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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査50巻5号

2006年05月発行

雑誌目次

今月の主題 腎疾患と臨床検査

巻頭言

腎疾患における臨床検査の重要性

飯野 靖彦

pp.483-484

末期慢性腎不全に陥り,透析療法を必要とする患者数は2004年12月現在,248,166人であり,これは日本の約500人に1人が透析患者であることを意味する1)(表1).また,日本の透析患者の特徴は,透析導入年齢の高齢化(65.8歳)と透析導入の原疾患頻度(糖尿病性腎症(41.3%))である.つまり,年々,透析患者の高齢化が起こっており,そのため透析患者の検査も高齢者に多い心疾患,脳血管疾患,骨疾患,癌,呼吸器疾患の評価に重点が置かれる.また,導入原疾患の最も多い原因は糖尿病による糖尿病性腎症であり,糖尿病に合併する微小血管障害(網膜,神経,腎)と大血管障害(心疾患,脳血管疾患,動脈疾患)などの検査も重要になる.

 透析を必要とする前の保存期腎不全(現在では慢性腎臓病―Chronic Kidney Diseaseと保存期と透析期も含めまとめて表現し2),GFRによって分類する―表2)においても原疾患となる糖尿病,慢性糸球体腎炎,高血圧,多発性のう胞腎,血管炎などの診断,治療,予後判定の検査が必要となる.

総論

臨床検査に必要な腎機能の知識

今井 正

pp.485-491

代謝産物や異物の排泄,体液量と組成の調節,ホルモン産生・分泌の3つが腎臓の主要な働きである.心拍出量の5分の1が腎血流量であり,腎血漿流量はおよそ600ml/minである.この20%が糸球体で濾過される.糸球体濾過で失われる可能性のある生体に必要な溶質は尿細管で再吸収される.糸球体で濾過されたNaの99%以上は尿細管で再吸収される.そのしくみは近位尿細管,Henleループ,遠位尿細管,集合管のそれぞれの分節で異なり,多様である.Kの尿中排泄は摂取するKの量によって尿細管の再吸収から分泌まで様々であるが,これには遠位側ネフロンでの調節が重要である.尿細管のH分泌,HCO3の輸送によって体液pHが調節される.また,腎の尿希釈・濃縮機能は体液浸透圧を一定に保つうえで重要である.〔臨床検査 50:485-491,2006〕

臨床検査に必要な腎疾患の知識―どのような腎疾患にどのような検査をするのか

富野 康日己

pp.493-498

第1に,腎のもつ①尿の生成と排泄作用,②水・電解質の調節作用,③酸・塩基平衡作用,④ホルモン作用について理解し,それらの病態を知ることが大切である.第2に,尿検査,血液検査,腎機能検査,画像診断,腎生検などを行う意義とそれらの所見を理解する必要がある.第3に,腎疾患の種類や起こり方を包括的に理解することが大切である.〔臨床検査 50:493-498,2006〕

腎疾患と臨床検査 1.腎機能推定のための検査

1) GFR測定法と血清クレアチニン値よりのGFR推定式

今井 圓裕 , 堀尾 勝

pp.499-503

GFR測定のゴールドスタンダードはイヌリン・クリアランスである.クレアチニン・クリアランス(Ccr)はGFRを過大評価する.血清Cr値によりGFRを推定する式にはMDRDの式があるが,日本人の場合には正常GFRでは過少に,GFRが低い場合には過大に評価される.Cockcroft-Gaultの式および堀尾の式はCcrを推定するものである.シスタチンCが新しい腎機能の指標として評価を受けており,GFRの推定式も作成されている.〔臨床検査 50:499-503,2006〕

2) 尿細管機能を推定する臨床検査

伊西 洋二 , 奥田 俊洋

pp.505-510

腎尿細管は近位尿細管,Henleループ,遠位尿細管,集合尿細管より構成され,糸球体で濾過された原尿から最終的に尿を生成する複雑な機能をもつ.各部位に応じてその検査法は煩雑だが,得られる結果は必ずしも明確でなかったり臨床的意義も低く学術的意義しかないような場合もある.尿細管検査の適応には慎重さが要求される.

