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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査53巻2号

2009年02月発行

雑誌目次

今月の主題 生体内微量元素

巻頭言

微量元素の臨床検査―新たな検査情報発信への期待

戸塚 実

pp.147-148

 太陽系の構成元素は約90%が水素(H),9%がヘリウム(He)で,その他の元素は1%に過ぎないそうだ.しかも,その他の1%の元素の大部分は原子番号27番までの元素だという.ちなみに,太陽は約99%が水素で構成されている.したがって,太陽系の中にあって地球は稀少元素の占める割合が随分多いことになる.その地球も,全体をみた場合と私たちの生活に関係の深い大気を含む地表面付近に限ってみた場合とでは,構成元素の割合が大きく異なるという.地表面に存在する生物を代表して私たち人間,すなわち人体を構成する元素の割合も生活環境とは大きく異なっている.太陽系にとっての地球,地球にとっての人間(人体),それぞれの占める割合は極めて小さな部分である.さて,本特集のテーマである微量元素はまさに人体にとってはケシ粒ほどの部分に過ぎない.全微量元素を合計しても人体を構成する元素の1%(重量比)にも満たない成分である.しかし,その生理学的機能を考えると太陽系の中で青く美しく輝く地球,あるいは地球上で暮らす私たちと何か通ずるものがあるようにも思えてくる.

 微量元素と聞くと,何年か前に学術領域だけでなく巷でも話題になったアルミニウム(Al)とアルツハイマー病の関係が思い出される.アルツハイマー病患者の脳からアルミニウムが検出されたことや,アルミニウムが体内に多量に取り込まれると認知症状を生じるといった報告,また,アルミニウムが脳血液関門を通過するメカニズムに関する報告などが新聞などで紹介されたことが引き金になっている.一時,アルミ鍋や缶ビールの売り上げが減少したといったニュースがあったようにも記憶している.こんな騒ぎは困るが,微量元素の研究が発展する一つの機会になったとすればその点では幸いである.

総論

微量元素の代謝と生理的機能

荒川 泰昭 , 小川 康恭 , 荒記 俊一

pp.149-153

 生体を構成する種々の微量元素は,生体内で正常な生命機能を維持するために,バランス良く生理的最適濃度範囲に維持・調節されている(微量元素の恒常性の維持).しかし,そのバランスが欠乏や過剰により破綻し,恒常性が失われると,特定元素の過剰蓄積や欠乏が誘発され,それぞれ特有の疾病が誘発される.一般的には,多量元素の撹乱は栄養障害や水電解質異常として現れ,微量元素の撹乱は生体内の酵素や生理活性物質の機能障害として現れる.

微量元素とトランスポーター

藤代 瞳 , 姫野 誠一郎

pp.155-160

 生体内における鉄の吸収,血液への移行,運搬,利用,再利用は,様々なトランスポーターとそれを調節する因子,および酸化還元酵素によってコントロールされており,それぞれの遺伝子の変異が様々な鉄代謝異常疾患を引き起こす.一方,亜鉛トランスポーターの機能の解明が進むにつれ,これまで漠然と亜鉛との関連が示唆されていた発生,炎症,癌の進展などの生命現象や疾患との関係が分子レベルで解明されつつある.

微量元素の毒性発現

米谷 民雄

pp.161-166

 微量元素が有用な作用を示すか毒性を示すかは,用量により決まる.そのため,厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」においても,必須元素に対して上限量が設定されている.また,微量元素の毒性は用量のみではなく,その化学形や暴露経路にも依存している.そのほかにも,毒性を修飾する種々の因子がある.一方,生体を微量元素の毒性から防御したり,生体防御に役立っていると考えられる機構が,生体内には存在している.本稿では,これらの事項について概説した.

各論

細胞内微量元素

佐治 英郎

pp.167-170

 いくつかの微量元素はトランスポーターにより細胞内に取り込まれ,蛋白質に結合したり,組み込まれたり,あるいはイオンとして存在し,細胞の活動,維持に不可欠なものとして機能している.ここでは,研究が進んでいる鉄,銅,亜鉛,ヨウ素を中心に,微量元素の細胞内での挙動,存在状態について概要を述べる.

