icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査56巻10号

2012年10月発行

雑誌目次

今月の主題 鉄代謝のバイオマーカー

巻頭言

鉄代謝のバイオマーカー

高後 裕

pp.1031-1032

 鉄は生体にとって必須な金属で,少ないと鉄欠乏を,多いと鉄過剰を引き起こす.生体全体としての腸管吸収機構は存在し鉄を吸収するが,銅イオンにあるような能動的な排泄機構が存在せず,1日たかだか1mgの鉄が出入りするだけであり,残りは赤血球ヘモグロビン鉄とフェリチンなどの貯蔵鉄の再利用に頼っている.この鉄貯蔵蛋白であるフェリチンの一部は血液中に出現し,血清フェリチンとして測定されている.

 鉄は,酸素運搬,生体酸化,分裂・増殖を司る金属として必要不可欠であることの他に,生物の進化に応じて様々な代謝の分子機構を発達,維持させてきている.特に,2価鉄は酸素の存在下で極めて毒性が強いため,通常は3価の状態にあり,細胞膜を通過する場合に,取り込みには2価金属トランスポーター1(divalent metal transporter 1;DMT1)が,汲み出しにはフェロポーチン(ferroportin)が2価鉄のトランスポーターとして働いている.腸管の鉄吸収にはDMT1が働いていることを初めて証明したのは,日本人の研究者である.細胞間,すなわち血液中での鉄輸送には3価鉄を結合するトランスフェリンが関与している.鉄が結合しているトランスフェリンは,細胞表面のトランスフェリン受容体を介して細胞内に取り込まれるが,一部は血清中に可溶性トランスフェリン受容体として存在する.

総論

生体鉄代謝調節の分子機構

小船 雅義 , 加藤 淳二

pp.1033-1037

鉄は生体の恒常性の維持にとって必須の微量元素である一方で,鉄が生体内に過剰に存在すると,活性酸素種の産生を介して毒性を発揮する.このため,生体内の鉄動態は厳密に調節される必要がある.近年,この生体内鉄動態の調節機構が分子レベルで解明されつつある.生体内鉄動態を制御する主要なメディエーターはヘプシジンである.最近になって,このヘプシジンの産生量が体内鉄量,低酸素およびBMP6/GDF15/TWSG1などの液性因子によって変動することが明らかとなってきた.本稿では,生体鉄代謝の調節因子についての最近の知見を概説する.

鉄欠乏性貧血の診断とバイオマーカー

田中 勝 , 小松 則夫

pp.1038-1043

鉄欠乏性貧血(IDA)は最も頻度の高い貧血である.その診断には生体内での鉄代謝の知識が必須である.検査所見では,小球性貧血,血清鉄低下,総鉄結合能の増加,血清フェリチン値の低下が認められる.この貧血の背景を個々の患者で追求することが診療上非常に重要である.

鉄過剰症の診断とバイオマーカー

鈴木 隆浩

pp.1044-1051

鉄過剰症は文字通り“体内鉄が過剰になった病態”であり,本来肝生検による肝鉄濃度の測定で診断される.しかし生検は大多数の症例で施行困難であり,実際の臨床現場では非侵襲的検査で得られた種々のバイオマーカーが診断に用いられる.血清フェリチン,トランスフェリン飽和度などは診断に必須の血液マーカーであり,MRIによる鉄測定も組織鉄定量に極めて有用である.毒性を発揮する本体と考えられるトランスフェリン非結合鉄(NTBI)も測定法の開発が進んでいる.今後は鉄関連バイオマーカーを適切に評価し,診断・治療に結びつけるなど,医療従事者の鉄過剰症への理解がますます重要になってくるものと考えられる.

各論 〈検査指標〉

血清鉄と鉄結合能

奈良 美保 , 生田 克哉 , 澤田 賢一

pp.1052-1057

鉄代謝は厳密に体内で調節されており,トランスフェリン(Tf),トランスフェリンレセプター1(TfR1),血清フェリチンなどが鉄代謝を反映する重要な関連分子である.鉄と結合していないTfを鉄の結合能力に換算したものが不飽和鉄結合能(UIBC)であり,鉄結合TfとUIBCを合わせて総Tfとし,これを総鉄結合能(TIBC)という.これら検査指標の値を参考にして,総合的に病態を解明することが重要である.

