文献詳細
文献概要
特集 遺伝子検査―診断とリスクファクター 3.遺伝子診断の実際 コラム
出生前診断
著者: 鈴森薫1
所属機関: 1名古屋市立大学大学院医学研究科
ページ範囲:P.1481 - P.1481
文献購入ページに移動 出生前診断とは「現在,妊娠している胎児がある特定疾患,特に遺伝性の疾患(染色体異常,先天代謝異常)に罹っているかどうか」を診断するものである.代表的なものは,羊水中の胎児由来細胞を培養し生まれてくる前に胎児が遺伝性疾患に罹患しているかどうかを診断する羊水診断で,超音波下による羊水採取の安全性の向上,細胞遺伝学・遺伝生化学的検査技術の進展とあいまって急速に拡まった.わが国でも1970年代から開始され,現在では年間1万件を超えている.しかし,いくつかの問題点が指摘されるようになった.羊水穿刺の母児への影響と診断結果が出るまでの時間的余裕を考慮して妊娠15~17週に実施されている.この時期になると妊婦は,ときに胎動を感じ,たびたび,超音波診断で活発に動いている胎児を観察し,母性が芽生える.胎児が異常という結果で妊娠中絶が選択された場合,妊婦には肉体的のみならず精神的に癒しがたい大きな傷を残すことになる.そこで実施時期の早期化のために開発されたのが絨毛診断である.胎児試料となる胎盤絨毛は,羊水穿刺よりも早く妊娠9~11週で採取される.羊水穿刺に比して技術的に難しく,一般臨床に応用するには多数例の羊水穿刺の経験を要する.採取された絨毛は生きた細胞で,DNAの抽出が容易なため最近進歩の著しい胎児遺伝子診断にとって有利である.不幸なことにわが国の絨毛診断実施施設はいまだに60前後にとどまっている.その他,遺伝性疾患の出生前診断のための手技には臍帯穿刺による胎児採血,胎児皮膚生検があるが,適応疾患に準じて選択される.
掲載誌情報