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シリーズ最新医学講座・Ⅰ 糖鎖と臨床検査・1
概説
著者: 笠原靖12 濱﨑直孝34
所属機関: 1昭和大学医学部臨床病理 2富士レビオ株式会社 3長崎国際大学薬学部 4九州大学
ページ範囲:P.97 - P.103
文献購入ページに移動本シリーズ最新医学講座では「糖鎖と臨床検査」と題し,今後12回にわたり専門の先生方から各トピックスの紹介がある.本稿ではその巻頭に当たり,理解の一助になればと思い,糖鎖研究の現状に関し広く概説を試みた.
医学のなかで糖鎖の研究は構造解析が複雑かつ困難なために遅れていた分野である.現在はヒトゲノム解析が達成されたのを期に,ターゲットが遺伝子から転写調節や翻訳後の蛋白レベルに移行し,遺伝子産物のプロテオミクス,メタボロミクスへと進展し,糖鎖が注目されるに至った.今では蛋白質の修飾や代謝に関連し,糖鎖に特化した概念としてグリコプロテオミクス1),グライコミクスへと発展している.
糖鎖に比べると,当然遺伝子の直接産物である蛋白質は生理機能に決定的な役割を果たしているが,糖鎖も従来の期待を超えた重要な役割があることがわかってきた.現時点で糖鎖は臨床検査とのかかわりは少ないが,将来を考えるとぜひ理解を深めておきたい対象である.
臨床検査と糖鎖というと,血液型やレクチンの研究などを考えるが,糖鎖の癌関連抗原の発見は脚光を浴び検査項目としても定着した.免疫の分野でも糖鎖は,感染症において自然免疫の主役を担うマクロファージや樹状細胞のレセプター,トールライクレセプター(toll like receptor;TLR)のリガンド2)として注目されている.
糖鎖抗原の発見はモノクローナル抗体技術の成果で,測定対象が分子全体ではなく,その一部を構成している糖鎖構造,すなわち,エピトープ単位となった.抗原に対する認識を一変させたのである.従来は蛋白質上に結合した糖鎖の議論であったが,糖鎖の構造単位のみがターゲットで,その結合母体がどんな蛋白質,脂質でもよいのである.
モノクローナル抗体が最初に応用された,膵臓癌のマーカーCA19-9は糖鎖,シアリルLeaを認識するモノクローナル抗体である.したがって抗体は膨大な分子量分布を持つ種々ムチン上の糖鎖と,脂質上の糖鎖も合わせて検出する.他の検査では肝癌のα-Feto蛋白質の修飾糖鎖,アルコール性肝炎のトランスフェリンの測定もある.
その後,単なる癌マーカーではなく機能としての癌関連糖鎖が注目される.さらに糖鎖は癌性と合わせて癌抑制作用なども明らかとなり,いま糖鎖は抗癌剤開発のターゲットとなっている.
図1に遺伝子(ゲノミクス)にはじまる糖鎖研究,グライコミクスの位置付けを略図で示した.遺伝子情報の蓄積,発展とともにゲノミクスからトランスクリプトミクス,プロテオミクス,メタボロミクスと生理作用に迫るなかで,プロテオミクスの修飾体,あるいは独立に糖鎖を中心とするグライコミクスの概念も確立した.糖鎖の研究は当然グライコミクスの中心をなすものであるが,歴史は古いが全く新しい分野といえる.そこで本シリーズはまず糖鎖の全体が把握でき,将来得られた成果がすぐにでも臨床応用に役立つことを願い,本シリーズを企画した.
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