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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査44巻7号

2000年07月発行

雑誌目次

今月の主題 慢性閉塞性肺疾患

巻頭言

慢性閉塞性肺疾患の臨床―過去・現在・未来

福地 義之助

pp.703-704

 閉塞性換気機能障害を伴う呼吸器疾患の頻度は決して低いものではない.呼吸器臨床では重要な診療対象疾患である.そのなかで気管支喘息の病因:病態に関する研究は最近の10年間で活発に行われ,炎症の進展と制御の詳細な知見の集積に基づいた治療体系がガイドラインとして発表されている.これにより喘息治療の標準化が進み救急患者や入院症例は著しく減少した.わが国で注目されたびまん性汎呼吸細気管支炎(DPB)についても病因の解明に進歩があり,少量で長期のマクロライド投与の効果が確認された後には,その予後は飛躍的に改善した.

 これとは対照的にと言ってよいほど,肺気腫と慢性気管支炎を含む慢性閉塞性肺疾患(COPD)についての診療上の進歩は遅々としたものであった.近年の高齢人口の爆発的増加は本症がこの年代に好発することを考慮するとCOPDの診断や治療に対する取り組み方に一層の拍車をかけなければならないことを,われわれに強く促すものである.幸いにこの数年間に肺気腫の病因,診断,治療の研究面で従来にないほどの進展があった.

総説

慢性閉塞性肺疾患の概念と位置づけ

福地 義之助

pp.705-711

 慢性閉塞性肺疾患は不可逆性の閉塞性換気障害を特徴とし高齢者に好発し,徐々に進行する.肺気腫と慢性気管支炎が,これに含まれる.タバコ喫煙が発病の最大リスク因子である.喫煙に対しては個体間に感受性の差がみられ,遺伝的素因や後天的要因(細菌やウイルス感染症など)が,その修飾因子である.本症の定義,診断,治療については国内外のガイドラインが発表され,診療レベルの向上に寄与している.

慢性閉塞性肺疾患の病因解明への挑戦

別役 智子 , 西村 正治

pp.713-719

 慢性閉塞性肺疾患の中で最も頻度の高い肺気腫は,ほとんどが喫煙者に発症し,喫煙は本症の主病因である.しかし喫煙者の中で肺気腫を発症するのは10~15%であり,喫煙以外の個体側の遺伝的あるいは環境による内因の関与が強く示唆される.肺気腫の病因としてのプロテアーゼ・アンチプロテアーゼ仮説は,概念的には理解しやすい.しかし,実際の証明は難しく,近年次々に発見された多種類のプロテアーゼ・アンチプロテアーゼの存在は全体像を描くことをさらに難しくしている.慢性喫煙のみで,肺気腫病変を呈するマウスモデルの確立は,遺伝子や蛋白の発現や欠損を操作する技術革新を利用し病態を解明することを可能にする.肺気腫の診断,治療の効果判定という観点からは,数十年という経過で徐々に進行する肺気腫の生化学的なマーカーの発見,開発の研究が期待される.

慢性閉塞性肺疾患の画像診断―現状と展望

三嶋 理晃

pp.720-728

 胸部単純X線は,X線CTに比較して,慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する診断能力は劣るが,スクリーニングとして用いるため,読影に習熟することが大切である.X線CTは,低吸収領域が肺気腫の病理的所見と良く対応するため診断能力が高く,気道病変の診断も可能である.換気シンチや血流シンチはCOPDの局所機能の評価に有用である.MRI画像はCOPDにおける胸壁や横隔膜の運動異常の評価に用いられる.

技術解説

閉塞性換気障害の評価と問題点

岡田 恒人 , 栂 博久 , 大谷 信夫

pp.729-734

 気管支喘息や慢性気管支炎などの気道の障害が主体となる疾患,肺気腫などの肺胞破壊による肺コンプライアンス低下が主体となる疾患ではいずれも閉塞性換気障害をきたしてくる.これらは一般的に用いられる予測値に対する肺活量の割合(%VC),一秒率(FEV1)%だけでは分けることはできない.しかし肺気量分画,努力呼気曲線,フローボリウム曲線の特性を知ることでより詳しい分離評価が可能となる.

