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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査43巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

今月の主題 生活習慣病

巻頭言

生活習慣病

戸谷 誠之

pp.955-956

 今世紀の半ばに経験した世界大戦後に,わが国の健康政策は大幅に転換された.こうした変革の結果として,それ以前には国民病と言われていた急性感染症や結核などの感染性病変が激減し,国民の多くが期待していた長寿化への願望が今日では現実のものになった.しかし,その一方では少子高齢化が深刻な社会問題としてクローズアップされるに至っている.

 このような現状にあって,国民はより健康で充実した生活(QOL)を全うできるような医療・保健環境が作られることに対して大きな期待を抱いている.そこで,1997年に厚生省はこれまでの保健政策を発展的に再構築する施策として新たに健康日本21計画を創設し,その目玉の1つとして生活習慣病対策を掲げた.

総説

生活習慣病とは

千村 浩

pp.957-961

 わが国では,従来,脳卒中,がんなどの悪性腫瘍,心臓病などを「成人病」として,二次予防に重点をおいた対策を講じてきた.これにより,早期発見・早期治療が効果的であるとの認識を醸成し,国民の検診受診の推進に効果を挙げてきた.人口の高齢化に従って,今後これらの疾患が増加することが予想される一方,これらの疾病の発症には「生活習慣要因」が関与していることが明らかになってきたことから,「生活習慣病」概念が導入された.健康的な生活習慣を確立することにより,これらの疾病の危険因子を回避することがまず重要との認識に立ち,今後の生活習慣病の予防対策を進めていくこととしている.

一次予防と臨床検査

野口 慶久 , 有吉 聡子 , 樽原 真二 , 丸山 征郎

pp.963-968

 わが国においてはライフスタイルの欧米化,すなわち,食事脂肪の増加や運動不足,ストレスなどによって急速に疾病の構造が変わりつつある.これらは最近生活習慣を基盤にした疾患という意味で生活習慣病と言われている.

 そのなかでも現在注目されているものは肥満,特に内臓脂肪型肥満とそれに伴う疾患群である.すなわち,内臓脂肪型肥満はインスリン抵抗性を基盤として脂質代謝異常,糖代謝異常,高血圧などの種々の疾患を引き起こすことが判明して注目されている.

 この内臓肥満症候群に続発する種々の合併症には,脂肪細胞が大きな役割を果たすことがわかってきた.内臓脂肪は古くは単なるエネルギー貯蔵庫であると考えられていたが,最近ではレプチンをはじめとするアディポサイトカインと総称される種々の生理活性物質を分泌し,生体のエネルギー代謝調節のみならず血圧,免疫,凝固系などに関与する重要な内分泌臓器であることが明らかになっている.したがって,この過剰は糖代謝異常,動脈硬化,高血圧,血栓症など種々の合併症を引き起こすことになる.

食習慣と臨床検査

渭原 博 , 橋詰 直孝

pp.969-974

 栄養素摂取の過不足を明らかにすることにより食習慣が原因の生活習慣病の発生を予知し予防することができる.臨床検査は身体徴候の現れる前の食習慣の偏りの発見に有効であり,食事調査の成績をより定量的に裏づけることができる.血液検査による栄養状態の評価には栄養素(糖質・蛋白質・脂質・ビタミン・ミネラル)の過不足を直接測定し求めるものと,栄養素欠乏で引き起こされる代謝異常や代謝産物を調べる場合がある.

運動と生活習慣病

太田 壽城 , 石川 和子

pp.975-982

 運動の効果と運動指導の基本に関する文献的検討を行い,運動指導の効果と運動指導の内容についてレビューした.次に,肥満,高血圧,高脂血症と糖代謝異常の発症に対する身体活動の影響を示した.さらに,これらの病態に対する運動指導とその継続に関する介入研究を行い,運動指導の効果と運動指導継続の効果を検討した.最後に,生活習慣病予防と健康増進のための運動指導の方法を,運動指導の対象,ヘルスチェックの基準,運動指導の方法,運動の動機づけについてまとめた.

