icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査43巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

今月の主題 マスト細胞

巻頭言

マスト細胞―新たな展開

森田 寛

pp.727-728

 マスト細胞(肥満細胞)は赤血球や顆粒球などと同様に多能性造血幹細胞に由来する.その前駆細胞は骨髄から血液を通って組織に移動し,そこで分裂してマスト細胞に分化すると考えられている.また,本細胞は分化の完了後も,また脱顆粒を起こした後も増殖する能力を保持している.

 ラットとマウスでは,マスト細胞は皮膚と腹腔に存在する結合織型マスト細胞(connective tissue type mast cell;CTMC)と腸管粘膜に存在する粘膜型マスト細胞(mucosal mast cell;MMC)の2つのサブタイプに分類される.CTMCとMMCはその置かれた環境により相互変換しうることが知られている.

総説

マスト細胞の分化

実宝 智子 , 北村 幸彦

pp.729-734

 マスト細胞は多分化能幹細胞の子孫であるが,未分化のままで未梢血中を流れて組織に入ってから分化する.このときに結合組織で分化したマスト細胞は結合組織型に,粘膜組織で分化したマスト細胞は粘膜型になる.マスト細胞の分化には転写因子などのマスト細胞自身に内在する因子と,サイトカインなどのマスト細胞を取り巻く環境因子の両方が関与する.

マスト細胞とサイトカイン

斎藤 博久

pp.735-741

 ヒト・マスト細胞はstem cell factorとそのほかのサイトカインの影響下に造血幹細胞から分化する.成熟したヒト・マスト細胞はIgE抗体で感作し,抗IgE抗体で刺激すると脱顆粒を起こし,数時間後にインターロイキン(IL-)5などのサイトカインを分泌し,数日後にIL-13を分泌する.さらに,IL-4など外界のサイトカインの影響を受けて,機能的に変化する細胞であることも判明しており,免疫反応全般にわたり重要な細胞であることが認識されつつある.

接着因子とマスト細胞

木梨 達雄

pp.742-750

 マスト細胞は炎症やアレルギー反応において重要な役割を演じている.高親和性IgEレセプター(FcεR1)に結合したIgEが抗原により架橋されると,脱顆粒反応が起こり,ヒスタミン,プロテアーゼ,サイトカイン,ケモカイン,アラキドン酸代謝産物が放出され,一連の炎症反応が惹起されることが知られている.一方,マスト細胞の局在や細胞遊走はこれらの免疫反応を調節するうえで重要な役割を果している.細胞間あるいは細胞外マトリックスとの接着は主にインテグリンによって介在されており,インテグリンの発現と接着性調節がマスト細胞による炎症反応調節に密接に関係してくると考えられる.

マスト細胞のIgEレセプター

川本 恵子 , 羅 智靖

pp.751-761

 高親和性IgEレセプター(FcεRI)は,α,β,γの3種類のサブユニットから構成され,IgEはα鎖を介して特異的に,しかも極めて高い親和性(KA=1010M-1)で結合する.FcεRIは,マスト細胞や好塩基球にのみ発現していると考えられてきたが,活性化好酸球やランゲルハンス細胞,単球,血小板などのさまざまな細胞においてもその存在が確認され,また,FcεRIのβ鎖がアトピー遺伝子候補である可能性が示唆されるなど,この分子の持つ多彩な役割に関心が寄せられている.

技術解説

マスト細胞の病理組織学的検査法

神戸 直智 , 黒沢 元博 , 神戸 美千代 , 宮地 良樹

pp.762-766

 ヘマトキシリン・エオジン染色では,顆粒が染色されず,病理組織学的にマスト細胞を同定することは困難である.このため,メタクロマジーを指標としてpH4.1のトルイジン青染色が用いられる.さらに今日では,トリプターゼに対する免疫組織化学染色により,感度,特異性ともに高くマスト細胞を同定できる.一方,キマーゼに対する検討はこれまでCarnoy固定液が推奨されてきたが,4%パラホルムを用いたほうが望ましいと思われる.