呼吸困難評価法の進歩

寺本 信嗣

pp.735-739

 息切れ(呼吸困難)は,最も頻度が多い患者の自覚的症状であり,治療する医師,呼吸療法士,看護婦の側が,客観的に実地臨床の場で評価することが大切である.最もよく用いられるのはFletcher,Hugh-Jonesによる呼吸困難度分類による間接評価である.しかし,多くの患者はF-H-J分類のⅡ~Ⅲ度に属し,大まかな分類しかできない.最近は,Visual analogscale(VAS)やBorg scaleによって呼吸困難の程度を評価し,スコア(点数)化が行われている.しかし,呼吸困難は不安などの精神状況や他の要因に影響されるため,スコア化した呼吸困難度を運動量,換気量,歩行距離などで基準化することが大切である.さらに,呼吸数,寒冷刺激など「呼吸困難」の形成に関与する因子を一緒に記録しておくことで情報の有用性が高くなる.

換気/血流不均等の評価法

山口 佳寿博

pp.740-746

 肺におけるガス交換を規定する最も重要な因子は肺内換気/血流比(VA/Q)分布である.このVA/Q分布が何らかの肺疾患の存在によって異常(VA/Q不均等分布の増大)になると肺内ガス交換効率が悪化し低酸素血症が発現する.その意味でVA/Q分布異常は日常臨床の場で低酸素血症の原因として最も重要な機能的因子と考えることができる.本項ではVA/Q理論を理解するうえで必要な肺末梢の解剖学的構造,ガス交換の定量的表現,VA/Q分布の臨床的評価法ならびに各種肺疾患における具体的VA/Q分布について考察するものとする.複雑なVA/Q理論を言葉だけで記述すると間違って理解してしまう危険性があるため最低限の数式を用いた.VA/Q理論の本質をなるべく平易に解説したつもりであるので何とか最後まで読んでいただくことを切望する.

慢性閉塞性肺疾患の形態学

永井 厚志

pp.747-752

 慢性閉塞性肺疾患では,中枢気道,末梢気道,肺胞実質領域において既存構造に慢性炎症が加わりそれぞれ特有の病変を形成している.従来は,好中球やマクロファージに由来する蛋白分解酵素が病変形成の主役を演じているとみなされてきたが,近年の研究によりTリンパ球,好酸球などの免疫関連細胞も病変の進展に深く関与している可能性が指摘されている.かかる病変の評価には,病態との関連性を検討するうえでも定量的評価を行う必要がある.そのためには,それぞれの病変に即した最も適切な評価法が求められる.

話題

肺気腫の肺容量減少手術適応と効果

高山 哲郎 , 黒川 良望 , 貝羽 義浩 , 三井 一浩 , 里見 進

pp.753-755

1.はじめに

 肺気腫は進行性・非可逆性の疾患であり,薬物投与や呼吸リハビリ,酸素投与などの内科的治療には限界があった.肺容量減少手術(lung vol-ume reduction surgery;LVRS)は高度に気腫化した肺を部分的に切除することにより呼吸機能や呼吸困難感を改善することを目的としており,1959年にBrantiganら1)が最初に報告している.18%という高い死亡率のため術式として定着するには至らなかったが,その後の手術器具や麻酔の進歩などにより,1991年にWakabayashiら2)による胸腔鏡とレーザーを用いた術式,また1995年にはCooperら3)による胸骨縦切開の両側肺部分切除が報告され,その良好な治療成績から重症慢性肺気腫に対する術式として認知されるに至った.当科では1993年から胸腔鏡下肺容量減少手術(thoracoscopic LVRS;TLVRS)を開始し現在までに88症例に手術を行い,良好な結果が得られている.今回は当科における手術の適応およびその効果について概説する.

