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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査45巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

今月の主題 酸化ストレス

巻頭言

酸化ストレスと疾病・老化予防

越智 宏倫

pp.235-236

 日本を初めとする先進国においては,高齢化が急速に進み,医療費の増大が国・企業の負担を重くし,国民の生活をも脅かしている.これらの課題を解決するためには,中高年者の健康寿命をさらに延長する必要がある.そして,できれば今の社会制度を漸次変更して,能力があり健康な中高年者の活用をすることによって,活力のある社会を構築することが必要である.現在のように,健康で社会的に寄与できる人を本人の意思とは無関係に,一律に,60歳定年という形で一方的に閉め出しているのは,社会的損失であり,無理があると思われる.また,早い人では,40歳代で,高血圧・糖尿病・動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中・痴呆といった生活習慣病にかかり,こういう人々を営利を目的とする企業では雇用することは難しいと思われる.そういう面で,こういった病気が顕在化する前の未病の段階で対策をとり,健康寿命の延長をすることにより,快適加齢・生涯現役の人を増やすことが輝ける未来のある希望の国日本を作るために必須の条件となる.

 現在,癌をはじめ上述のような生活習慣病の90%以上は,活性酸素やそれに由来するフリーラジカル・過酸化脂質などによる酸化ストレスが発症の要因になっていることが明らかである.近年,遺伝子解析が進み,高血圧など生活習慣病になりやすい遺伝的素因の存在が知られるようになったが,たとえ遺伝子素因があっても,生活習慣をコントロールすることにより,発症を予防できることもわかってきている.

総論・酸化ストレスと生体

酸化ストレスと生体防御機構―バイオピリンを含めて

山口 登喜夫 , 杉本 昭子

pp.237-246

 現在,地球の大気中の酸素(約150mmHg)は,生物に呼吸という酸化反応によるエネルギー獲得を可能にし,一方でオゾン(O3)層により太陽からの強烈な紫外線を遮断して生存圏を広げる大きな恩恵をもたらした.しかし,生物はその誕生時の状況を色濃く保存しており,生体の内部とりわけ細胞内は,極めて還元的(約1mmHg)である.この意味で酸素は,生物にとって基本的には危険因子であり,エネルギー代謝では,おそらく酸素分子を一分子ずつ厳格に制御するよう進化してきたものと思われる.したがって,生物は酸化的攻撃(酸化ストレス)とそれに対する防御反応の微妙なバランスのうえに成り立っていると言える.

遺伝子変異

尾関 宗孝 , 豊國 伸哉

pp.247-253

 酸化ストレスにより生じたDNA損傷は遺伝子変異,ひいては発癌や細胞死,老化を引き起こす.これには活性酸素により生じた8―ヒドロキシグアニンや2―ヒドロキシアデニンといった損傷塩基がかかわっている.最近の研究でその変異誘発機構が解明されると同時に,その修復機構についても関連酵素のクローニングが進むなどさまざまな知見が得られつつある.今後これらの研究成果が,酸化ストレスにより生じる病態の治療や予防に応用されることが期待される.

チオレドキシンによるレドックス制御機構

谷戸 正樹 , 中村 肇 , 増谷 弘 , 淀井 淳司

pp.255-263

 遺伝子の転写・発現,蛋白質の細胞内局在,および細胞の増殖や死の調節などのさまざまな生物現象に,細胞の酸化還元状態を調節するレドックス制御が関与していることが明らかとなってきている.細胞のレドックス制御においてチオレドキシンが重要な役割を果たすことを示す知見が得られている.本稿ではレドックス制御の概念について述べた後,チオレドキシンによるシグナル伝達のレドックス制御と,種々の病態におけるチオレドキシンの関与,チオレドキシンによる生体防御について概説する.