 近位尿細管機能の検査法としては尿中のNAGやβ2ミクログロブリン測定,欧米では尿中α1ミクログロブリンも簡便な方法として汎用されている.その他PSP排泄試験や尿細管ブドウ糖再吸収極量,尿細管PAH分泌極量,重炭酸塩負荷試験などがある.遠位尿細管・集合尿細管機能の検査法にはFishberg濃縮試験や塩化アンモニウム負荷試験などがあるが適応は限られる.〔臨床検査 50:505-510,2006〕

腎疾患と臨床検査 2.尿検査の意味

1) 尿蛋白の重要性と測定法

室谷 嘉一 , 伊藤 修

pp.511-514

蛋白尿は腎障害の一般的かつ客観的指標と考えられている.尿中に出現する蛋白は糸球体性,尿細管性,腎前性に大別される.従来,蛋白尿は糸球体障害のマーカーと考えられていたが,近年では腎不全進行の重要なメディエーターとなることが判明し,慢性腎不全の進展因子として蛋白尿が注目されている.また心血管系イベント発症について,蛋白尿も危険因子と考えられ,臨床上も注目すべき項目である.〔臨床検査 50:511-514,2006〕

2) 尿沈渣と尿中赤血球形態―尿中赤血球容積分布曲線の検討を中心に

古屋 聖兒 , 小椋 啓 , 古屋 亮兒 , 斎藤 信人

pp.515-520

血尿の診断には,出血部位が糸球体か,非糸球体かを鑑別することが重要である.その鑑別法として,尿中赤血球容積分布曲線(RVDC)と尿中赤血球の形態を位相差顕微鏡などで定量観察する方法がある.RVDCは測定が簡単で熟練を必要とせず,判定が客観的で,出血部位診断に優れている.また,多数の検体を短時間で分析できるため,集団検診における尿潜血陽性者のスクリーニング検査として有用である.〔臨床検査 50:515-520,2006〕

3) 尿からの食事蛋白摂取量の推定と患者の栄養状態指標

中尾 俊之 , 長岡 由女 , 岩澤 秀明 , 金澤 良枝

pp.521-523

食事蛋白質摂取量は,窒素バランスの理論を応用して,排泄される尿素窒素量から次の式により算出できる.食事蛋白質摂取量(g/day)=[尿素窒素排泄率(g/day)+0.031×体重(kg)]×6.25.腎機能正常者では尿中クレアチニン排泄量は筋肉量と相関し,尿中3-メチルヒスチジン排泄量の増加は筋肉蛋白の分解の亢進を表すが,腎疾患で糸球体濾過量低下を認める場合には,筋肉量とは無関係にこれらの尿中排泄量排泄が低下するので,栄養状態の指標とすることはできない.〔臨床検査 50:521-523,2006〕

腎疾患と臨床検査 3.血液からわかる腎疾患

1) 血中と尿中電解質の診断的意味

西野 克彦 , 草野 英二

pp.525-530

血中電解質の測定で電解質異常が判明した場合,同時に随時尿の尿中電解質や浸透圧を測定することで,部分排泄率(fractional excretion;FE),自由水排泄量(electrolyte-free water),尿細管内外K濃度勾配(transtubular K concentration gradient;TTKG)を計算できる.これらの指標により,内分泌検査の結果を待たずに短時間で原因疾患の鑑別診断を進めることができる.〔臨床検査 50:525-530,2006〕

2) 血液ガス検査の注意と読み方

内田 俊也

pp.531-536

血液ガスは生体の酸塩基平衡を把握する際に必須な臨床検査である.測定値を用いた解析法は一見複雑に見えるが,実は極めてシンプルで慣れれば習熟は容易である.むしろ重要なのは実際の症例での病態解析である.つねに臨床症状と経過,その他の検査項目と併せて総合的に評価すべきである.治療は,病態が解明されれば自動的に決定されるが,酸塩基平衡異常がどのような不具合をもたらしているかで判断する必要がある.〔臨床検査 50:531-536,2006〕

3) ANCAおよび免疫関連検査(補体,抗核抗体など)

木野村 賢 , 佐田 憲映 , 杉山 斉 , 槇野 博史

pp.537-541

ANCAの測定は,ANCA関連血管炎・腎炎の診断や疾患活動性の評価,再燃の指標となる.抗核抗体は間接蛍光抗体法にてスクリーニングを行い,陽性の場合はELISAによる疾患特異的自己抗体の検討を行う.補体は溶連菌感染後急性糸球体腎炎・膜性増殖性糸球体腎炎・ループス腎炎の診断や活動性の評価に有用である.これらの免疫関連検査が陽性の場合,臨床所見や腎生検所見を総合的に判断し,診断することが重要である.〔臨床検査 50:537-541,2006〕

