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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査44巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

今月の主題 テレメディスン(遠隔医療)

巻頭言

テレメディスン(遠隔医療)

木村 通男

pp.933-934

 2000(平成12)年の診療報酬改定で,術中迅速病理検査に対して,給付が認められた.以前から遠隔医療実現のためには,まずその医療行為が違法でないか,次に技術的に実現可能なレベルに達しているか,さらにそれがコスト面で裏付けられるか,というハードルが連続して存在していると指摘されていたが,まずこの一分野で,最後のハードルまで越えたわけである.

 もちろんこのためには,行政,医療,産業すべてのサイドからの多大な尽力があったのだが,これをここまで成長させた原動力は何であったのだろうか.

総説

テレメディスン(遠隔医療)の経緯と将来

高橋 隆

pp.935-940

 遠隔医療は医療過疎地域に対して患者直接診療の代替手段として緊急避難的に始まり,通信手段の発達とともに種々応用分野を展開.長い助走期間の後,画像技術の進歩による質の低下を伴わない遠隔地への医療供給の見通しと,足枷だった医師法20条無診察診療禁止条項の解釈通達により,急速な展開を見た.特に今日の在宅医療需要の増大は遠隔医療の重要性を増し,いまや正規医療供給手段への位置づけが進行中といえる.さらに今後VR技術の導入により,遠隔医療の守備範囲は一層増大するだろう.

テレメディスン運用の法的背景

前田 知穂 , 黒田 知純 , 西谷 弘

pp.941-947

 厚生省遠隔医療研究班でまとめた「遠隔医療の定義」を述べ,遠隔医療のなかでも画像を中心とした遠隔放射線診療(Teleradiology)の運用に対し,エックス線撮影と診断,さらに病診連携を加えたシミュレーションを用いて,医師法,医療法施行規則ほか厚生省通達等を織り交ぜ解説した.ITを利用することにより医療の効率化と質の向上が得られ,医療担当者と受療者との信頼関係の改善が期待される.このような利便性のあるシステムの導入では,法的背景を認識しておくことが重要でその概略を述べた.

施設間遠隔医療支援の経済的・時間的収支

植田 俊夫 , 日田 新太郎 , 熊谷 義也 , 井上 通敏 , 田中 博 , 杉本 壽

pp.948-952

 大阪大学救急救命センター医局関連病院であり,人口50万弱の尼崎市在の病床数60である私的小病院での遠隔診療支援にかかわる試算上節約金額は17か月で約100万円であった.必要機器代金は約500万円であり,使用頻度を増やせば,5年間での償却は試算上可能と推定できた.同様の遠隔診療支援において試算上約165時間が節約された.熟練医や専門家という医療資源がこの節約時間分だけ多く活用できるのであり,社会的経済効果は大きいと考える.

技術解説

過疎地域における高齢農業従事者の生活習慣病予防を目的としたJA健康管理システム

梅本 敬夫 , 紀ノ定 保臣 , 宇野 嘉弘 , 森田 浩之 , 石塚 達夫 , 堀尾 茂之 , 伊藤 尚貴 , 練木 勉 , 湯上 英臣

pp.953-958

 中山間地域における遠隔医療の1つのモデルとして,われわれの"過疎地域における高齢農業従事者の生活習慣病予防を目的としたJA健康管理システム"について紹介する.このシステムの特徴は,現在岐阜県を中心として全国的に急速に展開しつつある,JAプロパンガス(LPG)集中監視システムの既存のネットワークを利用することにあり,経済的側面からも有意義なものと考えている.また今後の展望として,生活習慣病の疫学的臨床研究にも貢献するものと期待されている.

医療・福祉分野におけるIT革命

進藤 勝志

pp.959-964

 21世紀を目前にした今日,社会のあらゆる分野においてIT (情報技術)革命の波がおしよせ,その技術革新のスピードはなおも加速度的に増加している.10年前には想像もできなかった新しいサービス市場が急成長し,通信ネットワーク技術をキーとしたITが社会変革をもたらし高度情報社会の幕を開けようとしている.

