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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査45巻11号

2001年10月発行

雑誌目次

特集 超音波検査の技術と臨床

序文

最新の装置の動向―総論にかえて

伊東 紘一

pp.1166-1167

 超音波検査・診断学の進歩発展は超音波検査診断装置の動向に依存しているといって過言ではない.この分野における技術面における進歩は数限りないともいえる.そのなかで特筆されるのが,ソマーや入江らのリアルタイム装置と滑川によるカラードプラ装置の発明である.いずれも日本の技術者の貢献が大きいのは誰もが承知していることである.ところが,その次の大きな進歩は診断装置そのもののコンピュータ化である.すなわち,マスラックによりコンピューテットソノグラフイーの幕が開けたことである.そこから派生した多くの進歩がある.また,二次元白黒断層画像やカラードプライメージ,あるいは三次元画像などの新たな展開と超音波造影法にかかわる諸問題など,いまや超音波検査・診断法の分野の進歩は留まることを知らないような新展開にある.

 超音波画像の進歩はデジタル化技術による.現在の新しい検査・診断装置はすべてデジタルビームフォーミングになっている.このことは,多方向同時受信,高速フレームレート,コード化パルス,大きなダイナミックレンジ,ノイズの改善などを可能にした.これらのことがBモードの白黒断層画像の分解能の向上を推進したのである.さらに,CPUの高速化やメモリーの大容量化は装置の高性能化,小型化を推進してきた.

Ⅰ.基礎 1.装置

1)デジタル技術の進歩と超音波診断装置

坪根 泉

pp.1170-1174

はじめに

 超音波診断装置のデジタル化は電子スキャン法が開発された頃から本格的に始まる.多数の圧電素子を電子スイッチで切換え,送受信を制御して超音波ビームフォーミングするには装置のコンピュータ化は必要条件となったからである.SamMaslakによる"Computed Sonography"1)は初期の超音波デジタル技術を代表するものであり,ビームフォーミングに関するパラメータをすべてコンピュータ制御した装置で,現在のほとんどの超音波診断装置がこの概念で設計されている.

 デジタル技術の最近の進歩は筆舌に尽くしがたい.半導体製造技術,プロセス技術の進歩はCPUの処理能力を8ビット8MHzの時代から32ビット1GHz以上で動作するPentium IVが汎用PCで使われ,大容量のメモリーが安価に使え,かつインターネットで画像データも簡単にやりとりできる時代をもたらした.さらにブロードバンド超高速通信の時代へと移行しつつある.

2)符号化送信の超音波診断装置への応用

地挽 隆夫

pp.1175-1179

パルス圧縮

 古くからレーダの分野では,高いS/Nと高い距離分解能を両立させるための手段として,パルス圧縮(pulse compression)という技術が用いられてきた1).この技術は,送信パルスとしてパルス内に特殊な変調を施したパルス幅の広い送信信号を用い,受信後にそれを復調することで狭いパルスに変換するものである.coded excitationとも呼ばれるこの技術を超音波診断装置へ応用しようという研究は以前から報告されていた2,3)が,商用機において臨床応用が可能となったのはごく最近のことである.

 パルス圧縮の方式,すなわち送信パルスの変調方式には,大きく次の2つがある.

3)装置および周辺機器の調整法と装置のメンテナンス

大竹 章文

pp.1181-1184

はじめに

 超音波診断装置は簡便な検査法で世界中に浸透している.日常検査のなかで検体検査のような臨床検査とは異なり,日頃の精度管理の必要がない点は利点ではあるが,超音波診断も良好な検査を行うには装置でのメンテナンスを怠らないようにすることが肝心である.

4)アーチファクト

小松田 智也 , 石田 秀明 , 宮下 正弘

pp.1185-1188

はじめに

 この章では,腹部超音波検査の際,遭遇する種々のアーチファクトについて,あまり取り上げられなかったカラードプラのアーチファクトを中心に述べる.従来教科書で述べられてきたBモードのアーチファクトを基盤に超音波像の成り立ちの理解に役立てていただきたい.

5)画像のファイリング

高田 悦雄 , 砂川 正勝

pp.1189-1193

超音波画像記録方式の変遷

 超音波画像の記録方式は,光学写真用35mmフィルムに記録する時代が長く続き,その後インスタントフィルムが台頭した.インスタントフィルムはコストが高いことに加えて経年変化に弱く,ソノプリンターに取って代わられるまでそう長くはもたなかった.その間,マルチフォーマットカメラも一部で使われたが,CTなどと同じようにカンファレンスで見ることができる利点はあるものの,自動現像機が必要なことから超音波室には導入し難いものであった.

 これらの画像記録方式は大きな分類でアナログ記録の範疇に入る.このほかにも電子媒体を利用したアナログ記録方式があり,VTR (ビデオテープ)・アナログ光ディスクなどがそれである.VTRは検査の全行程を動画として記録できるのが最大のメリットである.しかし再生に検査と同じ時間が掛かるという面で効率が悪い.アナログ光ディスクは静止画のみならず動画での記録も可能であり,アナログ光ディスク装置をパソコンでコントロールし,効率の良い管理が可能となる(図1)2)

6)診断用超音波の安全な使用法

内藤 みわ

pp.1195-1200

はじめに

 最近の30年間で超音波診断装置は非常に普及した.この理由の1つとして診断に使われる超音波が放射線に比べ安全であることが挙げられる.しかし診断超音波は技術の進歩に伴って多様になっており,場合によっては検査者が診断上の有用性と患者に対する安全性の比率を考慮しながら使用する必要性が生じている.

 ここではまず超音波による物理現象・生体作用を説明し,次に最近の超音波診断装置で実施されている音響出力のリアルタイム表示1)としてメカニカルインデックス(mechanical index ; MI)およびサーマルインデックス(thermal index;TI)について解説し,臨床検査実施時のリアルタイム表示の具体的な活用例について述べ,最後に国際的な安全性ガイドラインの動向を紹介する.

Ⅰ.基礎 2.新しい手法

1)ハーモニックイメージングとは

小笠原 正文

pp.1201-1204

はじめに

 近年,超音波画像の改善を目的として,特に従来のBモード手法で非常に描画が難しいとされている対象に対し,その画質を大幅に改善する手法としてハーモニックイメージングなる手法が用いられている.ハーモニックイメージングは超音波が生体組織中を伝播するとき,組織の音響的非線形性により伝播超音波の波形が歪み,それに由来して発生する高調波を用いて描画する手法である.

 この手法を用いることにより体表面近傍の多重反射やアーチファクト,またサイドローブによる音響ノイズを大幅に抑え,空間分解能に優れ,かつコントラスト分解能にも優れた画像を得られるようになった.ここではその原理について概説する.

2)サブハーモニックス

椎名 毅

pp.1205-1207

サブハーモニックスとは

 マイクロバブルによる造影剤を用いたコントラストエコー法は,血流からのエコー信号の増強による血流域の染影という当初の基本的な使い方から,近年では気泡に特有の非線形な散乱特性を利用したハーモニックイメージング法が普及してきた.組織の反射(後方散乱)係数が線形,すなわち入射波の音圧によらず一定と近似できるのに対し,気泡の散乱係数は入射音圧に依存する強い非線形性を持つため,そのエコーに高調波を含む.この性質を利用し,エコー信号からフィルタ等で高調波成分のみを抽出して画像化したものがハーモニックイメージングであり,組織像の輝度が抑えられるため組織対血流のコントラストが高まり,臓器内血流の視認性の向上をはかることができる.