腎疾患と臨床検査 4.組織,画像,遺伝子診断

1) 腎生検組織診断

山中 宣昭

pp.543-549

腎生検は,腎疾患の診療において日常的な検査法の1つとして不可欠となっている.単に疾患診断のみならず,重症度などの病態の評価,治療法選択,予後判定に関しても重要な情報が得られる.しかし,出血などのリスクもあり,安全・確実な腎生検への配慮が必要である.組織診断の原情報としての生検組織標本のクオリティは診断精度への影響が大きい.腎疾患の診断には,生検組織の光顕,免疫染色,電顕による検索が必須とされる.〔臨床検査 50:543-549〕

2) 腎疾患の画像診断

古川 一博 , 天野 康雄 , 田島 廣之 , 汲田 伸一郎 , 林 宏光 , 町田 幹 , 隈崎 達夫

pp.551-558

われわれ放射線科医が日常行っている腎疾患に対する検査について,代表的腎疾患におけるCT,MRIを中心とした画像診断,血管造影における診断およびIVR,核医学検査における機能診断につき,症例画像と所見を呈示し概説した.

 画像診断の中心はCTであり,MRIでは非造影での血管や尿管の評価で有用である.血管造影は診断のみならず,IVR手技として重要である.核医学検査は機能検査,分腎機能検査が可能である.〔臨床検査 50:551-558,2006〕

3) 腎疾患の遺伝子診断と蛋白解析

五十嵐 隆

pp.560-565

慢性に経過する腎疾患の原因の多くが遺伝子異常によることが明らかになった.病理組織診断は現在においても腎疾患の診断における重要性を失うことはないが,遺伝子診断や変異蛋白の機能解析が腎疾患の診断に不可欠の地位を次第に占めつつある.本稿では腎疾患の診断において現在用いられる遺伝子診断や変異蛋白の機能解析の意義と検査結果の解釈の際に必要な注意点について解説した.〔臨床検査 50:560-565,2006〕

腎疾患と臨床検査 5.腎疾患管理のための臨床検査

透析患者(HDとCAPD)の臨床検査

中村 裕紀 , 秋澤 忠男

pp.567-570

腎性貧血,腎性骨異栄養症,透析アミロイドーシスは,慢性透析患者にみられる代表的な合併症である.腎性貧血の特徴は,正球性正色素性で,網赤血球数の反応性増加を欠き,白血球数,血小板数は正常域に保たれる.腎性骨異栄養症は組織学的に,線維性骨炎,無形成骨,骨軟化症に分類され副甲状腺機能が重要な役割を演ずる.確定診断には,骨生検が必要となる.透析アミロイドーシスではβ2ミクログロブリンを主成分とする腎不全患者に特有のアミロイド線維が,腱,滑膜,骨,軟骨,椎間板などに沈着し,様々な機能障害や臓器障害をもたらす.〔臨床検査 50:567-570,2006〕

話題

腎臓線維化と低酸素-HIF

孫 大輔 , 南学 正臣

pp.571-574

1.はじめに

 慢性腎不全患者が末期腎不全に至る原因として,従来,糸球体高血圧や蛋白尿などが重視されてきたが,近年「低酸素」という病態が注目されてきている.糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症など,腎不全の原因が異なっていても,ある閾値を超えると腎不全は不可逆的に進行していくが,その共通の病態は「final common pathway」と呼ばれ,低酸素がその中心をなすと考えられている.ここでは,低酸素が腎不全の進行にどのように影響を及ぼすのかを,腎線維化との関係を中心に解説する.

