文献詳細
文献概要
シリーズ-検査値異常と薬剤・2
―臓器・組織に対する薬剤の影響―薬剤性肝障害
著者: 伊藤喜久1
所属機関: 1旭川医科大学臨床検査医学
ページ範囲:P.323 - P.328
文献購入ページに移動はじめに
人類50万年の進化過程のなかで,合成薬物の曝露はわずか60年に満たない.生体は天然の有機物,無機物に準じ新たな異物を処理除去するとして,生体条件や構造特性などにより時として致死的,傷害的作用を受ける.程度の差こそあれ副作用の出現は不可避であり,いかに可及的に抑制し最大限の薬効を引き出すか,幾多の動物実験,さらにはヒトを対象とした臨床試験により,安全性(副作用の種類,程度,発現条件など)と有効性(効果,最適投与量,投与方法)の2つの柱から臨床利用が目指されてきた.
生体内で異化・同化・体内処理の主要組織は肝臓と腎臓であり,ほかの臓器組織に比べはるかに影響,障害を受けやすく,薬物副作用の機序の解明の焦点はここにある.
近年,薬物性肝障害についての研究,調査が進み,わが国においては「重篤副作用疾患別対応マニュアル薬物性肝障害」(平成20年,厚生労働省),「急性腎不全」(平成19年6月,厚生労働省)としてまとめられ,薬物臓器組織障害に対する早期発見,治療,予防の推進が加速されてきている1~3).しかし,発症機序は複雑で解明にはほど遠く,予測がつかない現状には変わりがない.
本連載では総論として2回にわたり薬剤性肝障害,薬剤性腎障害について病態検査学的な背景も踏まえ,検査評価の意義と問題の現状を浮き彫りにしてみる.
人類50万年の進化過程のなかで,合成薬物の曝露はわずか60年に満たない.生体は天然の有機物,無機物に準じ新たな異物を処理除去するとして,生体条件や構造特性などにより時として致死的,傷害的作用を受ける.程度の差こそあれ副作用の出現は不可避であり,いかに可及的に抑制し最大限の薬効を引き出すか,幾多の動物実験,さらにはヒトを対象とした臨床試験により,安全性(副作用の種類,程度,発現条件など)と有効性(効果,最適投与量,投与方法)の2つの柱から臨床利用が目指されてきた.
生体内で異化・同化・体内処理の主要組織は肝臓と腎臓であり,ほかの臓器組織に比べはるかに影響,障害を受けやすく,薬物副作用の機序の解明の焦点はここにある.
近年,薬物性肝障害についての研究,調査が進み,わが国においては「重篤副作用疾患別対応マニュアル薬物性肝障害」(平成20年,厚生労働省),「急性腎不全」(平成19年6月,厚生労働省)としてまとめられ,薬物臓器組織障害に対する早期発見,治療,予防の推進が加速されてきている1~3).しかし,発症機序は複雑で解明にはほど遠く,予測がつかない現状には変わりがない.
本連載では総論として2回にわたり薬剤性肝障害,薬剤性腎障害について病態検査学的な背景も踏まえ,検査評価の意義と問題の現状を浮き彫りにしてみる.
参考文献
1) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害 平成20年4月.http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0804002.pdf(2010年1月24日参照)
2) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性腎不全 平成19年6月.http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0706010.pdf(2010年1月24日参照)
3) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性腎炎(尿細管間質性腎炎)平成19年6月.http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm0706009.pdf(2010年1月24日参照)
4) 三藤留美,岩佐元雄,足立幸彦:薬物性肝障害の実態と疫学.医学のあゆみ 214:765-769, 2005
5) Russmann S, Kullak-Ublick GA, Grattagliano I:Current concepts of mechanisms in drug-induced hepatotoxicity. Curr Med Chem 16:3041-3053, 2009
6) Faber KN, Muller M, Jansen PL:Drug transport proteins in the liver. Adv Drug Deliv Rev 55:107-124, 2003
7) Liu ZX, Govindarajan S, Kaplowitz N:Innate immune system plays a critical role in determining the progression and severity of acetaminophen hepatotoxicity. Gastroenterology 127:1760-1774, 2004
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11) 清水幸裕,田尻和人:薬物性肝障害の診断基準をめぐって 免疫学的観点からみた診断の現状と今後の展望.医学のあゆみ 214:791-795, 2005
12) 萬谷直樹,小暮敏明,田村遵一:薬物性肝障害の診断基準作成における問題について.肝臓 45:332-337, 2004
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