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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査55巻1号

2011年01月発行

雑誌目次

今月の主題 β2-ミクログロブリン-その多様な病因,病態と検査アプローチ

巻頭言

β2-ミクログロブリンに学ぶ臨床検査

伊藤 喜久

pp.9-10

 β2-ミクログロブリン(β2-m)は1968年に,尿蛋白研究の先駆者Berggårdによって,Cd中毒症やWilson病など腎尿細管機能異常の患者尿から生成された低分子蛋白質である.最初の報告から半世紀を迎えるが,β2-mほど現在に至るまで豊かな話題を提供し続けている蛋白質はない.今現在のPubMed検索でヒットした原著論文,総説数は実に12,000以上にも及ぶ.基礎研究は構造,物理化学的性状,機能,産生分泌制御,代謝・異化機能にわたり,これらに関連したHLAクラスⅠ抗原関連免疫疾患,透析関連アミロイドーシス,血液疾患,ウイルス感染症,腎尿細管機能障害の病因,病態解明も深く掘りこまれ,気づいてみたら大きな全貌が目の前に広がっていた.そこで本誌として初めて「今月の主題」としてβ2-mを取り上げ,病態生理の視点から最近の基礎,臨床研究の進歩をまとめることにした.

 臨床的な意義として,まず挙げられるのは非特定的血清炎症,腫瘍マーカーである.これは免疫応答細胞,腫瘍細胞の増殖性,活動性を反映した産生分泌増加による.しかしC-reactive protein(CRP)やserum amyloid A(SAA)などとは明らかに異なる病態を背景する動態変化を示す.多発性骨髄腫の予後推定には早くから取り入れられ,本邦でも国際病期分類基準として導入され,骨髄性,リンパ増殖性腫瘍増殖性疾患や前立腺癌などの固形腫瘍などの予後の推定へと有用性が拡大してきた.長期血液透析患者に合併する透析関連アミロイドーシスは,βシート構造を豊富に有する構造特性に基づく.アミロイド線維形成の機序の解明が進められ,除去能に優れた吸着膜などの開発により,発症の抑制,進展の防止が飛躍的に改善されている.イタイイタイ病や水俣病は,重金属よる腎近位尿細管傷害を特徴とする.ここでの尿中β2-mは病態変化の結果を反映するものであるが,メガリンをはじめとするレセプターを介した再吸収異化システムが明らかとなり,生体応答に結びつく新たな意義づけがなされる日も近い.

総論

β2-ミクログロブリンの構造,機能と病態検査

伊藤 喜久

pp.11-18

β2-ミクログロブリン(β2-m)は患者尿から生成された分子量11,800の低分子蛋白質である.HLA class Ⅰ抗原のL鎖として自己と非自己の認識に不可欠な構造蛋白で,関連抗原の1つであるneonatal Fc receptorではIgG,アルブミンの寿命延長,機能の維持に重要な役割を果たす.さらに病的状態におけるβ2-mは腫瘍増殖,遠隔転移因子など多彩な機能を発揮する.βシート構造特性に関連して長期血液透析アミロイドーシスの病因物質でもある.種々の疾患での病態機序が明らかにされ早期発見,予防,治療を目的に血清,尿測定がさらに一層拡大してきている.β2-mの基礎,臨床研究の進歩をレビューし,病態検査の視点から新たな動向を探索した.

β2-ミクログロブリンのアミロイド線維形成機序

小澤 大作 , 後藤 祐児

pp.19-26

透析アミロイドーシスは,10年以上にわたって血液透析を受ける患者に共通してみられる深刻な合併症であり,アミロイド線維沈着の主な構成成分はβ2-ミクログロブリン(β2-m)である.生体内におけるβ2-mアミロイド線維の形成機序を解明することは,透析アミロイドーシスの予防法や治療法の開発に重要である.β2-mアミロイド線維の沈着は骨関節組織に多くみられることから,グリコサミノグリカンやプロテオグリカンのような骨関節組織の細胞外マトリックス分子などが,アミロイド線維の形成と沈着にかかわると考えられる.

β2-ミクログロブリンによる腫瘍細胞増殖とその制御

野村 威雄 , 三股 浩光

pp.27-35

β2-ミクログロブリン(β2-m)はMHC class Iα鎖の一部であり,癌細胞増殖を刺激し,特に骨転移を誘導する増殖調節因子である可能性が報告されている.また種々の癌種において,血中または尿中β2-mが独立した予後因子あるいは悪性度を規定するバイオマーカーとしても知られている.ある種の固形癌や血液腫瘍においては,特異的な抗β2-m中和抗体による抗腫瘍効果を認め,正常細胞への毒性は低いことが報告されている.これらの知見は,癌治療においてβ2-mが新たな治療標的となる可能性を示唆している.本稿では,癌細胞におけるβ2-mの刺激伝達物質としての役割と骨転移形成への関与について概説する.