血中微量元素

木村 美恵子

pp.171-175

 太古の宇宙に地球が出現したのはおおよそ46億年前,そして,その地球に生命が誕生したのは40億年前とされている.そして,生命の誕生は海から,数々の分子進化,生物進化を経て,魚類には鰓ができ,酸素呼吸を求めて,生物は海洋から陸上への途を辿り,現在の人間の基礎となった.しかし,陸上に上がった生物も生命の源である海洋の環境から脱することなく,海洋のミネラル組成が生き物の源となっていることは周知である1)

 地球環境は元素からなり,現時点では地球上には周期律表にあるように111種類の元素の存在知られている.このうち酸素(O),水素(h),窒素(N),カルシウム(Ca),リン(P)は生体構成成分として,硫黄(S),カリウム(K),ナトリウムNa),塩素(Cl),マグネシウム(Mg)は主に体液成分として次に多い.生体の99.2%はこの11種類の元素である.その他の生体には微量存在する元素は生体への必須性が証明されていないものも多い.

尿中微量元素

西牟田 守

pp.177-179

はじめに

 「微量元素」など,元素レベルで物質を分類するときの用語は,厳密には定義されていないので,はじめに,本稿で用いる用語を定義する必要がある.

 1.ヒトにおける必須性による元素の分類

 人が生命を維持するために必要とする元素を「必須元素」,必要性が科学的に証明されていない元素を「その他の元素」とよぶ.なお,その他の元素は今後必須性が明らかにされる可能性があるので「非必須性元素」とよぶことはできない.

 2.食事摂取量による元素の分類

 H, C, N, Oの4元素は有機物を構成する主要な元素であり,「主要元素」とよぶ.また,主要元素以外の元素の総称として「ミネラル」という用語を用いる.通常の食事で1日100mg以上摂取するミネラルは,Na, K, Cl, Ca, Mg, P, Sの7元素を「主要ミネラル」とよぶ.主要元素は,すべて必須ミネラルである.主要ミネラル以外のミネラルを「微量元素」とよぶ.微量元素のうちヒトにおける必須性が明らかな元素を「必須微量元素」とよぶ.微量元素のうち通常の食事で1日mg以上摂取するミネラルを「微量元素Ⅰ」とよぶ.「微量元素Ⅰ」のうちZn, Fe, Cu, Mnの4元素は必須微量元素である.微量元素ⅠのなかにはF, Sr, Rbのように必須性が明らかでない元素も存在する.微量元素のうち通常の食事で1日mg未満しか摂取しないミネラルを「微量元素Ⅱ」とよぶ.微量元素ⅡのうちCo, Cr, I, Mo, Seの5元素は必須微量元素である.微量元素Ⅱのその他の多くのミネラルは,その生理効果が明らかではない.

 3.生理的存在部位にいるミネラルの分類.

 ミネラルのなかには生理的存在部位により分類できるものがある.細胞外液に比べて細胞内の濃度が高い必須ミネラルを「細胞内ミネラル」とよぶ.細胞内ミネラルはK, Mg, P, Zn, Feである.逆に,細胞内に比較して細胞外液の濃度が高い必須ミネラルを「細胞外ミネラル」とよぶ.細胞外ミネラルはNa, Cl, Caである.その他の必須ミネラルは,細胞内外で大きく濃度が異ならない(Cu),動物の細胞中にはわずかにしか存在しない(Mn),研究が進展していない(S, Co, Cr, I, Mo, Se)などの理由で何れの分類にも属さない.骨のミネラル組成は細胞とも細胞外液とも異なる.骨を構成し,骨が貯蔵庫となっている必須ミネラルを「骨ミネラル」とよぶ.骨ミネラルは細胞内ミネラルのうちMg, P, Zn,細胞外ミネラルのうちNa, Caである(表1)1,2)

微量元素欠乏症・過剰症

後藤 政幸

pp.181-183

 微量元素と疾病に関する研究報告や臨床例は多くある.しかし,その生理学的機序については十分に解明されていないのが現状である.また,微量元素の摂取量については『日本人の食事摂取基準―2005年版―』が設定されており,健康の維持・増進が推進されている.本稿では,臨床と栄養学の知見を交叉させ微量元素の欠乏症および過剰症を述べる.