血清フェリチン

高後 裕

pp.1058-1063

フェリチンは細胞内蛋白質で,肝臓・脾臓に多く存在し,鉄を貯蔵する役割を担っている.フェリチンは,生体に鉄が負荷されるとその合成が増加し,逆に鉄欠乏では合成低下が生じるが,この変化は転写後調節が行われている.この制御機構はフェリチンmessenger RNAの分解調節により行われ,その機序は,一般的な遺伝子発現調節機構を解明するうえで極めて興味深いモデルである.フェリチンの一部が血清中にも免疫学的に証明されることは,すでに1960年代に示されていたが,1972年に英国のグループが微量測定法を開発し,正常人と各種疾患患者での絶対値が測定可能となり,血清中のフェリチンの値が生体内鉄貯蔵量と相関することが報告され,それ以来,生体内貯蔵鉄を反映する最も安価で安定な臨床検査項目として位置づけられている.しかし,臨床的な立場から,血清フェリチンの値は,貯蔵鉄状態のみでなく,炎症や腫瘍でも高値をとることがあるため,その値の解釈は,他のマーカーを含めた総合的な判断が必要とされる.

ヘプシジン

川端 浩

pp.1064-1069

ヘプシジンは,主に肝臓で産生されるペプチドホルモンで,その発現は鉄負荷およびインターロイキン6によって強く誘導される.分泌されたヘプシジンは,マクロファージからの鉄の放出と腸管からの鉄の吸収を同時に抑制する.血清・尿中のヘプシジンは,現在マス・スペクトロメトリー法あるいは競合的ELISA法によって測定可能となっている.血清ヘプシジン値はフェリチン値やCRP値とよく相関し,貧血の重症度と逆相関する.遺伝性ヘモクロマトーシス,先天性赤血球異形成貧血1型,骨髄異形成症候群のRARS,重症型のβサラセミアでは血清ヘプシジン値が相対的に低下しており,これが鉄過剰症の原因になっている.ヘプシジンの測定は,慢性炎症による貧血と鉄欠乏性貧血の鑑別にも有用である.

非トランスフェリン結合鉄

佐々木 勝則 , 生田 克哉 , 鳥本 悦宏 , 高後 裕

pp.1070-1082

血液中のトランスフェリンに結合しないフリーな鉄を総称して非トランスフェリン結合鉄(NTBI)と呼ぶ.このNTBIは生体にとって有害となる鉄の存在形式で,その測定は臨床的に鉄が生体に及ぼす影響をとらえるうえで重要と考えられている.筆者らはnon-metal HPLCを用いた安定かつ高感度なNTBI測定法を確立し,より正確な健常人の血清NTBI値を算出することに成功した.これを基準に,体内の鉄動態を把握する新しい指標としての血清NTBI値の可能性について,これまでに報告された病態とNTBIとの関係も含めて考察する.

各論 〈疾患と鉄代謝〉

慢性肝疾患と鉄代謝

日野 啓輔 , 仁科 惣治 , 富山 恭行 , 原 裕一

pp.1083-1088

肝疾患に伴う二次的な鉄代謝障害が肝疾患の病態をさらに修飾していることが多い.C型慢性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では軽微な肝内鉄蓄積を伴うことがあるが,この軽微な鉄蓄積は肝病態に影響を与え,時に肝発癌の危険性を高める.鉄蓄積機序は完全には解明されていないが,C型慢性肝炎では鉄を負に制御するヘプシジンの産生低下が原因のひとつと考えられている.しかし,NASHにおける鉄蓄積機構はさらに多様で,種々の原因が関与していると考えられる.

慢性腎臓病における鉄代謝異常―鉄の囲い込み

中西 健

pp.1089-1094

慢性腎臓病(CKD)や透析患者において心血管疾患(CVD)や感染症の頻度が高いことが報告されており,炎症性サイトカインやヘプシジンにより惹起される鉄の代謝異常,すなわち“鉄の囲い込み”が重要な役割を担っていると考えられる.“鉄の囲い込み”によりマクロファージや血管内皮細胞での鉄過剰が動脈硬化や心不全の原因となるだけでなく,細胞内に貪食された細菌の増殖をむしろ促進することになる.CKD患者の腎性貧血治療において赤血球造血刺激因子製剤(ESA)に対する抵抗性を予防する目的で鉄剤の使用が推奨されているが,鉄投与による鉄貯蔵の増加やフェリチンの上昇に伴いヘプシジンが増加するため,鉄剤の投与はより慎重に行わねばならない.

