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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査55巻9号

2011年09月発行

雑誌目次

今月の主題 RNAの解析

巻頭言

RNA解析の新時代

塩見 春彦

pp.829-830

 ヒトゲノムにおいて蛋白質をコードする遺伝子の数はおおよそ2万であり,この数は他の真核生物種と大差がない.また,これら蛋白質コード(coding)領域がヒトゲノム全体に占める割合は低く,たかだか2%程度である.つまり,ヒトゲノムの98%は蛋白質をコードしない領域,非コード(non-coding)領域である.しかも,この非コード領域の半分ほどが転移因子(トランスポゾン)とその残骸からなる反復配列によって占められている.

 タイリングアレイや次世代型シークエンサーなどの新技術の開発とその急速な普及により,これら反復配列を含むヒトゲノムのほぼ全領域(~90%)が転写されていることが明らかとなった.これら転写産物の総体からなるトランスクリプトームには,複雑な選択的スプライシングにより生み出されたmRNA(coding RNA)のみならず,蛋白質をコードしない多種多様な非コードRNA(non-coding RNA)が含まれる.しかも,われわれの細胞は,同じ1つのゲノムから,様々なトランスクリプトームを形成する“エピジェネティック”な仕組みを有しており,この仕組みこそが1つの受精卵から様々な細胞種の違いを生み出す根幹である.トランスクリプトームの変化は細胞の性状の変化を導き,幹細胞の分化や細胞系譜の選択,さらにはiPS細胞産生,そして癌などの疾患の原因につながる.

総論

RNA研究の現状―概論

塩見 春彦

pp.831-840

各種ゲノム解析のための新技術の開発とその進展,特に次世代型シークエンサーの急速な普及とその応用により,現在,ヒトゲノム構造の詳細,その発現パターンと発現制御機構の理解が深まりつつある.ヒトゲノムはほぼ全体にわたり転写されており,それら転写産物が複雑なプロセッシングを受けた結果,多様なmRNAと多様な非コードRNAが生み出されている.これらRNAの総体としてのトランスクリプトームが,細胞固有のプロテオームの形成を決定し,その結果,固有の細胞型(表現型)を形成・維持するための生化学を提供する,と考えられるようになってきた.一方,この考えを支持するように,トランスクリプトームを人工的/強制的に変化させることで,終末分化した細胞を幹細胞(iPS細胞)や他種の細胞にリプログラムできることが証明された.トランスクリプトーム形成の根幹をなすのは,もちろん転写因子である.しかし,トランスクリプトームに含まれる各種RNAが細胞固有のトランスクリプトームの形成と維持に,そして,細胞固有のプロテオームの形成に極めて重要な役割を担っていることが明らかになってきた.

各論 〈RNA解析の新技術〉

次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析

清水 厚志

pp.841-846

トランスクリプトーム解析は,ある瞬間の生物あるいは細胞の転写産物すべてを網羅的に解析する手法である.刺激応答や細胞分化の前後での遺伝子群の挙動を解析することで,個体/組織/細胞の性質を推測することができる.次世代シークエンサーの登場により,アレイの網羅性とSAGEの厳密性を兼ね備えた解析が可能となったが,現時点で次世代シークエンサーのデータを解釈するにはLinuxなどのインフォマティクススキルが必要とされる.しかし,数年以内には医療,臨床検査の現場で次世代シークエンサーの結果の解釈が求められる時代となるのは間違いない.そこで,本稿では次世代シークエンサーをとりまく状況と次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析について概説する.

疾患に関するmRNAとmiRNAの検出法とその問題点

高田 修治 , 浅原 弘嗣

pp.847-853

種々の疾患にメッセンジャーRNA(mRNA)が関与していることは明白であるが,近年解析が進んできた約20~24塩基長のノンコーディングRNAであるmiRNA(マイクロRNA)も疾患に関与していることが明らかになりつつある.本稿では疾患に関与するmRNAとmiRNAを解析していく際に用いられている種々の実験手法の中で,現時点でよく使われている方法を中心に,定量方法,発現プロファイルの取得法,in situ hybridizationなどの検出方法について,その原理,長所,短所について解説する.

タイリングアレイによるmRNA解析

甲斐田 大輔

pp.854-857

最近の研究から,遺伝子内の部分的な変化が,癌や神経変性疾患などの病気を引き起こすことが明らかとなってきた.したがって,そのようなわずかな変化をとらえることが,疾患の診断やオーダーメイド治療などに役立つと考えられる.従来の技術では,短い領域を対象にしたゲノムワイドな解析は行うことができなかったが,タイリングアレイという新しい技術を用いることによって,遺伝子内の部分的な変化を,多くの遺伝子において同時に観察できるようになった.そこで本稿では,タイリングアレイの概説とその応用性に関して述べたいと思う.