技術解説・酸化ストレスマーカー測定

バイオピリン

塩地 出 , 芳村 一

pp.265-269

 ビリルビンは生体内で抗酸化物質として働き,活性酸素と反応して酸化的分解物が生成する.バイオピリンはこの反応生成物と考えられ,抗ビリルビン・モノクローナル抗体24G7によって認識されるためELISA法で測定されるようになった.この測定系を用いた検討の結果,さまざまな酸化ストレスの負荷によるバイオピリンの尿中排泄量の増加が確認され,さらにその臨床的意義の検討が進められている.また,バイオピリンに属する物質についても研究されており,構造決定されたバイオトリピリン-a,-bはHPLCによって半定量的に分析されている.

DNA酸化損傷バイオマーカー8-OHdGの測定

蔵重 淳

pp.271-280

 癌をはじめ生活習慣病の90%以上は,活性酸素やそれに由来するフリーラジカル・過酸化脂質などによる酸化ストレスが発症の要因になっている.したがって疾病・老化を予防するためには各個人が体内の酸化ストレスの大きさを把握しライフスタイル修正などによりコントロールすることが最低限必要になる.体内の酸化ストレスの大きさを把握する手段として,DNAの酸化損傷物8-OHdGを測定することが有用である.8-OHdGの測定法について,ELISA法を中心に解説する.

チオレドキシンの定量法

衣笠 公博 , 松川 寛和 , 夛田 孝清 , 谷口 嘉之 , 松尾 雄志

pp.281-283

 チオレドキシン(TRX)が生体内の酸化還元状態(レドックス状態)の制御と密接に関連していると考えられるようになっている.これまでに病態と総TRX (酸化型および還元型)量との関連性についての報告はあるものの,TRXのレドックス状態と病態との関係についての報告は少なかった.近年,われわれは還元型TRXに特異的に反応するモノクローナル抗体を調製し,抗原固相化競合EIAによる酸化型TRXと還元型TRXの分別定量について基礎的な実験を行った.

話題

精神的ストレスマーカーとしての唾液中クロモグラニンA

中根 英雄 , 浅見 修 , 山田 幸生 , 矢内原 昇

pp.284-287

1.はじめに

 ストレスは,生体の定常状態(恒常性)が脅かされた状態と定義することができる1).生体はストレス状態に適応し,恒常性を回復しようとするが,このストレスに対する反応は大きく2つの系に分別されている.その1つは交感神経―副腎髄質系で,もう1つは視床下部―下垂体―副腎皮質系であり,前者は後者よりも早期に反応するとされている1).交感神経―副腎髄質系と視床下部―下垂体―副腎皮質系からは,ストレスホルモンとして,それぞれカテコールアミンおよびコルチゾールが分泌され,心拍の亢進や血糖の上昇を促し,生体のストレス対処能力を高めるように作用する.したがって,カテコールアミンやコルチゾールを指標としてストレス評価が可能である.カテコールアミンは血液および尿,コルチゾールはこれらに加えて唾液を用いた測定が実用化されている.しかし,ストレス評価実験ではサンプリング行為自体がストレスになることは好ましくない.この点で唾液は,非侵襲性が高く,フィールドでの実験で頻繁なサンプリングを行っても被験者負担が少なく,検体として恰好である.しかし,唾液中カテコールアミンはルーチン的な測定が困難なことから,カテコールアミンに代わる唾液中の交感神経活動指標物質を探索した.

MDA-LDL

久保野 勝男 , 北野 壮一 , 櫻林 郁之介

pp.289-292

1.はじめに

 酸化LDLとは,LDLを構成している各成分が連鎖的に酸化変性を受けて生成される物質を総称している.したがって,酸化LDLは単一の物質ではない.