 この場合の高調波は,送信周波数の整数倍のものを指すが,通常は最も低周波でレベルが大きい第2高調波を利用しているので,セカンドハーモニックイメージングと称することもある.しかし,より細かく見ると非線形性のためエコーに現れる成分は,この整数倍のもののほかにも図1に示すように様々なものが含まれる.すなわち,送信パルスの中心周波数f0で考えると,通常の整数倍(2f0,3f0…)の高調波のほかに,非整数倍でf0より大きい(3/2f0,5/2f0…)や,f0より小さい(1/2f0,1/3f0…)も存在し,それぞれultraharmonicsおよびsubharmonicsと称される.

3)パルスインバージョンの原理と特長

鎌田 英世

pp.1209-1214

はじめに

 近年超音波造影剤の開発が進んでおり,既に商品化されているものもいくつかある.

 そのようななか,超音波診断装置においても,造影剤を使用した様々な技術が開発されている.

4)フラッシュエコーの原理と特徴

神山 直久

pp.1215-1218

フラッシュエコーとは?

 「フラッシュ(Flash)」という言葉には,「閃光」や「(一瞬の)きらめき」という意味があり,直感的にはカメラのストロボを発光させたときの様子が想像できるであろう.近年,超音波造影剤を用いた造影エコー検査が普及しつつあるが,造影剤投与下の超音波画像に,このフラッシュによく似た現象が観察されるため,この現象は「フラッシュエコー*1)」と呼ばれている1).フラッシュエコー現象が起こる最も大きな理由は,超音波造影剤の主成分であるマイクロバブル*2)の「壊れやすさ」によるものである.超音波診断装置から送信される超音波パルスは,粗密波として媒体(生体組織)を振動させながら進んでいく*3).パルスが造影剤マイクロバブルに達すると,同じようにバブルを振動させ,このときの衝撃でバブルは壊れてしまうわけである.ここで,フラッシュエコー現象はカメラのストロボと大きく異なる点に気づくであろう.カメラのストロボはそれ自体が発光源なので,充電さえ素早く行えれば「連続フラッシュ」が可能である.一方,フラッシュエコーはエコー源(バブル)自体が壊れてしまうわけであるから,超音波パルスを連続照射しても「連続フラッシュ」はできない.観察領域に再びバブルが充満するまでフラッシュを待たなくてはならないわけである.

5)造影剤による腫瘍血流のイメージング

工藤 正俊

pp.1219-1224

はじめに

 腫瘍血流のイメージングには大きく分けて動注法と静注法がある.動注法としてはCO2マイクロバブルをコントラスト剤として使用するUSangiographyが1980年代初頭より行われてきた1~4).静注法としては現在唯一の国内の市販薬であるLevovist®を用いて行う造影法が最近広く行われるようになってきている.静注造影法の中でも基本波のカラードプラ(color Doppler)もしくはパワードプラ(power Doppler)を用いる造影ドプラ法とハーモニック(Harmonic)法を応用した造影ハーモニック法の2種類がある.さらにハーモニック法のなかにもハーモニックパワードプラ法とハーモニックBモード法の2種類の方法がある.これらは現時点では装置によって性能が異なるため,その装置のperformanceに応じて使い分けがなされているのが現状である.本稿では最も一般的に行われている肝腫瘍に対する静注造影エコー法について概説する.

6)硬さの評価法(1)組織弾性イメージング

椎名 毅

pp.1225-1227

組織弾性計測の意義

 癌などの組織病変を伴う疾病の初期においては,マクロな形態的変化の前に,組織の組成や微細構造のミクロな変化が生ずることが期待される.このような組織の質的な変化を捉えて診断情報として利用しようとする考えは組織性状診断あるいはtissue characterizationと称される.

 組織性状を表す特徴量のなかでも,組織の硬さすなわち弾性は,組織の組成や構造に依存するため,筋組織や脂肪などの組織間で異なるのは言うまでもないが,同種の組織でも疾病によりもたらされる組織性状の変化を,組織の形態的な病変を生じる前に敏感に反映すると考えられる.このため,組織弾性は癌などの早期検出に有用な診断情報となることが期待できる.実際,図1のように癌腫瘤の多くは正常組織に比べて,硬さが増加することが知られている.触診は,主としてこの情報を触知して病巣を検出するものと言えるが,微小な腫瘍や病巣が深在性の場合は非蝕知となるため,適用範囲は限定される.

6)硬さの評価法(2)血管壁

金井 浩 , 長谷川 英之 , 小岩 喜郎 , 手塚 文明 , 市来 正隆

pp.1229-1232

はじめに

 動脈硬化症における様々な病態は血管壁に生じた粥腫の物理的脆弱性(易破裂性)により引き起こされると考えられ,粥腫病変の易破裂性が医学上の大きなトピックとなっている.例えば,心筋梗塞・不安定狭心症・突然死にも冠血管内粥腫の易破裂性の関与が大きいと考えられており,分子生物学的なアプローチを含め様々な方向から積極的な検討がなされている.しかし,個々の患者の粥腫の易破裂性を,その内部物性にまで踏み込んで把握しうる方法は開発されていなかった.例えば,従来血管の硬さとして臨床の場で測定されてきたものは,脈波伝播速度あるいはstiffnessparameterなどの,血管長軸方向や横断面での平均的で,かつ壁厚・内径比によっても影響される指標に限られていた1).これに対し,最近開発された「位相差トラッキング法」では,心臓・血管壁の内部数百ミクロンの厚さの層ごとの瞬時的な厚み変化の速度を経皮的に高精度に計測でき,壁にかかる脈圧を考慮することで,血管壁の層別の弾性値を描出し得る2~6)

7) Wave Intensityの原理と臨床応用

原田 烈光 , 岡田 孝 , 菅原 基晃 , 仁木 清美 , 常 徳華

pp.1233-1237

はじめに

 Wave Intensity (WI)は,心収縮性,拡張特性,および負荷(血管系の状態)のそれぞれの変化に関連した要素をもつので,新しい循環動態指標として多くの可能性をもっている.ここではWIの定義と性質,計測システム,および臨床応用について紹介する.

8)3Dの進歩(1)3次元心エコー図

太田 剛弘

pp.1239-1245

2次元から3次元の画像へ

 超音波診断法は現在,日常臨床に不可欠な画像診断の手段となっている.心エコー図法は,心臓の動きをリアルタイムに表示する2次元断層心エコー法が現在の主流である.ドプラ法,カラードプラ法は血流表示を可能とし,ハーモニック画像法などの信号処理技術の開発は断層像の画質を改善した.しかし現状の画像診断は平面像であり,より正確な診断と治療に向け3次元画像が1970年代から研究されている1,2)

 以前からの3次元再構築法は,拍動心の断層像を時相ごとに取り込みコンピュータ再構成するが,長時間かかり技術的にも熟練が必要だった.技術の発展は処理時間の短縮などをもたらしたが,日常の臨床応用にはまだ距離がある.

8)3Dの進歩(2)産婦人科領域

金西 賢治 , 秦 利之

pp.1246-1250

はじめに

 超音波断層法は産婦人科領域の日常診療において今や必要欠くべからざる診断法となっており,さらに近年のコンピュータ技術の急速な進歩に伴い,三次元画像構築の処理時間が著しく短縮したことで,三次元超音波も広く臨床応用されるようになりつつある1~5).従来の二次元超音波断層法では,対象の二次元断面像を頭の中で三次元構築させるため長年の経験と習熟を必要としたが,三次元超音波法を使うことで,比較的簡単に立体構造を把握することが可能となった6~8)

 本項では産婦人科領域における三次元超音波法の有用性と将来におけるその応用について述べる.

