icon fsr

雑誌詳細

文献概要

--------------------

あとがき

著者: 伊藤喜久

所属機関:

ページ範囲:P.832 - P.832

 最近つとに慢性腎臓病(CKD)が目を引きます.腎臓は多量の血液が流れ高圧の負荷を受ける臓器であり,濾過,再吸収装置であるがゆえに,多くの自己成分,異物が容易に沈着し持続的な炎症が引き起こされます.基礎疾患では何といっても糖尿病腎症で40%を占め,IgA腎症など慢性糸球体腎炎が20%,基礎疾患が不明なものも少なくありません.平均寿命の伸びたこともあり末期腎不全に至るケースが増え続け,透析治療中の患者は今や30万人を超え,毎年3万人以上に新たな透析導入が行われており,国家経済,医療福祉サービスのうえからも大きな重荷となってきています.ただ加齢に伴う機能低下が,どこまでが生理的でどこからが病的なのか,生命予後をいかにして予測するかの見極めは必ずしも容易ではありません.メタボ健診も含め健康診断,検査結果が基礎疾患,病態の早期発見,予防につながるよう,長期にわたるフォローの成果を期待したいものです.

 今月の特集は「腎移植」です.QOLの改善,患者予後,医療経済などあらゆる面から透析療法を凌駕します.他臓器に比べ,はるかにアクセスしやすい臓器です.もう20年前ですが,腎移植から生着まで尿中蛋白プロフィルを長期間追ったことがあります.普段の生活になんら支障なく過ごすことができる成功例でも,実はほとんどのケースは異常値を示しており,原疾患は何であれ,移植は末期腎不全から腎機能低下の初期段階に戻ってリスタートする治療であり,再び腎不全に至るには年余にわたるため,結果として残りの人生を十分健康な生活を保障しうるものとなります.この優れた治療法が,日本においてはなかなか定着しない.さらにいっそう生着率を高めるためには,拒絶反応と免疫抑制剤副作用,ドナーなどの問題が立ちはだかります.今やiPS細胞に夢を託して自己の腎臓を移植する飛躍的な発展の時代を目の前に迎えています.すべての移植治療のパイオニア的な役割をはたしながら,近い将来腎疾患の治療体系の中核となるのではないでしょうか.厳密にはホモとは言えない移植片に対し,これまでには経験し得ない新たな病態が出現し,ここから臨床検査も活性化し続けるはずです.

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?