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特集 プロテオミクスに向かう臨床蛋白質検査 4章 プロテオミクスの展望―この先どこへ行きつくのか
4. グライコプロテオミクスの現状と将来展望
著者: 亀山昭彦1 成松久23
所属機関: 1産業技術総合研究所糖鎖工学研究センター糖鎖遺伝子機能解析グループ 2産業技術総合研究所糖鎖工学研究センター 3筑波大学大学院医学研究科
ページ範囲:P.1459 - P.1468
文献購入ページに移動プロテオミクスは単なる技術開発の段階から,病態との関連を調べようとする応用段階に入り,臨床検査の観点からは新規な疾患マーカーの発見やオーダーメイド医療への応用がおおいに期待されている.しかし,現状のプロテオミクスでは明らかにできない蛋白質の構造,機能,ネットワークなどが,実はかなり存在している.なぜ明らかにできないか,その理由の1つとして,最も一般的で最も複雑な翻訳後修飾である糖鎖修飾解析法の未熟さを挙げることができる.生体内の蛋白質のおおよそ50~70%は,糖鎖修飾を受けた糖蛋白質であり,それらの糖鎖は糖鎖遺伝子の厳密な制御に基づいて順次付加され,完成された蛋白質となって本来の生理機能を発揮する.正しく糖鎖修飾を受けていない蛋白質は本来の機能を果たすことができず,その結果,個体に様々な病態変化をもたらす例は珍しくない.また病態変化が,蛋白質の糖鎖修飾に影響を与えることもよく知られた事実であり,多くの糖鎖性腫瘍マーカーや過度のアルコール摂取における糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)などはその典型といえる.これらのことは,プロテオミクス研究が,単に蛋白質の同定を目的としているレベルでは問題とはならないが,蛋白質の相互作用や機能解析を目的とする場合には,現在のプロテオミクス技術では本来の生命現象を明らかにできない可能性がおおいにある.しかし,蛋白質の糖鎖修飾は,その複雑さゆえに現在のプロテオミクスではほとんど無視されているのが実状である.
筆者らは数年前から糖蛋白質の相互作用や機能解析の基盤研究として,「どの糖蛋白質のどこにどのような糖鎖が結合しているか」を網羅的に解析するための技術開発の必要性を提唱し,それをグライコプロテオミクスと呼んできた.そこに求められる解析技術は熟達した専門家のみが可能である従来の方法ではなく,誰でも簡単に,微量のサンプルをハイスループットに解析でき,プロテオミクスと歩調を合わせて同時並行で実施できる新規テクノロジーである.しかし,このような研究を進めるための技術的な課題は山積みであり,これがグライコプロテオミクスである,といえるような完成された技術は現時点では存在しない.本稿では,このような研究が必要とされる背景,そして具体的にどのような課題があり,それらに対してどのようなアプローチがなされているのかを概説し,将来を展望してみたい.
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