 医療分野においてもIT革命の波は例外なく訪れており,あらゆる領域においてさまざまな技術の開発・導入が進んでいる.通信ネットワーク環境の変化,インターネット利用の一般化は,医療分野においても大きな影響を与え,多くの医療関係者にITを活用した医療(遠隔医療等)に目を向けさせる動機になったと考えられる.最近では,医師ら医療従事者のみが持ち得る専門知識を,広く患者およびその家族に対してディスクロージャーするという動きにまで進展しつつあり,IT革命の波は,規制緩和と相俟って遠隔医療の浸透を促すとともに,医療そのもののあり方にまで大きな変容をもたらそうとしている.

事例

遠隔病理診断(テレパソロジー)―今後の見通し

澤井 高志 , 宇月 美和

pp.965-969

 厚生省は2000年4月から遠隔病理診断(テレパソロジー)を診療報酬の1つとして認めた.このことは,医療情報化時代,遠隔医療の幕開けとして歓迎すべきことである.しかし,実施対象となる施設には制限がついており,料金も遠隔加算のない迅速診断料として認められただけである.病理医の少ない現状から生じている医療の格差を是正すべく生まれたテレパソロジーの今後の発展が期待される.

Teleradiology・基礎編

安藤 裕 , 北村 正幸 , 甲田 英一 , 久保 敦司 , 坂野 寿和 , 古川 功 , 小野 定康

pp.970-975

 teleradiologyとは,遠隔放射線診療と呼ばれ,遠隔医療の一分野であり,放射線診断を行う際にある医療機関から他の医療機関へ画像情報を送り,送り先の医療機関で画像診断を行い,その結果をまた元の医療機関へ返送する.画像を遠隔地にネットワークで送るためには,電子化された画像情報が必要である.遠隔医療施設で画像を表示する場合には,放射線画像表示装置としてパソコンが利用できる.画像を転送するためのネットワークに必要な機能は,高速に短時間で画像情報を転送することである.

 われわれは,即時性の必要な放射線治療コンサルテーションシステムを開発している.システムは,双方の放射線治療医が症例に関して討論し,放射線治療計画を作成する.このコンサルテーションシステムは,ハードウエア面とソフトウエア面両方に問題点が存在するが,十分な臨場感が得られ,直接対面して行うのと同等なコンサルテーションが可能であった.

離島医療におけるTeleradiologyの医療効果

天本 祐平

pp.977-980

 離島医療を推進するためには本土との協力体制が必要である.画像は病変の状態を伝える最も有力な情報源であり,画像伝送による遠隔医療Teleradiologyは,離島と本土の効果的な医療連携をもたらし,特に救命救急医療支援,専門医療支援において多大の効果をあげている.さらにTeleradiologyは,画像伝送を用いたTV会議方式による症例検討会など,医療の周辺活動への活用も今後の発展が期待される.

Telesurgery・遠隔手術支援

谷口 英治 , 瀧口 修司 , 大橋 秀一

pp.981-984

 テレメディスン(遠隔医療)の外科領域における応用(Telesurgery)は,遠隔手術支援ならびに遠隔手術教育という観点で有用性が高いと考えられた.特に,外科手術領域のうち内視鏡下手術は,画像伝送の導入が容易であるうえに,得られる効果も大きいことが期待される.また,通常の手術画像伝送にとどまらず,種々の応用的な使用も可能であり,今後普及・展開していくことが予想される.

Telehematology・血液画像の転送と診断

三ツ橋 雄之 , 渡辺 清明

pp.985-989

 血液検査は病理検査と同様に形態学的要素が強い検査部門であり,細胞形態の評価が重要である.血液細胞像を画像データとしてコンピュータに取り込むことで日常診療においても血液細胞の形態学的情報をこれまでより自由に扱うことが可能となる.またネットワークを利用した画像転送により画像を用いたコンサルテーションが実現される.われわれは血液分野におけるTelemedicineをTelehematologyと呼び,有用性の検討を行っている.