糖尿病と生活習慣病

葛谷 英嗣

pp.983-987

 いまや2型糖尿病の増加は著しく,国民の最も重要な健康問題の1つにさえなっている.これはわれわれの生活様式の西欧化と関係が深い.2型糖尿病の発症には遺伝的素因と環境因子が関与しているが,肥満や身体活動の低下,脂肪(ことに飽和脂肪酸に富んだ動物性脂肪)が多く穀類など糖質の少ない食生活はいずれもインスリン抵抗性を引き起こし,糖尿病発症に促進的に働く.

循環器疾患と予防

門脇 崇 , 早川 岳人 , 渡辺 至 , 岡山 明 , 上島 弘嗣

pp.989-994

 高齢社会の進展に伴って,脳卒中・心臓病などの循環器疾患は増加している.これらの疾患の多くは生活習慣病と位置づけられている.また,罹患すると,たとえ生命の危機を脱しても,後遺症のためにADLの低下をきたすために,健康な老後を過ごすための障害になる可能性がある.本稿では,生活習慣が循環器疾患に与える影響を示し,罹患を予防するための生活指導の要点について概説する.

話題

栄養調査とバイオマーカー

𠮷池 信男

pp.995-998

1.栄養調査とは

 "栄養調査"とは,ヒトの栄養状態を総合的に評価する栄養評価システム(Nutritional Assess-ment System)の中核を成すものである1).食べ物や各種栄養素の摂取量を調べる"食事調査"とほぼ同義にとらえることもあるようだが,基本的には生体内での栄養状態の評価をも含む概念であると考えられる.

 現在,わが国の栄養問題としては,過剰栄養およびそれが大きな原因となっていると考えられる生活習慣病が中心的事柄である.しかし,地球レベルでは,エネルギーや各種栄養素の欠乏がいまだに最重要の問題である.この栄養素欠乏状態を例に取ると,栄義評価は表1のように整理される1,2).すなわち,第1段階では,食事調査により"何をどれだけ食べたか"を把握する.第2,3段階では,体内の貯蔵組織や体液・血液中の各種栄養素濃度を生化学検査などで測定する.第4段階では,体内での栄養素の欠乏が細胞や組織レベルで引き起こす機能低下の程度を評価する.ある栄養素に依存する酵素活性の低下などがその良い例である.一方,脂肪組織内に蓄えられる脂肪量の変化は,身体計測値の変化として検出され得る.第5段階は,"病気"の段階には達していないものの,個体として何らかの機能変化が生じている状態である.例えば,亜鉛欠乏による味覚低下,ビタミンA欠乏における暗順応の低下などは生理学的検査でとらえられるものである.最後の第6,7段階では,"病気"として,種々の症状,身体所見の変化が出現してくるものであり,臨床的に診断・評価が行われる.

リスク因子分析―生活習慣改善への応用

中村 正和 , 井岡 亜希子 , 木下 朋子 , 増居 志津子 , 生山 匡 , 大島 明

pp.999-1002

はじめに

 生活習慣病対策として生活習慣に着目した一次予防対策の充実が求められている.生活習慣は,基本的には個人が自らの責任で選択する問題であるが,実際には,個人の力のみで,その改善を図ることはむずかしい.そこで,個人が健康的な生活習慣を確立できるよう,社会環境の整備とともに,教育面から支援を行い,行動変容への動機づけや行動変容に必要となる知識・スキルの習得を促すことが必要である.アメリカでは,集団の観察から得られたリスク因子の疫学的知見を個人に当てはめ,個人の健康リスクを予測する"健康危険度評価"(Health Risk Appraisal;HRA)が考案され,リスク因子改善の教育ツールとして職域などで広く用いられている.

