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今月の主題 脂肪細胞 巻頭言
脂肪細胞―研究の最前線と臨床応用
著者: 戸塚実1
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科先端分析検査学
ページ範囲:P.531 - P.532
文献購入ページに移動 メタボリックシンドロームはちまたでは「メタボ」と呼ばれ,いまや知らない人はいないほど世の中に知れ渡った.自らの下腹部に溜まった脂肪を見れば,専門家でなくてもある程度その可能性が推察されることも,広く知れ渡る要因であったと思われる.昔の日本では考えられなかったような病態であり,飽食の時代に新たにクローズアップされてきた現代病である.そもそも野生動物にとって食物の確保は大変な作業であり,多くは多少飢えた状態で生存を維持していると聞く.したがって,野生動物に肥満などというものは無縁であるかもしれない.しかるに,幸か不幸か人類は生存のためだけでなく,食を楽しむという文化を手に入れた.また,自らのエネルギーを大量消費することなく移動する手段を手に入れた.過剰なエネルギー摂取は体内におけるエネルギー(脂肪)の保存という結果をもたらす.すなわち,肥満である.米国ではおよそ60%の成人がoverweightであり,年間30万人以上の死亡者はそれが直接あるいは間接的原因といわれている.わが国においても,2007年の統計によると,30歳以上の成人男子のおよそ3人に1人は肥満と推定されている.欧米に比べればその比率が少ないことは事実であるが,食生活の欧米化などによって肥満の割合が増加傾向にあるのも事実である.ちなみに,15~19歳の若者では肥満は1割に満たない程度であるのに対して,2割の者が痩せ過ぎを指摘されている.特に20歳以上30歳未満の女性では4人に1人が痩せ過ぎを指摘され,肥満の割合は5~6%に留まっている.痩せ過ぎも看過できない問題であるが,肥満が要因の一つとされるメタボリック症候群患者あるいはその予備軍において,心血管疾患発症の危険度が高いという事実は,将来の日本の医療にとって大きな問題であると考えられている.
さて,この肥満において主役を担うものの一つが脂肪細胞(組織)であり,中性脂肪を溜め込んでいるよろしくない細胞の集団といったイメージが強い.事実,わずか20~30年ほど前の生化学テキストには「脂肪を蓄える細胞で肥満に関係する」程度の記述しか見られないものもある.もちろん,脂肪組織によるエネルギーの貯蔵と利用は生体にとって重要な機能であることは真実であるが,現在では多くの研究によって,ある種の脂肪組織,すなわち白色脂肪組織はサイトカイン,ホルモン,成長因子などの分泌を通して,複雑な情報伝達を担う多機能細胞の集合体であることが解明されている.一方,褐色脂肪組織はげっ歯類およびラクダ,あるいは熊などのような冬眠する動物では,エネルギーの貯蔵と利用において主要な役割を果たすと考えられているが,ヒトにおいてはその役割は否定的であり,白色脂肪組織がエネルギーの貯蔵機能を担っていると考えられている.両細胞の分化経路は異なることが知られているが,相互の分化に関しては褐色脂肪細胞から白色脂肪細胞への分化は認められるとされているが,逆の分化経路の可能性は解明されておらず,まだまだ未知の点が多い.すなわち,脂肪細胞を中心とした生体維持・調節機能に関する研究は急速に進展している段階であり,疾患との関連の解明を含めて今後が楽しみな研究分野の一つであるということができる.
さて,この肥満において主役を担うものの一つが脂肪細胞(組織)であり,中性脂肪を溜め込んでいるよろしくない細胞の集団といったイメージが強い.事実,わずか20~30年ほど前の生化学テキストには「脂肪を蓄える細胞で肥満に関係する」程度の記述しか見られないものもある.もちろん,脂肪組織によるエネルギーの貯蔵と利用は生体にとって重要な機能であることは真実であるが,現在では多くの研究によって,ある種の脂肪組織,すなわち白色脂肪組織はサイトカイン,ホルモン,成長因子などの分泌を通して,複雑な情報伝達を担う多機能細胞の集合体であることが解明されている.一方,褐色脂肪組織はげっ歯類およびラクダ,あるいは熊などのような冬眠する動物では,エネルギーの貯蔵と利用において主要な役割を果たすと考えられているが,ヒトにおいてはその役割は否定的であり,白色脂肪組織がエネルギーの貯蔵機能を担っていると考えられている.両細胞の分化経路は異なることが知られているが,相互の分化に関しては褐色脂肪細胞から白色脂肪細胞への分化は認められるとされているが,逆の分化経路の可能性は解明されておらず,まだまだ未知の点が多い.すなわち,脂肪細胞を中心とした生体維持・調節機能に関する研究は急速に進展している段階であり,疾患との関連の解明を含めて今後が楽しみな研究分野の一つであるということができる.
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