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文献詳細

雑誌文献

臨床検査52巻1号

2008年01月発行

文献概要

今月の主題 インフルエンザ診療のブレークスルー トピックス

インフルエンザ脳症―これまでわかったこと,わからないこと

著者: 河島尚志1

所属機関: 1東京医科大学小児科

ページ範囲:P.69 - P.74

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1.はじめに

 1994年の予防接種法の改定後インフルエンザワクチンの定期接種は任意接種となった.その後にワクチン接種者は前年度比で約2%までに激減し,インフルエンザの流行が増加することが予想されていた.こういった状況のなか,インフルエンザ流行中の短期間に多くの急死症例が小児を中心に全国的に経験されるようになった.当初原因は不明であったが,後にほとんどがインフルエンザ脳症によるものであることが判明した.われわれの施設でも1998/99年度は1週間に4例,99/2000年度は1例,2000/01年は2例のインフルエンザ脳症による死亡症例を経験した1).全国的にみても98/99年に217例がインフルエンザ脳炎・脳症として報告され,500例以上の実数患者がいたことが知られた2).また,当初はわが国にのみ発症しているということがいわれ,また,薬剤との関連を示唆することも報道された.しかしながら,その後,米国・欧州でも同様に急激な経過から死にいたるインフルエンザ脳症が多数報告3),また解熱剤の服用をしていない患者も多くいることが知られた.また,病理解剖などの結果から,中枢神経系に炎症反応はなく,ウイルスも検出されることは稀であることから,脳炎という名称は外れ,インフルエンザ脳症という呼称になった.今のところ,脳症を起こしやすい特異的ウイルスの流行は報告されていないが,H3N2(香港型)が流行した時期に発症者はより多く,H領域に特徴的な領域の報告がされている4).しかし,H1N1やB型でも脳症を発症し同様に予後不良の経過をとる.また,ワクチン未接種者の発症例が多かったが,その後わが国でのワクチン接種者例が増加し,ワクチン2回接種を受けている患者でも多数発症していることから,ワクチンによる脳症予防効果は疑問視されている.本稿ではこれまでに知られたことと,いまだ議論の段階にあることについて整理し報告する.

参考文献

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19) 山口清次:インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究,平成15年度厚生科学研究費補助金研究報告書,pp76-77,2004
20) 森島恒雄,他:インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究,平成17年度厚生科学研究費補助金研究成果報告書,pp9-34,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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