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文献詳細

雑誌文献

臨床検査47巻11号

2003年10月発行

文献概要

特集 プロテオミクスに向かう臨床蛋白質検査 3章 動き出しているプロテオミクス研究

2. 脳神経系腫瘍および変性疾患の病態プロテオミクス

著者: 荒木令江1

所属機関: 1熊本大学大学院医学薬学研究部先端生命医療科学科医育再建・移植医学講座腫瘍医学分野

ページ範囲:P.1373 - P.1385

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はじめに

 「ポストゲノム」時代における新たな研究分野として「プロテオミクス」が注目されるようになって4年近くになる.生物の細胞・組織・個体レベルの発現蛋白質を網羅的に解析しプロファイリングすることによって,これらの性格付けや生理的(発生・分化・細胞周期・細胞死など),あるいは病態における生物学的変化や特徴を蛋白質レベルで詳細に説明することを目的とするこの新しい科学分野は,ノーベル化学賞に値するほどの革新的な発展を遂げた質量分析器やNMRなどの蛋白質構造解析装置/解析法の開発推進のおかげで,ますますその可能性が期待されるようになった.特に,ヒトの様々な疾患に関連する蛋白質群のプロテオミクスによる検索と,これをターゲットとした治療法や予防法開発,臨床検査への応用は,オーダーメイド医療につながるものとして最も大きく期待されている.病態プロテオミクスは,様々な疾患対象の生物学的な個性,各時点における病態・進行状況等を蛋白質レベルで詳細かつ正確に解析して,個々の疾患発症メカニズムや各患者に最も適した治療標的や臨床マーカーなどを明らかにし,合理的な治療薬や予防法を開発することを目的としている.そのためには,疾患原因遺伝子だけではなくて,その遺伝子が作る蛋白質と,それに関連して細胞内で時間とともに変動している蛋白質群が織りなす,細胞内クロストークや機能発現制御ネットワークを,翻訳後修飾情報を含めて詳細に解析し,系統的に整理する必要がある.ここに,プロテオミクスを利用した病態研究,すなわちゲノム研究に対応した蛋白質レベルでの組織細胞の網羅的研究の必要性があるわけである.さて,現状において,病態プロテオミクスはどこまでが可能で,将来的にはどのような発展を遂げるのか? われわれは,脳腫瘍を含む脳疾患に関連する病態プロテオミクスを展開するため,脳組織・細胞のプロテオームマップの作成とデータベースの構築を行っており,病態マーカーの検索のみならず,脳科学全体に貢献できるアトラスの実現化を目指している.現在,脳にかかわる病態プロテオーム解析は主にグリオーマなどを中心とした脳腫瘍や,アルツハイマー病などの原因不明の神経細胞死による脳神経系変性疾患にかかわるものが世界的な関心をもって展開されつつある.本稿では,これらの脳疾患研究における病態プロテオミクスの現状,将来への可能性と問題点を,われわれの研究を紹介しながら概説したい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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