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文献詳細

雑誌文献

臨床検査52巻4号

2008年04月発行

文献概要

今月の主題 歯科からみえる全身疾患 トピックス

唾液ストレス関連成分の迅速分析法

著者: 田中喜秀1

所属機関: 1産業技術総合研究所ヒューマンストレスシグナル研究センター

ページ範囲:P.441 - P.449

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1.はじめに

 現代社会では「ストレス」という言葉が浸透し,日常会話でも頻繁に使われるようになった.仕事や勉強,職場・学校・近隣での人間関係,家庭の諸問題等々がストレスの要因(ストレッサー)となり,多くの方々が精神的ストレスを感じているものと思われる.過度なストレスを受けている場合には,①各個人がストレスに対応できる能力を向上させる,②各個人をとりまく周囲の人(家族,友人,同僚など)がサポートしてストレスを軽減させる,③ストレス軽減に向けた社会的支援を利用するなどして,心身症,神経症,うつ病などに罹らないようにできるだけ未病の段階で防ぐことが望ましい.一方で,ストレスの全くない生活では活気も失われてしまい,心身ともに健康で豊かな生活を営むことはできない.つまり,ストレスは「人生のスパイス」といわれるように,適度なストレスの範囲内で上手く付き合うことが大事である.

 血液や尿などの生化学的検査は,病気の診断,治療,早期発見や予防にいまや不可欠な存在である.しかしながら,うつ病などの精神疾患,未病のストレス状態などを定量的に評価できる生化学的指標は確立されていない.血液中には生体のストレス応答時に放出される成分も含まれるが,例えば穿針採血自身がストレス負荷となり,真のストレス状態を正しく評価・診断できないことが予想される.そのうえ,ストレス評価は病気の診断・検査のように必ずしも病院で行うものではなく,日常生活の場(フィールド)で血液検査を簡単にできるとは言い難い.そこで,ストレスフリーで簡単に採取できる唾液が注目され,ストレス指標の研究や迅速分析を組み込んだ製品開発が進められている.本トピックスでは,まずは唾液ストレス関連成分について概説したうえで,製品化された唾液アミラーゼ計測装置と次世代の分析ツールとして期待されているラボチップ分析システムを中心に紹介する.

参考文献

1) 永田頌史:ストレスの生理.ストレス診断ハンドブック第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,pp6-13,2003
2) 脇田慎一,田中喜秀,永井秀典:ストレスマーカーの迅速アッセイ.ぶんせき 2004:309-316, 2004
3) 山口昌樹:唾液マーカーでストレスを測る.日薬理誌 129:80-84,2007
4) 井澤修平,城月健太郎,菅谷渚,他:唾液を用いたストレス評価―採取及び測定手順と各唾液中物質の特徴.日本補完代替医療学会誌 4:91-101,2007
5) Garde AH, Hansen ÅM, Nikolajsen TB:An inter-laboratory comparison for determination of cortisol in saliva. Accred Qual Assur 8:16-20, 2003
6) 井澤修平,鈴木克彦:唾液中コルチゾールの測定キットの比較―唾液中・血漿中コルチゾールの相関ならびに測定法間の比較.日本補完代替医療学会誌 4:113-118,2007
7) 東朋幸,水野康文,山口昌樹:唾液アミラーゼ活性を利用した交感神経活動モニターの開発.YAMAHA MOTOR TECHNICAL REVIEW 40,2005
8) 山口昌樹,吉田博:唾液アミラーゼ活性による交感神経モニタの実用化.Chem Sens 21:92-98,2005
9) 馬場嘉信:日本のバイオ系μTAS最新技術,月刊バイオインダストリーNo.2,pp5-66,2007
10) 舘知也,加地範匡,渡慶次学,他:マイクロチップイムノアッセイ.分析化学 56:521-534,2007
11) 田中喜秀:ラボチップ.ストレスの科学と健康(二木鋭雄編),共立出版,pp272-276,2008
12) 田中喜秀:唾液で手軽に測れるストレス計測ツール マイクロ電気泳動チップで唾液中ストレス関連物質を分離測定.AIST Today 6,産業技術総合研究所,pp24-25,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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