携帯型心電図記憶装置を用いた発作時心電図検査のシステム運用

片山 文善 , 矢津田 元一 , 中村 利宏 , 土屋 絹代

pp.991-994

 胸痛などの自覚症状があっても,ホルター心電図検査で捉えられないケースも稀ではない.今回ご紹介するカルジオホンシステムでは,患者自身が自宅や外出先で動悸や胸痛など異常を感じたときにその場で,携帯型心電図記憶装置"カルジオホン"に心電図を記憶させ,受信管理システムが設置されたセンターへ電話で伝送することで,"その時"の波形が得られる仕組みになっている.

 発作時心電図を記録することで,動悸や胸痛など発作頻度の少ない症例や不整脈の心筋虚血の診断効果を上げ,また病後の健康管理,退院後のアフターケア,慢性疾患,心因性症状の管理など幅広い診断を行うことを目的としている.

臨床検査からの図形などの情報―蛋白分画およびアイソザイムの情報

菅野 剛史

pp.995-998

 臨床化学検査の蛋白分画,アイソザイムの情報をどのようにテレメディスンで取り上げるかをまとめた.蛋白分画と,LDHアイソザイムは疑似画像として情報化して利用することが可能であり,蛋白分画については,その基盤が整備されている.しかし,アイソザイム分画では,画像として処理することが,要求される事例が多い.しかし,遠隔医療に,地域を超えたコンサルテーションが可能な現実が存在する.

話題

遠隔術中迅速診断についての考察―診断精度と経済性

猪原 伸行 , 松村 龍二 , 武内 晋治

pp.999-1001

はじめに

 近年,パソコンや通信機器の驚異的な発達により,遠隔医療を支える画像伝送機器も多岐にわたっている.われわれは,診断精度と経済性を中心に考察し,「術中迅速診断に必要な要件」を整理して,ルーチンワークに,活用できる画像伝送機器について検証した.

 術中迅速診断を目的として試作した装置は,細胞診セミナーや病理遠隔講義で使用され,好評であったのでその概要を報告する.

ベラルーシ共和国への国際遠隔治療支援―急性小児白血病の末梢血幹細胞移植

滝沢 正臣 , 村瀬 澄夫 , 小池 健一 , 小宮山 淳 , 神谷 さだ子 , 海老名 英治 , ヴァレリー ロザンスキー , シュミヒナ タチアナ , ボガチェンコ ミハエル

pp.1002-1004

1.はじめに

 チェルノブイリの原子力発電所で発生した1986年4月の原子炉暴走事故は,ベラルーシ共和国を中心とした北ヨーロッパの住民に大規模な放射線被曝をもたらした.この結果,小児癌の多発などの深刻な被害を受けたが,放射能汚染による健康被害に加え,同国の被った経済的なダメージは深刻で3兆4千億ドルに達し,その回復には24世紀までかかる可能性があるといわれている.

 ベラルーシ共和国ゴメリ市はチェルノブイリ(現ウクライナ共和国)に隣接したゴメリ州にあり,ゴメリ州立病院は1,500床で地域の基幹病院である.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・9

マラリア

藤田 紘一郎

pp.930-931

 近年,地球の温暖化に伴って熱帯地方を中心にマラリアが復活している.今後,地球の気温が2~3℃上昇すれば,日本の関東地方までがマラリアの流行地になるであろうと予測されている.現在,アフリカ,南米,東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域90か国で,世界人口の44%に相当する人々がマラリアの驚異にさらされ,年間3~5億人が発病し,150万~270万人が死亡していると推定されている.その復活の背景には,温暖化による環境変化のほか,薬剤耐性マラリアや殺虫剤耐性媒介蚊の出現,開発に伴う媒介蚊の生育環境の拡大と人口移動,マラリアに対する抗体を持たない人口の増加などが考えられている.

