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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査54巻4号

2010年04月発行

雑誌目次

今月の主題 広義のアポリポ蛋白

巻頭言

広義のアポリポ蛋白―量から質の検査へ

戸塚 実

pp.343-344

 「動脈硬化」といえば「コレステロール」といわれるほど,世間に周知された関係である.細胞膜の形成やステロイドホルモン合成に重要な役割を果たしているにもかかわらず,コレステロールは嫌われ者である.さらに,コレステロールにも善玉と悪玉,すなわちHDL-コレステロール(HDL-C)とLDL-コレステロール(LDL-C)が存在すると知られるようになった.もちろん,コレステロールそのものに悪玉も善玉もないが,コレステロールという単なる脂質からリポ蛋白という複合体を基準にした考え方が一般的に定着してきた.それ以来,動脈硬化の危険因子としてのLDL,防御因子としてのHDLはそれぞれ注目を集めることになる.

 HDLの善玉説は1968年,Glomsetの発表に端を発すると考えられる.彼はHDLが末梢組織から過剰なコレステロールを肝臓へ転送することを示唆している.1975年,Millerらの報告によって,虚血性心疾患の防御因子としてHDLは一躍脚光を浴びるようになった.その後,多くの疫学的研究によって血中HDL-C濃度と虚血性心疾患発症との間に逆相関のあることが証明されている.1977年,Framingham studyはその代表とされる.わが国においてHDL-Cが日常検査に取り入れられるようになったのも,まさに1970年代の終わりである.ここ30~40年の間に臨床化学検査で最も検査数が増加し,定着した検査項目の1つであるといっても過言ではない.

総論

リポ蛋白と粥状動脈硬化

三井田 孝 , 平山 哲

pp.345-351

 リポ蛋白は,血液中で脂質を運搬する粒子である.血清コレステロール値が低い動物では,粥状動脈硬化は認められない.しかし,ヒトでは脂質異常症をはじめとする様々な危険因子が作用して粥状動脈硬化が始まり,中年期以降に臨床症状を呈する.完成したプラークには,マクロファージが崩壊して放出された脂質が蓄積している.この主成分はコレステロールで,LDL,IDL,レムナントといった血中のリポ蛋白に由来する.一方,リポ蛋白で最も粒子サイズの小さいHDLには抗動脈硬化作用があり,粥状動脈硬化の進展を防止し,退縮も起こす.リポ蛋白に結合している蛋白(広義のアポ蛋白)は,リポ蛋白が粥状動脈硬化に対してどのように作用するかを決定する重要な因子である.

粥状動脈硬化症の治療の最前線(apo A-Ⅰ-mimetic peptideなど)

柳内 秀勝 , 多田 紀夫

pp.353-358

 HDLは末梢細胞からのコレステロール逆転送を担っており,動脈硬化治療の重要なターゲットである.まず,HDLおよびHDLの主要なアポリポ蛋白であるアポリポ蛋白A-I(アポA-Ⅰ)の特性および機能を解説する.その後,血清HDLコレステロール濃度が低いにもかかわらず動脈硬化が少ない北イタリアの家系で発見されたアポA-Ⅰの変異,アポA-Ⅰミラノの抗動脈硬化作用を概説する.最後に,cholesterol effluxから肝臓へのコレステロールの取り込みまでの複数のステップでコレステロール逆転送に有利に作用し,強力な抗酸化・抗炎症作用を有し,動脈硬化の治療薬として期待されるアポA-Ⅰ擬似ペプチドを紹介する.

プロテオミクス解析により同定された広義のアポリポ蛋白

吉田 博

pp.359-367

 ポストゲノム時代で注目されているプロテオミクスは,検体の複雑な前処理なしでハイスループットに解析できるMALDI-TOF-MS,SELDI-TOF-MSなどの質量分析により,従来の二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)レベルでは解析が困難であった低分子蛋白質やペプチドの検出が可能になったことで,疾患・病態のさらなる詳細な評価を可能にした.従来アポ蛋白は,リポ蛋白の組織・細胞への作用にかかわる認識シグナルとして機能する構造蛋白として位置づけられていたが,そのほかにリポ蛋白粒子表面には多くの結合蛋白が局在しており,脂質代謝のみならず,血栓,炎症,酸化還元など多岐にわたる機能を発揮している.最近のプロテオミクス研究の成果から,従来のアポ蛋白以外のリポ蛋白結合蛋白やペプチドが発見され,LDLやHDLの亜分画が特徴的な機能を発揮するユニークなプロファイルをもつことが確認されている.LDLやHDLに結合する蛋白のプロテオミクスから,新たに信頼されるバイオマーカーの確立や量と質を兼ねて評価できるリポ蛋白関連検査の開発はこれからの動脈硬化性疾患などの診療や予防に有用であるが,それには高い精度と簡便性を備えたプロテオミクスへの発展が重要な鍵となる.