RNAエディティングの網羅的探索と機能解析

矢野 孝紀 , 鈴木 勉

pp.858-864

ヒトのRNAにはイノシン(I)が大量に含まれていることが知られている.これは,A-to-I RNAエディティング(以下,RNAエディティングとする)という機構で生じている.イノシンはその化学構造上グアノシン(G)に類似しているため,シチジン(C)と塩基対を形成する.そのため,mRNAに生じたイノシンはしばしばアミノ酸配列の変化や,選択的スプライシングの調節,RNAの安定化制御などを引き起こしている.筆者らはイノシン特異的な化学修飾と逆転写反応を組み合わせ,生化学的にイノシン化部位を同定するICE(inosine chemical erasing)法を開発した.この手法を駆使することで,ヒト脳の転写産物中に,23,000か所以上の新規イノシン化部位を特定した.

HITS-CLIP法を用いた選択的スプライシングとmiRNAの制御マップ解析

矢野 真人

pp.865-871

近年,miRNAをはじめとするnon-coding RNAや選択的スプライシングの制御が,生物の発生や病態へ関与するとともに,臨床診断における分子マーカーとしても注目されつつある.そのため,より正確な蛋白質―RNA相互作用の検出技術,およびそのゲノムワイドで包括的なRNA制御機構の理解が必須となってくる.そこで今回,HITS-CLIP法(high through put sequencing UV cross linked immunoprecipitation)による蛋白質―RNA相互作用検出方法を紹介し,今後の臨床診断への応用についても議論してみたい.

体液中に存在するmRNAとmiRNAの解析

小坂 展慶 , 落谷 孝広

pp.873-878

末梢血中を循環する核酸は,新たなバイオマーカーとしてこれまで注目されてきた.しかしその存在様式などは長らく不明であった.最近mRNAや小分子非翻訳RNAであるマイクロRNA(microRNA;miRNA)が,小胞顆粒であるエクソソーム中に存在することが明らかとなり,血中に存在するmRNAやmiRNAを用いたバイオマーカーの探索が再注目されている.これらの核酸はエクソソームを始めとする顆粒や蛋白質に結合しているため体液中で安定であるが,その解析技術に関してはまだ不十分である.しかしPCRやマイクロアレイ,次世代シークエンサーなどの新規の技術発展により今後の臨床応用が期待できる.

各論 〈病態疾患と動態解析〉

miRNAによるmRNA発現制御とその異常による疾患

細野 祥之 , 鈴木 元 , 高橋 隆

pp.879-884

miRNA(microRNA)はnon-coding RNA(蛋白質をコードしないRNA)の1つであり,その構造と機能は,線虫から植物,ヒトに至るまでよく保存されている.miRNAは,標的mRNAの3′UTRにミスマッチをもって結合し,蛋白質の発現を調節している.本稿では,miRNAの基本やmiRNAによるmRNAの発現制御機構に加えて,疾患,特に癌とのかかわりについてこれまでの知見を紹介する.

異常なmRNAを分解する仕組み

山下 暁朗

pp.885-891

真核生物には,転写後のmRNAの品質を管理する様々な機構が存在し,遺伝子発現の正確性が保証されている.このmRNAの品質管理システムの分子機構の解明が進められており,mRNA品質管理機構により排除されている変異遺伝子産物をDNAマイクロアレイや次世代シークエンサーといった様々な新しい手法を用いて同定することも可能となってきている.さらに,品質管理機構の分子メカニズムの理解をもとに,その阻害剤の開発も行われており,患者個人に合わせたオーナーメード医療の実現に寄与していくことが期待される.

スプライシング異常から解析する統合失調症

眞部 孝幸 , 前田 明

pp.893-899

神経細胞やグリア細胞などの神経系細胞の遺伝子発現調節に,選択的スプライシングが重要な役割を演じている.それゆえに,この調節機構の破綻は重篤な発達障害や疾患発現の引き金となる.近年多くの神経変性疾患や精神疾患において種々の遺伝子のスプライシング異常が報告されている.本稿では,最近急速に報告され始めた統合失調症における選択的スプライシングの異常に焦点を当て,最新の情報を紹介しつつ,異常スプライシングを標的とした診断・治療への可能性について解説する.