 1983年,GoldsteinとBrownはマクロファージがnative-LDLよりも変性LDL (acetyl-LDL)をよく取り込むことを見い出し,マクロファージ上に変性LDLに対する受容体が存在することを報告した1).現在この受容体はスカベンジャー受容体として知られ,クローニングを含めて多くの研究がされている2)

酸化ストレスマーカーとしての血中酸化型α1アンチトリプシン測定法

上田 昌伺 , 真柴 新一 , 内田 壱夫

pp.293-296

1.はじめに

 α1アンチトリプシン(AT)は血清中に存在する代表的なセリンプロテアーゼインヒビターであり,好中球などの炎症細胞から放出されるプロテアーゼを不活性化することで組織障害を抑制する.一方でATは炎症時に好中球などから放出されるフリーラジカルにより酸化され失活することも知られている.この酸化失活は活性中心のメチオニン残基の酸化が原因であるとされており1),フリーラジカルの関与が考えられている疾患において酸化失活したATが検出されている2)

 本稿では,われわれが作製した抗ヒト酸化型AT抗体を用いた血中酸化ATの測定について述べる.

血管内皮細胞の酸化LDL受容体LOX-1

沢村 達也

pp.297-301

1.はじめに

 酸化LDLが動脈硬化の病態生理に重要な役割を果たしているのではないかと考えられるようになって10年以上がたつ.これは動脈硬化巣で特徴的に見られる泡沫細胞形成の過程にLDLよりも何らかの修飾を受けたLDLがマクロファージにより取り込まれることによるらしいという観察と,修飾を受けたLDLとして酸化LDLが実際に生体内に存在し,泡沫細胞の誘導が可能であることから始まった.

 一方,近年の一酸化窒素,エンドセリンなどの内皮細胞由来の血管弛緩,収縮因子,IL-8やMCP-1などのケモカイン,セレクチンやVCAM-1, ICAM-1などの細胞接着因子など血管内皮細胞の機能に重要な分子の相次ぐ発見により,血管内皮細胞の血管機能における役割の重要性が注目を浴びるようになってきた.そしてこれらの分子の病態における動態の解析の結果,酸化LDLが内皮細胞の機能変化を引き起こすという点でも重要な因子であることがわかってきた.酸化LDLで誘導される"endothelial dysfunction"と呼ばれる内皮細胞の変化は一酸化窒素の産生低下や各種増殖因子,接着分子の産生亢進などを指し,高脂血症や動脈硬化症下での血管弛緩能の低下や内膜における平滑筋増殖,白血球の血管への接着,侵入などの血管機能変化を導くと考えられている1,2)

再灌流による組織障害―再灌流心筋障害

林 秀晴

pp.302-305

1.はじめに

 再灌流による組織障害は,脳,肝臓,骨格筋を含む種々の臓器で報告されているが,本稿では心筋における再灌流障害に関して概説する.急性心筋梗塞患者で冠動脈内の血栓が自然溶解したり,異型狭心症患者で冠動脈の攣縮(spasm)が解除すると,血流の再開により再灌流が起こる.近年,急性心筋梗塞症の治療として,冠動脈バイパス手術のほかに血栓溶解療法やバルーンカテーテルを用いた冠動脈形成術(percutaneous transmural coronary angioplasty; PTCA)による再灌流療法が一般化している.このため,血流の再開が心筋や血管に却って障害をきたす再灌流障害の発生機構の解明とその対策が,重要な課題となっている.

今月の表紙 帰ってきた寄生虫シリーズ・15

糞線虫

藤田 紘一郎

pp.232-233

 糞線虫(Strongyloides stercoralis)は熱帯・亜熱帯地域に広く分布し,2億人の感染者がいると推定されている.日本では沖縄を中心に南西諸島に広く分布している.寄生世代の雌成虫は,ヒトの小腸上部粘膜内に寄生して単為生殖によって産卵する.虫卵は粘膜内で孵化し,ラブジチス型(R型)幼虫となって腸管腔内に現れ,糞便中に排泄される.R型幼虫には感染力がなく,外界で発育してフィラリア型(F型)幼虫となってはじめてヒトに経皮感染する.また,一部のR型幼虫は雌雄の成虫となり外界で自由生活を行い,交尾後産卵し,孵化したR型幼虫はF型幼虫に発育してヒトに経皮感染する.