9)リアルタイム・パノラミックビュー(SieScapeTM

春名 芳郎

pp.1252-1254

はじめに

 超音波診断は非侵襲性とリアルタイム性による有用性から多種部位の検査にて行われている.しかしながら狭い視野(FOV:field of view)という短所をもつために他のモダリティからの画像と比べて診断画像としての客観性に欠けてしまう.

 1970年代に販売されていたコンパウンドBモード超音波診断装置の1つには機械的関節式アーム(ロボットアーム)があり,先端にプローブを取り付けることでその位置と傾きを検出し,X線コンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴イメージング(MRI)などと同様な広いFOVを描出していた.ロボットアームの届く範囲内であればFOVに制限なく広範囲な断層画像を描出することが可能であった(図1,2).これは今日多用されているリアルタイム超音波診断装置にて表示可能なFOVの範囲(方位方向)が5~6cm程度であることを考えると,非常に客観性に富んだ画像を提供していたといえる.しかしその反面,診断に十分といえる程度の画質と簡便性において欠点をもち合わせていた.

Ⅱ.総合

1.甲状腺

福成 信博

pp.1257-1260

はじめに

 1980年代から,体表用高周波数,高分解能機器の普及に伴い,甲状腺疾患に対する超音波の役割は大きな変革を遂げた.石灰化の有無や腫瘍形状の認識にとどまらず,腫瘍内部構造の把握から腫瘍の質的診断までも可能となったのである.また,80年代後半から,ドプラ法を用いてrealtimeに血流情報が得られるようになり,甲状腺機能および腫瘍の血行動態の観察という意味において臨床的意義は極めて大きい.このように超音波検査自体が,年々機器の進歩に伴って,その臨床応用は広がってきている1).個々の甲状腺疾患における典型的所見の提示を含め,解説を行う.

2.乳腺診断―再構築の動き

遠藤 登喜子

pp.1261-1264

はじめに

 超音波検査は乳腺疾患の発見と診断において必要不可欠であり,その進歩が乳癌の早期発見と適切な治療に貢献することは間違いない.今までの研究により蓄積された知識を集積し再構築することにより,さらに有用な診断法になると考えられる.

 日本超音波医学会の乳腺超音波診断基準改訂の動きを受け,多くの乳腺超音波の研究者が共同し検討してきた.その結論はいまだ出されていないが,本稿には日本乳腺甲状腺超音波診断会議(以下JABTS)の用語・診断基準小委員会における討論の中間報告として2001(平成13)年4月に発表された基準(案)1)を基調として,私見を加えて述べる.

3.超音波による乳癌腋窩リンパ節転移診断

加藤 保之 , 小川 佳成 , 池田 克実 , 鄭 聖華 , 高島 勉 , 小野田 尚佳 , 石川 哲郎 , 平川 弘聖

pp.1265-1268

はじめに

 近年,乳癌の外科治療は大きな変遷を遂げている.19世紀末に乳癌根治術として確立されたHalsted手術,すなわち乳房を胸筋,腋窩リンパ節とともに一塊として切除する術式から,Patey手術,Auchincloss手術などの胸筋温存手術,さらに乳房温存手術へと乳腺の切除範囲が縮小してきている.この流れの背景として乳癌の生物学的特性研究の進歩とQuality of life (QOL)の概念ならびにインフォームド・コンセントの普及によりいずれの治療法を選択するかの決定法が変わってきたことなどがある.また,NSABP-B 04 trial1)では腋窩リンパ節郭清による延命効果はみられておらず,腋窩郭清の意義は病期診断と局所制御にあると考えられている.現在,センチネルリンパ節生検などを拠り所として,転移のない症例には腋窩リンパ節郭清を省略する研究が進められているところである.

 触診における腋窩リンパ節転移診断としてFisherら2)は正診率66.5%,感度72.5%と報告している.触診においては触知困難な領域が存在することや診断医の熟練を要することもあり,客観性に乏しい.このような現状から,術前に正確なリンパ節転移診断(lymphatic mapping)を得るために画像診断,特に侵襲が少なく,診断能の高い超音波診断が期待されるところとなってきた.

4.末梢血管

小野 倫子 , 伊東 紘一

pp.1269-1272

はじめに

 高解像度の断層画像とカラードプラ法の発達により,末梢血管も超音波検査で十分に観察できるようになってきた.超音波検査は非侵襲的であり,血管内の情報も豊富に得られるため,血管造影に代って血管疾患の第1選択の検査となってきている.

 検査が多く行われている血管としては,頸動脈・椎骨動脈・四肢動静脈が挙げられる.頸動脈では動脈硬化の判定や脳虚血性疾患の原因精査が,椎骨動脈では逆流(盗血現象)による鎖骨下動脈病変の判定などが超音波検査で可能である.四肢動脈では動脈瘤や閉塞性疾患の評価に,四肢静脈では深部静脈血栓症の診断に利用されている.

5.軟部組織腫瘤

川井 夫規子

pp.1273-1277

はじめに

 乳腺,甲状腺,唾液腺を除く表在性腫瘤の多くは軟部組織由来の腫瘤である.軟部組織には脂肪組織,線維組織,筋組織,血管,リンパ管などが含まれる.これらの組織から発生する腫瘍は病理組織学的にも多彩であるため鑑別診断は難しいが,超音波検査は非侵襲的かつ簡便で,診断装置の解像度の向上とともにその有用性が認められてきており,検査室で検査依頼を受ける機会も増加してきた.そこで日常検査で比較的みられることの多い軟部組織病変について概説する.

6.整形外科―股関節領域の検査を中心として

扇谷 浩文

pp.1279-1283

はじめに

 超音波が骨を通過し得ないという性質上,超音波検査は整形外科疾患においてはほとんど使用されなかった.しかし軟骨をはじめとした軟部組織を観察するのに適していることから,超音波が人体に対し無侵襲であるという利点もあり,本検査は軟骨・軟部組織の多い小児整形外科疾患でよく利用されている.1998年4月以降,四肢の超音波検査が保険適応として認められ,整形外科での利用はますます盛んになっている.ここでは整形外科のどのような領域(部位または疾患)においてどのように超音波が利用されているかを記載してみたい.次いで本稿では,最も検査法が確立している乳幼児の先天性股関節脱臼と小児や成人に対する単純性・化膿性股関節炎,関節水腫における超音波画像の撮像方法とその読み方について記載する.股関節におけるほかの方法や,股関節以外の多くの分野については詳細は特集号などを参照していただきたい1~3)

7.眼科

尾碕 憲子 , 菅田 安男

pp.1284-1286

Aモード

 診断用Aモード(time amplitude ultrasono-graphy)はほとんど眼科に限られる超音波診断の分野である.通常の断層像が組織からの反射の大きさを輝度の分布として表示するのに比べ,時間軸上に反射の大きさを表示したものである.組織性状をよく反映しているとして欧米で好んで用いられる.Ossoinigにより提唱されたstandardized echography(標準化超音波診断法)1)が普及しており,脈絡膜腫瘍の鑑別,強膜厚,視神経鞘径などあらゆる病変の記載がなされている2).表面麻酔剤を点眼後,メチルセルロース液を介して眼球に直接プローブを当て,反射波形を観察する.反射高は球後に向かって急激に減衰するため,どの装置も後方エコーの増幅を行い波高の比較を行いやすくしている.この増幅法に一定の基準を設けて検者間,装置間の所見の違いを少なくしようというのが標準化提唱の根拠である.減衰の大きな原因である水晶体を避け,眼内の病態をよく頭に描き,動きの大きな反射波形を観察する.手技に熟練を要するためか日本ではあまり用いられていない.