 ヒトに寄生するマラリアには熱帯熱マラリアPlasmodium falciparum,三日熱マラリアP.vivak,四日熱マラリアP.malariae,卵形マラリアP.ovaleがある(図1~7).いずれもハマダラカの刺咬によって感染する.マラリア感染の特徴は間欠的な発熱,貧血,脾腫である.発熱はマラリアの赤血球内発育・分裂周期に一致して起こり,三日熱マラリアと卵形マラリアは48時間,四日熱マラリアは72時間,熱帯熱マラリアはおおよそ48時間ごとに熱発作を見る.しかし,熱帯熱マラリアを除いては致命的ではない.熱帯熱マラリアは,インフルエンザと誤診される例が多いが,強い病原性を示し,発症初期5病日以内に適切な治療を開始しないと1~2週間で,脳性マラリア,出血症状,神経症状,腎不全などを併発し死に至ることがある(図8).一方,三日熱マラリアと卵形マラリアは肝内休眠体を有しており,再発の原因となるため,根治療法が必要となる.

コーヒーブレイク

昴(すばる)

屋形 稔

pp.980

 正式に臨床検査の世界に足を踏み入れたのが1962年だからほぼ40年たったことになる.臨床病理学会が第一回総会を開いたのが1954年であったが,1964年以前に大学で講座があったのは県立山口医科大学(柴田進教授)と順天堂大学(小酒井望教授)のみで,1964年にようやく昭和大学(石井暢教授)と日本大学(土屋俊夫教授)の2校に講座が認められた.またこの年に雑誌臨床病理が事情によって金原出版の手を離れることになったので順天堂大学の小酒井さんらの要請で同社員の八木氏が臨床病理刊行会という名で独立してこれを引き継ぐことになった.

 また同年に始めた国立大学検査部から,東京大学樫田良精助教授が総会長に指命され,以後これに続く大学が出てきて国立大学に講座なしの検査部教授認定のはずみとなった.私も1970年に第17回総会長に指命され,学生紛争なお華やかな時代であったが,検査は一日も休めない性格から全学の協力が得られ,総会を遂行して,同年教授に任命された.それから10年後に国立大学にようやく講座の設置が認められ,大阪大学,新潟大学,東北大学の順に1年1校宛,文部省との話し合いで名称も病理との競合を避け,検査診断学講座を名乗ることになった.次年度からは急速に全国に講座が認められ名称も自由となった.最近学会内に名称検討委員会ができ名称統一が議されているが時代の流れが感じられる.

女性と血小板

寺田 秀夫

pp.1001

 約150年前は血液のゴミと考えられていた血小板.Donne (1842)ついでSchultz (1965)により初めて血液の一構成要素として認知され,さらにBizzozero (1982)によりようやく血小板と命名されたこの赤血球の1/10にも満たない小さな血球が現在ではわれわれの生命を直接脅かす出血と血栓の病態の主役であることがわかっている.

 昨年秋の私の外来診療での思わぬハプニングである.48歳の主婦,病名は特発性血小板減少性紫斑病(慢性型)で,未婚のころから私の患者さんであった.性格もおおらかで5年くらい前からステロイドを服用しなくても,血小板数は58,000~70,000前後ですっかり寛解が続いている.

私のくふう

メイグリュンワルド・ギムザ迅速染色法

徳竹 孝好

pp.1006

1.はじめに

 血液細胞の迅速染色法として,ディフクイック(国際試薬)やライトの短時間単染色が用いられているが,いずれも一般的に行われているメイグリュンワルド・ギムザ(MG)あるいはライト・ギムザの普通染色と染色性が異なるため,双方の染色で得られた細胞の照合が困難な場合を経験する.

