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文献詳細

雑誌文献

臨床検査47巻11号

2003年10月発行

文献概要

特集 プロテオミクスに向かう臨床蛋白質検査 1章 プロテオミクスの基礎

1. プロテオミクスの概念とプロテオーム解析

著者: 平野久12

所属機関: 1横浜市立大学木原生物学研究所 2横浜市立大学大学院総合理学研究科

ページ範囲:P.1209 - P.1214

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はじめに

 ゲノム遺伝子によって合成される多種類の蛋白質ひとそろいをプロテオームと呼ぶようになって数年が経過した.いま,ゲノム解析の成果を利用しながらプロテオームを構成する多数の蛋白質の機能や機能的なつながりをハイスループットな分析方法を用いて明らかにし,生命現象を統一的に理解しようとするプロテオーム研究に大きな関心が寄せられている.医療,創薬の分野では,新規な診断マーカーや創薬ターゲット分子を見いだすために,プロテオーム解析の手法を用いて疾患や環境,薬物などによって発現が変動する蛋白質を検出し,その働きを解明しようとする研究が精力的に進められている.本稿では,プロテオームやプロテオミクスの概念とプロテオーム解析に用いられるいくつかの技術について概略を述べることにする.

 「プロテオーム」は「ゲノム」に対応することばとして1995年に誕生した.ゲノムが機能的に調和のとれた生活を営むのに必要な最小限の遺伝子群ひとそろいを指すのに対して,プロテオームはそのゲノムに含まれる遺伝子によって合成される多種類の蛋白質ひとそろいを指している.1990年代に本格的に始まったゲノム遺伝子の塩基配列の分析は10年ほどの間で飛躍的に進展し,ヒトをはじめとする多くの生物でゲノム遺伝子の全塩基配列が明らかにされた.この解析で,例えばヒトではゲノム中に約3万1千の蛋白質をコードする遺伝子が含まれていることがわかった.これはヒトのプロテオームには少なくとも3万1千の蛋白質が含まれることを示している.ゲノム解析によって存在が予測されたこれらの蛋白質の機能を既存のデータベースを検索して調べると,すでに機能が明らかにされているものは50%程度に過ぎないことがわかる.ヒト以外の生物でもこの状況は類似しており,機能が未知の蛋白質の割合は極めて高い.そのため,これからは機能が明らかにされていない多数の蛋白質の機能を解明するとともに,生体マシーナリーを構築する蛋白質群の機能的なつながりを明らかにし,生命現象を統一的に理解しようとする研究,すなわち,プロテオーム研究を推進することが重要であると考えられるようになった.

 プロテオーム研究によって,生物の増殖分化,成長,老化といった生命の基本現象にかかわる蛋白質が多数発見されると予測されるが,これらの蛋白質の発現を調節することによって増殖分化,成長,老化などを制御する技術を開発することができる可能性がある.また,プロテオーム解析では,疾患や環境,薬物などによる蛋白質の発現の変化をとらえることができると考えられるが,これによって新規な診断マーカーや創薬ターゲット分子を探索できると期待されている.

 プロテオーム研究は,ゲノムシークエンス解析の終了を受けて始まったものであるが,ここ数年の発展は目覚ましく,プロテオミクス(プロテオーム科学)とよばれるプロテオームに関する新しい学問領域も発展してきた.プロテオーム研究は,近年,発達の著しい質量分析装置(MS)などを駆使して,ゲノム解析に相当するようなハイスループットな分析によって1,2の蛋白質ではなく,多数の蛋白質の機能や機能的なつながりを明らかにすることを目標としている.この点で従来の蛋白質分析とは大きく異なっている.

 プロテオーム解析の対象は多数の蛋白質であるから,プロテオーム解析を本格的に進めるためにはかなり大規模な研究施設が必要になってくる.厚生労働省は,2003年内に疾患関連蛋白質の同定を目的とした大規模研究施設,創薬プロテオームファクトリーを大阪に建設することを決定した.政府が作る大規模なプロテオーム研究施設は世界的にも例がない.また,2002年から2003年にかけて,プロテオームファクトリーほど大規模ではないが,経済産業省,大学,企業などのプロテオーム研究施設がいくつか設立された.いま,これらの研究施設で得られる成果に大きな期待がかけられている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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