分析測定法

微量元素の分析技術―臨床検査の実際と今後の展開

五十嵐 香織 , 榎本 秀一

pp.185-189

 臨床検査における体液中の無機質(金属元素,ミネラル)の分析に関しては,通常,血清中や尿中の分析が日常であろう.体液中の無機質は,遊離型イオンとして存在するNa,K,Cl-,HPO42-,HCO3-,SO42-などがあり,これらを電解質と呼んでいる.一方,蛋白質や低分子化合物との結合型や遊離型で存在するCa2+,Mg2+,蛋白質と結合している場合の多いFe,Cu,Zn,Mnなどが存在するが,これらを微量元素と呼んでいる.本稿では,これら無機質成分のうち特に微量元素の臨床検査に着目し,汎用される分析機器や今後,利用が増していくことが予測される先端分析機器を紹介し,併せて通常汎用される臨床検査法を紹介したい.

話題

微量元素と免疫機能

荒川 泰昭 , 小川 康恭 , 荒記 俊一

pp.191-196

1.はじめに

 微量元素は直接的に,あるいは栄養障害,ホルモンバランスの撹乱,器官の組織傷害,機能障害などを介して間接的に免疫応答を修飾する.すなわち,微量元素はそれぞれが持つ生理活性に依存して直接に,あるいは細胞内代謝(ホメオスタシスの維持)や細胞応答関与の酵素,サイトカイン,ホルモンなどの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して,免疫応答を本質的に担っているリンパ球の増殖・分化・細胞死を修飾する1~6).そして,その修飾には,欠乏あるいは過剰による各微量元素固有の生理的最適濃度範囲からの逸脱に起因した障害が含まれる.しかも,この微量元素の免疫系への有害影響には免疫反応を亢進する場合と抑制する場合とがあり,前者は自己免疫疾患やアレルギー疾患7)の原因となり,後者は感染症や発癌・癌進展8)などの原因となることが考えられる.

亜鉛と脳機能

武田 厚司

pp.197-201

1.はじめに

 現在,ヒトに必要な元素として20種類以上が知られており,細胞の増殖・分化・機能に重要な役割をもつ.その中には鉄,亜鉛などの微量元素が含まれている.亜鉛は酵素活性,蛋白質の構造維持に必要であり,300種以上の亜鉛結合蛋白質が知られている.亜鉛は蛋白質の機能を通して遺伝子の複製や発現など細胞機能に関与し,個体の発生ならびに生命活動に重要な役割を担っている.また,フリー亜鉛(亜鉛イオン:Zn2+)は細胞内外において極めて低濃度で存在するが,細胞内Zn2+がシグナル因子として機能することが考えられる.さらに,脳内では亜鉛は神経細胞のシナプス小胞内に存在し,神経伝達調節因子として機能する.すなわち,神経活動に伴い放出されたZn2+がダイナミックに脳機能を調節する.

 大脳皮質では多数の皮質領域を結ぶネットワークを介して皮質機能が連合し,思考や記憶などの高次機能を営む.大脳皮質の内側面にある海馬は記憶と関係し,海馬が損傷されると記憶が形成されない重度な前行性健忘症となる.大脳皮質の連合野と海馬のネットワークは記憶に関係する.感情表現など情動行動を司る扁桃体とともに,海馬では亜鉛濃度が他の領域と比べて高い(図1aと1b).また,Timm's染色(Zn2+が染まる)でもこれらの領域が強く染色される(図1c).本稿では,脳の機能ならびに病態を,亜鉛の作用点から実験動物を用いた筆者らの研究成果を踏まえて概説する.

微量元素と内分泌機能

荒川 泰行 , 荒川 泰雄 , 林 洋一 , 森山 光彦

pp.203-212

はじめに

 生体における微量元素(鉄,亜鉛,銅,セレン)の存在比は0.02%にすぎないが,大部分が酵素の活性中心ないし微量生体内活性物質として存在し,微量でも大きな働きをしている.“たかが微量元素,されど微量元素”の認識が大切であって,たとえ微量であっても,生体にとっては欠かせないものであり,どの微量元素もそれぞれ大切な役割を担っているので,体内に含まれている量が少ないからといって重要度が低いということではない.