 計測用Aモードは,白内障手術時の眼内レンズ挿入に際して,眼内レンズ度数の決定に必要不可欠な眼軸長を測定するために眼科日常診療に定着している.散瞳被検眼に表面麻酔剤を点眼し,メチルセルロースを介してプローブの開口部を角膜の変形が起こらないように垂直に軽く触れる.

8.胸部

菅間 康夫

pp.1287-1290

はじめに

 胸部の超音波診断法は,他の領域に比べあまり系統的に扱われないが,例えば胸水穿刺時のマーキングなど実際にはかなり広く用いられている.

 健常肺は含気が多く,肺表面および肺で強いエコーを発生し肺内部の観察は困難であるが,呼吸器疾患はしばしば無気肺,肺炎,胸膜陥入,胸水,腫瘍などacoustic windowとなりうる病態を伴い観察が容易になる.

Ⅲ.循環器 1.心エコー図法の種類と実施法

1) Mモード-エコー図

林 輝美

pp.1292-1296

Mモード-エコー図の特徴

 心臓は収縮・拡張運動を繰り返し,ポンプ機能を果たしている.心周期の各時相を心時相というが,心時相ごとの心臓の動きや血行動態の変化を正確に評価できることが,Mモードーエコー図の最も優れた点である.すなわち,Mモードとは,動き(motion)を解析する手法を意味し,空間分解能,時間分解能に優れている.通常50mm/秒のスピードで掃引され,ディスプレイ画面,ストリップチャートや写真上,縦軸に距離の目盛りが,また,横軸に時間の目盛りが表示される.これらの目盛りを用いて,構造物の大きさ,詳細な動きの有様や運動速度が,簡単にしかも容易に計測できる.

 より正確に心時相を判定するために,心電図と可能なら心音図を同時記録する必要がある.心電図では収縮期の終了時点が正確に判定できないので,左室の駆出の終了,すなわち収縮期の終了時点を示す大動脈弁の閉鎖音であるⅡ音大動脈成分(ⅡA)を目安として,収縮末期を判定する.探触子を当てるのに邪魔にならず,ⅡAがよく記録される胸壁上の場所を選び,心音マイクを接着しておく.一方,心電図は拡張末期や収縮期の開始を示す正確な指標である.R波が高く,Q波が見える誘導を用いる.すなわち,Q波の開始点は心臓の電気的機械的収縮期の開始点を示す指標であるし,R波も収縮開始点として用いられる.

2)2Dエコー図

羽田 勝征

pp.1297-1300

はじめに

 今日,心臓超音波検査は断層像の観察から始まる.断層法にて動態,形態の異常の有無を確認しつつ,あるいは確認したあと次のMモード法かカラードプラ法に移る.断層法にて大雑把な方向をつかみ,依頼目的に答える所見を得るように努力すべきである.観察が終わったときには診断がついていなければならない.

3)ドプラ心エコー図

田畑 智継 , 田中 英治 , 大木 崇

pp.1301-1305

はじめに

 従来,心機能の評価は,侵襲的には心臓カテーテル法によって得られる圧曲線や造影を用い,また非侵襲的には脈波を用いて行われてきた.近年,ドプラ心エコー法の普及により,心血行動態の評価が比較的簡便かつ信頼性をもって,非侵襲的に行われるようになった.本稿では,ドプラ心エコー法の種類と記録方法および臨床応用の可能性について,その概略を説明する.

4)経食道心エコー図

園田 誠

pp.1307-1314

はじめに

 経食道心エコーが開発された当初は,単一断面(横断面)により描出するシングルプレーン経食道心エコープローブが使用された.その後,探触子の尖端に,順に横断面(transverse scan)描出用と縦断面(longitudinal scan)描出用の2つのクリスタルを装着したバイプレーン経食道心エコープローブが開発され,経食道心エコーの臨床における有用性が飛躍的に向上した.現在では,1つのクリスタルを0度から180度まで回転させることにより,多断面を描出するマルチプレーン経食道心エコープローブが使用されている.成人用経食道心エコープローブのシャフト径は9mmで,素子数48~64のものが使われている.図1に,マルチプレーン経食道心エコーにおけるクリスタルの回転角度と描出される心臓の断面との関係のシェーマを示す.断層法,Mモード法およびドプラ法の機能を備えている.

5)虚血性心疾患における負荷心エコー法の意義

八杉 直子 , 小柳 左門

pp.1315-1320

はじめに

 虚血性心疾患においては,心筋虚血の診断が重要であるが,安静時の心エコー図では診断が困難である.そこで,負荷をかけることにより,新たに出現する壁運動異常から心筋虚血を診断するのが,負荷心エコー法の目的である.近年,超音波画像のデジタル化とその処理方法の発達によって診断が確実になり,負荷心エコー法が広く行われるようになった.負荷心エコー法は心筋虚血の診断だけでなく,心筋のバイアビリティの評価などその応用は多岐にわたっている.

6)血管内エコー法

中村 正人 , 平井 寛則

pp.1321-1325

血管内エコー法とは

 血管内エコー法(intravascular ultrasound;IVUS)とは,先端に高周波超音波振動子を装着したカテーテル型探触子を血管内に挿入して血管の断層像を得る方法である.動脈造影は血管内のシルエットのみを描出するluminographyであるのに比し,IVUSは血管断面を断層像として描出し,血管壁の構造,内腔構造に関する情報が得られる.本稿では,冠動脈病変に対するIVUSを中心に概説する.

Ⅲ.循環器 2.心機能計測

1)収縮能

赤石 誠

pp.1326-1331

はじめに

 心臓の主たる役割は静脈圧を低く保ちつつ,全身が必要な血液を全身に駆出することである.われわれは,このポンプ機能を漠然と心機能と呼んでいる.であるから,実際の臨床の現場で心機能というときには,様々な意味を含んでいる.

2)左室拡張能の評価

田中 伸明 , 松﨑 益德

pp.1333-1338

イントロダクション―どうして拡張能なのか

 「心臓は血液を拍出するポンプである」といわれるように,心臓の機能の主要な部分は収縮能であるというのが一般的な理解であろう.実際,心臓が1分間に拍出する血液の量である心拍出量は,重要な心機能の指標の1つである.しかし,血液を拍出するためには,次に拍出することになる血液をいったん心室に蓄える必要がある.もし左室の拡張能力が著しく低下すると,次の拍出への準備が不十分となり,心拍出量が低下したり,左室の上流に当たる左房や肺血管に血流のうっ滞(congestion)が生じることが容易に想像できる.つまり,拡張能も収縮能同様に重要な機能なのである.

3) TEI indexによる総合的心機能評価

鄭 忠和

pp.1339-1345

はじめに

 心不全の心機能はダイナミックに変動するので,簡便に反復して検査できる心エコー・ドプラ法は心機能評価に最も有用な方法である.この方法は医療・経済の側面からみても心疾患の管理・治療上欠かせない検査法である.収縮と拡張を反復する心ポンプ機能の把握には,心室の収縮能および拡張能を定量的に評価するとともに(前章を参照),心臓のポンプ機能を総合的に捉えることも必要である.なぜなら心不全例の多くは収縮不全と拡張不全を合併しているからである.また,一般に心不全の診断では左心機能の評価に重点が置かれ,右心機能の評価は不十分である.しかし左心不全に右心不全の合併例は多く,両心不全例の予後は左心不全単独例よりも悪い.したがって心不全の総合的評価には,収縮能と拡張能を連合させた心ポンプ機能を左・右両心室で総合的に評価することが重要である.