長鎖非コードRNAの性状と疾患への関与

廣瀬 哲郎

pp.900-905

トランスクリプトーム解析によってヒトゲノムの9割以上の領域から,正体不明の非コードRNAが生み出されていることが明らかにされた.近年これらの機能解析が進み,非コードRNAが重要な遺伝子発現制御因子として機能することが明らかになってきた.特に非コードRNAが,エピゲノム制御のヒストン修飾酵素の標的特異性を規定するというモデルが提唱され,実際ある種の癌細胞で,非コードRNAの著しい発現上昇に伴い一群の遺伝子近傍のヒストン修飾パターンが変化することも確認された.一方で,難治性神経変性疾患の原因蛋白質と特異的な非コードRNAとの結合が,患者脳で著しく上昇する例も見出された.さらには疾患細胞で発現変動する非コードRNAも続々と見つかっている.本稿では,非コードRNAと疾患との関連についての研究背景と解析法について解説する.

病態解析のためのmRNA測定技術

山田 正俊 , 大野 慎一郎 , 藤田 浩司 , 黒田 雅彦

pp.906-910

腫瘍を中心とするあらゆる疾患において,その分子生物学的知見が深まるにつれて,病態を解析するうえでmRNAを測定することが重要視されるようになった.mRNAの測定は,疾患の診断のほか,治療法の選択や予後予測に貢献する.その測定手法については定量PCR法をはじめ,ノーザンブロッティング,RNase protection assay,in situ hybridization法,およびDNAマイクロアレイなどがあるが,その目的に応じ,簡便性やコストを加味したうえで手法を選択することが重要となる.

骨代謝に関与するmiRNAの同定と機能解析

竹田 秀

pp.911-915

分子遺伝学的手法の進歩により,骨を形作る骨芽細胞,破骨細胞,軟骨細胞で数多くのmicroRNAが発現していることが明らかとなった.こうしたmicroRNAはそれぞれの細胞の分化や増殖に密接にかかわっている.また,最近では,miRNAの骨組織特異的な欠損マウスや過剰発現マウスが作成され,miRNAの骨における機能が個体レベルで解明されている.さらに,miRNAのホモ点突然変異により若年性の骨粗鬆症が発症することも示された.今後,miRNAの骨代謝疾患治療への応用も期待される.

緊急連載/東日本大震災と検査・3

被災地での検査体制

向井 正彦

pp.916-919

はじめに

 2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災では,地震および津波により多くの病院が壊滅的な状態となった.震災の約2週間後に日本臨床検査医学会に東日本大震災対策委員会が設置され,被災地の検査体制を確保すべく支援活動を行った.

 筆者は阪神・淡路大震災発生時に神戸大学医学部附属病院検査部にて臨床検査技師長を務めており,当時の経験をもとに以後も災害時の臨床検査についての知見を集めてきた.東日本大震災は未曾有の大災害であったので被災地の復興は道半ばであるが,本稿では5月末までの東日本大震災対策委員会による活動記録を中心に,過去の災害も含めPOCT(point of care testing)やドライケミストリーの有用性および支援活動状況を紹介する.

今月の表紙 代表的疾患のマクロ・ミクロ像 非腫瘍・9

転移性肝癌との鑑別が必要な肝過誤腫のマクロ・ミクロ像

小松 明男 , 坂本 穆彦

pp.826-827

 過誤腫は,組織構成成分混合比率の異常であり真の腫瘍とは疾患概念を異にする.組織の迷入や退縮障害による遺残などが病因とされ,多くの場合臨床経過は良好で偶然みつけられることが多い.したがって,それ自体の診断確定のためよりも,悪性腫瘍との鑑別診断上,重要な意義を有する場合が多い.代表的な疾患として,転移性肝癌との鑑別が必要な肝過誤腫を取り上げる.肝過誤腫の中においても,ことに重要な疾患は肝内胆管の過誤腫である.本稿ではその中でも典型的な疾患としてVMC(von Meyenburg complex)について論じる(図1,2).

 VMCの発生頻度については,最近まであまり注目を集めてこなかったためか報告により差があるが,頻度の高いものでも剖検例の6%のようである1,2).しかし,本症と転移性肝癌の鑑別診断は治療方針あるいは手術の適応に直接関与する.しかも通常は剖検で見つけられ,生前に診断がつけば症例報告に値する.すなわち鑑別診断上極めて重要と思われる.