 本稿では,アメリカでのHRAの開発の歴史と最近の動向を紹介するとともに,筆者らが開発した日本人向けのHRAについて述べることとする.

健康日本21計画と医療

長谷川 敏彦

pp.1003-1007

1.はじめに

 1)成功と課題

 (1)世界一の健康結果,日本

 日本は最近,世界一の健康結果を達成した.国の健康状態を表すのに最もよく使われる"平均寿命"と"乳児死亡率"は1984年から今日まで,世界一の実績を示すに至っている.戦後,先進国の間では最下位であった日本は比較的短期間にすべての先進国を追い抜き,最上位に躍り出た.

座談会

生活習慣病と健康生活

吉池 信男 , 吉村 學 , 片山 善章 , 戸谷 誠之

pp.1009-1020

 「生活習慣病」という言葉が次第にわれわれの日常で使用されるようになってまいりました.毎日の生活でこのようなことに注意をすれば,将来糖尿病,高血圧,肥満,高脂血症,骨粗鬆症などの発症を抑えることができる,または,発症を遅らせることができるという,一次予防・二次予防の対策に,臨床検査がどのようにかかわることができるのかを中心にご討議いただきました(編集室).

今月の表紙 血液・リンパ系疾患の細胞形態シリーズ・21

リンパ増殖性疾患・慢性リンパ

前田 隆浩 , 栗山 一孝 , 朝長 万左男

pp.950-951

 広義の慢性リンパ性白血病(CLLs)は成熟リンパ球の形態を呈した白血病細胞が単クローン性に腫瘍性増殖をきたす疾患群である.一般に,緩徐な経過をとって次第に進行するが,ときに長期間にわたって進行が認められない症例や急激な経過をたどる予後不良の症例も存在する.FABグループは細胞形態学に免疫学的診断法を加えて,CLLsの分類を提唱した.これによるとCLLsはT細胞性とB細胞性に大別され,さらにおのおのがまたいくつかの病型に分類される.この代表的疾患がB細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)である.発生頻度の人種差が特徴の1つであり,欧米では全白血病に占める割合が20%前後と高率であるのに対して,わが国では1.5~3%程度と低頻度である.わが国では,成熟小型リンパ球が増殖する典型例は少なく,多くの症例で大型のリンパ球が混在した亜型的性格を帯びている.細胞形態上,核小体を有した幼若形態のリンパ球prolymphocyteの混入が10%以下の症例を典型例とし,11~55%を占める症例をCLL/PLとして区別している.今回は典型的なB-CLLをはじめ,CLL/PL,有毛細胞白血症(HCL),前リンパ球性白血病(PLL)などを紹介する.

 B-CLLの典型例では,凝集した核クロマチンを有した,細胞質の少ない成熟小型リンパ球の形態をした白血病細胞の増殖が認められる(図1).図1の症例ではCD 5+,CD 10-,CD 19+,CD 25-の表面形質を有し,モノクローナルな表面免疫グロブリンは弱陽性であった.わが国では,このような典型的なB-CLL症例を診ることは比較的少なく,細胞質の広いリンパ球が優位を占める症例(図2)や,核網がやや繊細で核小体を有した大型の細胞prolymphocyteがさまざまな比率で混在する症例(図3)が多く認められる.

コーヒーブレイク

一期一会の人々

屋形 稔

pp.1002

 一期一会という言葉は茶会の心得の真髄ということである.生涯にただ一度まみえるという人生の深い境地を洞察したものであろうが,実際振り返ると一度だけでなくともそれに近い交わりを持った人々は数多い.名もない人もいれば高名な人もいるが,いずれにしろ長い年月を経てその人々がふと蘇って惜別の念が何とも深まるときがある.年月の貴重さと,光陰矢のごとく感ずるのはこうした一刻である.