慢性閉塞性肺疾患診療のガイドラインの比較検討

石橋 正義 , 村上 英毅 , 吉田 稔

pp.756-758

はじめに

 1992年のカナダ胸部学会を初めとして,1995年にアメリカ胸部学会(ATS)およびヨーロッパ呼吸器学会(ERS)から慢性閉塞性肺疾患(COPD)のガイドラインが発表された1,2).さらに1997年にはイギリス胸部学会(BTS)からもCOPD治療のガイドラインが発表され3),1999年には日本呼吸器学会(JRS)からもCOPD診断と治療のためのガイドラインが発表されている4)

 ところで日本ではCOPDの概念に相当するのは大多数が肺気腫症であり,不可逆性の閉塞換気障害を伴う慢性気管支炎は欧米と比較して明らかに少ないといえる.このような背景を考慮し日本のガイドラインの独自性を踏まえたうえで,本稿では各国のCOPDガイドラインの比較を,主に重症度と治療を中心に述べる.

肺気腫の発症,進展とウイルス感染

松瀬 健

pp.759-761

1.はじめに

 喫煙は末梢気道の炎症を引き起こし,肺気腫をはじめとした慢性閉塞性肺疾患(COPD)発症における重要な危険因子である.しかし実際に喫煙者の一部のみにCOPDが発症するにすぎず,COPDの発症,進展において,喫煙によって引き起こされる末梢肺組織における慢性炎症反応を増強し,末梢気道病変をもたらす他の独立した内因性あるいは外因性の発症因子の存在が示唆されている.また疫学的検討から小児期の下気道感染は成人におけるCOPD発症の喫煙とは独立した危険因子と考られている.

慢性閉塞性肺疾患患者における健康関連QoL評価法の進歩

西村 浩一 , 羽白 高 , 月野 光博

pp.762-764

1.健康関連QoLの概念

 わが国では,Quality of life (QoL)の用語はイメージに対する抽象的な用語として使用されているのが現状である.欧米では,早くからこの領域に関する科学的研究が体系的に積み重ねられて来た.呼吸器疾患の領域でも,QoLの評価は近年のトピックスの1つであり1),特に長年の経過において呼吸困難によりその日常生活が障害されることが多いCOPDは,QoL研究のモデル的な疾患として位置付けられている.

 一般に,QoLとは,健康状態とは直接的な関係が乏しい,例えば,経済状態,職業や住居などの要因が関与する包括的概念である.医学や医療の分野において,健康や疾病との関係を目的としてQoLを議論する場合は,健康関連QOLという用語が使用される.

非侵襲的換気法の適応と限界

石原 英樹 , 木村 謙太郎

pp.765-767

はじめに

 近年わが国でも,高炭酸ガス血症を伴う慢性呼吸不全に対する換気補助療法として非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が導入され,欧米とほぼ同等の臨床成績が報告され,普及・定着しつつある1~8)

 最近では,NPPVの導入が慢性期だけでなく,急性期にも有効との知見が増えている.

包括的内科治療とステロイド投与

植木 純 , 高橋 伸宜 , 福地 義之助

pp.768-770

1.はじめに

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,multi-organ-system diseaseとされ1),包括的に対応する必要がある病態である.一方,呼吸困難感の軽減,HRQL (health related quality of life),ADL(activity of daily living)の改善,急性増悪の予防など治療,管理に際しても,種々のアプローチ法を組み合わせた包括的な治療の展開が必須となる2).学際的医療チームによる多次元の医療サービスを提供する包括的治療の重要性がわが国においても広く認識されているが,包括的プログラムを実践できる環境にある施設が決して多くないのが現状である.

