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文献詳細

雑誌文献

臨床検査44巻1号

2000年01月発行

文献概要

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

特異的mRNAの検出法―デイファレンシャルデイスプレイ,SAGE

著者: 高野徹1 網野信行1

所属機関: 1大阪大学医学系研究科生体情報医学臨床検査診断学

ページ範囲:P.89 - P.94

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はじめに―癌の遺伝子診断,治療法への最初のステップとしての癌特異的mRNAの検出
 癌の遺伝子診断,遺伝子治療が提唱されて長い年月が経過したが,少なくとも日常診療においては初期に考えられたような劇的な進歩は見られていない.そろそろこれらの研究に携わっている者たちは客観的に何が障害になっているか検討する時期にきている.従来の癌の病理学的な検討,あるいは化学療法などに欠けていたのは客観的な癌細胞選択性である.病理診断では経験を積んだ偉い先生が癌だと言えば癌になり,化学療法も増殖している細胞なら程度の差はあれ殺してしまう.このような曖昧さをなくし,癌細胞のみを検出するのを目標にしたのが癌の遺伝子診断であり,癌細胞のみを特異的に攻撃することを目標としたのが癌の遺伝子治療のはずであった.このような系を確立するのに最も必要な情報は"なにが癌でなにが癌でないか?"ということである.それがないといかに優秀な技術があろうと癌細胞を選択的に検出したり殺したりすることは不可能である.しかし,実際の癌細胞で癌かどうか客観的な判断基準があるものは少ない.
 癌と正常細胞,あるいは良性腫瘍細胞との間に生物学的に明らかな差があるとすると,当然細胞に発現している機能蛋白に恒常的な差があるはずである.しかし,蛋白質を解析するのは困難でありむしろその前駆体であるmRNAのほうが解析しやすい.このように考えると,[癌細胞に特異的なmRNAを検出する→それをターゲットにした遺伝子診断法,治療法を開発する],という図式が見えてくる.そのように目標を定めると,次に問題となるのは,"いかにして癌細胞に特異的に発現するmRNAを検出するか"ということである.PCRの開発で非常に少量の検体からmRNAの解析をすることが可能となり,特異的mRNAの検出法として,1992年にdifferential display(DD)1)が,1995年にserial analysis of gene expression(SAGE)2)が相次いで開発された.以下にこの2つの方法の概略を解説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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