 まる40年前に米国東部を歩いたときに相まみえ別れた医学関係の人々のこともすぐ頭に浮ぶ.当時サンフランシスコに留学中であったが,中東部の主として内分泌学者を訪れ,心に残る印象を与えられた.ハーバード大学のThorn博士は副腎疾患の最初のテストになったThornテスト(副腎刺激テスト)で世界に名の知られた方で,恩師Forsham博士の兄弟子でもあった.そのせいか初対面から親しく患者の回診を見せてくれた.当時クッシング症候群診断に登場したばかりのSU(メトピロン)テストを初めて知り,帰国後の追試の1つになった.この方は米国でよく耳にする仕事に寸暇を惜しむ余りに奥さんと離婚に至ったことを後で聞かされ,学者の厳しさを実感した.

久し振りのニューヨーク

寺田 秀夫

pp.1059

 アトランタを午前10時30分に離れて約2時間,一面の白い雲海を抜けて,機はラ・ガディア空港の上空に達すると,美しいクライスラービル,エンパイア・ステートビルなど懐しい巨大な高層ビルの林立するマンハッタン(Manhattan)が機内から一望された.約10年振りに降りた空港は暑い日射しに輝き,予約しておいた市に乗り,快適な車内の冷房にホッとしながら,車はクイーンズボローブリッジを渡り,マンハッタンの上部のLexington Ave.にある古風なバルビゾンホテルに着いた.

 車窓から見たニューヨークの街の第一印象は各所に建築工事が行われていること,アメリカの好景気を反映するものであろうか.ホテルの窓から見える高層ビルを眺めながら,さて今日から数日間この青空を鋭く切りとって林立する摩天楼の街New York, 世界の一流のものがここに集まり,大きなビジネスが動くこの街に滞在すると思うと,気持の高ぶりを抑えることができなかった.さて翌日はあいにく烈しい雨に降られながら,街一杯に走っているタクシー(yellow cab)を拾って,今度の旅の最大の目的であるSt.Stephens教会で行われた現代音楽作曲家の受賞式に参加するため,スーツとネクタイに着替えて,静かな街並にある赤レンガの瀟酒な教会に着いた.決して盛大とは言えないが,静かな落ち着いた雰囲気のなかで数曲の受賞曲が演奏された.演奏会が終わると急に教会内は利やかなムードに変わり,私どもも数年前来日した数人の知人・友人と旧交を暖めることができた.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

蛍光PCR-SSCP法

牧野 鈴子

pp.1021-1024

概要

 遺伝性疾患における原因遺伝子の同定および変異,細胞の癌化における癌遺伝子,癌抑制遺伝子の変異の関与について,多くの研究がなされてきている.さらに,これら遺伝子の変異の検出,DNA多型を利用した遺伝子欠損の検出は臨床の面からも疾病の診断や治療法を決定するうえでも重要である.遺伝子の変異や多型を検出する方法にはいくつかあるが,polymer-ase chain reaction-single-strand conformationpolymorphism (PCR-SSCP)法は簡便で高感度であり,大変よく用いられている方法である1).従来のPCR-SSCP法ではDNA断片の検出に放射性同位元素を用いるが,本法の利用範囲を広げるために,放射性同位元素を用いない検出法が開発されている.非放射線による検出系としては,蛍光色素標識,銀染色などが挙げられる.ここでは蛍光標識を用いたPCR-SSCP法について紹介する2)

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

プロテインS異常症

濱崎 直孝 , 木下 幸子 , 脇山 マチ子 , 中原 睦子 , 飯田 廣子

pp.1025-1031

はじめに

 血栓症発症に体質的要因があることは昔から考えられており,その考えにある程度の裏付けを与えたのが,血栓症患者家系において,アンチトロンビン活性の低下と血栓症発症との相関を調べたEgebergの報告である1).この報告は1965年に行われ,それ以来,凝固関連諸因子と血栓症との相関が主として欧米で調べられており,プロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの活性低下が血栓症発症の原因になると論じられてきた.しかしながら,欧米の研究ではプロテインS,プロテインC,アンチトロンビンなどの機能異常は血栓症患者の5%以下であり,決定的な因果関係を論ずるまでにはなっていなかった.