 経皮感染したF型幼虫は血流によって肺に運ばれ,発育後気管をさかのぼり,咽頭,食道を経て小腸上部に寄生する.便秘や発熱時,免疫抑制時には幼虫が腸管下降時に発育してF型幼虫となり,大腸粘膜から組織に侵入して肺に運ばれ,自家感染が起こる.

コーヒーブレイク

郡山の学会から

屋形 稔

pp.288

 20世紀最後の第47回日本臨床病理学会は福島医科大学吉田浩教授の主宰で「21世紀への飛翔」というキャッチフレーズで郡山市で開かれた.吉田氏は夙に誠実な人柄と幅広い学問を積み重ねてきた学徒で,総会もそれを反映して暖かい雰囲気であった.このときにまた学会名称改定の議が認められ,日本臨床検査医学会と改められることになった.あたかも2001年は学会発足後50年の節目となるので1つのエポックとなる学会でもあった.

 私にとっても郡山は3代前までの先祖の墓石が並んでいるゆかりの土地でもある.昔相馬藩からここへ移ってきて以来,代々漢法医であったから墓碑名もすべて代が変るだけで屋形玄伯と刻してある.明治の始め祖父が3里ほど離れた須賀川に開校した医学校を卒業して西洋医となり,仙台医学校を出た父も須賀川の近くに開業して私を育ててくれた.

シリーズ最新医学講座―免疫機能検査・3

妊娠成立の免疫機能

藤井 知行 , 武谷 雄二

pp.307-312

同種移植片としての胎児

 胎児と胎盤の胎児側成分である絨毛細胞はその組織適合性抗原を半分父親から受け継いでおり,免疫学的に父親の性質を有している.したがって,胎児は,母体からみると半同種移植片ということになる.妊娠は,受精卵が子宮内膜の中に入り込んで着床し,胎盤を形成して母体との物質交換系を確立することで成立する.免疫学的にはこの現象は胎児が子宮の中に移植されている状態とみなすことができ,母体にとって異物である胎児は,本来は母体免疫系から拒絶されるべき運命にあるということになる.しかし,実際は拒絶を免れ,母体内で約9か月間発育する.この現象は従来の移植免疫学では説明が困難で,何らかの特殊な免疫機構の存在が考えられる.この特殊な免疫機構の仕組みを最初に唱えたのがMedawarである.

トピックス

呼吸器領域における蛍光内視鏡診断

池田 徳彦 , 清水 恵理子 , 垣花 昌俊 , 古川 欣也 , 奥仲 哲弥 , 小中 千守 , 加藤 治文

pp.313-314

1.はじめに

 癌の部位別死亡者数で,肺癌は男性において1位になり,女性でも増加を続けている.肺癌撲滅のためには早期肺癌の発見と癌予防が必須と考えられる.早期肺癌の発見を目指した検診において,胸部X線検査と喀痰細胞診が行われているが,喀痰細胞診によって発見された癌は比較的良好な予後を期待できる.しかし上皮内癌や異型扁平上皮化生などの微細な病変は通常の白色光気管支鏡では所見を捉えることが困難な場合がある.この問題を解決すべく,正常組織と病変部における自家蛍光の差に着目することにより従来の内視鏡では不可視の病変を診断する診断法(蛍光診断)が開発された.