 微量元素はそれぞれがもつ生理活性に依存して直接的,あるいは間接的に細胞内代謝や細胞応答関与の酵素,サイトカイン,ホルモンなどの活性化機構やシグナル伝達機構への影響を介して生体機能のホメオスタシス維持に重要な働きをしている.したがって,生体必須微量元素,特に亜鉛,銅,鉄,セレンなどの過剰蓄積,あるいは欠乏によってバランスの乱れが起こると,視床下部,脳下垂体,甲状腺,副腎,膵,精巣,卵巣という多くの内分泌腺とそのホルモンの機能異常を誘発することは容易に考えられる.

微量元素と癌

岡部 真一郎 , 江原 正明 , 横須賀 收

pp.213-216

1.はじめに

 世界では,毎年1,000万人が癌にかかっており,その約12%が死亡している.このため,癌のリスク要因について多くの検討が行われている.もともと微量元素は自然界に存在し,われわれ人間は食事,飲水により摂取することになるが,微量元素の過剰摂取や欠乏によりある種の癌が多発することが疫学的に報告されており,微量元素の癌化への関与が示唆されている.これらの検討から,微量元素自体に発癌性をもつものと発癌抑制効果のあるものが報告されているが,それぞれにつき概説し,併せてわれわれが検討している肝細胞癌における微量元素についても示す.

銅と遺伝

清水 教一

pp.217-220

 銅(copper)は原子番号29,元素記号はCuの金属である.この元素記号はラテン語のcuprumから来ている.Cuprumはさらに「キプロス島の真鍮」という意味のCyprium aesに由来しており,これはキプロスに銅採掘場があったためと言われている.金属としての銅は導電性が高く,また銅イオンは殺菌作用を有する.このことより,電線・ケーブルをはじめ,絨毯や靴下などにも良く使われている.また,生体において銅は必要な物質である.植物・動物いずれにおいても,銅の過不足は健全な成長を妨げるものである.

今月の表紙 帰ってきた真菌症・2

病原性Aspergillus

矢口 貴志

pp.144-146

 Aspergillus属は世界各地の土壌,空中,穀物をはじめとする食品など生活環境から高頻度に分離されPenicillium属と並んで最も普遍的な真菌の1つである.その中には,マイコトキシンの生産や,食品の事故原因菌として食品衛生上問題となる菌種もある.また,日本をはじめとする東アジアでは,古くから味噌,醤油,酒など発酵食品の製造に使用されている.

 アスペルギルス症は,Aspergillus属によって生じる疾患の総称である.多くの場合呼吸器が侵されるが,いずれの組織,臓器も侵される可能性がある.肺のアレルギー,角膜,外耳道以外の場合,ほとんどが日和見感染として生じる.主要な病型は,肺アスペルギローマ(pulmonary aspergilloma),アスペルギルス肺炎(Aspergillus pneumonia),アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA),播種状アスペルギルス症(disseminated aspergillosis),皮膚アスペルギルス症,脳アスペルギルス症,角膜アスペルギルス症,副鼻腔のアスペルギローマ,耳アスペルギルス症である1)

シリーズ最新医学講座・I 死亡時医学検査・2

死亡時画像(Ai)とAiセンター

山本 正二

pp.221-230

はじめに

 第一回の連載では,エーアイの概略とAiセンターの役割が述べられています.今回は,実際にAiセンターがどの様な役割を担い,活動しているかについて,2008年に正式な組織として認定された千葉大学医学部附属病院Aiセンターを例に取り説明いたします.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ iPS細胞・2

iPS細胞作成におけるウイルスベクターの役割と問題点

北村 俊雄 , 沖 俊彦

pp.231-235

 4種類の遺伝子の導入によって線維芽細胞が初期化し,マウス個体を形成しうる全能性を獲得することが京都大学の山中らによって報告された.この細胞はiPS細胞(induced pluripotent stem cell)と命名された.iPS細胞の樹立は生命科学の歴史で特記すべき進歩であり,将来的には再生医療,細胞療法に応用されることが期待される.iPS細胞の樹立の効率化や腫瘍形成の可能性の排除など,臨床応用の前にはまだまだ解決すべき問題が多い.

