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文献詳細

雑誌文献

臨床検査48巻6号

2004年06月発行

文献概要

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・6

転写因子と癌Ⅱ:BRCAと発癌

著者: 吉田清嗣1 三木義男1

所属機関: 1東京医科歯科大学難治疾患研究所ゲノム応用医学研究部門分子遺伝

ページ範囲:P.701 - P.709

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はじめに
 家族性乳癌の原因遺伝子として同定されたBRCA11),BRCA22)は,その発見から10年を迎え,めざましい研究の進展により機能や異常について理解が深まりつつある.と同時に,その機能が多岐に渡ることから機能間の整合性という点において相反する報告も多い.一方,その生殖細胞変異による遺伝子異常は多数明らかにされており,欧米では家族性乳癌の発症前リスク診断としてのBRCA1,BRCA2の遺伝子診断が日常診療として行われている.その結果保因者であった場合には積極的に予防的処置がとられており,実際に欧米では家族性乳癌の60%程度に,わが国でも50%程度にBRCA1あるいはBRCA2に生殖細胞変異がみられると推測されている3).またBRCA1は卵巣癌にも関与しており,乳癌と卵巣癌を伴う家系の80%以上において何らかのBRCA1の変異が存在する.その一方で一般(散発性)乳癌におけるBRCA1,BRCA2の体細胞変異は極めて稀であり,一般乳癌への関与は現在に至るまで不明である.
 BRCA1は癌抑制遺伝子であることから,当初は細胞増殖を抑制する機能を担うと推定され,BRCA1が欠損すると細胞増殖が活性化するのではないかと考えられていた.しかしBRCA1のノックアウトマウスでは細胞増殖が低下しており,染色体の構造異常などがみられた.同様の現象がBRCA2ノックアウトマウスでも観察された.こういったことから癌抑制遺伝子には細胞増殖を制御するタイプ(gatekeeper)だけでなく,ゲノムの安定化に働くタイプ(caretaker)が存在することが提唱された4).BRCA1,BRCA2は典型的なcaretaker型の癌抑制遺伝子といえる.
 BRCA1とBRCA2に共通する最も重要な機能としてDNA修復によるゲノム安定性維持が挙げられ,それらの変異による機能不全は修復機構の破綻を引き起こし,発癌へ結びつくと考えられている.さらにBRCA1,BRCA2は遺伝子発現における転写調節という機能も有しており,そのメカニズムが少しずつ明らかにされてきているが,この役割における変異と機能不全との関係についてはいまだ不明な点が多い.本稿では主にこの転写調節におけるBRCA1とBRCA2の役割について,発癌機構への関与を含め概説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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