文献詳細
文献概要
映画に学ぶ疾患・20
「127時間」―痛みの臨床
著者: 安東由喜雄1
所属機関: 1熊本大学大学院生命科学研究部病態情報解析学分野
ページ範囲:P.986 - P.986
文献購入ページに移動 アーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)はある金曜日の夜,仕事を終えた後,ユタ州,ブルー・ジョン・キャニオンで大好きなロック・クライミングをするため,はやる気持ちを抑え慌ただしく準備を始める.映画「127時間」の始まりである.土曜日の朝,車で目的地に着くと原野をマウンテンバイクで颯爽と駆け抜け,行けるところまで行き,後は岩や洞窟を一人で登り降りしながらクライミングを楽しんでいた.アーロンは,誰もいない澄み切った空気の中で,一人でいる自由を満喫しながら,歩き馴れた原野を軽い足取りで気ままに散策していた.広大な大地にあるものといえば岩くらいである.目的地もなくどんどん歩いていくアーロン.と,そのとき突然,岩に足を滑らせ,1トンはある岩とともに谷底に落ちてしまう.岩は彼の右上腕部分にのしかかり,もがいてもその腕は自由にならない.前腕は動くが上腕が挟まれ,上腕から指先にかけて虚血になっていく.助けに来る者はいない.彼は,これまでもこうした危機を乗り切ってきた経験があるのか,次第に落ち着きを取り戻し,まず持っていた万能ナイフで岩を削り取り始める.しかしそれはほとんど何の役にも立たないことを悟る.日曜日になり次のチャレンジが始まる.今度は持っていたクライミングロープで岩を吊り上げようと格闘するが,大きな岩はびくともしない.渓谷は夜になると昼間の暑さが嘘のように寒い.そして突然のように雷雨が襲う.そんな中で腕の痛み,空腹に耐えながら試行錯誤を重ねるアーロン.そして最後は口渇との戦いとなる.
月曜日,ついに給水袋に貯めておいた自分の尿も飲み干し,意識も薄れ始めていった.数々の思いがまるで走馬灯のようにアーロンの心に蘇ってくる.恋人だったラナに対してはずっと思いを寄せていたのに,なぜか心を開くことができなかった.両親にも,必ずしも優しくできず,辛く当たったこともあった.火曜日,水曜日と時間が過ぎるにつれ,いよいよ体も心も弱り,ついに木曜日の朝を迎える.薄れていく意識の中で,死を意識したそのとき,アーロンの心に突然光がともり,笑っている小さな子どもの姿が現れる.それは他でもない,こんなアクシデントに見舞われなければ生まれていたはずの,アーロンの未来の子どもの姿であった.その姿にアーロンの心は奮い立った.待っていたはずの未来の家庭,未来の子孫のために,彼は最後の力を振り絞って自分の腕を渾身の力で切り取り始める.アーロンは激しい痛みに耐えながら,ついに骨を切り,神経を切断し,格闘の末,右腕を切り落とす.アーロンはようやく岩間の拘束から解放される.
月曜日,ついに給水袋に貯めておいた自分の尿も飲み干し,意識も薄れ始めていった.数々の思いがまるで走馬灯のようにアーロンの心に蘇ってくる.恋人だったラナに対してはずっと思いを寄せていたのに,なぜか心を開くことができなかった.両親にも,必ずしも優しくできず,辛く当たったこともあった.火曜日,水曜日と時間が過ぎるにつれ,いよいよ体も心も弱り,ついに木曜日の朝を迎える.薄れていく意識の中で,死を意識したそのとき,アーロンの心に突然光がともり,笑っている小さな子どもの姿が現れる.それは他でもない,こんなアクシデントに見舞われなければ生まれていたはずの,アーロンの未来の子どもの姿であった.その姿にアーロンの心は奮い立った.待っていたはずの未来の家庭,未来の子孫のために,彼は最後の力を振り絞って自分の腕を渾身の力で切り取り始める.アーロンは激しい痛みに耐えながら,ついに骨を切り,神経を切断し,格闘の末,右腕を切り落とす.アーロンはようやく岩間の拘束から解放される.
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