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文献詳細

雑誌文献

臨床検査48巻1号

2004年01月発行

文献概要

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・1

総説:分子病理学の病理診断への適用

著者: 林祥剛1

所属機関: 1神戸大学大学院医学系研究科遺伝病統御学分野・神戸大学医学部附属医学研究国際交流センター

ページ範囲:P.87 - P.93

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分子レベルで考える疾患

 ヒトの身体は,約60兆個の細胞から,成り立っている.それぞれの細胞には,それぞれの役割がある.例えば,肝細胞には,アルブミンなどの肝臓に特異的に産生される蛋白を必要に応じて産生するという役割がある.心筋細胞では,血液を全身に送るための収縮活動に必要な蛋白が作られる.それぞれの細胞が勝手気ままに活動すると全体としての身体の統一された働きが破綻する.これが病気である.人の身体はオーケストラのようなものである.どの細胞が指揮棒を振っているのかは,まだ明らかでないが,互いに連絡を取り合って調和のとれた働きをしている.われわれの社会では,外の様子を知らせるために,空中に飛び交う電波を使って各家庭に多くの情報を送る.細胞も同様である.血液,体液中にはリガンド(ホルモン)といわれる特殊な蛋白質が流れている.このリガンド(ホルモン)が身体の様子を個々の細胞に知らせるのである.血圧が下がった,血糖値が上がった,過重な運動で手足の筋肉が酸欠状態だなどと知らせるのだ.電波を捕らえるアンテナのような働きをしているのがレセプターである.多くのレセプターは細胞膜を貫通するアンテナのように立っている.このレセプターにリガンドが付着し,レセプターに情報が伝達される.次にレセプターを伝わって外界の情報は細胞膜直下に伝えられる.ここから核までの距離は遠い.レセプターに伝わった情報を核まで伝えるのに多くの分子が,まるで伝言ゲームを行うかのように次から次へと情報を伝えていく.この伝達物質をシグナル伝達物質といい,伝言ゲームは,言葉で情報を伝えるがシグナル伝達物質は主にリンイオンを介して伝えるのだ(図1).核では,核蛋白(ヒストン)の中でDNAが折りたたまれている.DNAには蛋白の設計図になる3~4万個の遺伝子と呼ばれる部分が散在している.それぞれの遺伝子近傍には,プロモーター・エンハンサーと呼ばれる特殊なDNA配列をもつ部分が存在し,プロモーター・エンハンサーに特定の核蛋白が付着するとその部分のDNAが適当な立体構造をとり,mRNA(メッセンジャーRNA)が転写され(mRNAの段階で,核外に移動して細胞質に存在する),リボゾームの働きでアミノ酸に翻訳されて蛋白が合成される(図2).

 分子生物学が発達した現在,すべての疾患はこのリガンド(ホルモン),レセプター,シグナル伝達物質,核蛋白,DNA(ゲノム)のどこかに破綻があるために起こると考えてよい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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