トピックス
HIVを覆うスパイクの電子顕微鏡写真
著者:
後藤俊幸1
森松伸一1
佐野浩一1
所属機関:
1大阪医科大学微生物学
ページ範囲:P.578 - P.580
文献購入ページに移動
臨床検査上得られる情報はウイルスの部分的なものによってであるが,その意義はウイルスの構造などの基礎的研究成果によって裏付けされる.ウイルスは光学顕微鏡の分解能よりも小さく,電子顕微鏡(電顕)で観察する必要がある.電顕でウイルスの構造や性状を調べる場合,ウイルスはどのくらいの大きさか,そのウイルスはエンベロープを持っているか,さらにエンベロープ表面には細胞レセプターと反応する突起物,すなわちスパイクと呼ばれるものがあるか,などの情報を得ることができる.また,ウイルス内部構造には正二十面体対称などのコアがあるか,あるいはらせん対称のヌクレオカプシドがあるかを知ることも重要である.さらに,正二十面体対称である場合には,それを構成しているカプシドが何個あるかも重要である.このような情報から今観察されているウイルスがどのような種類かを推定することができる.さらに,このウイルスの表面構造,あるいはエンベロープやスパイクの構造を観察し,その成分を明らかにすることは,このウイルスがどのようなものと反応するか.すなわちこのウイルスがどのように感染するか,を知る手がかりとなる.また,ウイルス表面抗原は免疫系の被認識部位ともなり,治療法や予防法の開発にもつながる.
実際エイズの病因であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染材料をエポキシ樹脂に包埋し,薄く切って観察すると,細胞外にエンベロープを持っウイルス粒子が見られる(図1).直径は平均約110nm,中心には電子密度の濃い(写真の上では黒く見える)類円錐形の特徴的なコアが観察される.HIVの場合,コアの対称性はまだ決まっていない.このHIVが細胞内に侵入するとき,ウイルスエンベロープ上のスパイクが重要な役割を演じている.そのスパイクと細胞膜上のレセプターとの相互作用により,ウイルスエンベロープが細胞膜と融合して,細胞内へウイルス遺伝子を含むコア部分が侵入して感染が成立する1).