映画に学ぶ疾患・19

「ブラックスワン」に描かれた自傷行為

安東 由喜雄

pp.872

 ニナ(ナタリー・ポートマン)は,ニューヨークのバレエ団に所属して5年になる.ダンサーとしての技術は一流なのに,何かが足りない.いまだに一度も主役を務めるチャンスに恵まれずにいる.“何としても主役の座をゲットしたい”.それは彼女にとっても,小さい頃から一卵性双生児のように寄り添って生きてきた母にとっても,悲願であった.しかし思いもかけず彼女に千載一遇のチャンスが訪れる.これまでバレエ団の顔として長年プリマを務めてきたベスが引退するというのである.演出家のトーマスは次回の興業に“白鳥の湖”を選び,新人を起用してバレエ団の新たな顔を作りたいと言い出したのであった.ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した映画「ブラックスワン」の話である.

 “白鳥の湖”のプリマは純真無垢なホワイト・スワンと王子様を誘惑する官能的かつ邪悪なブラック・スワンの二役を一人で踊ることになる.プリマにはそれを演じ抜くだけの技術と成熟した感性が求められる.候補にはニナに加え,ブラック・スワンそのもののように自由奔放に生きているリリーが挙がる.結局,トーマスは今後の可能性も考えてニナを選択するが,彼女のような“規格品”がこの役を演じることは,自分自身の心の殻を破り,母に監視されて単調な生活を送る日常も変えなければならないことを意味していた.それに気づくことは,ニナにとって非常に危険なことになるが彼女はそのことにまだ気付いていない.この映画は,役作りに向けて取り組めば取り組むほどジレンマに陥り,ストレスからアレルギーや自傷行為に走るニナの苦悩が緊迫感をもって描かれ続けている.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナー―「生命科学を支えるオルガネラ研究の新展開」 フリーアクセス

pp.878

日 時:2011年9月30日(金) 10:00~17:00

場 所:大阪府・千里ライフサイエンスセンタービル5階 ライフホール

千里ライフサイエンス技術講習会 第55回―「細胞動態の生体内観察技術の新展開」 フリーアクセス

pp.932

日 時:2011年11月9日(水) 10:00~17:15

場 所:大阪大学免疫学フロンティア研究センター

    (IFReC研究棟2階会議室1)

シリーズ-検査値異常と薬剤・18

―投与薬剤の臨床検査値への影響―抗アレルギー薬

岩﨑 尚美 , 森嶋 祥之 , 森田 哲也

pp.920-927

はじめに

 抗アレルギー薬とはI型アレルギー反応とそれに続発するアレルギー性炎症を抑える薬剤をいう.

研究

BNP(brain natriuretic peptide)の検討で明らかになったメーカー間差

大森 智弘 , 當銘 良也 , 今村 ちさ , 布施川 久恵

pp.928-932

 BNP(brain natriuretic peptide)分析機を院内導入するため,小型2機種の比較検討を行った.AIA-360(東ソー社)は比較した外部委託検査で使用しているMI02(エイアンドティー社)との間でy=0.97x+4.702と良好な相関を示したが,パスファースト(三菱化学メディエンス社)ではy=1.60x-15.96と大きな傾きがみられた.またAIA-360とパスファーストを直接比較した相関もy=1.58x-16.82と大きな傾きがみられた.日本国内では,すべてのメーカーで塩野義製薬の抗体を使用しているためメーカー間差がないとされてきたが,今回の検討でメーカー間差が明らかになった.原因は統一した標準物質がないためと考えられ,今後統一したキャリブレーターの導入が必須と思われた.

学会だより 第52回日本臨床細胞学会総会

第52回日本臨床細胞学会総会に参加して

是松 元子

pp.933-934

 第52回日本臨床細胞学会総会は,岩坂剛先生(佐賀大学医学部産科婦人科)が主宰され2011年5月20日(金)~22日(日)の3日間,福岡国際会議場において開催されました.3月11日に未曽有の大災害である東日本大震災が起こり,大きな津波で多くの尊い命が失われました.様々な催しが延期や中止を余儀なくされた中で,岩坂会長はいろいろな方々の励ましで,予定通りの開催にこぎつけられたとお聞きしました.震災を受けた会員の中には参加することができなくなった方もいらっしゃいましたが,この会の発表のために一生懸命準備をされてきた会員のためには会を開催していただいてよかったと思いました.また,このような時期にもかかわらず3,000人を超える参加者があり,九州で開催される学会としては大成功であったと思われます.