β2-ミクログロブリンの近位尿細管における再吸収・代謝機構―エンドサイトーシス受容体メガリンの構造,機能,分子間相互作用

忰田 亮平 , 斎藤 亮彦

pp.37-46

β2-ミクログロブリンは,糸球体を濾過した後,近位尿細管上皮細胞に発現するエンドサイトーシス受容体メガリンよって再吸収され,代謝・分解される.メガリンは,様々な膜受容体やトランスポーターあるいは細胞内分子と結合・共役しながら,アルブミンを含む多くの低分子量蛋白質の代謝・分解にかかわっている.さらに細胞内のシグナル伝達にも関与すると考えられている.メガリンを介する過剰な,あるいは病的なリガンドの代謝は,近位尿細管上皮細胞の傷害を引き起こす原因となる.メガリンの発現・機能調節は,インスリンやアンジオテンシンIIなどがかかわるが,それは蛋白尿の発症とともに,生体における様々な有用分子の回収の障害に関係している.このようなメガリンの機能を腎疾患の診断や治療に応用しようという研究も進められている.

各論 〈病態疾患と動態解析〉

透析アミロイドーシス病因,病態診断,治療,予防

下条 文武

pp.47-50

1980~1985年,長期透析を受けている患者において,透析アミロイドーシスは深刻な頻度が高い合併症となった.1985年,筆者らはこのアミロイド線維を構成している蛋白をβ2-microglobulin(β2-m)であることを生化学的に同定した.血清β2-mはアミロイド線維の前駆蛋白と考えられるので,透析アミロイドーシスに対する治療戦略として,血清β2-mを積極的に除去することが試みられてきた.近年,高性能膜ダイアライザーによる透析治療あるいはβ2-m吸着カラムによるβ2-mの除去治療が一定の臨床効果を得ている.しかしながら,根本的治療は今後,確立される必要がある.

多発性骨髄腫とβ2-ミクログロブリン―国際ステージ分類

大口 裕人 , 張替 秀郎

pp.51-57

多発性骨髄腫は,B細胞の最終分化段階にある形質細胞が腫瘍化した疾患である.骨髄腫患者の予後は多様で,6か月以内から10年以上の経過まで幅広く,予後因子に基づく層別化は適切な治療を行ううえで重要である.2005年,International Myeloma Working Groupより,血清β2-ミクログロブリン値および血清アルブミン値を用いた国際ステージ分類(ISS)が提唱された.ISSは従来のDurie/Salmon分類と比較し簡便かつ予後との相関性も優れており,現在,臨床の現場で広く用いられている.

カドミウム中毒の疫学・臨床研究における尿中β2-ミクログロブリン測定の意義

堀口 兵剛

pp.59-65

カドミウムは腎臓に蓄積し,近位尿細管障害を引き起こす.尿中β2-ミクログロブリンは,それを早期に検出するための鋭敏な指標として測定されるだけでなく,その重症度や予後の判定にも用いられる.しかし,血液中β2-ミクログロブリンの影響を受けること,低いpHで不安定性が増すことなどの欠点もあるので,血液中β2-ミクログロブリンや尿中のほかの尿細管障害の指標を同時に測定することが勧められる.近年,復元事業のほぼ終了した富山県神通川流域のカドミウム汚染地での疫学調査でも,尿中β2-ミクログロブリンの測定により住民全体の腎機能への影響を認め,将来イタイイタイ病に進展する可能性のあるカドミウム腎症患者も見つかった.