研究

小型デジタル尿糖計の性能評価―同時再現性と共存物質の影響および臨床用尿糖検査機との相関性

山口 いずみ , 近藤 敏江 , 斎木 良明 , 阪本 要一

pp.237-242

 家庭で簡便に尿糖を定量測定できるデジタル尿糖計の同時再現性,共存物質の影響,臨床用尿糖検査機との相関などの基礎的な性能を検討した.極度に高濃度の溶血ヘモグロビン,アスコルビン酸を含む尿では尿糖値は低値となる傾向が見られたが,通常排泄される尿ではどの評価も良好な結果であった.デジタル尿糖計は,家庭で尿糖自己測定による自己管理を行うためのツールとして,十分な性能を持つ測定機器であることが確認された.

海外文献紹介

フェノバルビタールによる安定で長期の治療が血清アラニンアミノトランスフェラーゼおよびγ-グルタミルトランスフェラーゼ活性に及ぼす影響 フリーアクセス

鈴木 優治

pp.153

 フェノバルビタール(Phe)は一般に安全で効果的な薬剤であると考えられている.しかし,肝毒性は稀ではあるが致命的な副作用であり,安定で長期の単一療法を受けている患者における血清肝酵素活性に関する情報はほとんどない.

 著者らはPhe治療を長期間継続的に受けている成人外来患者128人におけるALT(alanine aminotransferase)およびGGT(γ-glutamyltransferase)の血清中活性をPheとともに測定した.対照は年齢・性を一致させた継続的に受診している外来患者2,468人とした.Phe治療者の血清ALTおよびGGT活性は対照者よりも高値であった.また,GGT値は異常であるがALT値は正常である患者の割合は対照者に比べて多かった.最適以下濃度と治療濃度の薬剤投与による患者間に平均活性およびALTまたはGGTの異常割合に有意差は見られなかった.この結果は長期のPhe治療が血清GGTの上昇と関係していることを示唆するものと考えられる.

血漿fetuin-A濃度と2型糖尿病の危険率 フリーアクセス

鈴木 優治

pp.196

 2型糖尿病は肥満と共に主要な世界的,公衆衛生的脅威であり,寿命低下の重要な寄与因子である.肝分泌蛋白質のfetuin-Aは動物においてインスリン抵抗性を誘導し,ヒトでは循環fetuin-Aはインスリン抵抗性や脂肪肝において上昇している.

 著者らは血漿fetuin-A濃度が2型糖尿病の出現率を予測できるかどうかを研究した.実施した27,548人からなるcase-cohort studyにおいて,subcohortとして無作為に2,500人を選んだ.そのうちの2,164人は非糖尿病であり,解析のための既往や人体計測および代謝データが揃っていた.7年の追跡期間に同定された糖尿病症例849人のうち,703人が同様の除外後に解析対象として残った.

ヒトの甘味認識の閾値昼間変動は血漿レプチン濃度と相関する フリーアクセス

鈴木 優治

pp.242

 最近,末梢味覚器官がレプチンの標的器官の一つであることが見いだされた.痩せたマウスでは,レプチンは他の味覚刺激に対する応答に影響を及ぼすことなく,選択的に甘味化合物に対する味覚神経応答や行動応答を抑制したが,レプチン受容体欠損の肥満糖尿病db/dbマウスは甘味に対するこのレプチン抑制を欠いていた.

 著者らはヒトにおけるレプチンと甘味との潜在的な関連をさらに調べた.研究では,非肥満者91人を対象として種々の味覚刺激に対する認識閾値を測定した.また,通常食と制限食の条件下で血漿レプチン濃度をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法により測定した.甘味化合物の認識閾値は8~22時に昼間変動を示し,レプチンの変動と平行していた.閾値は朝に最低,夜に最高であった.この昼間変動は甘味選択的であり,他の味覚刺激(食塩,クエン酸など)の閾値には見られなかった.甘味閾値の昼間変動は通常の3食摂取においては食事時間とそれによる血液グルコース濃度とは関係がなかった.一日1食または2食の制限下でレプチンが位相移動したとき,甘味閾値の昼間変動も平行移動した.