 福岡国際会議場の会場は新しく,それぞれの会場への移動もスムーズでした.また,どの会場も大変聞きやすい雰囲気でした.今回の学会のメインテーマは「細胞診断を科学する」というシンプルなものでしたが,これまで経験学が重視されてきた細胞診断を,よりエビデンスに基づき科学的な裏打ちをもって誰もが精度の高い細胞診断を行えるようになることを期待してこのテーマを選ばれたということです.学会長の熱い思いが伝わる重要テーマには「核クロマチンの意義」がありました.また,日常細胞診に従事しているわれわれにとって最も重要かつ永遠のテーマであると思われる,様々な臓器における「ピットフォール」を取り上げられ,いずれも科学的に討議されることを目指されたそうです.会長講演は大きな第1会場が満員で,立って聴いている方も多くいらっしゃいました.

「細胞診断を科学する」をメインテーマに新たな細胞診断学を探る―「核クロマチンの考え方」をテーマに主題講演,「核クロマチンの意義」をテーマに主題シンポジウムを企画!!

田上 稔

pp.934-935

 はじめに,このたびの東日本大震災で被災された地域の皆様,関係者の皆様に心よりお見舞い申しあげます.一日も早い復興をお祈り申しあげます.

 第52回日本臨床細胞学会総会は,岩坂 剛教授(佐賀大学医学部産科婦人科学)を会長として,2011年5月20日(金)~22日(日)の3日間の日程で福岡国際会議場で開催されました.本学会は「細胞診断を科学する」をメインテーマとして,特別講演2題,招請講演,要望講演5題,教育講演9題,6つのシンポジウムに9つのワークショップ,アジアフォーラムや医療安全セミナー,班研究報告,口演・ポスターあわせて400の一般演題,さらにいまや定番となったバーチャルスライドによるカンファランスと,総会の名に相応しく多数の演題で構成され,3,000名を超える多くの参加者があり,非常に充実した学術集会となりました.

書評 個人授業 心電図・不整脈―ホルター心電図でひもとく循環器診療 フリーアクセス

村川 裕二

pp.892

 つまらない本の書評を書くときは,披露宴で“人並みでもない新郎”を秀才と褒めるのと同じ努力を求められる.本書のかわいい表紙を眺めて,そんなことを思った.ベテラン医師が新米医師とやりとりして何かを学ぶ,よくあるタイプの本だ.

 ところが,二人の“ボケと突っ込み”は肩の力が抜けて,引き込む魅力がある.「なるほど,なるほど」などと相づちを繰り返すところなど笑える.書評を書くだけならパラパラめくれば話は済むだろうに,うっかり最初から最後まで読んでしまった.ムム,お見それしました.以下にそのわけを述べる.

書評 細胞診を学ぶ人のために 第5版 フリーアクセス

大野 英治

pp.936

 このたび,坂本穆彦教授の編集による『細胞診を学ぶ人のために 第5版』が出版された.

 本書は総論127ページ(1~8章),各論219ページ(9~15章)から成り,総論を細胞診専門医でもある6人の認定病理医が担当し,各論をがん研究会有明病院の3人のベテラン細胞検査士が分担執筆している.また今回から新たに,別表として「組織細胞診断に有用な抗体」が巻末に掲載されている.

あとがき フリーアクセス

伊藤 喜久

pp.938

 RNAの歴史は1950年代のWatsonとClickによるDNAの構造解明の以前にまでさかのぼります.分子生物学の発展と相まって,1970年代にはsplicing,1980年代にはRNAの触媒作用,さらにはテロメラーゼの複製,1990年代には今日的話題であるRNA interference(RNAi)による遺伝子発現の抑制が見出されました.そして,2000年に入るとnoncoding RNAがさらに注目され,今日のRNA worldの興隆を迎えます.2006年にはRNAiの発見に対しAndrew Fire,Craig Melloらがノーベル生理学医学賞を受賞しています.

 動物種の全ゲノム塩基配列が決定され明らかとなったのは,ヒトとマウスの構造遺伝子はサイズも塩基配列もほとんど差異がなく,哺乳動物としての本質的な部分が確実に保持されているということでした.悠久の時間の中で全く偶然の織り成す所産として,いわゆる進化とその方向性を定めるものは設計図であるゲノム配列とその多様性(構造遺伝子間領域),修飾構造変化変異によるものであるとして,複雑な外部,内部環境の変化にしなやかに順応して生命活動を維持し進化・分化・成熟に実効的に作用するRNAの中に,個体の発生進化,誕生から死に至る生命活動の本質を自ら知る糸口を,ヒトは確実に手に入れたように思われます.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
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64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

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63巻11号(2019年11月発行)

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今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

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63巻4号(2019年4月発行)

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62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

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今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

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今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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