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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査48巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

今月の主題 更年期障害と甲状腺ホルモン

巻頭言

更年期障害と甲状腺ホルモン

菅野 剛史

pp.833-834

 更年期にみられるいろいろな症状は,基本的には卵巣の機能が成熟期から機能停止に至るまでの,主として性ホルモンの変動に起因するものであるが,一定の症状を示すものではなく,個人差があることはよく知られている.しかし,この変動期の症状は,単に性ホルモンの変動に限定されるものではない.この変動を抑えるためにホルモンの補充療法が行われるが,性ホルモンにのみ焦点を当てるのではなく,関連する内分泌臓器のすべてに目が向けられるべきである.その1つとして甲状腺ホルモンに注目したのが,本特集である.

 「足りなくなったら補充すればいい」というのが基本で補充療法(hormone replacement therapy;HRT)は開始された.しかし,一筋縄では症状の改善はもたらされなかった.微妙なバランスの上に内分泌ホルモンの調整がなされていた.この特集は,そのなかの主要な相互関係を示す性ホルモンの変動と甲状腺ホルモンのバランスを取り上げたものである.

総論

更年期障害

三宅 侃

pp.835-840

〔SUMMARY〕 更年期障害は,更年期の卵巣機能の衰退に伴う女性ホルモンの減少・欠落により起こる,器質的変化に相応しない不定愁訴症候群である.42歳から56歳の更年期女性の約30%に起こり,日常生活に支障をきたす程度のやや重度のものを指す.更年期障害は,自律神経失調症状,精神神経症状が主で,症状は多種多様で一定せず移ろいやすい特徴がある.診断や治療は理論上難しくないが,実地臨床では治療に困難を要することがある.

甲状腺ホルモンと性ホルモン

猿井 宏

pp.841-845

〔SUMMARY〕 Estrogenは甲状腺結合蛋白であるthyroxine-binding globulin(TBG)を増加させ,甲状腺機能低下症患者においては遊離甲状腺ホルモン値が低下することがある.女性ホルモンが自己免疫性甲状腺疾患の発症や甲状腺腫瘍の増殖に関与していることを示唆する報告もある.逆に甲状腺ホルモンはsex hormone binding globulin(SHBG)の産生の刺激や末梢組織でのandrogenからestrogenへの転換(aromatase)を亢進させる.

各論

更年期の疾患と甲状腺ホルモン

甲村 弘子

pp.847-854

〔SUMMARY〕 甲状腺ホルモンは骨代謝を亢進させ,甲状腺機能が亢進すると続発性の骨粗鬆症が起こることが知られている.閉経後のエストロゲン低下状態では,甲状腺機能亢進症は骨量を著明に減少させ骨粗鬆症を誘発しやすいので注意が必要である.また甲状腺機能低下症ではうつ症状がみられ,更年期の退行期うつ病との鑑別が必要となる.バセドウ病での精神症状は更年期障害としての精神症状と紛らわしいことがある.バセドウ病には心身両面からのケアが必要である.

更年期障害とホルモン補充療法

廣田 憲二

pp.855-859

〔SUMMARY〕 WHI報告によりHRTを冠動脈疾患予防,高脂血症の治療のために使用してはいけないことになった.したがって,HRTは更年期障害,骨粗鬆症に適応し,相対的禁忌である肥満,高TGには慎重に投与する.投与量は治療効果がある最小限量の投与を行い,まず貼付剤の投与,貼付剤が投与できないときは結合型エストロゲン半量の投与にする.プロゲストーゲンの投与日数は少なくする.乳癌,子宮内膜癌の検診は必ず行う.

甲状腺ホルモン検査の進歩

橋本 琢磨 , 高村 利治 , 永野 倫子 , 長田 美津子

pp.861-869

〔SUMMARY〕 甲状腺疾患を診断するためには,甲状腺ホルモン測定が必須である.FT3, FT4, TSH測定により機能異常の有無,超音波検査により結節などの有無をまず検索する.さらに甲状腺中毒症の場合,原因が自己免疫性か,自律性か,一過性か,二次性か,薬剤性かなどの鑑別を行う.各種の抗甲状腺自己抗体測定が有用である.測定法にはキット間差があるので注意が必要である.

