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今月の主題 エピジェネティクスと臨床検査 巻頭言
エピジェネティクスと臨床検査
著者: 熊谷俊一1
所属機関: 1神戸大学大学院医学研究科臨床検査医学分野
ページ範囲:P.603 - P.604
文献購入ページに移動 エピジェネティクスは「epi-(onやafterの意)」と「genetics(遺伝学)」とが組み合わされた言葉で,「遺伝子の塩基配列の変化を伴わずに,細胞世代を超えて継承される遺伝子機能を研究する学問領域」である.一つの個体内では基本的にはすべての細胞が同じゲノムを有しているのに,その形態や機能は多様であり,これは遺伝子発現のパターンが個々の細胞により異なるからである.受精卵からの発生過程をみると,増殖と分化に伴い多様な細胞,組織,器官を形成し,そして個体を形作る.しかもこの個々の細胞や組織は,個体の成長とともに増殖し,損傷を受けた場合も元通りに修復される.このことは,細胞世代を超えて,遺伝子発現のパターンが記憶継承されることを意味し,それを担う機構が「エピジェネティクス制御システム」である.
染色体の研究から,転写因子がアクセスしやすいユーロクロマチン領域においても,ヘテロクロマチンが形成され遺伝子が不活化されていることが示されている.エピジェネティクス制御の機序には,DNAメチル化,アセチル化やメチル化などによるヒストン修飾,さらにはマイクロRNAによる制御機構などが明らかにされ,これらの制御系は様々な生命現象に関係することから,進化や個体発生における大変重要な学問領域となりつつある.もちろん,エピジェネティクス制御は正常の発生や分化においても重要な機構であるので,その破綻は発生や分化異常に伴う様々な疾患を起こしうる.さらに,ある一群の遺伝子座については親の配偶子形成過程において刷り込まれたエピジェネティックな修飾パターンが子に継承される(ゲノムインプリンティング).このインプリント遺伝子は,成長や胎盤形成だけでなく,生後のグルコース代謝や母性行動の調節,さらには先天性遺伝性疾患や癌にも関係する.通常はゲノム刷り込みにより母方か父方のどちらかが不活化されている遺伝子(片親発現遺伝子)において,不活化遺伝子を二つもったり,発現すべき遺伝子を欠失したりする場合に,精神発達障害を伴った先天性疾患を起こすことも明らかにされている.
染色体の研究から,転写因子がアクセスしやすいユーロクロマチン領域においても,ヘテロクロマチンが形成され遺伝子が不活化されていることが示されている.エピジェネティクス制御の機序には,DNAメチル化,アセチル化やメチル化などによるヒストン修飾,さらにはマイクロRNAによる制御機構などが明らかにされ,これらの制御系は様々な生命現象に関係することから,進化や個体発生における大変重要な学問領域となりつつある.もちろん,エピジェネティクス制御は正常の発生や分化においても重要な機構であるので,その破綻は発生や分化異常に伴う様々な疾患を起こしうる.さらに,ある一群の遺伝子座については親の配偶子形成過程において刷り込まれたエピジェネティックな修飾パターンが子に継承される(ゲノムインプリンティング).このインプリント遺伝子は,成長や胎盤形成だけでなく,生後のグルコース代謝や母性行動の調節,さらには先天性遺伝性疾患や癌にも関係する.通常はゲノム刷り込みにより母方か父方のどちらかが不活化されている遺伝子(片親発現遺伝子)において,不活化遺伝子を二つもったり,発現すべき遺伝子を欠失したりする場合に,精神発達障害を伴った先天性疾患を起こすことも明らかにされている.
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