 今回,普通染色の染色性に近い迅速染色法を考案したので報告する.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

DHPLOによるDNAフラグメント解析

大藤 道衛

pp.1007-1014

はじめに

 Denaturing high performance liquid chromatogra-phy (DHPLC)は,1本鎖および2本鎖DNAの分離1)はもとよりHomoduplexとHeteroduplex DNAの分離にも有効な方法である2).最近ではDHPLCの自動化機器も市販されてきた.

 PCRで増幅した正常DNA断片と検体のDNA断片を混合後熱変性し,両者の間にミスマッチを持ったハイブリッド(Heteroduplex)が形成されるか否かを調べることにより変異を高感度に検出する方法がHeteroduplex解析(Heteroduplex Analysis;HA)である.しかし,Heteroduplex DNAの検出には,denaturing gradient gel electophoresis (DGGE)やtemperature gradient gel electrophoresis (TGGE)など煩雑な電気泳動技術が必要である3).この際,Heteroduplexを形成したDNA断片が,変性条件の電気泳動で検出されやすいように40塩基程度のGCクランプを持つプライマーにて増幅する必要があり4),Heteroduplex解析普及の妨げになってきた.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

精神疾患

岸本 年史

pp.1015-1020

はじめに

 精神疾患は,精神分裂病と躁うつ病などのいわゆる精神病をはじめとして自閉症,学習障害など小児期の疾患,血管性痴呆やアルツハイマー病など老年期の疾患,アルコールや覚醒剤などへの薬物依存まで広く範囲は及ぶ.それぞれに特異的な疾患過程が想定され,遺伝子のかかわりについても研究が進んできている.躁うつ病や精神分裂病については,家系研究,双生児研究,養子研究などの臨床遺伝学的研究の成果から遺伝的素因が存在することが明らかになっているが,現在のところ遺伝子診断はできない.本稿では精神分裂病,感情障害について分子遺伝学的研究の現状と遺伝子診断の課題・可能性を述べる.

トピックス

一酸化炭素と心血管疾患

盛田 俊介 , 片山 茂裕

pp.1021-1022

はじめに

 1987年,Moncadaらが一酸化炭素(NO)を血管内皮細胞由来弛緩因子と同定して以来10年で,NOはガス状情報伝達物質としての地位を確立した.生体内各所で多彩な生理活性を有するこのNOと類似した性格を有する可能性を秘めたもう1つのガス状物質が,一酸化炭素(CO)である.しかし,現在までのところ,COの生理的意義に関しては,Vermaらが中枢神経系でのneur-otransmitterとしての可能性を示唆した報告1)以来血管系での病態生理学的意義に関する研究はまだ緒についたばかりである.そこでここに,これまでに報告されたCOの心血管疾患における関与の可能性について言及する.

新たな視床下部ペプチド オレキシン

伊達 紫 , , 中里 雅光 , 松倉 茂

pp.1023-1026

 視床下部は摂食行動やエネルギー代謝などのホメオスタシスに強く関与する部位である.視床下部腹内側核(VMH)の破壊により,動物は過食となり肥満をきたし,視床下部外側野(LH)の破壊により無食無飲となり痩せをきたす1).これらのことからVMHは満腹中枢として,LHは摂食中枢として認識されてきたが,それらを制御する生理活性物質はほとんど明らかにされていなかった.オレキシンA,オレキシンBはG蛋白結合受容体のリガンドとして,1998年にヒト,ラットおよびマウスの視床下部から単離・同定されたペプチドホルモンである2)