培養ヒト肥満細胞を用いた抗アレルギー薬の評価

稲垣 直樹 , 七條 通孝 , 木股 正博 , 永井 博弌

pp.767-774

 ヒト臍帯血単核細胞を幹細胞因子とインターロイキン6存在下に長期間培養すると肥満細胞が得られる.培養肥満細胞をIgEで感作し,抗ヒトIgEで刺激するとヒスタミン,ロイコトリエン,プロスタグランジンD2,および種々のサイトカインが遊離する.クロモグリク酸ナトリウム,アゼラスチン,β刺激薬およびホスホジエステラーゼ阻害薬は培養肥満細胞からの抗IgE刺激によるメディエーターの遊離を抑制する.

話題

肥満細胞欠損動物

前山 一隆

pp.775-777

はじめに

 1877年にPaul Ehlichが始めて肥満細胞を染色し,後にアナフィラキシーショックをもたらすヒスタミンを顆粒に貯蔵していることが明らかになって以来,肥満細胞はI型アレルギーの研究対象となってきた.肥満細胞の由来に関しては,北村が肥満細胞欠損マウスであるSl/Sld,W/Wvを用いて骨髄幹細胞由来であることを証明した1).肥満細胞は生体内での局在,顆粒中のムコ多糖やプロテアーゼの違い,薬物に対する反応性の差から結合組織型と粘膜型肥満細胞に大別される.近年,結合組織型肥満細胞の分化にStemcell factor (SCF;kitリガンド)とc-kit受容体のシグナル伝達系が重要な役割を果たしており,SCFならびにc-kit受容体はそれぞれSl,W遺伝子にコードされていることから,上記の肥満細胞欠損マウスはSl,W遺伝子の突然変異により骨髄幹細胞から結合組織型肥満細胞へ分化できないため生じたことが明らかとなった2).他の特徴として,メラノサイトの欠損,生殖細胞の欠損が知られる.一方,粘膜型肥満細胞は,IL-3の刺激により分化,増殖することがわかり,特に寄生虫感染により腸粘膜で増えることが知られている.1991年に北村らが白斑を有する突然変異ラットを発見し,その交配から肥満細胞欠損ラットを確立した.

翼状片

中神 哲司

pp.778-780

はじめに

 翼状片は,主に角膜の鼻側から結膜様組織が角膜上に侵入していく疾患である(図1).眼科の日常診療ではよく遭遇する疾患で,進行例には外科的切除が行われるが,しばしば再発し,治療に苦慮することも多い.病理組織学的に翼状片上皮下組織には多くの線維芽細胞浸潤,弾性線維変性物質や異常な膠原線維の集積が認められる1).またマスト細胞をはじめ,リンパ球,形質細胞浸潤がみられ,角膜ボウマン膜の破壊や血管新生も著明に認められる1).翼状片の原因はいまだ明らかではないが,疫学的研究などから紫外線被爆の関与が推測されている.

 マスト細胞は,アレルギー性炎症反応を引き起こす主要な細胞であるが,非アレルギー性の慢性炎症や線維化,血管新生にも深く関与することが知られており.翼状片の病態形成にマスト細胞が関与している可能性が高い.この点から,最近明らかとなった知見について,ここに紹介する.

寄生虫症とマスト細胞

手越 達也

pp.781-783

はじめに

 マスト細胞の分化・増殖にはT細胞依存性,非依存性の2つのメカニズムがある.T細胞非依存性分化・増殖因子にはstem cell factor(SCF),神経成長因子(NGF)などが知られている.一方,T細胞依存性の分化・増殖因子には,インターロイキン(IL)-3,IL-4,IL-9,IL-10などが重要である.