ネフリンと蛋白尿

清水 不二雄 , 楊 碩平

pp.575-578

1.はじめに

 野球で名手揃いの内野守備陣を形容する言葉として“水も漏らさぬ鉄壁の守備”という表現をよく耳にする.われわれの腎臓は老廃物を排出する一方で大切なものは保持するという二面性をもった極めて精巧な働きをしている.すなわち1日に腎糸球体から約160l前後の“水”(原尿)をボーマン囊に濾過しながら1.6l前後にまで濃縮された排出尿中にはわずか150mg程度以内の蛋白質しか漏らしていないという“鉄壁の守備”ぶりなのである.この機能が破綻して蛋白質のような大きな分子まで無視できないほど尿中に漏れ出てきた状態がいわゆる(異常)蛋白尿であり,腎臓病の最も日常的で客観的な指標であることは先刻ご存知のとおりである.最近,それに加えて蛋白尿そのものが実は結果的に尿細管・間質の障害を引き起こし,それにより腎臓の病変をさらに進展させ,その働きをさらに低下させる悪玉であることが通説となった.したがって,蛋白尿を抑えれば,それ以上腎臓の機能を悪化させないですむことが期待される.この“腎不全状態への進展阻止”こそは,われわれ腎臓学に携わる者に課せられた至上命令である.そのためにまず答える必要があるのは“蛋白尿はどうして出るのか”という問いかけであり,それは,腎臓における濾過機能はどのようにして正常に営まれているのかという問いかけと表裏一体をなすものである.その正常の濾過機能に重要な役割を演じていると目されるに至ったのが臓側糸球体上皮細胞(=足細胞)であり,とりわけこの細胞の足突起間に薄くはられたスリット膜と呼ばれる膜様の構造物である(図1).この膜は流し台の細かい目皿のように食器の汚れ(老廃物)を多量の水とともに洗い流しながら,失いたくないものはせき止める大切な仕事をしている.このスリット膜の最重要構成分子の一つがネフリンである.本稿では蛋白尿とネフリンについて最近の話題を中心に紹介することとする.

今月の表紙 細胞診:感染と細胞所見・5

単純ヘルペスウイルス

市川 美雄 , 海野 みちる , 坂本 穆彦

pp.480-482

細胞診で単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus;HSV)感染細胞を診断する機会は多く,ウイルスの概要や臨床的事項を知ることは有用である.尿・喀痰・皮膚擦過などの検査材料で感染細胞をみることもあるが,外陰部・子宮腟部スメアでの観察の機会のほうが多く,性器ヘルペスを中心に記載する.

 HSVは血清型で1型と2型に分類される.臨床的には初感染初発・非初感染初発・再発にわけられる.1型は主に上半身の皮膚粘膜・角結膜・脳・陰部(初感染型)などに感染し,性器感染は2型で非初感染初発・再発型が多い.近年では1型感染の増加傾向が認められる.一般に,性器ウイルスの伝播は接触により皮膚や粘膜などの表面に水平感染する.HSVは不顕性感染が多く,1型は三叉神経節に,2型は仙骨神経節に潜伏し,宿主の体調不良・紫外線・ストレス・月経などが誘因で発症する.垂直感染した新生児のHSV感染は,全身的な病変を伴い重篤な経過をたどることもある.また,免疫抑制物質の投与・悪性腫瘍などの免疫力の低下した患者では日和見感染が認められる1~6)

コーヒーブレイク

皇女とお城

屋形 稔

pp.524

人間には世の中に己れと似た顔が3人存在するとよくいわれる.私の長女は幼い頃から畏れ多きことながら皇室の紀宮様に酷似しており,顔ばかりでなく体型,しぐさまで似ているとよくいわれた.

 数日前に紀宮清子(さやこ)様は改めて黒田清子様となられたが,国民とともに個人的にも関心一しお深いものがあった.ご婚儀を通じ簡素さが目立ったが,国民感情も親愛の情に満ちていた.清子様は幼い頃はそれほど目立っておられなかったが,長ずるに及び麗質に磨きがかかられたのは,不世出の日本女性と目される美智子皇后の手塩にかけられた賜であるのは間違いない.

故渡邊富久子先生の思い出

宮井 潔

pp.596-597

先生に始めてお会いしたのはもう50年も前のことで,当時先生は神戸女子薬科大学(現神戸薬科大学)をご卒業後,全国の国立大学で初めて創設された大阪大学医学部付属病院中央臨床検査部に臨床検査技師として勤務しておられました.私は医学部を卒業し,内科の大学院生として甲状腺ホルモン検査のセットアップのために内分泌検査室へ派遣されました.医学部出身の悲しさで分析化学に弱い私にその基礎から徹底的に教えて下さったのが渡邊先生でしたが,私がピペットの選び方を間違えると,さりげなく正しいピペットを差し出してくれるというように謙虚でこまやかな配慮をされる方でした.

