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シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編
多発性硬化症
著者: 三野原元澄1 吉良潤一1 西村泰治2
所属機関: 1九州大学大学院医学系研究科脳神経病研究施設神経内科 2熊本大学大学院医学研究科免疫識別学講座
ページ範囲:P.1648 - P.1655
文献購入ページに移動多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)は,臨床的に中枢神経白質の病変に由来する症候が再発と寛解を繰り返し,その病理所見は,中枢神経白質の血管周囲性の炎症細胞浸潤と非化膿性炎症性脱髄を示す病態である.欧米白人では,アジア人に比べてその有病率が約10倍高く,10万人に対して40~100人程度であり古くより研究が盛んに行われている.そしてMSの発症に免疫学的機序が関与していることが,以下の観察より強く示唆されている.①副腎皮質ステロイド剤や免疫抑制剤,インターフェロンβが治療的効果をもたらす.②実験動物にミエリン蛋白を免疫することにより,MSのモデルと考えられる実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalo-myelitis; EAE)を作製できる.③欧米白人のMS患者では,疾患感受性が特定のHLAクラスⅡ(HLA-Ⅱ)対立遺伝子と相関を示し,これらのHLA-Ⅱ分子が自己反応性T細胞にMS関連自己抗原ペプチドを提示することが示されている.
欧米白人に比べアジア人のMS患者では,特定のHLA-Ⅱ対立遺伝子との相関について統一した見解は得られていなかった.しかし,従来よりその存在が知られていた日本人を含むアジア人にユニークな臨床型のMS患者において,欧米白人と異なるHLA-Ⅱ対立遺伝子との相関が見いだされた.本稿では,なぜ特定のHLA-Ⅱ対立遺伝子を有するヒトでは,MSを発症するリスクが高くなるのかについて,その機序をHLA-Ⅱ分子の構造と機能に照らし合わせて考えてみる.
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