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文献概要
シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・2
消化管癌
著者: 安井弥1 近藤丈博1 大上直秀1
所属機関: 1広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子病理研究室
ページ範囲:P.232 - P.240
文献購入ページに移動形態学的観察に基づいた病理診断は,消化管癌の臨床において決定的な意義を有している.生検組織における病変の質的診断はもちろんのこと,EMR(endoscopic mucosal resection)標本における病変の広がり,脈管内侵襲および断端浸潤の有無の診断は,後治療の選択・決定に不可欠である.しかし,病理組織診断には,いくつかの限界が存在する.すなわち,良性と悪性の中間的な形態を示す境界領域病変の存在,生物学的悪性度や予後の類推における限界などであり,また,遺伝性腫瘍の可能性や発癌リスク,薬剤感受性に関する情報を形態変化から得ることはほとんど不可能である.
これまでの分子病理学の最大の使命は,様々な新知見の病態における普遍性の検証であり,その精力的な研究を通じて,消化管癌の発生・進展機構の概略を明らかにしてきた.そこから得られた成果を診断に応用した分子病理診断も一部では実践されている.一方,マイクロアレイをはじめとする最新技術の応用により,消化管癌の発生・進展の分子基盤についてもより詳細で膨大な情報が得られるようになってきた.「病理学」が「病気の本態を究める総合の医科学」であるという視点に立つと,ポストゲノム時代といわれる今,遺伝子解析と形態学的観察を包括した分子病理学的アプローチにより個々の腫瘍の病態を把握し,ゲノム医療に直結する診断を行う必要がある.
本稿では,「病理診断」を消化管病変の生検あるいは切除組織に対する包括的診断と捉え,診断に役立つ古典的分子・遺伝子マーカーの解説に加え,組織検体を用いた発癌リスクや薬剤感受性などに関する新しい分子病理診断の展開について,われわれの胃癌における知見を含めて概説する.
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