 寄生虫に感染すると感染局所において粘膜型マスト細胞(MMC)が増加するが,これはT細胞依存性の増殖であり,胸腺欠損ヌードマウスやヌードラットではこの増殖がほとんど観察されない.実験動物では,腸管寄生蠕虫Nippostrongylusbrasiliensis,Strongyloides ratti,S.venezuelensis(線虫),Hymenolepis nana (条虫),Trichinellaspiraris (旋毛虫)などの感染により小腸MMCが増加することが知られている.ヒトにおいても旋毛虫感染により小腸MMCが増加するという報告がある1)

キマーゼと骨格筋疾患

佐橋 功 , 衣斐 達

pp.784-785

1.キマーゼの機能

 キマーゼ(chymase)は,ほぼ選択的かつ多量に肥満細胞(マスト細胞)と極一部はマクロファージや血管内皮細胞で合成・貯蔵され1,2),細胞外へ緩徐で持続的な脱顆粒により放出される分子量約25kDaのセリン(アミノ酸の一種)プロテアーゼ(セリン基を持つ蛋白質の分解酵素)の一種である3).肥満細胞は各種のサイトカインをはじめヘパリン・ヒスタミン・プロテアーゼなどの多彩な炎症修飾物質の宝庫であり4),動脈硬化などの線維性増殖や修復に対し中心的な役割を担う1,5,6).肥満細胞で合成・貯蔵・分泌されるプロテアーゼは,トリプターゼ・キマーゼ・カルボキシダーゼであるが,キマーゼとカルボキシダーゼは結合組織型に発現し,固定化酵素として内因性プロテアーゼ阻害物質や自己分解および他のプロテアーゼの攻撃から防護され細胞外で長期に酵素活性を発揮する.キマーゼのin vitroの機能は組織間質の線維化や血管新生など多様であるが,臨床的には主に循環器領域で動脈硬化・心肥大・高血圧症の発症との関与が注目されている1)

症例

マスト細胞性白血病

杉田 憲一

pp.787-790

 マスト細胞性白血病はマスト細胞由来の新生物の15%程度を占める.症状は発熱,体重減少に加えて,腹痛,嘔吐,下痢,胃潰瘍,消化管出血などの消化器症状および低血圧,かゆみ,骨痛などが多い.その他,肝脾腫,リンパ節腫大,貧血,出血症状もしばしばみられる.白血球数は10,000-150,000/μlまでいろいろで,末梢血,骨髄でのマスト細胞の増加により診断される.白血病でのマスト細胞は顆粒は少ないか無顆粒で,ズダンブラック,アルシアンブルーに染色される.また,クロルアセテートエステラーゼ,酸ホスファターゼ反応陽性で,ペルオキシダーゼ反応陰性である.電子顕微鏡によりマスト細胞の顆粒の渦巻状(Scroll),指紋状,層状などの所見がある.予後は極めて悪い.

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・19

リンパ増殖性疾患・成人T細胞白血病

栗山 一孝 , 前田 隆浩 , 朝長 万左男

pp.722-723

 成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T cell leu-kemia/lymphoma;ATL)は末梢性T細胞増殖性疾患であり,病因ウイルスであるhuman T-lymphotropic virus type-Ⅰ(HTLV-I)のプロウイルスが腫瘍T細胞に単クローン性に組み込まれている.したがって,ATLの確定診断はサザンプロット法によってこれを証明する必要がある.ATLの病型は白血化,臓器浸潤,高LDH血症,高カルシウム血症の有無により急性型,リンパ腫型,慢性型,くすぶり型に分類される.ATL診断の契機は,多彩な臨床症状にもよるが末梢血液像で異常リンパ球を指摘される場合が最も多い.

 急性ATLでは,増殖している異常リンパ球は,核網構造は凝集あるいは凝縮し核小体は認めず,核形は変形が強いものから類円形に近い小型が主体であるが,なかに核網がやや繊細で核小体を認める中型から大型も混在する(図1).また急性型では,図2に示すように中型から大型のリンパ芽球様の細胞増殖を認める場合がある.骨髄にも同様細胞増殖が認められることもあり,急性リンパ性白血病との鑑別を要する.図3は中型で,原形質が比較的広く,核網構造はやや繊細で柔らかく,核に軽度の切れ込みを有する.一見Seza-ry細胞に類似しているが,ATLに典型的な小型の核変形の強い細胞も認める.