話題

β2-ミクログロブリン測定標準化の現状と近未来

池野 千束 , 内田 浩二 , 新井 秀夫 , 伊藤 喜久

pp.66-69

1 . はじめに

 β2-ミクログロブリン(β2-m)が初めて報告されてから約半世紀を経た.当初,尿中腎尿細管マーカー,さらに血清ウイルス疾患,悪性腫瘍マーカーとして測定意義が注目されると,1980年代前半に早くも血清を凍結乾燥仕上げした国際標準品が新たに登場した1).本邦でβ2-mの標準品を初めて作製したのはItohら2)で,1990年前半に尿から高度に精製したβ2-mを吸光係数により日本の仮の標準品と定めた.しかし尿から精製したものは尿中分解による構造の不均一性,ほかの物質の混在も否定できないなどの問題を抱えていた2,3)

 2006年頃から国際臨床化学連盟(IFCC)血漿蛋白委員会では,血清蛋白測定国際標準品新ロット(ERM-DA470k/IFCC)の作製の機に,β2-mが新たに項目として加えられた4).また本邦においてもERM-DA470k/IFCCに順じて日常標準品の作製が進められて,その中心課題はβ2-mの遺伝子産物の作製にある.ここではβ2-m測定標準化の現状と今後の展開について概説する.

キャピラリー電気泳動法による変形β2-ミクログロブリンの検出

宇治 義則 , 本宮 善恢 , 安東 由喜雄

pp.70-74

1 . はじめに

 透析テクノロジーの進歩は20年以上の長期生存と80歳以上の高齢透析を可能としたが,その一方で10万人以上の透析要介護者を抱える新たな社会問題を生み出した.要介護者そう出のほとんどは長期透析症候群と呼ばれる合併症が原因となっており,その最も象徴的かつ重篤な病態が透析アミロイドーシス(dialysis-related amyloidosis;DRA)である.DRAは分子量11,800の低分子蛋白であるβ2-ミクログロブリン(β2-m)を原因蛋白(前駆物質)とするアミロイドーシスである.β2-mは8個のストランド(分子連鎖)とそれぞれのストランドをつなぐループペプタイドが折り畳まれて(folding),全体として球状になっているが,内部は2つのβシート構造からなり,立体構造的に高いアミロイド原性を有している.アミロイドーシスには原因となる固有のアミロイド前駆蛋白があり,正常な立体構造(native)を失い,misfoldingにより立体構造が変化することで発症すると考えられる.

 β2-mについては,in vitroでは酸性処理や分断化により立体構造がほぐれてunfoldingし,アミロイド線維形成に至るmisfoldingが確認されている.1997年,Stoppiniら1)は正常では分子表面に露出していないβ2-m-C末端92-99位のペプタイドに対するモノクローナル抗体を用いて,in vitroでβ2-mアミロイド化を抑制することを報告した.さらに2005年,共著者のMotomiya,Andoら2)は透析患者のアミロイド組織が抗C末端モノクローナル抗体で染色されることを報告し,生体のアミロイド組織中のβ2-mには正常な立体構造を失い,C-末端が分子表面に露出したunfolded β2-mが存在することを証明した.また,いまだアミロイド化していない組織でも一部抗C末端抗体で染色されることから,β2-mアミロイド化の前段階としてC-末端のunfoldimgが起こることを明らかにした.

 一方,Bellottiら3)は透析患者のアミロイド組織から分離されたβ2-mの一部が正常な立体構造に回復(refolding)することを確認した.これらの事実は生体内でnative β2-mがアミロイドβ2-m化する移行過程にはnative β2-mに戻りうるreversibleなunfolded β2-mが存在することを示唆している.2000年にはHeegaardら4),次いでChitiら5),De Lorenziら6)が相次いでフリーゾーンキャピラリー電気泳動法(capillary electrophoresis;CE)を用いて,精製したβ2-mをnative β2-m(major component)とアミロイド原性を有するnon-native β2-m(minor component)に分離できることを報告し,さらに溶液中で両者は動的平衡状態にあり,CEで分離されるnon-native β2-mは部分的に立体構造がunfoldしたアミロイド化β2-mへの移行過程上の中間体(intermediate β2-m;Ⅰ-β2-m)であることを明らかにした.

 最近,筆者ら7)はCEにより血清中β2-mをnative β2-mとⅠ-β2-mに精度よく分析できる方法を開発し透析患者についての知見を得た.本稿ではCEによる血清中変形β2-m(Ⅰ-β2-m)について紹介する.

MHCクラスⅠ抗原とシナプス可塑性

枝村 光浩 , 中原 大一郎

pp.75-78

1 . はじめに

 主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex;MHC)クラスⅠ抗原は重鎖(α1~α3)とβ2-ミクログロブリン(β2-m)の軽鎖で構成される(図1).MHCクラスⅠ抗原は,ほぼすべての体細胞表面に発現しているが,脳の神経細胞とグリア細胞には発現しないと考えられてきた.しかし最近になって,健常な脳細胞にも発現していることがわかり,MHCクラスⅠ抗原の新たな役割が注目されている.

