文献詳細
文献概要
今月の主題 注目されるサイトカイン 話題
サイトカインのシグナル伝達異常により発症する免疫不全症
著者: 峯岸克行1
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科免疫アレルギー学
ページ範囲:P.682 - P.686
文献購入ページに移動1.はじめに
サイトカインは,様々の細胞から放出され細胞間相互作用を媒介する蛋白性因子で,免疫,炎症,造血などにおいて極めて重要な役割を担っている.それに共通の特徴は,①多くが糖蛋白で,②極めて微量(pg/ml~ng/ml)で効果を発揮し,③細胞表面の特異的レセプターに結合し,細胞内シグナル伝達経路を活性化し,④主として産生局所で働き,⑤多様な生理活性を有している(pleiotropy).⑥異なるサイトカインが同一の作用を有することがあり(redundancy),⑦複雑なネットワークを形成し,⑧生理的インヒビターが存在する(IL-1R antagonist etc).⑨複数のサイトカインの相互作用は相加的,相乗的,拮抗的など様々で,⑩生理作用に必須であるが,一方過剰産生された場合など病態形成にも関与する,などがある.サイトカインがヒト免疫系にとって必須の働きを果していることが,サイトカインまたはその特異的レセプター,さらにその下流のシグナル伝達因子の欠損を有する遺伝性疾患,原発性免疫不全症の存在により明らかになった.
原発性(=先天性)免疫不全症は,ヒトの免疫担当細胞の異常に起因する疾患とである.ノックアウトマウスが作成される以前は,ほとんど唯一のin vivo モデルとして免疫担当細胞,さらにはそれに発現する遺伝子の機能を明らかにすることに大きな貢献をしてきた.ノックアウトマウスが作成できるようになった後も,ヒトとマウスにおいて,同一の遺伝子異常が異なる表現型をとる例が多数あることが明らかになり,ヒトの免疫系遺伝子の機能理解のためには,原発性免疫不全症の原因遺伝子同定と病態解析の重要性がますます高まっている1).ヒトの原発性免疫不全症の原因遺伝子はこれまでに150個以上が明らかにされており,いくつかの共通の病態の免疫不全症があり,8個のグループに分類されている(表)2).
本稿では,サイトカインとそのレセプター,さらにはその下流のシグナル伝達分子の異常により発症する免疫不全症について概説する.
サイトカインは,様々の細胞から放出され細胞間相互作用を媒介する蛋白性因子で,免疫,炎症,造血などにおいて極めて重要な役割を担っている.それに共通の特徴は,①多くが糖蛋白で,②極めて微量(pg/ml~ng/ml)で効果を発揮し,③細胞表面の特異的レセプターに結合し,細胞内シグナル伝達経路を活性化し,④主として産生局所で働き,⑤多様な生理活性を有している(pleiotropy).⑥異なるサイトカインが同一の作用を有することがあり(redundancy),⑦複雑なネットワークを形成し,⑧生理的インヒビターが存在する(IL-1R antagonist etc).⑨複数のサイトカインの相互作用は相加的,相乗的,拮抗的など様々で,⑩生理作用に必須であるが,一方過剰産生された場合など病態形成にも関与する,などがある.サイトカインがヒト免疫系にとって必須の働きを果していることが,サイトカインまたはその特異的レセプター,さらにその下流のシグナル伝達因子の欠損を有する遺伝性疾患,原発性免疫不全症の存在により明らかになった.
原発性(=先天性)免疫不全症は,ヒトの免疫担当細胞の異常に起因する疾患とである.ノックアウトマウスが作成される以前は,ほとんど唯一の
本稿では,サイトカインとそのレセプター,さらにはその下流のシグナル伝達分子の異常により発症する免疫不全症について概説する.
参考文献
1) Fischer A:Human primary immunodeficiency diseases. Immunity 27:835-845, 2007
2) Geha RS, Notarangelo LD, Casanova JL, et al:Primary immunodeficiency diseases:an update from the International Union of Immunological Societies Primary Immunodeficiency Diseases Classification Committee. J Allergy Clin Immunol 120:776-794, 2007
3) Buckley RH:Molecular defects in human severe combined immunodeficiency and approaches to immune reconstitution. Annu Rev Immunol 22:625-655, 2004
4) Noguchi M, Yi H, Rosenblatt HM, et al:Interleukin-2 receptor gamma chain mutation results in X-linked severe combined immunodeficiency in humans. Cell 73:147-157, 1993
5) Leonard WJ:Cytokines and immunodeficiency diseases. Nature Rev Immunol 1:200-2008, 2001
6) Puel A, Ziegler SF, Buckley RH, et al:Defective IL7R expression in T(-)B(+)NK(+)severe combined immunodeficiency. Nat Genet 20:394-397, 1998
7) Macchi P, Villa A, Giliani S, et al:Mutations of Jak-3 gene in patients with autosomal severe combined immune deficiency(SCID). Nature 377:65-68, 1995
8) Russell SM, Tayebi N, Nakajima H, et al:Mutation of Jak3 in a patient with SCID:essential role of Jak3 in lymphoid development. Science 270:797-800, 1995
9) Casanova JL, Abel L:Genetic dissection of immunity to mycobacteria:the human model. Annu Rev Immunol 20:581-620, 2002
10) Minegishi Y, Karasuyama H:Defects in Jak-STAT-mediated cytokine signals cause hyper-IgE syndrome:lessons from a primary immunodeficiency. Int Immunol 21:105-112, 2009
11) Minegishi Y:Hyper-IgE syndrome. Curr Opin Immunol 21:487-492, 2009
12) Minegishi Y, Saito M, Morio T, et al:Human tyrosine kinase 2 deficiency reveals its requisite roles in multiple cytokine signals involved in innate and acquired immunity. Immunity 25:745-755, 2006
13) Minegishi Y, Saito M, Tsuchiya S, et al:Dominant-negative mutations in the DNA-binding domain of STAT3 cause hyper-IgE syndrome. Nature 448:1058-1062, 2007
14) Minegishi Y, Saito M, Nagasawa M, et al:Molecular explanation for the contradiction between systemic Th17 defect and localized bacterial infection in hyper-IgE syndrome. J Exp Med 206:1291-1301, 2009
掲載誌情報