コーヒーブレイク

往をあきらかにする

屋形 稔

pp.741

 2002年には京都で第18回国際臨床化学会が開かれることになり関係者は準備に追われている.ここまで来るのにわが国の臨床化学は目覚ましい反面に厳しい道も歩んできた.数年前の本学会夏季セミナーでは臨床化学よどこへ行くというテーマで討論が行われたが,その意味でこの国際学会は終点ではなく新しい出発点になるであろう.

 そもそもの始まりは1961年と目されるからちょうど病院検査室が国立大学に設置され始めたころで,20世紀後半に進展をみたわけである.振り返ると永かったようでもあり,短かい気もする.ただ現在臨床検査に携わる若い人々にとって始まりは段々と目に見えない遠い昔になりつつある.この年に大阪の地で第1回医化学シンポジウム(日本臨床化学会)が生化学者,臨床医師,薬学者,検査関係者などが集まって新しい流れを求めて開かれたのが公式の一歩とされる.

痛いうちは歩ける証拠

寺田 秀夫

pp.774

 30年来慢性関節リウマチを患い,肘・腕・指関節さらに趾関節の変形・硬直による機能障害と毎日の痛みに苦しむ現在66歳の主婦.数年前に趾関節の高度な変形(claw foot)のため,歩行も困難になり某大学リハビリテーション科のM教授から,10本の全趾関節の切開整形手術を受けた結果,ある程度歩行も可能となり,本人はもちろん家族も人喜びで今日に至っている.しかし数年前から足底部の,特に足球部の皮膚の角化(角質皮膚炎keratodermatitis)を起こし,再び歩行時の疼痛が強くなり,毎月1回皮膚科外来で角質層の切開剥離を続けているが,本人は将来歩けなくなるだろうかという危惧の念に馳られて,気持が落ち込む日も少なくなかった.

 先月,皮膚科外来で治療をうけた際,いつもの某教授は「いつでも治療にいらっしゃい.痛いうちは歩けるという証拠ですから.車椅子を使っている人は痛くないわけですよ」と言われた.それ以後その患者は気持も明るくなり,毎日を有意義に過ごし始めている.この医師の一言が長年リウマチの苦しみに耐えて,ややもすると気分の暗くなり易いこの患者にとって,素晴らしい励ましの言葉となったことは間違いない.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

遺伝子疾患データベース―MutationView

清水 信義 , 蓑島 伸生

pp.791-797

はじめに

 ヒトという生物のブループリントすなわちゲノムは30億塩基対のDNAからなり,推定10万種類の遺伝子から成っている.McKusickのオンラインデータベースOMIMには遺伝病や癌を含めたヒトの遺伝子疾患が4,300種類ほど記載されている.これら遺伝子疾患のうち約1,500種類が特定のヒト染色体にマップされ,そのうち約800種類については原因遺伝子がクローニングされている1)

 遺伝子に関する情報は,大別して3つのデータベースに蓄積されている.すなわち,ヒト染色体上の位置(マップ情報)に関する国際ゲノムデータベース(GDB)2),DNA塩基配列(シーケンス情報)に関するGenBank/EMBL/DDBJ3),遺伝子から産生される蛋白質の機能・生理作用(蛋白質情報)に関するSwissProt/PIR/PRFがある4)

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

シトルリン血症

小林 圭子 , 佐伯 武賴

pp.798-805

はじめに

 鹿児島大学医学部生化学第一講座では国内外を問わず医療機関からの依頼を受けて,これまでに400症例を超える高アンモニア血症の酵素学的ならびに遺伝学的解析を行い,尿素サイクル酵素異常症を中心にそれに関連した疾患の診断を行ってきた.その中には,カルバミルリン酸合成酵素(CPS)欠損症,オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症,アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)欠損症(シトルリン血症),アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)欠損症,アルギナーゼ(ARG)欠損症,LPI (リジン尿性蛋白不耐症),HHH症候群(オルニチン転送蛋白欠損症)などが含まれる.