 COPDのステロイド療法に関しては,わが国および欧米で発表されたCOPDの診断と治療に関するガイドラインにおいて,一定の基準が示された3~6).ただし,研究データの裏付けが必ずしも十分でなく,今後さらなる検討が必要とされている.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・7

エキノコックス

藤田 紘一郎

pp.700-701

 エキノコックス(Echinococcus)は本来キツネやイヌなどの腸管に寄生している条虫で,医学上重要なものに単包条虫(Echinococcus granu-losus)と多包条虫(Echinococcus multiloculans)がある.現在,日本では多包条虫によるエキノコックス症が北海道全域で流行しているが,最近,青森でブタ感染例が報告され,本州への感染拡大が危惧されている.エキノコックス症は1999年に施行された感染症新法では四類感染症に分類され,届け出が必要な疾患となった.

 多包条虫は旧ソ連,中国,日本,アメリカ合衆国,カナダ,ヨーロッパ,トルコ,北インド,イランなど北半球に広く分布しており,患者数は全世界で10万から30万人と予想されている.北海道での終宿主における多包条虫感染率はキタキツネ17.3%,イヌ1.0%,タヌキ1.9%,ネコ5.5%を示しており(図1),このような野生動物での感染状況は,数年から10数年経てヒト患者数に反映すると考えられており,キタキツネやイヌ,ネコの駆虫も含めて対策が必要である.中間宿主はエゾヤチネズミなどの野ネズミ類,ブタ,ヒトなどである.

コーヒーブレイク

検査は人なり

屋形 稔

pp.728

 時代とともに検査室の形も変貌してくるのは検査の進展に流れがある以上当然である.大学病院も現在は検査室とともに講座があるのが大部分であるが,数十年前までは検査室はできたが講座はほとんど見られなかった.医学部の教育研究に講座がないのは検査医学の在り方にいかにも不自然で,永い苦闘の末に国立大学に講座が設けられたのは1980年ころからである.爾来検査医学の発展がスムースになったというべきであろう.

 ただ,いま考えると検査室のみで運営されていたのも検査の本質上決して悪かったともいえない.いたずらに実学を離れ研究室のみが主体であるより検査室の日常から生まれてくる成果こそが臨床検査で最も大切なものであるからである.しかもその中で人間的な切瑳,成長への団結が日常見られていたのもよかった.私も検査部設置から講座開設までの20年間はこの形の中での臨床との協力,検査技師との交流の中で数えきれない人々との刺激や協力を得て経験と思い出を残すことができた.今回その中の2人の女性技師が節目を迎えたようなので改めて感謝したい.

結核菌培地と卵の盗み食い

寺田 秀夫

pp.794

 ようやく春になり,各地から桜の満開の便りが聞かれ,また4月の新年度に入り,街には真新しい制服姿の中学生やぎこちない背広姿の新入社員が多く見かけられるようになった.いつもこの季節になると思い出すのは,結核病棟のあちらこちらで喀血する患者の処置に追われたころのことである.処置と言っても止血剤の静注と喀血した病巣のある側の胸に重い砂袋を載せて,少しでも呼吸による肺の運動を最小限に保とうとする試み,また大喀血に対しては全血の枕元輸血などが精一杯の治療であった.

 終戦後10年足らずの当時の日本では,結核は国民病の第一位を占め,食料事情も悪く耐乏生活を国民がまだ強いられていた時代である.特に春と秋が結核の発病や増悪の多い季節であった.自分が入局した内科教室では結核が主要な研究・治療テーマであったから,私ども医師は1人で常時10~15名の結核患者を受け持ち,外来では人工気胸,人工気腹に多忙な日々を送っていた.そのころ人工気胸の治療中に膿胸を合併し幸いにも治療した人のなかに,数十年も経過した近年になって,膿胸後悪性リンパ腫が発生していることが知られ,EBウイルスの関連性が注目され予後不良の病気とされている.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

Bisulfite-PCR-SSCP(BiPS)