細胞診モノレイヤー標本―有用性とその将来

高松 潔 , 照井 仁美 , 長島 義男 , 齊藤 深雪 , 太田 博明 , 野澤 志朗 , 向井 萬起男

pp.315-318

1.はじめに

 Papanicolaouらにより細胞診が1つの技法として開発されてから,はや半世紀がたとうとしている.この間に細胞診は癌検診などの手法として広く浸透し,その存在意義が確立されており,細胞診の有用性については異論はないであろう.しかし,従来のスライドグラスへの直接塗抹法では,採取した検体の20~30%程度しか塗抹されず70~80%の細胞が採取器具上に残存されたまま廃棄される,スライドグラス上に均一に塗抹されない,標本の背景にある血液,粘液,debrisなどにより不明瞭域を作ることがある,などといった問題点があり,正確な診断の妨げ,特に偽陰性の原因となっていることが指摘されている1~3).また,近年のコンピュータ技術の進歩に伴う画像処理能力の飛躍的発展は,従来の顕微鏡を用いたヒトの目による細胞診断を自動化する可能性を現実のものとしつつあるが,この細胞診断の自動化のためにも背景がきれいで細胞の重なりの少ない標準化された標本が必要となる.そこでこれらの問題を解決するために,近年米国を中心に,新しい標本作製法により作製されたモノレイヤー標本4,5)が臨床に導入されており,本邦においても利用が可能になっている.

 本稿ではモノレイヤー標本の実際について概説する.

質疑応答 臨床生理

エアーカロリック検査の温度設定

K生 , 國弘 幸伸 , 神崎 仁

pp.319-320

 Q 平衡機能検査の1つとしてエアーカロリック検査を行っています(20°,50℃,1分間刺激).検査終了後に吐き気・嘔吐など気分を悪くする患者さんが時々あり困っております.

 このようなことを少なくし,臨床的にも役立つデータを得るには,温度設定をどのくらいにすればよいのでしょうか.ご教示下さい.

研究

新しい抗α-synuclein抗体の作成とその特性に関する検討

原 幸子 , 太田 茂子 , 大森 智弘 , 林 恵美子 , 今関 ひろみ , 谷合 修 , 三宅 和夫 , 松下 幸生 , 高橋 久雄 , 村松 太郎 , 臼田 信光 , 荒井 啓行 , 樋口 進

pp.321-325

 Synuclein蛋白は,α,β,γの3種類あり,なかでも,α-synuclein蛋白は,ヒトの4番染色体に位置するアミノ酸140からなる蛋白で,その機能は十分に解明されていないが,神経変性疾患の中心的役割を担っているのではないかと考えられている.

 われわれはα-synuclein蛋白のC末端のアミノ酸配列からポリペプチドを合成し抗α-synuclein抗体(α-SYN)を作成した.α-SYNは鮮明にLewy小体を免疫組織染色で認識した.Western blotting法でも,脳組織およびrecombinantα-synuclein蛋白と反応し,吸収試験において特異性を確認した.これらから,われわれの作製したα-SYNは,免疫組織染色,Western blotting法に極めて有用な抗体であると考えられる.

リサイクルを主軸にした環境保全型パパニコロウ染色

野畑 真奈美 , 中根 昌洋 , 中村 清忠 , 中井 美恵子 , 山田 義広

pp.327-330

 刈谷総合病院では,医療における環境対策を推進するために積極的に活動している.

 環境に配慮したパパニコロウ染色は,病理科の取り組みの1例である.リサイクルによる循環型の溶剤利用システムを取り入れ,使用する科学物質は,低毒性のものへの移行や削減を図っている.リサイクルは,日常業務に無理なく組み込まれ,標本の質もほとんど変化が見られなかった.これにより使用量,廃棄量の大幅削減が可能となった.

学会だより 第42回日本臨床血液学会総会

20世紀から21世紀へ:Genomeからpostgenomeの時代の臨床血液学

加藤 淳

pp.326

 第42回日本臨床血液学会総会は,川崎医科大学血液内科教授八幡義人会長のもと,2000年11月8~10日3日間にわたり倉敷市で開催された.本学会の特徴としては,八幡会長の方針で一般演題660題のうちから特に優れたものを選抜したplenary oral ses-sion 25題が新設されたことと,教育講演がこれまでになく25題と数が多く充実していた点が挙げられるが,特に教育講演は血液学を志して間もない比較的若い会員の間で好評であった.また今回から日本臨床血液学会学会賞が設けられたが,今後若い世代の研究意欲を鼓舞することであろう.