甲状腺ホルモン検査の精度管理の現状

片山 善章

pp.870-876

〔SUMMARY〕 甲状腺ホルモンは免疫化学的に測定をするので,その精度管理は免疫化学検査の範疇に入る.免疫化学検査の精度管理は基本的には臨床化学検査の手法と同じである.したがって,臨床化学検査の統計学的精度管理を基本にして,使用する試薬は抗体,抗原など生物学的製剤に属するものなので,試薬の保存条件,有効期限,ロット管理などを厳密に管理する必要がある.また,最近は試薬,機器の一体型で利用するシステムになってきているので,機器についても日,週,月単位で定期的に保守管理が必須である.

話題

HRTと漢方

髙松 潔 , 牧田 和也 , 田邊 清男 , 野澤 志朗

pp.877-884

 1.はじめに

 更年期障害は中高年女性のQuality of Life(QOL)を阻害する大きな要因の1つであり,その対応は重要な問題である.2001年12月現在,更年期世代ともいえる45~59歳の日本人女性は1,401万人であり,女性の総人口の21.5%にあたる.日本人女性における更年期障害の罹患率はいまだ明らかではないが,仮に40%が何らかの治療が必要であるとして,560万人,総女性人口の約9%もが更年期障害の治療対象となると考えられる.

 更年期障害の治療法にはいくつかあるが,わが国においてはホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)と漢方療法が二大治療ツールといっても過言ではない.その特徴を表11)にまとめる.これらの治療法を抜きに更年期医療を語ることは難しいことには異論はないと思われるし,実際,更年期障害を主訴に受診した患者においてこれらの治療法のどちらも受けたことのない者はいないのではないだろうか.しかし,それぞれ長所・短所をもつために,2つの治療法の使い分けに関してはコンセンサスが得られてはおらず,施設によって様々な意見があるものと思われる.さらに,2002年5月のWomen's Health Initiative(WHI)におけるエストロゲン+プロゲスチン併用投与試験の終了2),2003年8月のThe Million Women Studyの報告3),2004年3月のWHIにおけるエストロゲン単独投与試験の終了4)などHRTの副作用に関する報告の影響もあり,治療指針が揺らぎつつあるのが現状であろう.

 これら2つの治療法の選択に当たっては,その基本的概念や治療のポリシーから異なっているため,同一の指標により客観的に評価してその特徴を明らかにすることが必要となる.HRTは一般に更年期障害への効果が高いといわれている.しかし,更年期障害とは「更年期に現れる多種多様の症候群で,器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群」と定義されているとおり5),複数の愁訴の集合体であり,愁訴によって治療効果に差異があること,つまり治療効果にスペクトルが存在し,これが漢方療法のそれとは異なることが考えられる.一方,漢方療法も古くから更年期障害治療において頻用されており,その効果に対しては定評がある.そこでわれわれは,HRTと漢方療法のそれぞれの効果の特徴を明らかにし,更年期障害に対する治療法選択の一助とするために,同一の指標を用いて,両治療法の効果について比較検討した.

更年期を乗り切る

海原 純子

pp.885-890

 1. はじめに

 更年期という言葉がかつてもっていた暗いイメージは変化しつつある.しかし,更年期を語る女性たちが増えた現在もなお,更年期を女性性の喪失としてとらえる風潮も根強い.女性の生き方の選択肢が,均等法をきっかけにして急速に増え,「女は結婚し子育てをするのが唯一の生き方」とされていた時代から「自分らしく生きる生き方」を理想として掲げる時代に変化していくなかで,更年期に対する意識も変化が必要とされている.

 閉経前後5年,計10年間のいわゆる更年期は,女性のライフサイクルのなかで子育てが一段落し,母としてのアイデンティティーが変化する時期ともいえる.また,介護問題や夫の定年,独身で仕事をもつ女性にとっては自分自身の定年など様々な環境の変化と対峙する年代でもある.このようななかで更年期を迎えた女性たちの問題点に注目しつつ,この時期をいかに乗り切るか考えてみたい.

ホルモン補充療法における日米の比較

麻生 武志

pp.891-896

 1.はじめに

 卵巣機能欠落症や更年期障害に対するホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)の有用性は多くの臨床知見により明らかにされ,また各種器官・臓器における作用に関しても基礎的研究によりエビデンスが集積されてきた.さらに治療様式やホルモン製剤の改善や開発も進み,HRTは多くの中高年女性のQOLの増進に大きな役割を担っている.一方HRTの安全性について,特に長期のHRTと乳癌との関連については,これをありとする報告と,なしとする報告があり,信頼性の高い調査に基づいた回答が求められてきた.

