に統一されるべきである.ここでMEN1型,2A型および2B型の3タイプがそろったことになる.このころまでが上述のB)の段階であろう.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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