前川 真人

pp.771-776

はじめに

 CpGアイランドはヒト遺伝子のおよそ60%のプロモーター領域に見いだされる.これらのCpGアイランドは通常はメチル化されていない.プロモーター領域のメチル化は遺伝子の転写,X染色体の不活化,ゲノム刷り込み現象や発癌に関係している。異常なメチル化はヒト発癌において早期の段階でしばしば認められ,近年では発癌の過程で癌抑制遺伝子やミスマッチ修復遺伝子などのメチル化昂進によって,それら遺伝子の発現が抑制されることが,遺伝子不活化の原因の1つとして重要であることがわかってきた.このような遺伝子の変化はKnudsonのtwo hit theoryの1hitに相当する1)

 従来,CpG配列におけるDNAメチル化は,メチル化によって消化できなくなる制限酵素を用いてサザンプロット解析をすることによって調べられてきた2).しかし,これには多量のDNAを要すること,制限酵素で認識できる配列のみしか調べられないことが欠点として挙げられていた.このうち,PCRを用いた方法,すなわち,メチル化認識制限酵素で切断した後,PCRを行い,増幅産物の有無で判定する方法がある3).しかし,これはDNAの必要量が減るが,不完全消化により切断されていないDNAが増幅され擬陽性をきたしてしまう危険性がある.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

早老症 1.ウェルナー症候群

松本 武久 , 杉本 正信

pp.777-785

はじめに

 ウェルナー症候群は遺伝的早期老化症候群(早老症)の代表的疾患であり,白内障や骨粗鬆症を始め,種々の老化関連症状を若年期から発現する常染色体劣性遺伝病である.ウェルナー症候群患者では多くの成人病が発症するが,高血圧や痴呆症はまれである.また出産から思春期までの成長発達期に何らかの異常を示す患者は少なく,思春期の後半における成長速度の遅延から異常が始まる.ウェルナー症候群患者の寿命は平均47歳で,死因は悪性腫瘍(甲状腺癌,悪性黒色腫,骨肉腫が多い)が第1位で,第2位は動脈硬化に基づく心筋梗塞や脳血管障害,第3位に肺炎を含む感染症が占めており,平均的な日本人の死因と変わらない.1904年のWernerによる最初の症例報告以来,これまでに全世界で約1,100例の症例が報告されており,そのうち日本人患者は800例以上を占めている.日本人患者の70%の両親は近親婚で,出身地は日本各地に散在している.1992年に42家系80人の日本人患者を解析することによりWRN遺伝子座が第8染色体短腕の8p11.2-12の部位にあることが明らかにされた1)

早老症 2.Rothmund-Thomson症候群

北尾 紗織 , 古市 泰宏

pp.785-793

はじめに

 Rothmund-Thomson症候群(RTS)は,幼少期に皮膚の異常が現れ,発育不金,種々の早期老化症状,異所性発癌(特に骨肉腫)を伴う劣性遺伝性の疾患である.皮膚の症状は,紅斑,毛細血管拡張症,角化症を伴っており,Bloom症候群(BS)やFanconi貧血症の患者の皮膚症状によく似ている.近年,数例のRTS患者ではヒト第8染色体トリソミーなどの染色体異常が見られることから,染色体不安定性を伴うことが知られていたが,このほかには統一した診断基準が確立されていなかった.昨年,このRTSの原因遺伝子の1つが,RecQ4ヘリカーゼであることが明らかになり,遺伝子診断が可能となったため,広範な症状を含むRTSのうち,RecQ4遺伝子の変異によって発症する患者に統一した診断基準をもたらすものと思われる.

トピックス

サリンを分解する酵素SMP30

丸山 直記

pp.795

 SMP30(Senescence Marker Protein-30)は加齢に伴い肝臓で減少する蛋白を解析している過程で発見された蛋白である1).この30kDaの蛋白はカルシウム結合能を持ち肝細胞,腎臓尿細管細胞に多く発現されているほかに膵臓や心臓にも発現している.ラットでは胎生期に発現せず肝臓では生下時から腎臓では生後10日目あたりから発現することから,臓器の機能発達に関連する物質と考えられる.SMP30遺伝子はX染色体に位置し,アミノ酸配列は動物種間で強く保存されており重要な機能を担っていることが推察される.発見当初は機能が明らかではなかったが,細胞膜カルシウムポンプの活性化や細胞接着能を亢進させることが明らかとなってきた.カルシウムポンプの活性化は低酸素時の細胞内カルシウム増加を抑制し,細胞死から保護する機能があり高齢者における臓器保護に貢献していると思われる.もし欠損があるとすれば主疾患の予後に影響する因子となると筆者は考えている.