各論 〈臨床検査への応用の可能性〉

比較的新しいアポリポ蛋白―apoL, apoM

岡本 康幸

pp.369-374

 アポリポ蛋白L(apoL)とM(apoM)は,いずれも比較的新しく同定された主にHDLに含まれるアポリポ蛋白である.血漿apoL(apoL-Ⅰ)はトリグリセリドと強い正の相関を示すが,動脈硬化性疾患との関連は不明である.apoL-Ⅰを含むHDLの亜分画はトリパノソーマを融解する作用を示す.一方,apoMは,コレステロールの逆転送系においてpreβ-HDLの形成を促進し,動脈硬化に対し防御的に作用していると考えられている.コレステロールとの相関が強いが,糖尿病患者などで低下する例が報告されている.いずれもユニークな機能をもつアポリポ蛋白であり,今後新しい臨床検査項目となる可能性も十分考えられる.

脂質転送蛋白とコレステロール逆転送系

山内 一由

pp.375-381

 冠動脈疾患の発症率は血清高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値と負の相関関係にあり,HDLを介した動脈硬化防御機構が存在することを示唆している.特に,末梢組織に蓄積したコレステロールエステルを引き抜き肝臓へと転送するコレステロール逆転送(RCT)系の活性化が重要である.レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT),コレステリルエステル転送蛋白(CETP),リン脂質転送蛋白(PLTP)は代表的な脂質転送蛋白(LTP)であり,いずれもRCT経路のアクセプターとして機能している.これらLTPの機能異常はリポ蛋白質の質的あるいは代謝異常をもたらしアテローム動脈硬化病変の進行へとつながると考えられることから,その正確な機能を把握することは当該病変の病態を捉えるうえで重要であり,さらには冠動脈疾患の新しい治療法の開発へつながることが期待される.本稿では,RCT経路にかかわる主要なLTPの性状と機能,さらにそれらの臨床的意義について現在まで得られている知見に基づいて概説する.

パラオキソナーゼ1(PON1)

池田 幸雄

pp.383-388

 パラオキソナーゼ1(PON1)は分子量約43kDの糖蛋白で,肝で合成され,血中ではHDL上でアポ蛋白A-Iやアポ蛋白Jと結合して存在している.PON1はin vitroにおいてLDLやHDL自体の酸化を抑制する.PON1ノックアウトマウスでは高脂肪食により動脈硬化が進行しやすく,PON1を過剰発現させたトランスジェニックマウスではその逆の現象がみられる.臨床においてPON1の酵素活性や蛋白濃度の低下が心血管イベントや死亡の増加に関連することが明らかにされている.PON1の発現を調節することが可能となれば動脈硬化症の予防や治療に応用できる可能性があり,研究の進展が期待される.

Lp-PLA2 (PAF acetylhydrolase)

今泉 忠淳 , 吉田 秀見 , 松宮 朋穂 , 佐藤 敬

pp.389-393

 Lp-PLA2はリポ蛋白質に結合したホスホリパーゼで,血小板活性化因子(PAF)およびPAFに類似した酸化リン脂質を基質とし,別名をPAF acetylhydrolaseという.PAF acetylhydrolaseは血漿中ではLDLおよびHDL,高脂血症患者の一部ではLp(a)と結合している.血漿PAF acetylhydrolaseは動脈硬化性疾患患者で高値を示すが,動脈硬化に抑制的に働くものと考えられる.日本人の約4%が血漿PAF acetylhydrolaseを欠損しているが,多因子性疾患の遺伝的一要因としての意義を有するものと推定されている.

SAA

山田 俊幸

pp.395-400

 SAAは炎症で発現が増強する急性期蛋白で,主に肝で産生されHDLに結合して血中を循環する.急性炎症期にはHDLの抗動脈硬化作用を維持するために働き,慢性期には動脈硬化促進的に働く可能性がある.臨床検査としてはCRPと意義がオーバーラップするが,SAAは局所産生部分が多いので例えば脂肪細胞量つまり肥満の直接マーカーになるという期待がある.そのほか,LDLに結合したSAAの測定,主要アイソタイプであるSAA1遺伝子多型の臨床応用,構造アイソタイプであるSAA4の測定など,今後まだまだ話題は多い.

