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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査44巻5号

2000年05月発行

雑誌目次

今月の主題 微生物培養検査のサンプリング

巻頭言

微生物培養検査のサンプリング

菅野 治重

pp.471-472

 感染症の病原体の検出を目的とする微生物検査において,検体の適切なサンプリングは"検査の品質"を確保するうえで重要な課題である.不適に採取された検体は,病原体の判定を誤らせ,誤診につながる危険性もある.微生物検査では病原体が含まれる可能性が高い検体を採取する必要があるが,残念ながらこの問題は医療現場においてあまり重視されていない.本書は微生物検査における検体の適切なサンプリングの見直しを目的として各専門領域の先生方に解説していただいた.

 微生物検査の検体に共通する問題として,検体は,(1)感染症の急性期に,(2)抗菌薬投与前に,採取する必要がある.(1)の問題は特に腸管感染症において重要であり,多くの腸管感染症は下痢発症から3~5日後には便中から病原体は消失してしまうため,急性期を逃すと微生物学的診断が困難となる.また急性期以降の,治癒期あるいは慢性期の検体から検出される微生物は,抗菌薬投与によって感受性菌が消失し,耐性の菌種が増加した結果,耐性菌が起炎性とは無関係に"菌交代現象"として検出される場合が多く,治療の必要性は慎重に判断する必要がある.このように病期によって検出菌の意義が異なることは,医師においても,検査室においても,あまり認識されていない.この問題に対しては検査依頼時に医師から詳細な患者情報を入手する必要があるため,オーダーリングシステムが重要となる.

総論

サンプリングの重要性

岡田 淳

pp.473-479

 サンプリングとして最も大切なのは検体の採取である.汚染の有無にかかわらず無菌的操作で検体を採取し,目的に合致した滅菌容器や培地に入れる.検体を保存する場合には,原則的に乾燥を避け冷蔵庫に保存するが,各種の輸送用容器や培地を必要に応じて使用する.また,特定の材料(喀痰,尿など)では,抗菌剤の影響や菌相互間の発育抑制作用にも留意し,検体を進める必要がある.

サンプリング後の検体保存の影響

犬塚 和久

pp.480-486

 微生物検査に供する検体は,採取後直ちに培養を実行するのが原則である.しかし,採取時間や検査室のシステム上やむを得ず保存する場合,注意を怠ると病原細菌が減少,あるいは死滅し,原因細菌が存在しないような結果や,材料中の常在菌が増殖してあたかも病原菌のような状態を示す結果にもなり得る.乾燥,温度,酸素や化学物質などを考慮し,それぞれの目的にあった輸送容器や保存培地を使用し,保存条件を選択する必要がある.

各論―サンプリングの実際 無菌であるべき検体

1.血液

舟田 久

pp.487-490

 菌血症は重症感染症の一部分症を構成する.血液培養は菌血症の原因菌を生菌で分離できる唯一の検査法である.本来無菌の血液からの菌の分離は,臨床診断のみならず,適正抗菌薬治療につながる.それだけに,皮膚常在菌の混入を防止する入念な皮膚消毒と無菌的採血技術が最も大切であり,血液培養の汚染率は3%以下なら許容できる.さらに,血液培養の陽性率を高めるために,採血部位と採血の量,間隔,回数も考慮する必要がある.

2.髄液

中村 明

pp.491-494

 初期治療の適否がその予後に大きく関連する原発性化膿性髄膜炎では,培養結果によって投与抗菌剤を大幅に変更するといった事態は避けねばならない.そのためには,髄液沈渣グラム染色と莢膜抗原検出とによる起炎菌迅速診断を実施して,入院当日から至適治療を開始することが望ましい.シャント感染や脳膿瘍穿破などの続発性髄膜炎では起炎菌の疫学が大幅に異なるので培養法などの対応を疾患に応じて変更する必要がある.

3.穿刺液

小林 芳夫

pp.495-498

 穿刺して採取する検体には日常しばしば遭遇する検体としては皮下膿瘍に代表される非解放性膿瘍,関節液および胸水である.これらを穿刺採取に当たって共通に注意すべきは穿刺部位の皮膚常在菌の混入をさける.すなわち,厳重な無菌的処置が要求される,と同時に存在する細菌を必ず検出する,false negative (偽陰性)を避けるように培養検査を行う,すなわち偏性嫌気性菌の検出を見逃してはならない,偏性嫌気性菌は空気に触れると死滅して発育しないため特殊な輸送用機器が必要とされまた培養には,特殊な培地が必要とされる.日本臨床微生物学会の嫌気性菌検査マニュアルに従って検査を行えばこの目的は達せられる.