 われわれは九州大学医学部附属病院検査部において,血栓を形成している,あるいは,形成している可能性が高い疾病と凝固・線溶関連因子との関係を系統的に検査をすることで,血栓止血亢進をきたすさまざまな因子と疾病との関係を調べている.その結果,これらの疾患の中で凝固制御因子,特に,プロテインS・プロテインC凝固制御系に異常がある症例が予測以上に多いことが判明してきた2).発症との因果関係を厳密な意味で証明しているのではないが,われわれはこれらの因子異常が血栓形成の主要な要因になっていると推測している.一方,1993年にDahlbackらは"欧米白人種の家族性血栓症患者の80%がプロテインS・プロテインC凝固制御系に抵抗性を示す凝固第V因子(Factor V Leiden)を持っている"と報告している3~5).Factor V LeidenはプロテインS・プロテインC系に抵抗性で,その結果,プロテインS・プロテインC凝固制御系による凝固の制御がかからないために,現象としては,プロテインS・プロテインC凝固制御系の機能異常と同じことになる.このような事実を考慮すると,プロテインS・プロテインC系は生体内で適正な凝固制御を行い過剰な血栓形成ができないように作用し,その機能低下が血栓症発症の1つの原因になっている可能性が推測できる.白人血栓症患者にFactor V Leiden遺伝子を持っている人が多く,Factor V Leiden遺伝子を持っていないと言われている6,7)日本人血栓症患者ではプロテインS・プロテインC凝固制御系の異常が多いのは頷ける気がする.

トピックス

color-Doppler法を用いた甲状腺濾胞癌の診断

福成 信博 , 宮島 邦治 , 三村 孝 , 伊藤 公一 , 伊藤 國彦

pp.1032-1035

1.はじめに

 甲状腺悪性腫瘍は,乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,未分化癌の4つに分類され,日本においては,乳頭癌88%,濾胞癌7%,髄様癌,未分化癌はそれぞれ1%程度の発生頻度である.乳頭癌が多くを占め,1cm以下の微小癌も含めて,90%以上が診断可能であるのに対して,濾胞癌はいまだに超音波および細胞診によってもその診断率は50~60%というのが現状である.濾胞癌は,血行性転移をきたしやすく,遠隔転移率が乳頭癌より高いという報告もあり,米国では,10mm以下の小さなものでも全摘+RI治療が勧められている1).しかし,その診断に関しては,術前の診断のみならず術後の病理組織診断においても,被膜浸潤や脈管浸潤の判定が困難な症例もあり,手術の適応,術式の選択,術後の追加治療,経過観察の指標など臨床的判断において苦慮する場合も多い.

 color-Doppler超音波断層法は,当初は,心・大血管などの高速血流の血行動態解明が主たる対象であったが,機器・手法の感度の向上により,細い血管の遅い血流までも観察可能となり,乳腺,甲状腺といった体表臓器に対しても施行されるようになってきた2).われわれも1987年ごろより,color-Doppler法を甲状腺腫瘍に対して臨床応用を開始し,甲状腺疾患,特に濾胞癌診断において有用な知見が得られたので,その具体的な方法と臨床的有用性について述べる.

細胞の自殺機構における別種のプログラム―カスパーゼ非依存性細胞死

口野 嘉幸

pp.1035-1039

はじめに

 最近のアポトーシス研究に関する急速な進展によって,この活性型プログラム細胞死の実体がかなり明らかになってきた.それによるとアポトーシスの実行にはcaspaseと名付けられた一群のシステインプロテアーゼの活性化が要求され,Bcl-2ファミリー蛋白質因子がその活性化の調節に関与していることがわかってきた.ところが,昨年度当たりからアポトーシスとは死にゆく細胞の形態学的特徴を異にし,カスパーゼの関与を必要としないなどの特徴を持った細胞死のシステムが存在していることが明らかになってきた.そこで本稿ではわれわれの研究を中心に,この別種の細胞死について概略し,その存在意義を考察する.