 学会の構成は,会長講演,一般演題のほかに,招請講演,会長推薦講演は,シンポジウムが各6題であった.会長講演は,"Genomeからpostgenoneの時代へ:赤血球膜異常症の研究から"という題名で,赤血球膜異常症の発症機序について,1974年から今日に至るまで川崎医科大学で検索された約800症例を中心とした総説であったが,わが国の第一人者としてその道一筋に歩んで来られた八幡会長の真摯な研究姿勢に感銘を受けた会員は少なくなかったであろう.

学会だより 第47回日本臨床病理学会総会

変貌を遂げる日本臨床病理学会

磯部 和正

pp.338

 第47回日本臨床病理学会総会は,福島県立医科大学臨床検査医学教授の吉田浩総会長のもと,2000年11月2~4目の3日間郡山市の産業展示館ビッグパレットふくしまで開催された."21世紀への臨床検査への飛翔"というテーマのもと,総会長講演,特別講演2題,招待講演2題,教育講演12題,シンポジウム11テーマ61題,フォーラム7題,R-CPC2症例,一般演題(口演157題,ポスター237題),専門部会講演会3題,機器試薬セミナー12題,標準委員会,臨床検査標準化協議会報告とテーマに相応しい内容の会であった.

 本総会は今回で47回と半世紀近い歴史を持つが,臨床病理学会が11月3日付けで,日本臨床検査医学会という名称に変更になった.全国の大学医学部の講座名の多くが臨床検査医学であり,また,臨床検査医学のほうがより内容を表していることを考えるといたしかたないと言える.2000年が臨床病理学会の最後の年となったわけである.2000年の臨床病理学会は,10月30,31日に仙台市で開催された第40回日本臨床化学会年会に連続して開催されたが,2001年度は合同で8月にパシフィコ横浜で開催される.これも時代の流れで,学会開催の統合化が進められている.

21世紀の医療を支える臨床検査医学

石橋 みどり

pp.339

 20世紀最後そしておそらく"臨床病理"という名の最後の学会となるであろう"第47回日本臨床病理学会総会"は福島県立医科大学の吉田浩教授を総会長に,郡山市にある福島県産業展示館"ビッグパレットふくしま"で2000年11月2~4日の3日間開催された.

 郡山は丁度紅葉の季節で,街のあちこちにある銀杏や家の外壁に絡まるツタの葉が美しく色づいていた.

資料

心エコー図検査時に観察された食道病変

谷内 亮水 , 清遠 由美 , 山﨑 由紀 , 北添 寛 , 沼本 敏

pp.331-334

 われわれは,1996年11月~1999年10月までの3年間に心エコー図検査時に,左房後方の腫瘤エコーとして観察された7例の食道病変を経験した.病変は,食道癌4例,食道裂孔ヘルニア2例,アカラシア1例であった.食道癌4例中3例は低エコーの中心に強いエコーを有する所見であった.腫瘍でない3例は,消化管の一部が腫瘍様に描出されたものであった.食道病変を有する患者の心エコーを行う場合には,その観察を行うことも重要である.

編集者への手紙

血清尿素窒素(BUN)測定時に認められた分析機器間における測定値の乖離現象

山田 満廣 , 河村 ゆき江 , 南口 隆男 , 小味渕 智雄

pp.335-337

1.緒言

 当病院臨床検査部門の臨床化学検査では,血清尿素窒素(BUN)の測定にアンモニア消去法に基づいた(株)セロテックのウレアービ・GLDH-UV法による"UN-SL試薬"を採用し,これを日立7170形および7350形自動分析装置に適用のうえ日常検査に対応している.さらに,7170形については当直時間帯を含め24時間体制の中で稼働している.この間,1999年10月末より7170形と7350形自動分析装置間において明らかな測定値の乖離が認められるようになった.そこで同社の協力を得,その原因を追求すべく小実験を施行したのでその結果について報告する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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