各論―サンプリングの実際 

嫌気性菌検査

田中 香お里 , 渡邉 邦友

pp.523-527

 嫌気性菌感染症では内因性感染が多い.これらの病原体は常在細菌叢として優勢に存在しているため嫌気性菌検査の検体の採取に当たっては常在菌の混入を防ぐことが大切である.検査を有効に進めるためには,検体を直ちに嫌気性輸送容器に入れ,速やかに検査部に提出し培養に供することと臨床からの検体に関する情報提供が重要である.

結核菌・抗酸菌検査

松島 敏春 , 黒川 幸徳

pp.529-532

 抗酸菌を証明するための検体の種類と,検体採取の意義と,検体採取の要点などについて述べた.結核は伝染病であるので,その管理の点から喀痰の検査が最も重要であり,塗抹検査が最も重要であることを強調した.

産婦人科領域の感染症

宇津野 栄

pp.533-537

 産婦人科領域の感染症は,尿路,性殖器から腹腔内へと進展する上行性感染,母子感染,前期破水などの周産期感染,そのほかSTDや術後感染症など,その病態はさまざまである.またそれらに関与する病原微生物も一般細菌をはじめ,感染症新法の4類に分類されたクラミジア,ウィルスなどのSTD各種病原微生物へと多岐に及ぶ.実地臨床の場における診断,治療の際には,それら病原微生物の検出は慎重かつ正確に行われることが望ましいが,そのためには患者背景因子や常在菌叢の存在を十分理解したうえで,消毒などの前処置はもちろん,採取部位,採取方法,専用培地の選択など,適切な判断,手技が検体採取側に要求される.

耳鼻咽喉科領域の感染症

鈴木 賢二

pp.539-542

 われわれ耳鼻咽喉科医は日々の臨床において,多くの細菌感染症に遭遇しており,これらを診断治療するに当たりわれわれが最も拠り所としているのが原因微生物の同定と薬剤感受性試験の成績である.この検査は,今日至適抗菌剤の選択の指標として極めて重要かつ不可欠な検査となっている.本稿では耳鼻咽喉科領域における代表的な感染症を取り上げ,その疾患と起炎菌につき詳細を述べ,微生物のサンプリングや検査で注意したい事柄につき述べる.

眼科領域の感染症

大石 正夫

pp.543-546

 眼科感染症からの検体は,眼脂分泌物,涙嚢内貯留液,膿,角膜擦過物,前房水,硝子体などである.いずれも狭い部分が多いので,検体採取には確実にターゲットの部分から正しい方法で採取することが大切である.特に外眼部では外界にさらされているので,コンタミには十分注意する.内眼部は無菌的に採取する(前房水,硝子体).結膜の常在細菌叢にも留意する.

歯科口腔外科領域の感染症

坂本 春生 , 佐々木 次郎

pp.547-550

 歯科・口腔外科領域感染症はほとんどが虫歯,歯周病からの継発症である.サンプリングは常在菌の汚染を避けるために,粘膜や皮膚に交通のない閉塞膿瘍から,針穿刺をすることが推奨されている.歯科・口腔外科領域感染症の本態は嫌気性菌優位の,嫌気性菌と好気性菌による混合感染であるので,検体をできるだけ空気に触れさせないで,速やかに処理するのがポイントであり,よりよい臨床と検査室の連携が要求される.

各論―サンプリングの実際 少量の常在菌を含む検体

1.尿

村谷 哲郎 , 松本 哲朗

pp.499-502

 臨床微生物検査において最も重要なことは,起炎菌を検出することである.そのためには検体採取法および検査までの時間と保存が適切に行われなければならない.膀胱は本来無菌的な場所であるが,膀胱穿刺以外の尿検体採取法では常在菌の混入は避けられないため,膿尿の有無および細菌数だけでなく,検体の品質,分離菌の種類,単純性か複雑性かなどの病態を考慮して,検出菌が今回の感染症の起炎菌であるかを判断しなければならない.

2.胆汁

品川 長夫 , 真下 啓二 , 竹山 廣光 , 長谷川 正光

pp.503-506

 本来胆汁は無菌であり,急性胆嚢炎のほとんどは胆石の嵌頓による胆嚢管の閉塞で始まる.しかし,細菌感染は必発であり,治療には初めから抗菌薬が必要である.起炎菌の同定において,直接採取した胆汁であれば問題はないが,長期間のドレナージ後や内視鏡下に採取する場合あるいは縫合不全のある症例では注意が必要である.腸管内常在菌の混入が避けられない場合もあり,起炎菌も同じく腸内細菌であることより検体採取状況には留意すべきである.

