特集 遺伝子検査―診断とリスクファクター
3.遺伝子診断の実際 コラム
α1-アンチトリプシン欠損症
著者:
竹田正秀1
茆原順一1
植木重治1
所属機関:
1秋田大学医学部臨床検査医学
ページ範囲:P.1432 - P.1432
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α1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin;AAT)欠損症は若年で慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)を生じる常染色体劣性遺伝性疾患で,アメリカにおけるCOPD患者の1.9%にあたる約6万人がAAT欠損症を呈していたと報告されている.一方で,わが国においては16家系,23例が報告されているにすぎない.AAT欠損症の診断は一般的に,血清蛋白電気泳動でのα1-グロブリン分画のピークの消失と血清AAT濃度の低下によりAAT欠損症と診断し,pH4.2~4.9における等電点電気泳動,遺伝子診断によってAAT亜型・変異を決定する.遺伝子診断としては,DNAの直接シークエンスのほか,RFLP(restriction fragment length polymorphism),ASPCR(allele specific polymerase chain reaction),SSCP(single strand conformation polymorphism)など様々な方法が駆使されている.AAT遺伝子は第14染色体長腕に存在するserine protease inhibitor(SERPIN)supergeneと呼ばれる遺伝子群の一部分として存在し,AAT亜型は電気泳動の分布により陽極側からアルファベット順に命名されている.AAT欠損亜型に関しては約20種類報告されており,三つのタイプに分類される.第一は血清レベルが低下するが血中にAATが存在する欠乏型(deficient)で主にS型,Z型が含まれる.第二はAATの産生を全く認めない欠失型(null),第三は血中のAAT濃度は正常であるが,その機能が異常な機能異常型(dysfunction)である.疫学的に欧米では約90%がZ型の変異[Glu342(GAG)→Lys(AAG)]によるものであるが,わが国ではSiiyama[Ser53(TCC)→Phe(TTC)]の頻度が最も多く,地域・人種間でその変異に差異を認めている.そのためわが国独自のデータの集積とそれによるスクリーニング体制の構築が必要であると思われる.