話題

スフィンゴシン1-リン酸と動脈硬化

大川 龍之介 , 矢冨 裕

pp.416-422

1.はじめに

 リポ蛋白による末梢-肝臓間のコレステロール輸送は古くから確立されており,血中LDLコレステロール(low-density lipoprotein cholesterol),HDLコレステロール(high-density lipoprotein cholesterol)といった血中リポ蛋白の解析が動脈硬化の指標として利用されている.近年では,このリポ蛋白の研究はより細分化されてきており,酸化リポ蛋白,リポ蛋白酵素,リン脂質など,様々な方面から解析されている.このリン脂質は特に,ここ数十年に飛躍的に発展してきた物質であり,単なる構造膜や中間代謝産物ではなく,シグナル伝達物質として,多彩な生理活性作用を発揮することが明らかになってきた.

 スフィンゴシン1-リン酸(Sph-1-P)は,グリセロリン脂質であるリゾホスファチジン酸とともに多大な注目を浴びている脂質性メディエーターであり,最近の研究で,HDLのコレステロール輸送以外の抗動脈硬化作用〔一酸化窒素(NO)産生,遊走,増殖,細胞生存,接着分子発現抑制といった血管内皮細胞の保護的作用〕の一端を担っていることもわかってきた.

 本稿では,最近の話題として,このSph-1-Pの概要,および,Sph-1-Pと動脈硬化とのかかわりについて述べたい.

粥状動脈硬化症の分子病理学的解析

範 江林 , 小池 智也

pp.423-428

1.はじめに

 動脈硬化とその合併症である心筋梗塞,脳卒中といった生活習慣病は,わが国の死亡原因の約30%を占め,人口の高齢化が加速される中で,今や医学領域のみならず社会経済的にも最も重要な課題の一つとなっている.この動脈硬化の原因ならびに成立機序に関しては,脂質異常症〔高脂血症と低HDL(high density lipoprotein)血症〕や糖尿病,高血圧,喫煙などの古典的な危険因子が重要な役割を演じることは周知の通りであるが,この10数年で,様々な分子生物学的技術の進歩により,動脈硬化の発生および進展にかかわる遺伝子の同定や蛋白質の機能解析が盛んに行われるようになってきた.分子レベルでの病理学的解析は,動脈硬化の病態の成り立ちを解明できるだけでなく,動脈硬化に対する予防法・診断法・治療法の開発にも大きく貢献できるものと考えられる.

 本稿ではまず,動脈硬化の発生に関する分子機序を概説し,分子病理学の立場から,今後,どのように動脈硬化の病態を解明していくのかを論じたい.

話題 〈修飾アポリポ蛋白〉

ニトロ化およびクロル化アポリポ蛋白

綾織 誠人

pp.401-405

1.はじめに

 動脈硬化の発症機構としての酸化ストレスの重要性については,多くの研究がこれを支持する結果を提示しており論を俟たないところである.Rossら1)が提唱した傷害反応仮説において中心的な役割を果たすのは,低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL)の酸化修飾であるとされ,特にその構成蛋白であるアポリポ蛋白B(アポB)および脂質成分の修飾機構が注目されてきた.一方,抗動脈硬化リポ蛋白である高比重リポ蛋白(high density lipoprotein;HDL),特にその主要アポリポ蛋白A-Ⅰ(アポA-Ⅰ)のニトロ化/クロル化の動脈硬化性疾患における役割が明らかにされつつあり,近年はLDLよりもむしろHDLのアポリポ蛋白修飾について精力的な研究が展開されている.

 本稿では,動脈硬化発症機構におけるアポ蛋白のニトロ化/クロル化の役割について述べるとともに,特にアポA-Ⅰのニトロ化/クロル化に関する一連の研究から得られた,HDLによるコレステロール引き抜き反応の詳細な分子機構についても触れたい.

糖化アポリポ蛋白

宍野 宏治

pp.406-410

1.はじめに

 近年,各研究分野において分子生物学的な手法が導入され,動脈硬化の成因についてもリポ蛋白やそのレセプターの面より解析が進められてきた.最近では内臓脂肪肥満を背景として,高血圧症,脂質異常症,糖尿病(耐糖能低下を含む)などの生活習慣病のリスクファクターが軽度に合併している状態のメタボリックシンドロームにより,血管病変が進行し,動脈硬化が発生しやすくなると考えられるようになってきている.メタボリックシンドロームの特徴は動脈硬化や冠動脈疾患の危険因子が複数重なりあうことで,その発症リスクが高まる点である.すなわち,メタボリックシンドロームは動脈硬化性疾患の予防を目的として生まれた概念である.