3.膿

神崎 寛子

pp.507-510

 Staphylococcus epidermidisは皮膚常在細菌叢の主たる構成員であるが,毛包炎や感染粉瘤などの起炎菌でもある.また,S.epidermidisによる敗血症や心内膜炎がコンプロマイズドホストに発症することがある.

 このような状況下で,以前にもまして検出菌が常在菌であった場合に起炎菌か否かを決定することが臨床の場で求められるようになっている.

 そのためにも,サンプリングは常在菌による汚染を受けないよう注意して行う必要がある.切開・穿刺部分の消毒,保存時に不必要な菌の増殖がおこらないように留意することは,汚染を避けるうえで重要である.

各論―サンプリングの実際 多量の常在菌を含む検体

1.咽頭粘液

黒木 春郎

pp.511-513

 咽頭培養は,多量の常在菌を含む検体という特殊性を有する.咽頭培養を行う適応は,細菌感染による咽頭炎である.臨床の実際で,治療の点からも問題となるものはほとんどS.pyogenes (GABHS)による咽頭炎のみである.検体採取の際には,舌圧子で舌を押し下げ,咽頭後壁,口蓋扁桃の発赤部位を滅菌綿棒で強く擦過する.2時間以内の輸送.24時間以内の室温での保存が限界である.小児の場合は固定が重要である.

2.喀痰・気道内吸引物

高橋 洋 , 渡辺 彰

pp.515-518

 下気道検体の採取法としては低侵襲で手軽な採取が可能なことから喀痰が主に用いられているが,喀痰の場合は口腔常在菌混入が不可避であるため定量培養やグラム染色によって分離菌の起炎性を正しく評価する必要がある.他には気管支鏡採痰,経皮的肺穿刺,胸腔鏡下肺生検など多くの採取法が用いられるが,各々の手法の特徴を把握したうえで,患者の病状や採取のタイミングにも注意しながら適切な検査法を選択する必要がある.

3.便

坂本 光男 , 相楽 裕子

pp.519-522

 感染性腸炎は臨床的には症状が類似しているので,確定診断のためには糞便培養は不可欠である.通常は滅菌綿棒で直腸スワブを採取し,キャリブレア培地にさしたものを検体とする.糞便中からはさまざまな細菌が検出されるが,そのなかには直ちに原因菌と判定できる細菌と場合によって原因菌と判定できる細菌がある.症状や患者背景に基づいて糞便培養を実施することが重要である.

話題

院内感染菌環境調査のサンプリング

砂押 克彦 , 奥住 捷子

pp.551-553

はじめに

 院内感染が社会問題化して久しい.そのため,微生物検査室にさまざまな院内環境調査が依頼される場合がある.これら依頼にどう対処すればよいか,環境調査の意義,サンプリングの問題などについて考えてみたい.

食品微生物検査のサンプリング

内村 眞佐子

pp.554-556

1.はじめに

 食品は,生産・製造・加工・流通・調理・保存などさまざまな段階を経て消費者の口に入る.安全な食品を供給するためには,生産・製造・加工工程において品質管理を十分行うことはもちろんのこと,流通過程を経た後も食品の安全性が安定して保たれているか確認する必要がある.また,不幸にも食中毒が発生してしまった場合,その原因を究明して再発防止策を講じなければならない.食品の微生物検査は,製造工程における品質管理,流通後の安全性の確認,食中毒の原因究明の手段として重要な役割を果たす.検査を実施するに当たっては,検体の取り方(サンプリング)が適切でないと食品の検査結果に大きな影響を及ぼし,検査対象食品の衛生学的品質の評価を誤ることになる.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・5

日本海裂頭条虫

藤田 紘一郎

pp.468-469

 最近よく経験するのが日本海裂頭条虫(Diphyl-lobothrium nihonkaiense)感染である.これまで広節裂頭条虫として扱われていたが,現在では別種であると考えられている.しかし,その鑑別は難しい.

 ヒトのほかイヌ,ネコ,クマ,キツネ,セイウチなどが保虫宿主となる.第1中間宿主はケンミジンコ,第2中間宿主はサクラマスやカラフトマスなどサケ属の魚類である.その感染は,幼虫プレロセルコイドが寄生しているサクラマス,カラフトマスなどの生食による.日本海裂頭条虫卵は12世紀ごろの平泉「柳之御所跡」の便所遺構より検出され,800年も前からヒトはサクラマスなどを生食していたようである.

コーヒーブレイク

遊びをせんと

屋形 稔

pp.527

 戦後いつの間にか定着した紅白歌合戦なるものは老若男女が大晦日に楽しむ行事として今でも盛んである.戦前戦中などは流行歌の好きな若者は不良などといわれたが,耳にした古賀政男のメロディーには胸に響くものが多かった.