 心機能指標が実用的である条件として,まず測定が簡便で,非観血的であること,再現性が高いこと,心拍数や血圧の影響を受けにくいこと,心室の形態変化に左右されないこと,左室のみならず右室の重症度評価も可能であること,加療による効果判定および長期予後の推定ができること,胎児から高齢者まで幅広く誰にでも応用できること,医療効率がよいことなどが含まれる.これらの条件を満たす心機能指標はこれまで確立されていない.

Ⅲ.循環器 3.心血管疾患各論

1)弁膜症(1)僧帽弁膜症

石光 敏行

pp.1346-1350

 経食道心エコー法は僧帽弁の詳細な観察に有用であるが,僧帽弁膜症の診療に必須ではない.また,弁置換例でも人工弁の機能障害が生じてくる.本項では誌面の制約上,自己弁例を対象とし経胸壁からの心エコー検査を中心に論述する.

1)弁膜症(2)大動脈弁膜症

添木 武 , 福田 信夫

pp.1351-1355

大動脈弁狭窄症

1.成因診断

 本症の原因は,先天性ではほとんどが二尖弁で,後天性では変性(硬化性)とリウマチ性である.若年者では二尖弁の可能性が高く,高齢者では後天性が多い.心エコー図で原因を特定するには,成因別の特徴を把握しておくことが大切である.二尖弁は短軸断面で弁尖数が2枚であることにより診断できるが,大きなほうの弁尖を2つに区切る線状のrapheを通常の接合線と誤認して三尖弁と判定しないように注意すべきである1).リウマチ性はほとんどが僧帽弁の器質的変化を伴い,弁尖の肥厚と交連部の強い癒合が特徴的である.変性(硬化)は加齢に伴う退行変性で,弁腹部の肥厚,硬化を起こし,さらに進行すると石灰化を生じる.この場合,交連部の癒合を伴わないのが特徴である.

1)弁膜症(3)肺動脈弁・三尖弁疾患

小金井 佐知子 , 中村 憲司

pp.1356-1357

三尖弁疾患

 三尖弁疾患は閉鎖不全と狭窄に分類されるが,狭窄は極めて稀であり,生理的逆流が主である.三尖弁の検出には,心尖部四腔像もしくは胸骨左縁長軸像でビームを右内方に向けた右室流入路像などを用いる.

1)弁膜症(4)感染性心内膜炎

石塚 尚子

pp.1358-1362

はじめに

 感染性心内膜炎は循環器領域において,いまだに迅速な診断,適切な治療が行わなければ救命が困難な疾患の1つである.その診断に超音波検査法の果たす役割は重要なものとなってきている.発熱や全身の塞栓症などの敗血症による症状に加え,血液培養から原因菌の検出,さらに画像診断上のいくつかの特徴ある所見がそろえば診断は確実となる.

 超音波検査法においては,心弁膜病変(疣贅,弁輪部膿瘍など),基礎疾患の診断(弁膜症や先天性心疾患),感染による新たな血行動態上の変化,塞栓症のリスク(疣贅の大きさ,付着部位,形状など)などを診断する.画像診断上の特徴ある所見について,鑑別上問題となる点などを踏まえて述べてみる.

2)心筋症(1)肥大型心筋症

高元 俊彦

pp.1363-1367

はじめに

 定義:肥大型心筋症(hypertrophic cardio-myopathy;HCM)は,左心室に高度の心肥大をきたす疾患(ときに右心室肥大を含む)であり,非対称性肥大を示すことが多い.1980年,Goodwinらにより提案されたWHO/ISFC Task Forceの定義では,原因不明の心筋の病気"heartmuscle disease of unknown cause"とされ,高血圧や心筋内アミロイド沈着などの二次性心筋症のみが除外されてきた.しかし,患者の半数近くに家族内発症を認め,一部の患者では心筋ミオシン重鎖遺伝子異常などが判明したことより,1995年に改訂されたWHO/ISFC Task Forceの定義1)から「原因不明」の項目が削除されている.

2)心筋症(2)拡張型心筋症

水重 克文 , 近藤 功

pp.1369-1372

拡張型心筋症と超音波検査

 拡張型心筋症は,進行性の心筋変性と線維化を組織学的特徴とする,原因を特定できない心機能低下をきたす疾患である.このような進行性の病態に対して,薬物療法としてはアンギオテンシン変換酵素阻害薬1)やβ遮断薬2)が用いられ,その有効性が実証されている.また一方では,長期的予後は不良であり,心移植の適応となる疾患として注目されている.

 心エコー法は,心臓の形態を非侵襲的,実時間的に観察しうることから頻回に施行でき,簡便な心機能評価法として拡張型心筋症の診断,その進行性の心筋障害の経過観察や,治療効果の評価に適している.さらに,このような従来からの形態診断に加えて,心筋組織性状に依存して心筋内から反射,散乱した信号を抽出,解析する心筋組織性状診断も行われるようになっている.この後方散乱波の強度でみられる心周期性変動は,心筋収縮を反映するとされ,より鋭敏な収縮指標として用いられつつある.また,心筋収縮や拡張の状態は心内圧に反映される.ドプラ法によれば,この心内圧の変化を血流速度パターンとして観察できる.特に,心機能異常をより感度良く捕捉できる拡張能の障害については,ドプラ法によって記録される左室流入血流パターンの解析から容易に検出可能で,本疾患の経過観察や予後の推定などに応用されている.

2)心筋症(3)2次性心筋症

斎藤 靖浩 , 赤坂 隆史

pp.1373-1376

はじめに

 2次性心筋症は,心筋虚血や内分泌疾患,代謝異常,全身性疾患,栄養障害などの様々な原因に起因し,特発性心筋症類似の形態的,血行動態的所見を呈する疾患である.それゆえ,本症の心エコー図所見は,形態的にも血行動態的にも特発性心筋症に類似しており,エコーのみでは必ずしも鑑別診断できない場合がある.2次性心筋症は原因別に分類するのが一般的であるが,日常臨床における鑑別診断も含めて心エコー図所見から,主な2次性心筋症を分類すると表1のようになる.本稿ではこれらのうち,心エコー図検査上特徴的な所見を呈し,頻度の比較的高い代表的な疾患について解説する.

Ⅲ.循環器 

4.冠動脈疾患

鈴木 真事

pp.1378-1382

冠動脈疾患を疑う場合の基本的アプローチ

 一般に心筋が虚血に陥ると,心電図変化や胸痛が現れる前に心筋の壁運動異常が出現するといわれている.したがって,胸痛などの症状から冠動脈疾患を疑う場合,壁運動異常の有無と程度および壁運動異常を起こしている部位を評価するのが重要なポイントとなる.この壁運動を評価するとき,心室の心内膜面の動きのみならず,収縮期壁厚の変化や壁エコー性状など,3つの点に注目する.

5.大動脈疾患

伊藤 浩

pp.1383-1386

はじめに

 高齢化と食事の欧米化により動脈硬化に起因する疾患が増加しており,その早期発見や病態評価のためにエコー法が用いられる機会が多くなった.エコー法の特徴は非侵襲性と高い分解能に加え,血流情報が同時に得られることである.エコー法は発信周波数が高いほど画像分解能は向上するが,周波数に反比例して減衰が大きくなるため描出される範囲が浅くなる.したがって,経胸壁アプローチで深部にある大動脈などの血管を詳細に観察するには制約がある.それを補う意味で経食道エコー法が活用されている.

 経胸壁アプローチでは大動脈基部,上行大動脈,弓部大動脈とその分枝および腹部大動脈の観察が可能であるが,上行大動脈の上部や胸部下行大動脈の観察は困難である.経食道アプローチでは上行大動脈の一部を除いた胸部大動脈の観察が可能である.両者を使い分けて初めて大動脈全体の観察が可能となる.このような両者の特徴をよく理解したうえで診断にあたるとよい.