 この中で脂質異常症に関しては,高コレステロール血症よりも,高中性脂肪血症や低値の高比重リポ蛋白血症(低HDL血症)がメタボリックシンドロームのリスクファクターとして考えられている.しかし,これら以外にも,血管病変の要因としては変性リポ蛋白やそのレセプター,サイトカインとの関連が注目され,これらに関連して酸化リポ蛋白や糖化リポ蛋白,糖化アポリポ蛋白などが血管病変に関与するとの実験成績も報告されてきている.

 わが国においても増加の傾向を辿っている糖尿病の血管障害のリスクファクターとしては糖化リポ蛋白,酸化リポ蛋白,糖化アポリポ蛋白あるいは低比重リポ蛋白(sd-LDL)などが考えられており,多くの報告が行われるようになってきている.

N-ホモシステイン化アポリポ蛋白

戸塚 実

pp.411-415

1.ホモシステインの代謝

 ホモシステインは蛋白合成に関与しないSH基を含むアミノ酸の一種で,メチオニン代謝の中間産物である.メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(SAM synthetase)の作用によりATPよりアデノシンを転移されたメチオニンはS-アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine;SAM)となる(図1).SAMはメチルトランスフェラーゼの触媒作用で様々なメチル化反応においてメチル基の供与対となり,S-アデノシルホモシステイン(S-adenosylhomocysteine;SAH)が生成される.SAHはS-アデノシルホモシステインヒドラーゼ(S-adenosylhomocystein hydrolase;SAH hydrolase)によって水解されてアデノシンとホモシステインに分解される.

 ホモシステインは2種類の異なる経路で代謝されるが,その1つは5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-methyltetrahydrofolate;5M-THF)およびビタミンB12(VB12)を補酵素とするメチオニンシンターゼ(methionine synthase;MS)の作用で再メチル化を受けてメチオニンとなる経路であり,もう一方はシスタチオニンβ-シンターゼ(cystathionine β-synthase;CBS)の作用でセリンと結合してシスタチオニンを生成する代謝経路である.シスタチオニンはさらにシスタチオニンγ-リアーゼ(cystathionine γ-lyase;CSE)の作用でシステインおよび2-オキソ酪酸へと代謝される1)

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 悪性腫瘍・4

大腸癌のマクロ・ミクロ像

海野 みちる , 小松 京子 , 坂本 穆彦

pp.336-340

 大腸は盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸S状部・直腸から構成されているが,虫垂・肛門管を含めることもある1).2003年の罹患率は,大腸癌は男女ともに第2位を占め,2007年の死亡率は男性3位,女性1位で,罹患率も死亡率も増加傾向にある.発症年齢は50代以降に増加し,発生部位は7割がS状結腸と直腸である.

 有茎病変はスネアポリペクトミー,平坦病変は内視鏡的粘膜切除術などの内視鏡で治療することが多いが,内視鏡的粘膜下層剝離術ESD(endoscopic submucosal dissection)は,大腸では胃に比較して壁が薄く,穿孔などを起こしやすい.また,リンパ節に転移が見つかれば,追加で手術を行い,腫瘍の大きさが2cmを超える場合も深部まで浸潤している可能性が高く,手術を行う1)(図1).

シリーズ-ベセスダシステム・4

米国における細胞診の現状

金 祺洙

pp.429-433

はじめに

 Dr. George N Papanicolaouが初めて「細胞診」をこの世に送り出してから早100年という時が経った.当初,細胞診は癌の検査が目的ではなく,モルモットの性周期によるその膣塗抹標本上の性染色体と細胞学的変化の研究から始まった.やがて彼の研究は人間にまで拡大され,ついに「Exfoliative Cytology,剝離細胞診」とそれに欠かせない湿潤固定法,そして核の詳細の観察に最も適したPapanicolaou染色法を誕生させるに至った.最初,基礎生物学的研究から始まった細胞診(Pap test)は子宮頸癌発症率を過去数十年にかけて約70%も減少させる医療の歴史上最も成功的な婦人科スクリーニング検査法へと発展した.今や細胞診は臨床科において行われている単なる検査項目のひとつではなく,様々な分子生物学的検査にまで応用されるようになった.医療技術の進歩により婦人科検体の標本作製方法も大きく変わり,直接塗抹から液体状にした検体を均一な塗抹標本にすることによってコンピュータが細胞を読む時代にまでなってきた.

