icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床検査50巻7号

2006年07月発行

文献概要

今月の主題 ホルマリン固定パラフィン包埋標本からどこまで遺伝子検索は可能か? 話題

病理組織検体で蛋白質の網羅的解析(proteomics)はどこまで可能か?

著者: 青柳憲和1

所属機関: 1サイファージェン・バイオシステムズ(株)

ページ範囲:P.783 - P.787

文献購入ページに移動
 1.はじめに

 次々と様々な生物のゲノム情報が解明され,mRNAの網羅的発現の様子(トランスクリプトーム)の解析も進んでいくなかで,ゲノム情報の最終的な表現型である蛋白質の総体(プロテオーム)を網羅的に解析すること,すなわちプロテオミクスが注目を集めている.プロテオミクスは生命科学の新たな学問分野としてだけでなく,クリニカルプロテオミクスや疾患プロテオミクスなどと呼ばれる,臨床医学や薬理学,創薬のための高度医療技術としての応用が期待されている1~3)

 プロテオミクス解析では,試料から蛋白質・ペプチドを抽出するステップが非常に重要である.これまでのところ主に血清や生検検体などのような可溶化しやすい試料で研究が進められているが,これを世界中の研究機関で標準的に用いられている,10%ホルマリン固定,パラフィン包埋標本(formalin-fixed, paraffin-embedded;FFPE)で実施することができれば,重要な解析対象となるであろう.しかしながら,ホルマリンによる固定では分子内および分子間で共有結合的にクロスリンクが起こるため,蛋白質や核酸といった巨大分子は容易には抽出されにくいことが障壁となっていた.一方で,DNAやmRNAについては,近年の免疫組織化学染色における抗原賦活法(antigen retrieval;AR)技術4)の発展に伴い,FFPE標本から取り出すことが病理の現場で行われるようになってきている.

 本稿ではFFPE組織検体から蛋白質を抽出して質量分析計で解析する手法について最新の報告5~10)を紹介する(図1,表).

参考文献

 1) 戸田年総,荒木令江(編):疾患プロテオミクスの最前線-プロテオミクスで病気を治せるか-,遺伝子医学MOOK 2号,メディカルドゥ,2005
 2) 戸田年総,平野久,伊藤喜久(編):プロテオミクスに向かう臨床蛋白質検査.臨床検査 47(増刊号):2003
 3) 若田部るみ,志和美重子:プロテインチップシステムを用いた臨床診断への応用.臨床検査 49:454-461, 2005
 4) Shi SR, Cote RJ, Taylor CR., Antigen retrieval immunohistochemistry:past, present, and future. J Histochem Cytochem 45:327-343, 1997
 5) Prieto DA, Hood BL, Darfler MM, et al:Liquid TissueTM:proteomic profiling of formalin-fixed tissues. BioTechniques 38:S32-S35, 2005
 6) Hood BL, Darfler MM, Guiel TG, et al:Proteomic analysis of formalin-fixed prostate cancer tissue. Mol Cell Proteomics 4:1741-1753, 2005
 7) Palmer-Toy DE, Krastins B, Sarracino DA, et al:Efficient method for the proteomic analysis of fixed and embedded tissues. J Proteome Res 4:2404-2411, 2005
 8) Crockett DK, Lin Z, Vaughn CP, et al:Identification of proteins from formalin-fixed paraffin-embedded cells by LC-MS/MS. Lab Invest 85:1405-1415, 2005
 9) Shi S-R, Liu C, Balgley BM, et al:Protein extraction from formalin-fixed, paraffin-embedded tissue sections:Quality evaluation by mass spectrometry. J Histochem Cytochem 54:739-743, 2006
 10) Chu WS, Liang Q, Liu J, et al:A nondestructive molecule extraction method allowing morphological and molecular analyses using a single tissue section. Lab Invest 85:1416-1428, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?