6.心膜疾患

皆越 眞一

pp.1387-1390

はじめに

 心膜疾患には心膜炎,心タンポナーデ,収縮性心膜炎などのほか,心膜欠損,心膜嚢腫,心膜腫瘍などがある.ここでは,心エコー法による心タンポナーデと収縮性心膜炎について述べる.

 心タンポナーデや収縮性心膜炎の診断は臨床的に低心拍出の状態をみた場合,常に鑑別に挙げる必要がある.その際,脈や頸静脈の状態を呼吸変動とともに観察すること,脈圧の低下の有無,聴診でのknock soundの有無などに注意することなどが,その診断率を向上させると思われる.

7.先天性心疾患

里見 元義

pp.1392-1398

はじめに

 小児の超音波検査室では,成人と異なりどのような点に注意を払わなければならないのだろうか? また,小児の領域ではどのような超音波診断機器の設定が最も適しているのだろうか? 検査者の視点から小児の超音波検査に際して,特に注意を要する点についてまとめてみる.

8.心臓腫瘍

田辺 一明 , 盛岡 茂文

pp.1399-1402

 心エコー図は心臓内腫瘤性病変の診断,性状評価に欠くことのできない検査法の一つである.腫瘤性病変は腫瘍,血栓,疣贅あるいは正常構造物,心外構造物の鑑別が必要となる.通常は臨床症状と併せて腫瘤の大きさ,形状,場所,可動性,付着位置などから鑑別できることが多い.誤った診断は,必要のない手術など誤った治療方針を導くこととなり,正確な診断を行うことが大切である.本稿では,代表的な心臓腫瘍の心エコー図所見について解説する.

 心臓腫瘍は心臓原発性のものと転移性のものとに分かれる.心臓原発の腫瘍は心臓腫瘍全体の5%以下の頻度で,残りの95%以上が転移性腫瘍である.心臓原発性腫瘍の多くは通常良性であるが,全身症状を伴ったり,塞栓症,不整脈,心不全の原因となることがある.このような合併症の可能性があることから,心臓原発の腫瘍はできる限り手術により取り除くことが勧められている.表1に原発性心臓腫瘍の頻度を示す1).成人で最も頻度の高い心臓原発腫瘍は粘液腫(myxoma)であり,脂肪腫(lipoma),乳頭線維弾性腫(pa-pillary fibroelastoma)が続く.小児で最も頻度の高い心臓原発腫瘍は横紋筋腫(rhabdomyoma)である2)

9.動脈硬化症

谷口 信行

pp.1403-1406

 動脈硬化症は,加齢とともに発生する血管の病理学的な変化である.その発生には高コレステロール血症などの脂質代謝,高血圧などとの関係が強く,これまでに多くの研究がある.

 動脈硬化の病理学的変化は内膜の変化から始まり,進行とともに壁が徐々に肥厚し内腔の狭窄をきたす(図1).最も初期の変化は,血中の単球由来のマクロファージが内膜に付着しLDLを取り込むもので,組織学的には生後8か月にはすでに半数近くに認められると考えられている.その後,思春期から40歳までには脂肪線条が内膜およびその表面にでき,これらが進行するとプラークとなる.そのなかで脂質に富むプラーク(lipid-rich plaque)は表面が破壊されやすいためunstable plaqueと呼ばれ,急性心筋梗塞(急性冠症候群)との関連が深い.一方,線維性成分に富むfibrous plaqueは安定(stable plaque)であると考えられている(図2).

Ⅳ.腹部

1.肝臓

黒肱 敏彦 , 平田 経雄 , 倉重 康彦 , 古賀 伸彦

pp.1408-1413

はじめに

 肝臓は腹腔内最大の臓器であり,腹部領域においては,超音波検査の有用性が最も発揮されうる臓器である.本稿では基本事項について言及したうえで,造影剤などを用いた最新の手法やトピックについてもできるだけ紙面をさいて説明を加えたい.

2.胆道

遠藤 正章

pp.1414-1420

はじめに

 超音波検査法は,胆道疾患のスクリーニング検査および精査法として不可欠の検査法となっている.さらに,近年の超音波診断装置のめざましい進歩により,超音波による胆道へのアプローチ法も多岐にわたり,診断能の向上も著しい.

 本稿では,この状況を踏まえて胆道に対する種々の超音波検査法を紹介するとともに,これら超音波診断の基礎となる胆道の超音波解剖と臨床について述べる.さらに,最近の新しい手法と胆道の超音波検査法とのかかわりと今後の可能性について言及する.

3.膵臓

唐澤 英偉

pp.1421-1426

はじめに

 超音波は肝臓,胆嚢を比較的容易に描出できることから消化器の診断に頻繁に使用されている.しかし,膵については小さな臓器であることや消化管ガスの影響を受けやすいことから,いまだ十分に検査できる臓器とはいえない.超音波で膵の検査を効率良く行うには,超音波解剖と膵疾患の理解が必要である.膵血管の血流動態の診断にはドプラ検査,さらに造影エコーが有用である.

4.消化管―内視鏡エコー法を含む

藤井 康友 , 畠 二郎

pp.1427-1430

はじめに

 従来,実質臓器の観察上の妨害臓器とされてきた消化管も,機器の改良と研究の蓄積により超音波の観察対象臓器としての関心が高まっており,超音波を対象とする学会や研究会ではほぼ常識的事項となってきている.しかしながら,いまだ消化管など見えるはずがない,といった概念が一般的でありその診断能についても各施設間で大きな差がみられるのも事実である.紙幅の都合上,各疾患の詳細なUS所見については成書1~4)に譲ることとし,本稿では内視鏡エコー法について簡単に触れたのち,体外式超音波(US)を活用することによりどの程度まで消化管疾患の診断に迫れるか,という実践的な事項を中心として述べてみたい.

5.門脈血流

川崎 俊彦 , 工藤 正俊

pp.1431-1435

はじめに

 肝硬変症や劇症肝炎,術後肝不全など様々な肝疾患の病態を把握するには,肝血流量の正確な測定が不可欠である.肝臓は肝動脈と門脈の2重の供血路をもつ,ユニークな臓器である.門脈は酸素分圧こそ肝動脈より低いが,血流量は肝動脈の2~4倍であり,消化管より肝へのホルモン伝達も担っていると考えられるため,その動態の把握は肝動脈以上に重要である.

 超音波ドプラ法を用いた血流計の臨床応用が始まると,層流であり定常流に近い門脈系の血管の血流量は,体外よりかなり正確に測定できるようになった1)

6.超音波検診

小野 良樹

pp.1436-1438

はじめに

 1970年後半,電子スキャン超音波診断装置が普及しはじめて以来,この装置を腹部の検診に利用する動きが台頭してきた.1982年,第41回日本超音波医学会において竹原ら1),山田ら2),小野ら3)が超音波診断とmass screeningをkeywordとして発表している.これらの内容は,腹部超音波診断は肝,胆,膵,腎の悪性疾患,良性疾患を効率良く発見でき,腹部集団検診に適しているというものである.このときすでに竹原は検者になる医師・技師の教育と共通の診断基準の必要性を論じている.以来,20年が経過した現在,腹部超音波検診の道程を述べてみる.

7.小児

中村 みちる , 伊東 紘一

pp.1439-1442

はじめに

 小児は超音波検査の被検者としては,筋層および体表・腹腔内の脂肪層が薄く好条件を有している.しかしながら泣いてしまうと消化管にガスが貯留し,見にくくなり,加えておとなしくできない子では思わぬ大きな所見を見落としてしまうこともある.このため安静状態で検査できるように検査室に絵本やビデオを用意したり,ミルクを持参してもらい飲ませながら検査を行ったりと工夫する.