乳管内視鏡下穿刺吸引細胞診―"Shooting Biopsy Oytology"

長瀬 慈村

pp.1040-1041

 乳管内病変における重要な症状の1つである異常乳頭分泌に対する検査法として,乳頭分泌物細胞診,乳頭分泌物中CEA測定,乳管超音波検査,乳管造影などがあるが,1988年には乳管内視鏡検査が試みられ1),この10年間に急速な進歩を遂げた2,3)(図1).

 超早期乳癌診断のための検査法の1つとして当院では,乳管内視鏡下穿刺吸引細胞診"狙い撃ち細胞診:Shooting Biopsy Cytology"を1995年4月より行っており成果を上げている.従来の乳管内病変に対する細胞診の方法に比し,本法は,直視下に病変を確認しながら穿刺吸引できるため,極めて正確な診断法である(図2).

質疑応答 微生物

梅毒検査におけるガラス板法とRPR法との不一致

菅原 孝雄 , N生

pp.1042-1044

 Q 先日,婦人科の梅毒検査を実施したところ,次のような結果になりました.ガラス板法 2+,RPR法(-),TPHA法(-)ガラス板法とRPR法との不一致はどのような場合に出てくるのでしょうか.

研究

インスリン非依存性糖尿病患者におけるアンジオテンシンⅠ変換酵素遺伝子多型と合併症との関連

能登 勝宏 , 柏原 早苗 , 庄司 和行 , 小久保 武

pp.1045-1048

 アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は,イントロン16に存在する287塩基対の有無により挿入(I)アレル,欠失(D)アレルと表現されII,ID,DDの3型が存在する.今回筆者らはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者において,この遺伝子型と合併症との関連を検討した.正常対象群とNIDDM患者の遺伝子型頻度はほぼ同じであった.糖尿病性網膜症,高血圧症合併患者においては非合併患者と比較してアレル頻度に差はなかったが,糖尿病性腎症,冠動脈疾患合併患者は有意にDアレル頻度が高かった.このことはNIDDM患者における腎症および冠動脈疾患の発症とDアレルの関与を示唆した.

リウマチ様関節炎患者の剖検肝に見られる色素顆粒の微小部X線分析による解析

村木 紀子 , 有安 早苗 , 鐵原 拓雄 , 広川 満良 , 日野 洋介

pp.1049-1052

 リウマチ様関節炎患者の剖検肝に見られる色素顆粒の微小部X線分析を行った.リウマチ様関節炎患者29例中12例にHE標本で色素顆粒が見られ,うち8例に金とルビジウムが検出された.残り3例には鉄・硫黄・リンが検出され,金は検出されなかった.肝臓のHE標本に見られる黒色の微細粒子状顆粒は金製剤に由来し,ルビジウムも含まれていることが判明した.そして,この顆粒は,門脈域に存在する組織球の胞体内に取り込まれているのが特徴と思われた.また,茶褐色で光輝性を有す顆粒は,微小部X線分析で鉄が検出されたことによりヘモジデリンであると思われた.

資料

パーソナルコンピュータを用いた過呼吸モニタの開発

末永 和栄 , 大木 昇

pp.1053-1058

 日常の脳波検査では過呼吸賦活によるbuild-up (振幅の増大と徐波化)の判定を視察に頼っている.そこでわれわれはパーソナルコンピュータを用い,過呼吸前の安静時の脳波を対照として,過呼吸中および過呼吸後の振幅の変化を周波数別にパワースペクトルによって定量的かつ経時的に評価するソフトを開発した.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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62巻3号(2018年3月発行)

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60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

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60巻8号(2016年8月発行)

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今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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