 以上の状況にあった米国において,閉経後の女性における疾患と予防対策の総合的評価を目的とした大規模前向き臨床試験Women's Health Initiative(WHI)がNational Institutes of Health(NIH)によって1991年から15年の計画で開始された1).そして平均試験期間5.2年の時点で対照群に比して骨折と結腸・直腸癌のリスクは有意に減少するものの,浸潤乳癌はあらかじめ設定したリスクの範囲を逸脱していると判定され,Hormone Programのうちでエストロゲン+プロゲスチン配合剤を用いる試験が中断された2).さらにエストロゲン単独療法の試験では,心疾患には影響はみられないが,脳卒中のリスクが上昇するとの判断により,平均試験期間6.8年の時点で,早期に終了することとなった3).これらの結果が広く報道された結果,世界的にHRTに対する考え方が大きく変化することとなったが,以上の経緯が日米におけるHRTに及ぼした影響を,両国の種々の背景因子を含め解析することは,今後のHRTのあり方を論じるうえで重要である.

更年期障害のカウンセリング

武者 稚枝子 , 太田 博明

pp.897-902

 1. はじめに

 わが国で更年期障害に対する治療が注目されるようになって10余年が経つ.それまでは「更年期」という言葉自体が女性性の喪失というマイナスのイメージが強く,ややもすれば女性を侮蔑する差別用語のようにも扱われてきた.しかし,わが国の女性の平均寿命は85.23歳〔2002年(平成14年)度の簡易生命表〕となり,1947年(昭和22年)の53.96歳と比べると30年以上も延びている.すなわち,閉経と人生の終焉がほぼ一致していた時代から,更年期は今や人生における1つの通過点であり,第二の人生のスタートであるという認識に変わりつつある.わが国においてはこの30年という短い期間に,社会環境,生活様式,価値観などの多くが,それ以前と比べて変化した.更年期障害が社会的にも認知され,また症状も多様化している背景には,こうした時代的変化の影響が大きく関与しているものと思われる.

 更年期障害の治療には,症状発現の重要な因子である女性ホルモンの急激な低下を補うホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)が,最も理にかなった有効な方法とされている.しかし実際には,HRTが奏功しないケースも少なくない.その多くは抑うつ,イライラ,無気力といった精神神経症状を主として訴える患者であり,夫婦間や子供の問題のほか,生育歴,性格など様々な心理・社会的因子を併合1)している場合が多い.また,ほてり(hot flush)や発汗といった自律神経失調症状を強く訴え,一見HRTが非常に有効と思われる患者においてさえも,薬物療法だけでは十分な効果が得られないことがある.このように治療に難渋する症例は,カウンセリングが有効である場合が多い.

 本稿では,更年期障害の治療におけるカウンセリングの位置付けと意義,およびカウンセリングを行う際の基本的姿勢について述べたい.

今月の表紙 臨床生理検査・画像検査・8

消化管疾患

藤井 康友

pp.830-831

 近年の超音波機器の進歩により,病的に肥厚した消化管の詳細な評価が可能となったことから,消化管疾患の診断における体外式超音波検査の有用性が注目されている.消化管疾患の超音波診断には肝胆膵といった実質臓器とはやや異なったアプローチが必要である.まず,消化管は実質臓器と比較して浅い部位を走行しているので,描出範囲を浅めに設定して走査するほうがよい.また,消化管ガスを丁寧に追跡し,部位の同定を行いながら走査することが重要である.

 1.胃悪性リンパ腫

 74歳,男性.食欲不振を主訴に来院.スクリーニング目的にて超音波検査が施行された.超音波上,胃は全周性に肥厚しており,その層構造は消失していた.肥厚した胃壁は,プローブで圧迫を加えると容易に変形した(図1).また,胃壁の内部エコーは無エコーに近い均一な低エコーであった.胃壁の全周性肥厚を呈する疾患としては,スキルス胃癌,悪性リンパ腫といった腫瘍性疾患および急性胃粘膜病変(胃アニサキス症を含む)が鑑別に挙がるが,病変の軟らかさやエコーレベルから胃悪性リンパ腫を第一に考えた.引き続き施行された内視鏡検査(図2)にて本症と確定診断された.消化管悪性リンパ腫は節外性リンパ腫のなかで最も頻度の高いもので,そのほとんどは非ホジキン腫のB細胞性である.消化管悪性リンパ腫の超音波像は,肥厚した消化管壁は均一な無エコーに近い低エコーを呈し,胃癌と比較して内腔は保たれ,軟らかい腫瘍であることが多い.これらのうち,特に「無エコーに近い均一な低エコー」像は消化管に限らず悪性リンパ腫の特徴的超音波所見であり,密な細胞浸潤という病理組織学的構築を音響インピーダンスの低下として反映しているものと考えられる.