Ⅴ.泌尿器

1.びまん性腎疾患

斉藤 雅人 , 橋本 哲也

pp.1445-1448

はじめに

 びまん性腎疾患とは,腎全体にほぼ同じ病変がびまん性に波及している病態で,慢性糸球体腎炎,糖尿病性腎症,ネフローゼ症候群,急性腎不全,腎盂腎炎などが主なものである.これらは腎腫瘍などの限局性1腎疾患と異なり,主として顕微鏡レベルの変化であって巨視的には捉えにくい病変である.したがって超音波検査上特微的な所見に乏しく,あくまで補助診断として用いられるのが実状である.これはCTやMRIといったほかの画像診断法でも同様である.

 主なびまん性腎疾患の超音波断層像を以下に供覧する.これらの超音波断層像は,すべて腹臥位で背部から走査して得られたものである.

2.腎腫瘍

沼田 功

pp.1449-1452

はじめに

 超音波検査は低侵襲性で短時間に多数の症例の検査を行えるため集団検診や人間ドックのスクリーニング検査に適しており,腎腫瘍が早期に診断されるようになった.さらにカラードプラや超音波造影剤を使用して血流の有無や血流分布を観察し,腫瘍の良性・悪性の鑑別診断や浸潤度判定にも利用されている.

3.膀胱・尿管

千葉 裕

pp.1453-1456

膀胱の超音波検査

 血尿,排尿障害や尿路感染などを症状とする患者に対する膀胱の1次検査,排尿直後の残尿検査,そして膀胱癌のスクリーニング検査として,無侵襲に行いうる超音波検査は広く臨床の場で普及している.走査法としては,経腹壁的走査,経尿道的走査や経直腸的走査などがあるが,ここでは一般的に行われている経腹壁的走査を中心に解説する.

4.前立腺・陰嚢内容

棚橋 善克

pp.1457-1461

前立腺

 前立腺は膀胱の尾側に存在する栗の実形の臓器で,中央を尿道が貫く.その大きさは,15~25g(左右径×前後径×上下径≒4×3×3cm)程度である(図1).前立腺の内部はいくつかの区域に分けられるが,臨床上重要なのは,①移行域(tran-sition zone;TZいわゆる内腺)と②辺縁域(peripheral zone;PZいわゆる外腺)である.前立腺肥大症は移行域の腫大(腺腫)が原因であり,前立腺癌のおよそ80%は辺縁域に発生する(図2).

Ⅵ.産婦人科

1.子宮

宮越 敬 , 宮崎 豊彦 , 吉村 𣳾典

pp.1465-1468

はじめに

 産婦人科領域では,日常の外来診療において超音波検査を施行する頻度が高く,特に経腟法の普及により婦人科疾患をより正確に診断することが可能になった.本稿では,正常子宮および子宮筋腫や子宮腺筋症などの代表的子宮疾患の超音波検査所見について述べる1~3)

2.卵巣

秦 幸吉 , 宮﨑 康二

pp.1470-1474

はじめに

 卵巣は女性骨盤腔内の比較的後尾側に存在するため,その描出には経腹走査法では腹壁上から卵巣までの距離的関係から超音波周波数を制限せざるをえず,そのため,解像力にも限界があった.1980年代の後半から産婦人科領域に導入されるようになった経腟走査法では,探触子を腟円蓋部に接して操作できるため近位描写に適した高周波数超音波を使用でき,卵巣は経腹走査法に比べはるかに解像力の高い鮮明な画像として描写することができるようになった.さらに,1980年代のおわりころからカラーおよびパルスドプラ法(ドプラ法)が婦人科領域に導入されるようになって以来,従来の形態学的診断に加えて,機能的診断も行えるようになってきた.そのため卵巣および卵巣腫瘍の診断能力はおおいに向上し,現在では完成度の比較的高いものとなっている.

 本稿では,卵巣・卵巣腫瘍の超音波診断の現状について,最近その診断上不可欠となってきているドプラ法も含めて解説する.

3.妊娠

上妻 志郎

pp.1475-1478

はじめに

 産科領域においては,検査法の胎芽・胎児に対する影響という点から,超音波診断の果たす役割は大きい.特に,経腟超音波法は子宮近傍からの観察を可能とするため,得られる情報が経腹法より多く,妊娠前半期において極めて有用である.妊娠早期の子宮内所見は観察可能時期などに関し経腟法と経腹法とで異なることがあるため,診断の際には注意する必要がある.妊娠後半期になると子宮が増大するため,経腟法は子宮頸部とその周辺の観察をする場合に限られ,ほとんどの場合に経腹法が用いられる.その際に,仰臥位での観察は増大した子宮による母体下大静脈圧迫を起こし低血圧ショックを引き起こすことがあるので,妊婦の状態には常に注意を払い,必要に応じ左側臥位での検査を行う.本稿では,紙面の都合上,胎児異常の診断については除外した.

コラム

超音波とCT, MRとの比較―その長所と短所

大熊 潔

pp.1480-1483

1.はじめに

 超音波とCT, MRはいずれも画像診断のなかで大きな位置を占めている.このなかで超音波は装置もCT, MRに比べ安価で簡便に行えることから特に腹部領域ではスクリーニング検査として広く行われている.ところで,スクリーニング検査には病変を広く確実に拾い上げることが求められている.この意味では超音波は多少問題点を抱えているといわざるを得ない.それは,装置・検者・被検者によっても異なるが,どうしても盲点を完全になくすことが困難なことである.すなわち,"確実に"という点が少々問題なのである.臨床的に病変が疑われる場合には超音波で所見がなくてもCT, MRなどを躊躇すべきではないだろう.

 一方,CT, MRは精密検査と考えられている.もちろんCT, MRのほうが診断能に優れていることも多いが,CT, MRよりも超音波のほうが診断能に優れていることもあることは銘記すべきである.すなわち,対象部位・疾患によって超音波,CT, MRの使い分けが必要なのである.

ゼリーについて

大竹 章文

pp.1484

超音波検査を行う経験がある人は必ず1回は手にするのがゼリーである.入社したての新人のころは,なぜこのようなものを体に塗るのか不思議ではあった.よく考えてみると,このような液体を塗って画像を表示する診断法はほかにはないのではないだろうか?

 超音波はとても空気を嫌う.音波が空気中で大きく減衰することで検査する体内に音を送ることができないのは,この検査法が確立する前からの大きな問題となっていたように感じる.それは以前,初期の超音波診断装置の写真を見せていただいたとき,ドラム缶の壁にセンサーを置いて中に水をはって,五右衛門風呂のごとく患者を観察している光景があり,当時はいかに体表とセンサーの間に水の層を挟んで良好な画像が得られるか研究していたかを知ることができた.今考えると研究者の苦労は相当なものだったのだろう.

探触子の消毒と滅菌

大竹 章文

pp.1485-1486

 最近のTVをにぎわせている医療機関でのC型肝炎感染症は,医療に従事する者にとって深刻な問題の1つである.よく間違えられる言葉の定義であるが,消毒と滅菌は大きく異なる.「消毒」(dis-infection)とは,主として病原微生物を破壊することをいう.多量の細菌芽胞がある場合を除き,無生物体に存在するすべての栄養型細菌を破壊する高度消毒処理も消毒のカテゴリーに含まれる.

 また「滅菌」(sterilization)とは,すべての増殖可能な微生物(あらゆる形態)を完全に破壊もしくは除去する処理をいい,有効な滅菌後に製品やユニットに生存微生物が存在する確率が100万分の1以下(10-6)であることをもって,滅菌保証レベル(steril-ity assurance level;SAL)と定義される.

