文献詳細
文献概要
学会だより 第55回日本臨床検査医学会学術集会
一つの蛋白質から切り開く臨床検査医学
著者: 大林光念1
所属機関: 1熊本大学大学院医学薬学研究部・病態情報解析学分野
ページ範囲:P.513 - P.513
文献購入ページに移動トランスサイレチン(transthyretin:TTR)は,その名の由来のとおりサイロキシンおよびレチノール結合蛋白を介し,ビタミンAの担体として機能する蛋白質として古くから知られてきたが,安東先生は,このTTRについて,上記のような古くから知られる機能のみにとらわれず,①わが国に大きなフォーカスを持つ常染色体優性遺伝の疾患,家族性アミロイドポリニューロパチー(Familial Amyloid Polyneuropathy;FAP)の原因蛋白質としての側面(異型TTRが関与),②高齢者の心臓や肺,消化管,大動脈系,甲状腺などにアミロイドが沈着し,臓器障害に至る老人性アミロイドーシス(senile systemic amyloidosis:SSA)の原因蛋白質としての側面(野生型TTRが関与),③早期卵巣癌における腫瘍マーカーとしての側面,④インスリン強化蛋白質としての側面,⑤急性期の栄養評価蛋白質としての側面,からもそれぞれ詳細に基礎的,臨床的検討をなさっており,その蓄積されたデータから,この蛋白質が臨床検査上いかに有用な物質の一つであるかを今回われわれに教授されたのである.このほか,最近の研究からTTRには神経組織保護作用があることも明らかにされてきたようで,さらに脈絡叢で産生されるTTRは,アルツハイマー病の進行に抑制的に働くとする報告もあるらしい(他方でこれを否定する論文もあり,この点に関する議論は現在も分かれているとのこと).TTRがこれほどまでに多面性を持つことを知り,多くの聴衆は驚いたのではなかろうか.
掲載誌情報