Coffee Break

国際会議で初めての英語発表(その1)

佐々木 禎一

pp.176

 学会などで初めて発表する時は,誰しもそれなりの緊張に見舞われるものである.特に国内外を問わず英語で発表する場合は,それはより顕著となる.私が初めて人前で英語で発表したのは,米国留学中(昭和33~35年)に研究グループ内での頻回に行われた実験成果の報告会の時であるが,本格的な英語発表を経験したのは帰国後の昭和38年,札幌医科大学微生物学教室から当時の中央検査部に移籍してからの話である.実はその年,私はPasteur研究所のMollaret教授から「仮性結核菌症に関する第1回国際会議(First International Meeting on Pseudotuberculose)」への参考発表の要請を受けたことによるものであった.

 前回でも紹介したように,私は昭和26年から数年間にわたり微生物学教室で各種菌のO抗原多糖体の分析をしており,その中の仮性結核菌Pasteurella pseudotuberculosisのデータを昭和32年Nature誌に投稿した.もちろんNatureへの掲載は極めて難かしいのを私なりに知っていたが,クレームも差し戻しもなく掲載されてしまい,自分でも驚いた.その表題は“T. Sasaki:Monosaccharide composition of the antigenic polysaccharide of Pasteurella pseudotuberculosis rodentium*. Nature 179, 190-191(1957)”であった.

随筆・紀行

渡る世間

屋形 稔

pp.184

 親元を離れて新潟の旧制高校に入った頃は宿舎は全寮制度で,全員一年間寮にぶちこまれることになっていた.芋洗い教育と称して生徒同士の切磋琢磨を目的としたもので,いわば憧れの生活ではあった.したがって,高下駄を履いて高吟しながら下界(街)を徘徊したり,戦局制あらず食糧乏しくなっても腹が空くと賄征伐と称して炊事場を襲ったりして結構楽しかった.もっとも新潟は他地に比して食糧難が遅く,受験生も寿司がまだ食える土地というだけで希望した者もいたという.

 二年生になると大半は下宿屋に追いやられ,三年次は大学受験準備で大部分が寮を出た.私は二年次は寮委員として残り,三年次もわずか数名になった仲間と寮に残ったのを見ると余程この生活が気に入っていたのか,怠け者だったのであろう.

編集者への手紙

血漿アミノ酸のアポ蛋白E由来の可能性

小林 正嗣 , 村田 和弘 , 木村 隆

pp.244-248

1.はじめに

 先に血漿アミノ酸の各平均濃度の比率とアポ蛋白Eの各アミノ酸残基の存在比率との類似性から血漿アミノ酸のアポ蛋白E由来の可能性1)を述べた.しかし,今日においては,アメリカ国立医学図書館(U.S. National Library of Medicine;NLM)のバイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)のデータベースの各種ヒト蛋白のアミノ酸構成がインターネット上に一般公開され,これらを容易に検索できるようになったことから,先に引用,記載した各種蛋白のアミノ酸構成を訂正し,改めて先の論文1)を修正,再掲する(注─本稿最後に掲載).

あとがき フリーアクセス

片山 善章

pp.252

 生体内の必須微量元素は鉄(Fe),銅(Cu)以外に亜鉛,(Zn)マンガン(Mn),セレン(Se),コバルト(Co),クロム(Cr),スズ(Sn),ニッケル(Ni),モリブデン(Mo)などがあげられる.

 これらの金属元素の生理的作用および臨床的意義は,本特集を読んでいただくことにして,臨床検査における測定法に関していえば,代表的なFe,Cuはキレート発色による化学的測定法があり,他の金属は原子吸光法で測定されている.特にFe,Cuはキレート発色による同時測定法(Fe,Cuキレート剤はそれぞれトリピリジル・トリアジン,バソクプロイン)などは非常に面白い方法であった.しかし,金属は生理的作用である酵素反応と密接に関係していることから,Na,K,Cl,Ca,Mgなどは酵素反応を利用した酵素法が報告され,Caは実用化されて,現在,日常検査に利用されている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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