シリーズ-検査値異常と薬剤・3

―臓器・組織に対する薬剤の影響―薬剤性腎障害

伊藤 喜久

pp.435-441

はじめに

 腎臓は排泄臓器であり,肝臓とならび薬剤による副作用を最も受けやすい.全血液量の約4分の1にも及び,多量の薬物負荷がかかる,腎尿細管細胞では管腔側,基底膜側(毛細管側)のいずれからも取り込まれ蓄積する,濾過水分量,尿量の減少により沈殿析出する,局所での代謝産物の産生による直接傷害などが相乗的に作用する.急性から比較的緩除に慢性に経過するものまで様々で,高齢者,女性に頻度が高く,遺伝,生活習慣(喫煙,運動),免疫機能低下,肝機能,心機能などのほか臓器機能とも密接にかかわり,腎機能障害,高血圧,糖尿病,動脈硬化などの基礎疾患のうえに,薬物動態や代謝の低下,薬物の構造,作用特性など多くの因子が加わり病態が形成される.したがって病像は急性腎不全,CKD,ネフローゼ症候群,尿細管障害など多彩を極める.

 わが国では詳細な疫学調査研究は少ないが,起因物質として抗菌薬,NSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drug:非ステロイド系坑炎症薬),抗腫瘍薬,造影剤,降圧剤,坑リウマチ薬剤,ハーブ,最近では健康食品などなど,広く病因にかかわる成分が特定されている1)

Coffee Break

仮性結核菌の菌体集めで教室員全員が発熱

佐々木 禎一

pp.368

 私が昭和26年札幌医大微生物学教室に入り,当時の植竹久雄教授(後に京大ウイルス研に移籍)のもと,ほかの教室員達とSalmonella,仮性結核菌(当時の命名ではPasteurella pseudotuberculosis,以下「仮菌」と略),および赤痢菌のO抗原性多糖体の分析を行っていたが,その折に全員が遭遇した発熱症状の古い話を紹介しよう.

 このような化学分析を目的とした研究には多量の菌体の培養が不可欠であり,当時は全員でガラス製シャーレに菌を植え,培養された菌体を白金耳で掻き集めるところから始まる.それに続く菌体からのO抗原性多糖体の分離~精製~構成糖の分析(当時はpaper chromatography法を利用)は主に私の担当であった.Salmonella,赤痢菌での実験はほぼ予定通り完了し,納得できる成績が次々と得られ,学会や日本細菌学会誌上に報告された.

随筆・紀行

袖振り合うも(その1)

屋形 稔

pp.394

 袖振り合うも多生の縁という言葉がある.長い人生の中で色濃くつき合いをもち,常に念頭を去らない人も数多くあるが,ただ一度の出会いが何かの折に頭に浮かび,思い出を楽しんだり夢を膨らましたりすることも多い.

 最近長寿を保ち,功成り名遂げて逝った森繁久彌もその一人である.主に映画や演劇で万人に知られたが,私は若い頃の彼の歌声に魅了された一人である.ラジオが主な頃に独得の声や節廻しに流行歌の醍醐味を味わうことしきりであった.そのため機械いじりの巧みな友人にラジオ付き蓄音機を作製して貰ったくらいである.後年実物に見参したのは彼がまだ青年の加山雄三を引き連れて新潟の汽船会社の新造船就航の催しに招かれてきたときである.船員姿の彼らと握手したり近海を1時間程セーリングする仲間として談笑した.2度目は東京の帝国劇場のかぶりつきで赤ひげ先生を演ずる彼を見たが,舞台は埃りが一杯立ち込めていて,この商売は長生きとは無縁だと感じたが,百歳近くまでしぶとく生きてみせた.

あとがき フリーアクセス

坂本 穆彦

pp.444

 本号では主題としてリポ蛋白と動脈硬化との関連が様々な角度から取り上げられている.高齢化社会のわが国では,生活習慣病,メタボリックシンドロームへの感心は高い.中・高年になれば,健康診断などでこれらに関連する検査値に異常を指摘される方も少なくないと思われる.かくいう私も,このところ1つや2つの黄信号がつかない年はないという状況である.

 ところで,メタボリックシンドロームの判定基準については議論が絶えない.これまでに国内外でいくつかの基準が提出されている.そのなかでもわが国の8学会合同の基準は他項目と比べ腹囲測定値に一般と重きを置くことに特徴がある.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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