 オレキシンAは33アミノ酸より成り分子内に2か所のS-S結合を持つペプチドで,オレキシンBは28アミノ酸より成る直線状のペプチドである(図1).いずれもC末端がアミド化されている.オレキシンA,オレキシンBは単一遺伝子よりコードされ,46%のアミノ酸相同性を持ち,脳に特異的に発現している.オレキシンAはヒト,ラットおよびマウスでアミノ酸構造が完全に保存されており,一方オレキシンBはラットとマウスにおいては同一だが,ヒトでは2残基異なっている(図1).オレキシン受容体(OXR)にはオレキシンAに対する親和性がオレキシンBに対する親和性より約100倍高いOXR 1と,両ペプチドに対する親和性がほぼ同程度であるOXR 2との2つのサブタイプがある2).これらの受容体もオレキシン同様脳に特異的に発現しており,オレキシンが中枢神経系の調節ペプチドとして機能していることを示唆する.

Immuno-PCRを用いたTNFαの高感度検出法

渡辺 直樹

pp.1026-1027

 生体内には,腫瘍壊死因子(tumor necrosisfactorα;TNFα)のように,ごく微量(pmol/lの濃度)で強い作用を発揮するさまざまなサイトカインが存在している.

 TNFαは,免疫,神経生理など各種生体反応の重要なメディエーターとして知られているが1,2),従来の方法では,健常者を含め低濃度域での測定は検出感度上不可能であったため,病態の初期像や進展の把握および治療効果のモニタリングなど,詳細な解析はできなかった.そこで,われわれは,ELISA法の特異性とPCRの感度を併せ持つImmuno-PCRを用いて,TNFαの高感度検出法の確立を試みている3)(図1).

質疑応答 微生物

ツベルクリン液の成分とBOG接種の有効性

志村 昭光 , 早川 輝美子 , K生

pp.1029-1030

 Q 最近,結核感染が注目されるようになり,われわれの病院でもツベルクリンを接種しました.ツベルクリン液の成分はどのようなものですか.また,ツベルクリン判定後のBCGの有効性,BCG接種後10以上の再接種の効果にっきましてもお教え下さい.

研究

ABO血液型モザイク症例のMicro Typing System(MTS),Folw Cytometry(FCM),Polymerase Chain Reaction-Single Strand Conformation Polymorphism(PCR-SSCP)による解析

舞木 弘幸 , 丸山 芳一 , 田畑 仁美 , 黒木 辰雄 , 松下 秀樹 , 肥後 恵子 , 小浜 浩介 , 納 光弘

pp.1031-1034

 ABO血液型検査にて異常を認めた症例の血液型決定にゲルカラム凝集法(Micro typing system:MTS),Flowcytometry(FCM),Polymerase chain reaction-single strand conformation polymorphism(PCR-SSCP)解析を行った.MTS,FCMともに患者血球と抗A血清との反応は陰性群から陽性群にかけて一様に認められ血液型モザイクのパターンを呈した.また,PCR-SSCPによる解析から血液型の遺伝子型はA型のヘテロAO型であり,O型遺伝子を細分画したところAOA型であった.

資料

チロナミン投与患者における血中遊離型トリヨードサイロニン測定値の乖離

渡辺 弘子 , 須賀 保幸 , 菅野 剛史

pp.1035-1039

 血中遊離型トリヨードサイロニン(Free Triiodothyr-omine;FT 3)濃度測定キットアマライト-MABとビトロスとの相関において,トリヨードサイロニン(3,5,3′-triiodo-1-thyronine;T3)製剤チロナミン投与患者群の回帰と非投与群の回帰との間に乖離が観察された.添加実験によって,回帰の乖離はチロナミン中のT3に起因することが判明した.平衡透析法/Radioimmunoassay (RIA)に準じるとされるカラム吸着クロマトグラフィー/RIAに対する5種類のFT3間接測定法キットの相関において,チロナミン投与群と非投与群との回帰の乖離の傾向は測定キットによって異なった.測定キット変更時,チロナミン投与患者検体には注意が必要である.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
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64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

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今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

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今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

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62巻3号(2018年3月発行)

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今月の特集2 成人先天性心疾患

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今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

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今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

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今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

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今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
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60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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