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特集 動脈硬化-その成り立ちと臨床検査 5章 動脈硬化性疾患の画像検査
3. MRI,MRA
著者: 林田稔1 岡田宗正1 松永尚文1
所属機関: 1山口大学医学部放射線科
ページ範囲:P.1403 - P.1410
文献購入ページに移動動脈硬化とは,動脈壁の内膜が肥厚し,弾性線維や平滑筋細胞からなる中膜が変性し,本来動脈壁がもっている弾力性の減衰とともに,石灰沈着などにより硬化を生じた状態である.
動脈硬化は全身疾患であり,長い経過で発生,進展してくるが,その進展に伴って様々な病態が生じ,症状が発現する.その画像診断には,超音波,CT(computed tomography),MRIなどが行われる.
MRIはmagnetic resonance imagingの略で,核磁気共鳴現象(NMR現象)という物理学的現象を用いて人体内の水素原子からNMR信号(電磁波)を得て,それを画像にしたものである.通常,超電導磁石を用い,0.5~1.5テスラの強い磁場の静磁場と傾斜磁場からの信号をコイルで受信し,得られたデータをフーリエ変換し画像化している.組織からNMR信号を得てそれを画像とする方法は撮像法(パルスシークエンス)と呼ばれるが,効率良く,短時間に,良好な,または特殊な目的に合った画像を得るために多くの撮像法が開発されている.組織間コントラストがCTと比較して高く,特に体動によるアーチファクトが生じにくい頭頸部領域においては必須の画像診断法として確立されている.
MR angiography(MRA)は,MRIによる血流イメージングの総称であり,撮像法の進歩に伴って非侵襲的な血管描出法として診断能の向上が進み,現在では頭部から軀幹部,四肢に至る広い領域で用いられている.CT angiography(CTA)では,造影剤使用が必要であるが,MRAでは非造影で撮像可能な部位もあり,CTAより低侵襲と思われる.しかし,造影MRAの画質は非造影MRAより優れている場合もあり,特に大血管MRAの場合には造影検査が必須である.しかし,装置や技術の進歩に伴い,全身撮影ができるMR装置も登場してきており,全身の血管を一度に評価できる時代も遠くはないと思われる.
MRIは磁気共鳴画像であるため,CTと異なりX線被曝がなくより低侵襲的に動脈壁や血栓の状態を,各種シークエンスを用いることで造影剤を用いずに評価できる利点がある.また造影MRAでは造影剤の投与量がCTAの約1/10程度ですみ,用量依存性の副作用も比較的低く,腎機能への影響も少ない.しかしMRIでは,CTで明瞭に描出される石灰化病変は評価できず,特に内膜の石灰化の評価にはCT撮影は欠かすことはできない(図1).またMRIは撮像対象の動きに弱く,呼吸や心拍動などにより画質が低下することがある.このような部位の撮像には呼吸や心拍動に合わせた撮像(呼吸同期,心電図同期)方法を選択すると,画質低下を軽減できる.
全身の動脈硬化に伴う変化としては,動脈壁のプラーク形成,動脈内腔の狭小化,動脈瘤形成などが主であり,MRIおよびMRAを用いて壁の性状や血管内腔の形態,また壁在血栓の状態も評価可能である.また,動脈硬化による各種末梢臓器の血流障害像などもMRIでは描出可能である.
以下,動脈硬化によって起こる主な変化について,➀頭頸部血管狭窄と脳梗塞,➁冠動脈狭窄と虚血性心疾患,➂大血管およびその分枝の動脈硬化,➃下肢動脈狭窄・閉塞(閉塞性動脈硬化症)の4分野に分け,部位ごとに適切と思われる撮像法も含めて概説する.
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