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文献詳細

雑誌文献

臨床検査48巻11号

2004年10月発行

文献概要

特集 動脈硬化-その成り立ちと臨床検査 1章 動脈硬化の発症メカニズム

4. 動脈硬化性疾患の疫学―わが国で増加しているのか

著者: 嶋本喬1 飯田稔2 磯博康3 佐藤眞一4 北村明彦5

所属機関: 1大阪府立健康科学センター 2関西福祉科学大学福祉栄養学科 3筑波大学大学院人間総合研究科医学系専攻社会健康医学 4大阪府立健康科学センター健康度測定部 5大阪府立健康科学センター健康開発部

ページ範囲:P.1200 - P.1207

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はじめに

 動脈硬化性疾患として臨床的に取り上げられる代表的なものは,脳卒中(特に脳梗塞)と虚血性心疾患(心筋梗塞,狭心症など),さらにBurger氏病のような四肢末梢の動脈病変であろう.ここでは,脳卒中と虚血性心疾患に絞って述べる.

 さて,「わが国で増えているのか」という問いかけに対してであるが,一般には増加しているという印象をもたれているようである.しかし,その根拠はどんなものであろうか?

 一般臨床医家の印象は自分の扱う患者数のなかで,脳卒中や虚血性心疾患の患者数やその割合の動向によって左右されることが多い.救命救急医療の進歩,再発防止やリハビリの進歩などにより,これらの疾患に罹患しても直ちに死に至ることは少なくなり,急性期を脱した患者は入院,あるいは継続的に受療することが多く,患者数は増えていると思われやすい.たとえ,その地域で患者の発生数や人口当り発生率が予防医学の進歩などによって減少していても,一般医家にはその情報は把握しにくいから,患者数の増加のみが印象づけられることになる.また,循環器を専門とする医師,あるいは医療機関には,循環器の患者が集中しやすく,増加しているとの印象が増幅されがちである.逆に,循環器を専門としていない医師では動脈硬化性疾患患者が減っても,専門外であるため,「減った」とは声高に発言しないようである.本稿での「わが国で増加しているのか」という問いかけであるが,このような個々の医師の印象ではわが国の全体としての姿は明らかにし難い.

 また,「わが国で増加しているか」という問いに対して,その答えは立場によっても異なってくる可能性がある.例えば,予防医学の立場にある者では新患の発生(罹患率または発生率)が少なくなるか,あるいは総数では低下しなくても,年齢別にみて発生が比較的若年者で減り,高齢にシフトすれば減少していると考える.すなわち,予防対策の効果は上がっていると考える.

 しかし,国や地域の医療計画に携わり,患者数に応じた専門機関や専門医や専門技術者を配備したりする立場からは,年齢にかかわらず患者数の増減が問題である.たとえ,罹患率が増加しないか減少した場合でも,救命救急や再発防止がうまくいけば,死亡を防ぎ,生き残った患者数(有病者数)は増加することもありうる.そうすると同じ状況下において一方では「増加」ととらえ,予防医学や疫学に携わる者は「不変」あるいは「減少」ととらえることになり,両者の見解は一致しなくなる.

 したがって,性急に増減を結論づけるのではなく,全国的に死亡統計(死亡数,死亡率),患者統計(有病数,有病率),あるいは一部の地域になるが患者発生の状況(発生数,発生率)などを総合的に検討する必要がある.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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