超音波検査と院内感染

大原 智子

pp.1487-1488

 近年様々な医療機器が院内感染に関与することが知られてきている.多くは患者の皮膚や粘膜などに直接機器が接触していくことで,院内感染の原因菌が患者から患者へと広がっていく.今まではあまり注目されなかった超音波機器も院内感染の媒介物としての可能性が指摘されるようになってきた.

 1994年の冬から春にかけてドイツの大学病院の新生児病棟で膿皮症が多発した1).調査の結果,汚染した超音波のゲルによって黄色ブドウ球菌のout-breakが起きたことが判明した.ドイツではルーチン検査である新生児の股関節の超音波検査によって院内感染が起きたわけだが,ゲルの汚染経路は詳しい調査にもかかわらず不明であった.このほかにも,やはり汚染した超音波ゲルによるKlebsiella pneumoniaeの院内感染例2)が報告されている.

医療廃棄物について

尾本 きよか

pp.1489-1490

 2000年1月,栃木県の産業廃棄物処理業者が,医療廃棄物が混入している大量のゴミをフィリピンに違法輸出した事件は大きく報道された.医療機関のずさんな管理体制が浮き彫りにされたこの事件は記憶に新しいところである.

 一言で医療廃棄物といっても,近年その種類は多様化しその定義や取り扱い,処分方法に関しても大きな変遷があり,われわれ医療従事者はそのことに関して熟知していなければならない.まず1989年(平成元年)に,「医療廃棄物処理ガイドライン」が公布され,それまで医療廃棄物は一般廃棄物として扱われていたが,それ以降産業廃棄物として扱われるようになった.1991年(平成3年)には「廃棄物処理法」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)が全面改正され,血液の付着した注射針やガーゼなどの感染するおそれのあるものについては,特別管理廃棄物である感染性廃棄物に指定された.それに伴い1992年に「感染性廃棄物処理マニュアル」が公示された.その後しばらく大きな変化はなかったが,先の事件が契機となり2001年(平成13年)4月には「改正廃棄物処理法」が施行された.それにより産業廃棄物管理票(マニフェスト)制度の見直しや排出業者に対する罰則規定が盛り込まれ,医療廃棄物の排出者である医療機関は,いっそうその責任を問われることになった.

ドプラ法による血流速度,量を計測するときの注意点

重田 浩一朗 , 谷口 信行 , 伊東 紘一

pp.1491

 パルスドプラで描出された血流は,血流方向だけではなくその流速や流れるパターンを表示できる.これはスペクトル表示(またはfast Fourier trans-form表示)とも呼ばれるが,流速は血管の狭窄の有無,そのパターンではRI (resistive index),PI(pulsatility index)などの測定をすることにより血管抵抗の程度などがわかる.なお,パルスドプラ法はサンプルボリュームで特定した場所の血流速を測定できるが,通常約2m/secの流速を超えると測定できないため,それ以上の流速測定には連続波ドプラ法が適している.

 流速を正確に計測するためには,多少の注意が必要である.まず計測したい血管を明瞭に描出しカラードプラで表示する.そして図1のようにサンプルボリュームを設定し血流方向に対して角度補正を行うが,血流速度は血流方向に対するドプラ入射角をθ,流速をv,ドプラ偏移をfd,送信周波数をf,音速をcとするとv=fd×c/2 f×cosθの式で示される.この入射角度の設定が最も重要で,0度なら探触子面に垂直に向かってくる血流を拾うこととなり,ほぼ正確な計測ができる.入射角による補正は当然この角度が小さいほど誤差が少なく,60度を超えると急激に大きくなる.

断層像で径を計測するときの注意点

重田 浩一朗 , 谷口 信行 , 伊東 紘一

pp.1492

 超音波での距離計測には,まず超音波の特性としての分解能に留意しなければならない.分解能には超音波が伝播する(距離・深さ)方向(距離分解能)とそれに直交する(方位・横)方向(方位分解能)があるが,前者のほうが高い分解能を有する(図1).距離分解能は送信波のパルス幅(パルス持続時間)に依存し,パルス幅が狭く,また中心周波数が高いほど距離分解能は高いが,減衰の影響を受けるため深部では浅部に比べると正確な計測ができない.3.5MHの中心周波数ではパルス幅が約0.4~0.5mm,10 MHでは0.1~0.2mmほどであることを考えると,それ未満は正確な計測はできない.また生体内の超音波の伝播速度を1,530m/secとして距離を表示しているが,伝播速度の違いにより正確な値を評価できない場合があることにも注意が必要である.例えば,脂肪組織内(約1,400m/sec)では画像上実際の距離より約10%大きく表示される.

 一方,臨床的な点についてみると,総胆管や主膵管での計測では,図2のようにある程度の厚さをもった壁のどの部位からどの部位までを計測するかということに注意を払う必要がある.その径を測定する場合は,図2のように管壁エコーの体表側から体表側までの計測を行うことになっている.

RF信号を用いた距離計測

谷口 信行

pp.1493

 RF(radiofrequency)信号とは,超音波装置が受信するもともとの信号のことで,図1のような波形をしている.これにはわれわれが超音波検査で得られる情報すべてが含まれており,例えば図1のように,強度がAモード,Bモードなどに利用されるだけでなく,周波数または位相の変化がパルスドプラ法,カラードプラ法などの速度の検出に利用されている.

 RF信号を使う距離計測法は以前から知られているが,超音波画像を用いた距離計測と基本的に異なるのは分解能であり,画像を用いた場合はせいぜい0.1~1.0mm程度であるのに比べ,前者では0.01~0.001mmすなわちその100倍以上正確に計測できる.その理由は,通常の超音波像では異なる2点にキャリパーを設定して距離計測するのに比べ,RF信号を使った計測法では,同じ場所の信号を短時間に2回得ることで,その時間内に目的とするのRF波形がどれくらい移動したかを検出してその距離を計算する.波長より小さいものが測定できるように高性能であるが,大きい移動距離,異なった場所での比較はできず,その使用には制限がある.

Integrated Backscatter

増山 理

pp.1494

 心筋から反射してくる超音波RF信号のパワーがintegrated backscatter (IB)である.現在ではIB値のイメージをリアルタイムに描出できる.このイメージにおいてIB値の大きいところは明るく,小さいところは暗く描出される.このイメージは一見,従来の心エコー図のイメージと同じように見える.しかし,境界をより明瞭に描出する目的の画像処理はしていないので,通常のエコー図に比べ境界は不明瞭である.このイメージでは,心内膜面よりも構造物の輝度に重要な情報が含まれているのである.梗塞心筋や心筋症心筋では線維化が進みコラーゲンを多く含んでいることを反映して,心エコー図上の輝度が正常心筋に比べ高い.このような部位のIB値は大きいが,心筋IB値の絶対値は実際のところ超音波装置のゲインコントロールや胸壁・肺による減衰を受けるために,個人間・患者間の比較には用いられない.心筋IB値は拡張終期に高く,収縮終期に低く,1心拍内で変動し,この現象はIBイメージにおいて輝度の周期的変動として観察しうる(図1).IB値の1心拍内の変動量は,超音波装置のゲインコントロールや胸壁による超音波の減衰の影響をほとんど受けないので,経胸壁アプローチにて非侵襲的に求めうる.ヒト正常心筋におけるIB値の1心拍内の変動量は約4~7dB程度である.

 正常心筋で見られるIB値の1心拍内の変動は,約5~10分の虚血により急激に減少・消失する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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