 本稿では,MHCクラスⅠ抗原が脳ではシナプス可塑性関連因子として働く可能性を紹介する.

非特異炎症マーカー,腫瘍マーカーとしてのβ2-ミクログロブリン

山田 俊幸

pp.79-82

1 . はじめに

 β2-ミクログロブリン(β2-m)の血中濃度が上昇する疾患・病態を列挙して整理すると,腎機能障害,炎症性疾患,腫瘍性疾患ということになろう.ここでは炎症に焦点を当ててみる.ただし腎機能が正常であれば速やかに尿中へ排泄されるので,炎症の程度が軽度である場合は血中濃度の変化が見えがたいことは理解しておくべきである.

 一方,腎機能低下状態ではβ2-mのクリアランスが低下しているので,より見えやすいと言える.よって,本稿の前半は恒常的な腎機能低下状態である透析患者におけるデータからβ2-mの特徴を論ずることとし,後半では高齢者の予後マーカーとしての側面を紹介する.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 非腫瘍・1

心筋梗塞のマクロ・ミクロ像

小松 明男 , 坂本 穆彦

pp.6-8

 心筋梗塞は,冠動脈の虚血による灌流領域の心筋層の広範な壊死である.虚血を起こす原因は,ほとんどが粥状硬化である.冠動脈は機能的終動脈で,虚血に対して障害されやすく,心筋梗塞の症例には一般に粥状硬化性病変の閉塞・破綻がみられる.ほかの原因としては川崎病やBehçet病に代表される冠動脈瘤の閉塞・破綻,左冠動脈肺動脈起始,分娩後特発性冠動脈瘤破裂,冠動脈塞栓,外傷などがあるが稀である.

 粥状硬化の好発部位は,冠動脈では起始部近傍の分岐部であることが幾多の研究により明らかにされている.その理由は,以下の2点である.第1に粥状硬化は,大型血管である弾性動脈あるいは弾性動脈と筋性動脈の移行部に起こりやすい.第2に流体力学の法則から,ずり応力(shear stress)の小さいところに好発する(図1,2).

映画に学ぶ疾患・11

「セックス・アンド・ザ・シティ2」と女の長寿

安東 由喜雄

pp.58

 映画「セックス・アンド・ザ・シティ2」は,ニューヨークに暮らす4人のアラフォーからアラフィフに突入しつつある女性の日常を赤裸々に描き,アメリカで大ブームとなったテレビドラマである.好評なのでこれを映画化したところ,さらに評判となり日本でもブームとなった.今回は2年ぶりにその続編が作られ,またまたヒットとなった.われわれ男性は,世の中の中年オバタリアンに辟易していることもあり,この人気の理由が少し理解不能なところもあるが,女性のほうは,ブランドの服や靴に身を包み,悩みながらもバイタリティをもって前向きに生きる4人の女性にスカッとするような共感を抱くのかもしれない.この映画の主人公たちは,いずれも大きくはないがひとかどの問題を抱え,悩みながら生きている.女性はお互いが適度に不幸であると共感をもち助け合う.そんなところにこの映画のヒットの秘密があるのかもしれない.

 人生に迷いや悩みがなくなったとしたら,それはボケたときに相違ない.不惑という言葉があるように,ヒトは40代になると,なんとなく体の老いを感じ始め,記憶力も若いころとは比べものにならなくなり,“こんなはずではなかった”と悩むようになる.女性の場合,性を証明する2大ホルモンが減少し,更年期を迎えることになるため,どんなに頑張っても若い女性を演じることはままならなくなってしまう.そこに焦りが生じる.さらに男性より10年も長く生きることになるため,いくつになっても本能的に美しくありたいと願う女性にとって,男性よりもはるかに老化して旅立たなければならない現実はある意味非情ですらある.

シリーズ-ベセスダシステム・12

ベセスダシステム判定の実際―AGC

小松 京子 , 坂本 穆彦

pp.83-88

1 . AGCとは

 異型腺細胞(atypical glandular cells;AGC)は,ベセスダシステムで推奨されたカテゴリーの1つである.腺癌は本邦でも増加傾向にあるとはいえ頻度は高くなく,扁平上皮病変と比べて前癌病変や上皮内癌などを,明確な基準をもって判定することが難しい.したがって明らかな腺癌を除く異型腺細胞はAGCと分類し,癌へのリスクを示すためのカテゴリーとすることとなる.本邦においてのAGCの頻度は低くASCの数%以下と考えられている1)

シリーズ-検査値異常と薬剤・11

―投与薬剤の検査値への影響―中枢神経系作用薬・Ⅴ

片山 善章 , 澁谷 雪子 , 米田 孝司

pp.89-96

脳生理活性物質

1 . シチリコン

 白色の結晶性の粉末で,においはない.水に極めて溶けやすい.アセトン,エタノール,クロロホルムには溶けない.吸湿性がある.シチコリン(Citicoline)はシチジン-5′-ジホスフェートコリン(cytidine diphosphate choline;CDP-choline)のことで,脳組織の30%を占める成分であるホスファチジルコリン合成のための,中間的な生物学的化合物であり自然界に存在し水溶性である.

