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今月の主題 凝固制御 トピックス
生体肝移植後の血液中の血栓止血系因子の変動
著者: 和田英夫1 臼井正信2
所属機関: 1三重大学大学院医学系研究科臨床検査医学血栓・止血異常症診療センター 2三重大学大学院医学系研究科肝胆膵外科学
ページ範囲:P.1599 - P.1602
文献購入ページに移動近年,生体部分肝移植の生存率が著しく向上し,基礎疾患が肝炎や肝癌に伴う肝硬変例にも積極的に施行されるようになった1,2).このため,術前の状態が不良な症例も多く,肝移植後の合併症も増加してきている.肝移植後の合併症には出血傾向や血栓傾向が含まれ,合併症に十分対処するためには,肝移植後の血栓・止血系の変動を理解しておく必要がある.
肝臓はvon Willebrand factor(VWF),tissue type plasminogen activator(t-PA),plasminogen activator inhibitor-Ⅰ(PAI-1),thrombomodulin(TM)を除く,ほとんどすべての凝固因子(フィブリノゲン:FⅡ,FⅤ,FⅦ,FⅨ,FⅩ,FⅩⅠ,FⅩⅡ)と抗凝固因子(antithrombin;AT,protein C;PC,protein S;PS)ならびに線溶/抗線溶因子(plasminogen, plasmin inhibitor;PI)を産生する.このため,肝不全や肝移植後には血栓・止血系因子は低レベルであるが,微妙なバランスで均衡を保っている3).これらに急性肝不全,ビタミンK不足,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC),血栓性微小血管障害(thrombotic microangipathy;TMA),敗血症などが合併すると,急激に出血あるいは血栓症へと傾く.急性肝不全では,通常半減期の短いFⅦ,FⅤ,FⅡならびにFⅩの血中濃度は低下し,血中のFⅧやVWFは増加する.VWF,PAI-Ⅰ,TMなどは血管内皮細胞で作成されているので,これらは血管内皮細胞障害で放出されて,臓器障害例では血中濃度が著しく増加する.肝移植後の血栓・止血系に影響する因子としては,肝移植の基礎疾患,術前の病態,感染症,DIC,TMAなどの合併,免疫抑制剤などの薬剤の使用,肝移植に対する拒絶反応や種々の原因による肝不全などがある.また,脳死ドナーからの移植と生体部分肝移植では,血栓・止血系因子の変動パターンは異なる.
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