 その後先生は母校臨床化学教室の助教授,次いで教授に就任されました.今でこそ女性教授は珍しくありませんが,当時は数少なく,いわば女性科学者の先駆者の一人であったといえましょう.それだけに女子学生の教育に大変情熱を傾けられ,女性科学者としてノーベル賞を受賞されたロザリン ヤロウ先生を大学にお招きし素晴らしい講演会を開催されたのもその一つでした.ご存知のように先生は臨床化学検査の分野で大変活躍され,数ある国内学会のうち日本臨床化学会ではその40年に及ぶ歴史のなかで,初めて女性の年会長として1993(平成5)年に第33回年会を主催されました.その時,先生と故堀尾武一先生と私の三人で「わたしと臨床化学」というテーマで鼎談をしたのも懐かしく思い出されます.最近は名誉会員として大所高所からご指導を賜っておりました.先生のご活動は国際的でもあり,スペインの薬学アカデミーで日本人としては唯1人の特別会員になられたり,私が組織委員長を務めた第18回国際臨床化学会議では諮問委員をお引き受け下さいました.先生はこのように立派な科学者でしたが,一方では和服の似合う邦楽の名取りでもあったことは知る人ぞ知るところでした.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 法医学の遺伝子検査・5

法医学の領域におけるSingle nucleotide polymorphism(SNP)解析

那谷 雅之

pp.579-585

はじめに

 Single nucleotide polymorphisms(SNP)は文字通りDNA上の一塩基の置換変異であり,ゲノム上に最も多く存在する多型であり,ヒトの疾患を含むあらゆる表現形質をマップするための多型検出マーカーとして注目されている.このSNPを検出するための高い能力をもった技術が開発されてきている.

 法医学の領域では種々のDNA多型解析が行われてきている.個人識別・親子鑑定に多用されてきたD1S80は16塩基を1単位とした反復配列であり,現在の主流であるshort tandem repeat, STRもrepeatの名が示す通り反復配列である.その一方で,ABO式血液型を始めとする各種血液型についてのDNA解析やミトコンドリアDNAについての解析が行われ,実務にも用いられてきている.これら各種血液型およびミトコンドリアDNAの多型の多くは塩基置換によるものであり,SNPとして捉えることができる.

 本稿では法医学の領域で行われてきたSNP検出法について概略を述べる.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ 耐性菌の基礎と臨床・4

主として院内感染で問題となる耐性菌・3

腸球菌(基礎編)

花木 秀明

pp.586-590

腸球菌とは?

 腸球菌は,Lancefield D群に属す通性嫌気性,カタラーゼ非生産グラム陽性球菌であり,ブドウ糖,マルトース,乳糖,白糖を分解し,60℃で30分の加熱に耐える細菌である.また,エスクリンの加水分解能力があるため,この特徴を腸球菌の鑑別に用いている.腸球菌には,Enterococcus faecalis,E. faecium,E. avium,E. casseliflavus,E. gallinarum,E. flavescensなど合計19種が含まれる.

病原性

 腸球菌はわれわれの腸管内に存在する常在菌の一種であり,病原性は極めて弱い細菌である.しかし,重篤な基礎疾患を有す免疫不全患者,侵襲性の大きな外科手術後の患者,カテーテル留置症例などに感染を起こすことがごく稀にある.これらは血流感染,手術部・腹腔内感染,尿路感染,カテーテル感染などとして現れ,敗血症,感染性心内膜炎や髄膜炎などの重症感染症に発展する場合もある.

腸球菌(臨床編)

狩山 玲子 , 公文 裕巳

pp.591-595

はじめに

 腸球菌はヒトや動物の腸管内に常在する菌であり,病原性は必ずしも高くないので感染症として治療する機会は多くない.しかし,最近では病院感染症の主たる原因となっており,易感染症患者の菌血症やカテーテル留置患者の尿路感染症の原因菌として重要である1~8).グリコペプチド系抗菌薬であるバンコマイシンは,腸球菌に対して優れた抗菌活性を有している.しかし,欧米では1980年代後半にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が院内感染の原因菌として分離され,その後急速に拡大して院内感染対策上の極めて大きな問題となっている1~8).日本では1996年に病院で初めてVREが確認されて以降,VRE感染症および保菌者の報告数は必ずしも多くはないが,すでに全国各地に拡散していると考えられる.VREの院内感染やアウトブレイクも報告されており,院内感染防止対策の強化が求められている1,2).日本でのVRE感染症は,2003年11月5日に改正され施行された感染症法において,五類感染症であり全数把握の対象疾患として診断したすべての医師に報告が義務づけられている.つまり,細菌検査室で確実に検出されなければならない耐性菌であり,VREの院内感染を防止するためには,細菌検査に携わる臨床検査技師を始めとする医療従事者の果たすべき役割は大きい.腸球菌は抗菌薬に自然耐性を示すとともに多くの薬剤耐性遺伝子を獲得していることから,細菌検査および腸球菌感染症の治療において留意すべき事項が多い.本稿では,まず治療上問題となる多剤耐性腸球菌について概説し,次に腸球菌感染症の治療法に関してVRE感染症の治療法を中心に記述する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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