 歌や音曲には学問にはない人の心を楽しませる何かがあり,ときに心を奮わせ浮き立たせるものとして生活には欠かせない.特に身近な存在の人物,風景などがからむとインパクトは大きくなる.例えば,福島生まれの歌手春日八郎が歌ってヒットした別れの一本杉などはどう考えてもわが故郷の懐かしい風景とダブってしか浮かんでこない.一度上越線の車中で新潟競馬に行くという彼と会って数言を交わしたが,礼儀正しく素朴な男という印象が歌のイメージとともに残った.

ナースに脱帽

寺田 秀夫

pp.546

 むし暑い夜中,じっとりと汗ばみながら当直室の布団の上で寝返りを打っていると,「先生急患ですから起きて下さい」とのナースの声に眼をこすりながら外来の診察室に向かった.

 常勤医師1名,20床の小さな公立病院に勤務し始めてから2か月余のある夜のことである.約2年間のボストンでの血液学研究の留学生活を終え,意気揚々と帰国したところ,母校の教室の人事の都合で,この越後平野の中の小さな町の病院に出張を命ぜられたのである.毎日早朝N駅から約1時間の通勤と週1~2回の宿直には少しとまどっていた頃である.血小板とウイルスの関係について研究を続けたいと熱い希望に燃えていたので.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

site-directed mutagenesis

奥村 伸生 , 寺澤 文子

pp.557-562

はじめに

 クローニングした遺伝子の構造と機能の関係を明らかにしたり,既に遺伝子の構造が知られている蛋白質の構造と機能の関係を明らかにするために,DNAの構造を人工的に変えた変異型DNAを作製し,そのDNA自体の機能およびそのDNA情報から遺伝子工学によって作製した蛋白質の機能を解析する方法として,site-directed mutagenesis (指定変異導入法)1,2)が有用である.これは,合成ヌクレオチドを用いてヌクレオチド単位の置換,欠失,挿入などを自由に行うことができる方法である.また,同様の目的に亜硝酸を用いたsegment-directed mutagenesis3)やカセット変異法4)などが用いられる.site-directed muta-genesisにおいては現在各社からgapped duplex法5,6)あるいはuracil DNA法7,8)を原理とした種々のキットが発売されている.これらの方法に関する解説は他の総説9)および各社の説明書を参考にしていただきたい.本総説では,われわれが使用しているDeng andNickoloffの方法10)によるsite-directed mutagenesisについて解説したい.なお,この方法を利用したキットはCLONTECH社からTransformerTM Site-Di-rected Mutagenesis Kitとして発売されている.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

無セルロプラスミン血症

宮嶋 裕明

pp.563-570

はじめに

 無セルロプラスミン血症(以下,本疾患という)は新たな鉄代謝異常症で,セルロプラスミン遺伝子の変異によりセルロプラスミン蛋白の欠失をきたし,脳,肝臓,膵臓をはじめとする金身の諸臓器への鉄の過剰蓄積を来す常染色体劣性遺伝の疾患である.臨床症候は,成人発症の神経症状,糖尿病,網膜変性症を特徴としている.本疾患は,われわれが1987年に初めてFamilial apoceruloplasmin deficiency1)と発表したもので,その後のHereditary ceruloplasmin defi-ciency2)と同じ疾患である.最近はAceruloplasmi-nemiaが一般的となっており,無セルロプラスミン血症(あるいはセルロプラスミン欠損症)という名称が適当と思われる.以下,セルロプラスミンおよび本疾患の臨床的特徴と遺伝子異常について述べる.