 シチコリンの消費がアセチルコリンの合成機能を向上させ,脳内のリン脂質含有量の回復などによって脳の代謝を促進することが,科学的研究によって示されている.

 構造式は図1に示した.構造式から推定されることは加水分解によりシチジン(図2)とコリン(図3)を生じる.コリンは循環器系と脳の機能および細胞膜の構成と補修に不可欠な水溶性の栄養素である.したがってシチリコンは脳代謝,意識障害の改善剤である.また膵炎改善剤でもある.臨床検査値への影響と副作用は表1に示した.

研究

肥満および肥満傾向にある男性ボランティアの介入前後におけるアディポネクチン値に関する探索的解析

古賀 秀信 , 田中 祐子 , 有吉 裕子 , 真名子 順一 , 岩本 真季 , 坂口 沙織 , 川口 淳

pp.97-102

 肥満(BMI≧25)または肥満傾向(21≦BMI<25)にある男性ボランティアを対象に,運動・食事療法を施し,その介入前後でアディポネクチン値をはじめ,各種生化学的・生理学的検査を施した.介入前後のアディポネクチン値に関連する検査項目を多変量解析にて調査した.結果,心臓足首血管指数CAVIならびHDLコレステロール(HDL-C)の改善はアディポネクチン値の上昇と関連することが示唆された.またCAVIやHDL-Cを測定することにより,アディポネクチン値が推測できる可能性も示唆された.

あとがき フリーアクセス

濱﨑 直孝

pp.104

 新年明けましておめでとうございます.あっという間に2010年が通り過ぎ2011年になりました.昨年一年間のわれわれの企画が読者の皆様の期待に添えるものであったのか確信はもてませんが,今年で第55巻になる「臨床検査」の歴史と伝統に恥じないように企画・編集に努めてまいりたいと,年頭に当たり編集委員一同決意を新たにいたしております.今年もよろしくお願いいたします.なお,今年より自治医科大学臨床検査部・臨床検査医学の山田俊幸教授に新しく編集委員としてご参加いただくことになりました.山田俊幸先生の新鮮な企画にもご期待いただければと存じます.

 さて,2011年年頭の企画はβ2-microglobulin(β2-m)です.β2-mはHLA Class Ⅰ蛋白質複合体の構成成分であり,膜蛋白質であるHLA Class Ⅰ蛋白質が細胞膜表面に出現するのに必須の成分です.シャペロンの一種として理解すればよいと思いますが,HLA Class Ⅰ蛋白質複合体として細胞表面に出現した後に,β2-mがHLA Class Ⅰとしてどのような生理機能をもっているか浅学にして存じません.ご承知のように,HLA Class Ⅰ蛋白質複合体は体内のあらゆる細胞表面に存在しており,しかも,β2-mはHLA Class Ⅰ蛋白質とは共有結合では結合しておりませんので,HLA Class Ⅰ蛋白質複合体が細胞表面に出現した後は,HLA Class Ⅰ蛋白質から解離して,血液中に存在することになります.β2-mは分子量11.8kDaの低分子蛋白質ですので腎糸球体で濾過されますが,その大部分は近位尿細管で再吸収されます.その仕組みは忰田亮平先生らが総論において詳しくご紹介いただいておりますが,腎尿細管機能異常症患者の尿で最初に発見されたのも容易に納得できます.臨床検査領域では,当初は腎機能との関連で注目されたに違いありませんが,伊藤喜久先生が巻頭言に書いておられるように,その後,非常に幅広く臨床検査マーカーとして利用されております.現在では,非特異的な腫瘍マーカーとして定着しており,本企画では独立した項目としては取り上げられてはおりませんが,Bリンパ球の腫瘍,多発性骨髄腫,リンフォーマ,サルコーマなどのマーカーとして,また,脊髄液中のβ2-mは神経系への癌転移のよいマーカーとしても利用されております.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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