 特にシトルリン血症を重点的に解析しており,これまでに日本人症例160例および諸外国症例20例の診断を行ってきた.われわれはごく最近,長い間真の原因が不明であった成人発症II型シトルリン血症の責任遺伝子(SLC 25 A 13)の同定に成功した(Kobayashiet al, Nat Genet印刷中).この遺伝子の発見により,シトルリン血症(CTLN)を新生児小児発症の古典型(CTLN 1)と成人発症II型(CTLN 2)にはっきり区別し,定義づけることができた.本稿では,すでに10年ほど前から施行しているCTLN 1の遺伝子診断について,また最近遺伝子診断が可能になったCTLN 2では遺伝子同定を含めて概説する.

トピックス

Massachusetts Poison Control System

坂本 秀生

pp.806-807

 1998年度の重大事件の1つが和歌山県で起こった毒入りカレー事件であることは多くの人が認めるところである.それはその特異性だけでなく,その後の毒物の特定にかかわる過程において,あらためて問題を提起したのではないだろうか.

 症状が起こった際,その中毒症状に適切に対応することは大切であり,物質の同定が行われている間にも刻々と患者の容態は変化し,一刻も早い処置が重要なことは間違いない.現在,筆者が滞在している米国マサチューセッツ州には,毒物薬物の中毒症状に対する,情報連絡網を州が管理しており,Massachusetts Poison Control System(MPCS)と呼ばれている.このシステムが機能して,患者に対する適切なアドバイスが行われ,また症状から推定を行い,病院において迅速な処置の一助になっている.1998年に発行されたMPCSのAnnual Statistical Reportを基にこのMPCSを紹介し,同定分野で活躍している臨床検査技師の役割も伝えたい.

膵β細胞とチオレドキシン

堀田 瑞夫 , 宮崎 純一

pp.808-809

 1型糖尿病は,今日生活習慣病として扱われることの多い2型糖尿病とは異なり,若年齢で発症することが多く患者の生命維持のためにインスリン注射を必要とするタイプの糖尿病である.その病理学的特徴として,まず膵島に免疫細胞が浸潤する状態(膵島炎)が観察される.次に,膵島細胞の中でも特にインスリンを分泌するβ細胞が選択的に傷害されていくため,ついにはインスリン分泌不全をきたすものと考えられている1)

 従来より,膵β細胞では抗酸化ストレス蛋白であるSOD (super oxide dismutase)やカタラーゼなどの発現レベルが低く,酸化ストレスに弱いことが示唆されていた.さらに近年,1型糖尿病における膵β細胞傷害のメカニズムに,免疫細胞およびこれらの細胞の放出する細胞傷害性サイトカインの刺激によって産生される活性酸素やNO (nitric oxide)などの酸化ストレスが重要な役割を果たしている可能性を示唆する報告が数多くなされている2)(図1).

皮膚交感神経活動

岩瀬 敏 , 間野 忠明

pp.810-813

1.はじめに

 ヒトにおける皮膚交感神経活動(skin sympa-thetic nerve activity:SSNA)は,ヒトの末梢神経内の皮膚神経束からマイクロニューログラフィーにより記録される.SSNAは汗腺と皮膚血管括約筋を支配し,その活動の中に発汗神経活動と血管収縮性神経活動を含む.

 SSNAは,1972年にHagbarthら1)により最初に記録され,Wallinら2,3)により詳細に研究された.筆者らも時間的な関係4)や環境温が与える影響5),さらには皮膚血管拡張反応6)などについてこれまでに報告している.

質疑応答 検査機器

無侵襲法による簡易血糖測定法

桑 克彦 , N生

pp.814-816

 Q 最近,近赤外線を前腕部に照射するだけで血糖値が測定される簡易血糖測定器が上市されたと聞きました.この測定器の種類と特徴,測定法について,お教えて下さい.