コーヒーブレイク

戦中教師像

屋形 稔

pp.846

 夏目漱石の名作「坊ちゃん」に描かれた四国の田舎中学の教師達は,江戸っ子坊ちゃんに散々ヤジられやっつけられて気の毒のようなものである.しかし流石漱石の筆の冴えで彼らは極めて個性的といってよい.

 私達戦中派時代の中学教師は今の中・高校教師に当たるのであろうが,不如意の中で確かになかなか個性的な人物が多かった.高等師範(後の文理大)を出た上級の教師も,検定試験を通って就任した先生もなべて然りであった.彼らの恐さを伴った親身な教育は今でも懐かしい.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 転写因子・8

転写因子と免疫疾患

出原 賢治

pp.903-907

はじめに

 生体の免疫反応とは,外来の異物をプロフェッショナルな免疫細胞が認識し,その情報を細胞表面上の分子,あるいは液性因子を介して他のプロフェッショナルな免疫細胞に伝達していき,最終的にはその異物を除去するしくみであると定義してよい.このような外来異物の認識機構,あるいは情報伝達機構においても数々の転写因子がかかわっている.このため,これらの転写因子の異常により免疫調節機構に異常が生じる場合がある.免疫調節機構において機能低下が生じれば免疫不全状態となり,機能亢進が生じれば自己免疫疾患やアレルギー疾患といった免疫亢進状態が生じうる.本稿では,転写因子に起因する免疫疾患のうち,前者の例としてベアリンパ球症候群(bare lymphocyte syndrome)を,後者の例として自己免疫性多発性内分泌症(autoimmune polyendocrinopathy;APECED)と免疫調節異常,多発性内分泌症,腸症,伴性劣性遺伝性症候群(immunodysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked syndrome;IPEX)を取り上げて紹介したい.転写因子であるNF-κBも関節リウマチなどのいくつかの免疫疾患にかかわっていることが知られているが,NF-κBについては本シリーズにおいてすでに紹介されているので1),そちらを参考にしていただきたい.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 病理診断に役立つ分子病理学・8

膵臓癌

堀井 明

pp.908-914

はじめに

 膵臓にできる癌の発生母地は,膵管,腺房,ランゲルハンス島などがあるが,これらのなかで膵管由来のものが大多数を占める.そのため,通常「膵癌」という場合,膵管由来の癌を指すことが多い.本稿では,膵管癌を中心に述べる.また,本稿では,「遺伝子」を軸にして概説する.

 厚生労働省の統計1)によると,2002年にわが国では982,371人(10万人当たり779.6人)が死亡したと推計されているが,このうち癌死は第1位で304,286人(10万人当たり241.5人)であった.死因の31.0%を占めている.膵癌は癌死の第5位であった.1999年の大阪府立成人病センターの地域癌登録を元にした統計2)では,1,235人が膵癌に罹患し,1,193人が死亡した.人口10万人あたりでは罹患率は14.0,死亡率は13.6である.死亡率を罹患率で割ると97%,裏返して考えると,たったの3%の人しか助かっていない勘定になっている.2003年に発表された膵臓学会の統計3)によると,膵癌の5年生存率は全体で4.9%,切除例では13.5%に対しそれ以外では0.6%,stage Iの5年生存率が58.6%であったのに対しstage IVbでは2.8%であった.ちなみに癌患者全体では32%が5年生存している.膵癌はすべての癌のなかで最も治療成績が悪く,膵癌は数のうえでこそ癌死の第5位であるが,助からない癌であるという観点では第1位であり,膵癌患者に対し切除可能な時期に診断して手術することが現時点では最善の方策であることを示している.

資料

Spindle(紡錘波)の命名法について

原 まどか , 堤 ちあき , 北野 俊雄

pp.915-918

〔SUMMARY〕 睡眠時に出現する紡錘形を呈する脳波を,sleep spindleもしくは紡錘波と呼んでいるが,spindleや紡錘にはいずれも紡錘形を連想させる意味は見当たらず,軸や心棒などを意味する用語である.一方,精紡機の“軸”であるspindleに固定されたボビンに,糸を巻きつけていった結果できあがる精紡管糸の外観こそが紡錘形を呈している.よってspindleや紡錘波という脳波の命名法は適切でなく,紡錘形(状)波などが適訳ではないかと考えた.