 そのSMP30に最近,思わぬ機能が加わった.ミシガン大学のLaDuのグループがラット肝細胞中の可溶化分画に存在するDFP (diisopropylphosphorofluoridate)の分解を指標にDFPase活性を持つ可溶性蛋白を抽出し,そのアミノ酸配列を解析したところSMP30と同一であることがわかった2)

子宮頸部悪性腺腫が産生する特異的ムチン

石井 恵子

pp.796-798

1.はじめに

 子宮頸部の悪性腺腫は1870年にGusserowにより,"組織学的に良性病変を思わせるにもかかわらず,臨床的には予後不良"と初めて記載された特異な病変である.頻度は子宮頸癌の1%にも満たない比較的まれな腫瘍と考えられてきた.しかし実際は細胞異型が乏しいため,既存の頸管腺との区別が難しく,特に初期変化は見過ごされてしまっている可能性がある.

 組織学的には,従来は"正常頸管腺に類似した,核が基底に位置する1層の粘液分泌性上皮より成る腺管から構成されているが,どこか一部に低分化な部分が見いだされる"と言われてきた.ところが手術例の詳細な検討の結果,本腫瘍は胃幽門粘膜の形質を発現していること,上に述べた典型的な腺管のほか,異型性を欠く胃上皮化生様の腺管や,異型が明らかな腺癌組織が共存していること,さらに約2割程の頻度で腸型の形質発現を示す腺管の混在を認めることが明らかとなった1)(図1).

テレパソロジー・テレサイトロジー

高橋 正宜

pp.798-800

はじめに

 遠隔医療は距離の長短にかかわりなく,一次診療施設,地域中核病院,専門医療機関のネットワークを諸種通信手段を用いて医療情報の伝送,診療指針や診断指示を伝達するものであるが,顕微鏡画像の伝送すなわちテレサイトロジー,テレパソロジーは遠隔医療の代表的なものの1つである.

 医療法20条の規制する医療行為の枠の中で医療として認知されることが待たれていたが,平成9年12月厚生省健康政策局長の通達によってようやく軌道に乗るに到った.

質疑応答 血液

AML-M4Eoと好酸球性白血病の各検査による鑑別

三谷 絹子 , 平井 久丸 , T生

pp.801-802

 Q AML-M4Eoと好酸球性白血病に対する形態的な検査,細胞表面マーカー検査,遺伝子検査法などによる鑑別点をお教えください.

研究

唾液腺腫瘍における弾性線維の出現様式

田村 恵 , 広川 満良

pp.803-806

 唾液腺腫瘍における弾性線維の出現様式を観察し,その特徴を明らかにする目的で,唾液腺腫瘍45例(多形腺腫16例,ワルチン腫瘍13例,筋上皮腫1例,基底細胞腺腫5例,粘表皮癌5例,腺様嚢胞癌5例)を対象に,Elasticavan Gieson染色を行い,腫瘍内における弾性線維の有無,およびその分布や形態について観察した.多形腺腫では全症例に弾性線維が観察され,その疑も多く,さまざまな形態が観察された.一方,他の腫瘍では弾性線維の出現頻度や量が少なく,また,弾性線維の出現様式の多様性はあまりみられなかった.多形腺腫ではさまざまな形態をした弾性線維が豊富にみられることが特徴と思われた.特に,樹枝型と血管周囲型は,それぞれ多形腺腫の75.0%,60.0%に観察されたが,他の腫瘍では全くみられず,多形腺腫に特徴的な像と考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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