質疑応答 その他

ポアソン分布の確率

丹後 俊郎 , O生

pp.816-817

 Q 白血球分類である細胞,例えば,単球の真の値が5%である場合に,白血球を100個数えて単球が5個計数できる確率をポアソン分布の確率の式

Px=(e-λ)(λ)/x! で求めると0.175となり,一方,200個数えて単球が10個計数できる確率は0.124となって,たくさん数えた方が真値から外れる確率が高くなってしまいます.これは常識と合いません.どう考えるべきなのでしょうか.

研究

Thiazole orange(TO)染色法による血小板RNA測定に及ぼす反応温度,時間,血小板濃度の検討

池田 元美 , 小林 裕 , 高橋 由布子 , 近山 達 , 近藤 元治

pp.819-822

 健常人における血小板RNAのチアゾールオレンジ(TO)染色における各条件下での反応性について検討した.EDTA採血した全血から多血小板血漿(PRP)を作成し,最終濃度50ng/mlになるようにTOを添加し,反応温度,反応時間,PRPの血小板濃度を変数としフローサイトメーターで陽性率を定量測定した.反応時間,反応温度に大きく影響を受けたが,検討した範囲内の血小板濃度では陽性率には影響なかった.以上より本方法は反応温度と反応時間をできる限り厳密に設定することが重要であると考えられた.

編集者への手紙

バングラデッシュにおける消化器系寄生虫の保有状況

ホセイン モハメッド モアゼム , 山田 誠一

pp.823-824

はじめに

 われわれは,海外の国々における寄生虫感染状況を調査している1~5).今回,バングラデッシュについて調査する機会があった.バングラデッシュは面積では日本の45%位で,人口はほぼ日本と同じくらいの国である.自然災害が多く,雨期には国土の半分が水浸しになる.1998年は約50年ぶりの大洪水となり,首都ダッカの一部も冠水した.洪水の後には伝染病の蔓延の心配があり,公衆衛生の取り組みはバングラデッシュにとって非常に大切なものになっている.今回,感染症として寄生虫疾患を取り上げ,その保有状況を報告する.

私のくふう

細胞診標本の免疫染色における内因性ペルオキシダーゼ活性阻止方法

久納 淨

pp.825

1.はじめに

 細胞診標本における免疫染色は体腔液など細胞の鑑別が雑しいときに染色結果が大きな手掛かりとなることがあり,大変有用である.未染スメアから直接免疫染色を行う場合には内因性ベルオキシダーゼ活性が非常に強いため,市販のキット(当施設ではDAKO社LSABキットを使用)に付属している内因性ペルオキシダーゼ活性阻止用試薬を塗抹面に滴下すると,勢いよく気泡が発生してしまい,せっかくの塗抹面が機械的に剥がれ落ちてしまう現象をしばしば経験する.そこでキット付属のペルオキシダーゼ活性阻止試薬を使用し,かつ,この現象が軽減できる方法として,パパニコロウ染色に使用するヘマトキシリン分別用塩酸アルコール(1%HCI 70%アルコール)を用いた簡単な方法を考案したので紹介する.

海外レポート

協力隊活動を終えて―青年海外協力隊員レポート

高宮 亜紀子

pp.826-827

協力隊への参加

 「ボランティアとは何か」ということを私が考えるようになったのは,阪神大震災が起こってからのことです.当時,故郷の愛媛に住んでいた私はボランティアとして神戸に行くことを考えたのですが,結局は行きませんでした.それは自分の中でいろいろな迷いがあったためですが,それ以降ボランティアについて考えるようになり,実際自分で経験してみるべきだと思いたちました.また,当時私は一般事務の仕事をしており,臨床検査技師としての自分を取り戻したいという欲求もありました.臨床検査技師として参加できるボランティアをしたいという思いから,協力隊参加を選びました.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら