icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床検査50巻2号

2006年02月発行

文献概要

今月の表紙 細胞診:感染と細胞所見・2

ガードネレラ

著者: 水谷奈津子1 海野みちる2 坂本穆彦12

所属機関: 1杏林大学医学部付属病院病院病理部 2杏林大学医学部病理学教室

ページ範囲:P.124 - P.125

文献購入ページに移動
腟には腟カンジダ症(candidiasis)などの病原体が特定される腟炎のほか,特定の微生物が検出されない細菌性腟症があり,腟ガードネレラ(Gardnerella vaginitis)は後者にあたる.ガードネレラは,ヘモフィルス属(Haemophilus)やコリネバクテリウム属(Corynebacterium)に分類されていたが,1980年に最初の報告者であるH.L. Gardnerにあやかり,ガードネレラ属として独立した.大きさは1.5~2.5×0.5μmで,嫌気性のグラム陰性あるいは不定の小短桿菌で,多形性・非運動性である.細菌性腟症は,妊婦の約20%にみられ,妊娠16週よりも前に細菌性腟炎に感染している妊婦の早産率は約5倍であるなど,早産の原因の1つとされている.細菌性腟炎の原因は,病原性の弱いガードネレラ・ウレアプラズマ(Ureaplasma)・マイコプラズマ(Mycoplasma)・バクテロイデス(Bacteroides)・クレブジェラ(Klebsiella)・B群溶連菌などの複合感染により腟炎がおこると考えられているが,中でもガードネレラが高頻度に分離される1,2).正常の子宮腟内には,常在菌であるデーデルライン桿菌(Döderlein bacillus)が,腟の扁平上皮細胞が含有するグリコーゲンを分解し,乳酸菌を作ることにより腟内を酸性(pH3.5)に保つことで,自浄作用を行っている.細菌性腟炎は,様々な理由でデーデルライン桿菌が減少し,ガードネレラや腸内の細菌などが増加することで,腟内の酸性度(pH4.5以上)が低下した状態である.感染者の約70%は無症状であるが,灰色帯下・アミン臭・外陰部の刺激症状などを訴える患者もみられる.未治療であっても生死にかかわることはないが,再燃しやすく,早産の原因の1つとなる3,4). 子宮腟部スメアにみられるトリコモナス(Trichomonas)などの感染症では,背景に多数の好中球を伴い,細胞の炎症性変化が目立つことが多い.しかし,ガードネレラが標本中に多数みられる場合であっても,炎症性細胞の増加は軽度であり,図1~4のようにほとんどみられない症例も多く存在する.また,先に述べたようにデーデルライン桿菌は,減少・消失している.扁平上皮細胞への影響は,核周囲にわずかに白くぬけるハロー(halo)や錯角化が見られる.ガードネレラが扁平上皮細胞の上に多数付着している所見を,細胞診ではクルー細胞(clue cell,図1~4)と称し,細菌性腟炎の可能性が推定される.臨床的には,①均質で乾燥した帯下,②腟内pHが4.5以上,③腟分泌物に10%KOHを加えるとアミン臭が発生,④クルー細胞の存在,の4項目のうち3項目をみたした場合,細菌性腟症と診断されている.クルー細胞の存在は,臨床的にも重視されており,トリコモナスやカンジダなどと同様に細胞診の報告書に記載することが,細菌性腟炎の早期治療,および早産予防につながるものと考えられる.

参考文献

1) 賀来満夫:ガードネレラ属.臨床検査技術学12微生物学・臨床微生物学(菅野剛史,松田信義編),医学書院,p123,2001
2) 岡田淳:ガードネレラ属.臨床検査学講座 微生物学/臨床微生物学,医歯薬出版,p162,2001
3) 蝦名康彦,佐川正,藤本征一郎:絨毛膜羊膜炎の成因 細菌性膣症・頸管炎との関連.産婦人科の実際 50:5-12,2001
4) 水上尚典:妊婦の膣内細菌検査とその意義.産婦人科治療 89:148-151,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?