学会だより 第53回日本医学検査学会

“チャレンジ”その前に基本を!

川瀬 晴美

pp.920

 第53回日本医学検査学会は,5月14日(金),15日(土)の2日間にわたり富山国際会議場を中心に開催されました.メインテーマは「変貌する医学への貢献」でした.シンポジウムでは,医療における改革の中で臨床検査技師の立場や身分の問題,あるいは医療従事者の立場と本来の目指すべき姿など興味ある話題が多くどの会場も盛会でした.特に,それぞれの職種が専門性を発揮して患者を中心とするチーム医療に参加することに注目が集まっています.チーム医療,臨床支援,それは他部門の医療従事者以上に臨床検査技師が,その必要性を感じているからだと考えます.検査結果を正確,迅速に臨床へ返すのが臨床支援の一つであり,チーム医療への参画のためには積極的に他分野へ職域を広げていくよい機会ではないでしょうか.

 医学検査フォーラム“検査過誤と責任”の中で,インシデント・レポート制度は,一応の普及は見たが,十分な成果を上げたと言えるのだろうか? レポートの数を集めることが目的となってしまい,レポートの数を集めれば,安全対策ができていると誤解してはいないのか? インシデント・レポートで有用な情報が得られるのか? 具体的な行動計画に結びついていないのではないか? 等々について報告があり,安全対策の実施には優先順位,実施期限,評価方法の決定が重要であることを再認識いたしました.

形態検査,生理検査の標準化はこれからの課題

水野 久美子

pp.921

 2004年5月13日(木)のイブニングセミナーを皮切りに,14日(金),15日(土)の2日間,第53回医学検査学会が開催されました.会場は,メイン会場の富山国際会議場をはじめ,城址公園周囲に3会場,展示会場は富山空港,北陸自動車道富山インターから数分と交通アクセスが考慮されていました.メインテーマは「変貌する医学への貢献」とし,今日の急速な医療改革の中,われわれ臨床検査技師が医療従事者として,どのように貢献していったらよいのか,目指すものは何かを求め,確認すべく,会員が積極的に参加できるよう多くの企画がされていました.

 近年,病診連携が進み,また電子カルテの利用が増加することにより,検査データの共有化は重要な課題となっています.検査データの共有化には検査の標準化が必須であり,本学会においても検査データの共有化,標準化に関する多くの取り組みがされていました.

Information Technology (IT)

岡本 恵助

pp.922-923

 第53回日本医学検査学会は2004年5月15日(木)のイブニングセミナーを皮切りに,16日(金),17日(土)の2日間開催されました.富山での学会は2回目で,1回目は1996年9月21日(土),22日(日)開催の第35回中部臨床衛生検査学会でした.場所は富山県民会館で行われ,地方学会でもあり演題数107と少なく,発表する時も聴衆が少なかったように思います.今回は,全国学会でもあり演題数は616と多くの発表者が富山に集まったことになります.この数は,昨年埼玉県で行われた第52回日本医学検査学会の演題数556を上回るものでした.富山県の会員数が530名と少ないにもかかわらず,学会長をはじめ実行委員の方々の,準備の賜物だと思います.

 本学会のメインテーマは「変貌する医学への貢献」であり,サブテーマが「Information Technology」とこれからの時代にふさわしいものでした.インターネットを中心とした情報化社会は情報地域格差を大きく縮小させており,2会場を結んで行われた形態検査分野の症例検討,R-CPCの技術は病院間レベルを縮小する可能性があり大いに期待したいところです.病院内においてもLANを介した電子カルテ導入が増えてきており,検査室レベルにおいても容易に患者情報を入手することが可能になってきています.従来,検査機器のメンテナンス,精度管理は十分に行われてきていると思われます.しかし,医療情報入手が困難であれば,言い過ぎかと思いますが検査結果は「ある方法で行った,その時の値」であるだけになってしまいがちで,その検査結果の背景が見えませんでした.検査室にいながら今までにない精度管理,検査の重要性の認識,新たな情報発信による医療支援が可能になると思われます.研究分野においても,今まではカルテ庫より1冊ずつ引き出しては情報を手に入れていたものが容易に入手できることから,かなりの時間節約が可能になると考えます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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