トピックス

老化に関する新しい知見:p66shc遺伝子欠損によるマウスの寿命延長

森 望

pp.571-573

1.寿命の長短にかかわる遺伝子

 ここ数年で,寿命の長短に関係する遺伝子の実態がしだいに明らかになりつつある1).ヒトの遺伝子では,いわゆる早老症の1種Werner症の原因遺伝子が解明された.それは遺伝子の複製・修復にかかわるDNAヘリケースに類するものだった2).また,単一遺伝子の欠損によって,3~4週間で急激な老化の様相を呈するKlothoマウスの遺伝子産物は,細胞膜上の受容体か分泌蛋白の前駆体だろうと考えられている3).遺伝子の特定には至っていないが,老化促進マウス(SAM)も短命マウスの例である.一方,1つの遺伝子の変異によって寿命が,逆に,伸びることが,線虫(C.elegans)やショウジョウバエ(D.melanogaster)で知られるようになった.ショウジョウバエでは,methuselahという長寿命変異体の遺伝子が解明され,いわゆる7回膜貫通型のG蛋白共役受容体で,おそらく酸化ストレス応答にかかわるものと考えられている4).線虫のage-1変異体では,通常の飼育下で寿命が伸びるが,その遺伝子の実態は,シグナル伝達にかかわるPI 3 K類似の遺伝子であることが判明した1).age-1以外にも,同様の長寿命変異体が,いわゆるdauer形成異常にかかわる遺伝子の軽微な変異(daf-2,daf-18,daf-16など)によってもたらされることがわかってきた5).この数年,またたく間に,daf-2はインスリン受容体様の細胞膜受容体であること6),また,daf-16はフォークヘッド型の転写因子であること7)が明らかになった.この一連の研究からわかった重要なことは,この寿命制御系が1つのシグナル伝達経路を形成するという事実である.この発見は,寿命制御が少なくとも1つの明確なシグナル伝達系の変化としてとらえ得るという驚きをもって迎えられた.最近,同様のシグナル経路が哺乳動物にも存在することがわかってはきたが,哺乳動物でもそれらの遺伝子変異によって寿命が仲びるかどうかは全くわかっていなかった.

バイアグラによる眼の副作用

三宅 養三

pp.574-575

 シルデナフィル(商品名バイアグラ)は,英国ファイザー研究所で合成されたcGMP特異的ホスポジエステラーゼタイプ5(phosphodiesterasetype 5;PDE 5)に対する選択的阻害薬であり,臨床的には勃起不全(erectile dysfunction;ED)に用いられる.陰茎勃起のメカニズムに関しては,以下のようなことが明らかとなった.すなわち,中枢が性的に興奮すると,陰茎に投射した非アドレナリン非コリン作動性神経終末や海綿体内皮細胞から一酸化窒素(NO)が遊離する.NOは海綿体平滑筋細胞内におけるcGMP量を増加させ,このcGMPの作用により平滑筋細胞は弛緩し,その結果,陰茎海綿体への血液流入が増加し,勃起が発現する.

 陰茎海綿体には,cGMPの分解酵素としてPDE 5が存在している.バイアグラは,陰茎海綿体に多く存在するPDEを選択的に阻害することにより,細胞内のセカンドメッセンジャーcGMPの濃度を維持し,陰茎海綿体血管平滑筋の弛緩機能を維持・増強し,海綿体へ流入する血液を増加させ,陰茎勃起を誘発,または増強する.

質疑応答 診断学

Helicobacter pylori感染者の内視鏡検査の頻度

榊 信廣 , K生

pp.576-577

 Q Helicobacter pyloriに感染しているということで除菌治療(日本消化器病学会で推奨されている方法)を受けましたが,除菌できませんでした.いまのところ,内視鏡検査で胃癌は発症していません.再度,除菌治療を受けたほうがよいのでしょうか.また,内視鏡検査は1年に1回でよいでしょうか.今後の治療方針についてお聞かせください.

研究

唾液腺穿刺吸引細胞診―組織診と細胞診の不一致例の検討

有光 佳苗 , 広川 満良 , 鐵原 拓雄

pp.579-582

 唾液腺穿刺吸引細胞診83例における組織診と細胞診の不一致例を検討した.良性・悪性に関する不一致率は報告時22.9%,見直し時21.7%で,その内訳は採取不良例と診断困難例がほぼ半数を占めていた.採取不良例は良性病変の9.1%に,悪性腫瘍の17.6%にみられ,良性病変では炎症性疾患および神経鞘腫に頻度が高かった.推定病変に関する不一致率は報告時27.4%,見直し時14.9%で,非腫瘍性病変,悪性腫瘍での推定が困難であった.組織診断との不一致例を少なくするためには,診断に十分な量の細胞を病変部から的確に採取すること,診断者が各病変に特徴的な細胞像を熟知しておくことが肝要と思われた.細胞診における診断難解例として,非特徴的な細胞所見を呈する炎症性疾患,良悪性や由来細胞の判定が困難な神経鞘腫および悪性神経鞘腫,細胞異型の乏しい低悪性度群粘表皮癌,種々の成分が混在する悪性混合腫瘍などがあることを認識しておく必要があると思われた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

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今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

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今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
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64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

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今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

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63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

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今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

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今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

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今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

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今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

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今月の特集2 筋疾患に迫る

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今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

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増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

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今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

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今月の特集1 血球貪食症候群を知る
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60巻9号(2016年9月発行)

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今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

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60巻7号(2016年7月発行)

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今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

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今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

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60巻4号(2016年4月発行)

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今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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