骨髄移植と鉄代謝

片岡 圭亮 , 黒川 峰夫

pp.1096-1101

鉄過剰症は造血幹細胞移植患者において慢性輸血のために頻繁に認められる病態である.最近の報告により,造血幹細胞移植において鉄過剰症のマーカーである高フェリチン血症が全生存率および非再発死亡率に対して悪影響を及ぼすことが明らかとなってきた.この非再発死亡率の原因としては細菌や真菌感染症,肝障害などが含まれる.その結果,鉄過剰症のガイドラインにおいて鉄キレート療法の対象として同種移植予定患者が挙げられるようになっている.今後,造血幹細胞移植患者に対する鉄キレート療法の最適化が望まれる.

わが国における遺伝性鉄過剰症の遺伝子診断

巽 康彰 , 服部 亜衣 , 加藤 宏一 , 林 久男

pp.1103-1109

わが国の遺伝性鉄過剰症の分子病態も一部で明らかになった.白人の古典型ヘモクロマトーシスであるHFEのC282Yは1人,他にHFEの新規変異の1人が確認された.若年型の遺伝子であるHJVの変異は4家系の8人で確認された.その一部の臨床病型は古典型であった.最近HAMPの変異による若年型が1人確認された.わが国の主な古典型であるTFR2の変異は,5家系の7人で確認された.フェロポルチン病は,SLC40A1の変異が,3家系の4人で確認された.フェリチンH鎖のFTH1の変異による鉄過剰は,1家系の3人が確認されている.多くは常染色体性劣性遺伝であるが,フェロポルチン病とフェリチン異常症は優性である.無セルロプラスミン血症は日本発の特異な鉄過剰症であり補足した.

話題

鉄剤不応性鉄欠乏性貧血

佐藤 勉 , 小野 薫 , 加藤 淳二

pp.1110-1113

1.はじめに

 鉄欠乏は一般に慢性的な失血や鉄を含有する食品の摂食不良によってもたらされるが,稀に腸管粘膜からの吸収不良が原因となる.そして後者の場合,鉄剤の内服で鉄欠乏は改善されない.このようなタイプの貧血は,鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron-refractory iron deficiency anemia;IRIDA)と呼ばれる常染色体劣性遺伝の疾患である.その特徴は,①遺伝性の小球性低色素性貧血,②平均赤血球容積(mean corpuscular volume;MCV)低値,③血清鉄およびトランスフェリン飽和度低値,④フェリチンは正常または正常下限,⑤経口鉄剤に不応,⑥hepcidin高値,などである1,2)

鉄キレート剤が血清鉄・UIBCに及ぼす影響

生田 克哉

pp.1115-1119

1.はじめに

 近年使用可能になった鉄キレート剤デフェラシロクス(deferasirox;DFX)は,経口bioavailabilityが高く,血中半減期も長いため,1日1回の経口投与で有効な鉄除去が行え,世界中で鉄過剰症に対して使用されている.2008年から本邦でも輸血後鉄過剰症に対してのみだが保険適用になり,広く使用されるようになっている.

 しかし,DFXによる鉄キレート療法中に,血清鉄や不飽和鉄結合能(unsaturated iron-binding capacity;UIBC)が大きく上昇し,生体内鉄動態の変動として十分に説明できない症例が経験されており,筆者の施設でも同様の症例を経験した.当科での症例は輸血依存性の骨髄異形成症候群で,血清フェリチン値が約3,000ng/mlで肝機能障害も呈しており,DFX投与を開始したところ,図1のように,血清フェリチン値は低下しており鉄キレート自体は順調に進んでいると考えられたが,血清鉄およびUIBCが異常に増加するようになった.当初,DFX投与が肝臓でのトランスフェリン(transferrin;Tf)発現亢進をきたしているのではないかと考えたが,予想に反してTf量は少なく,さらに競合的蛋白結合分析法(competitive protein binding assay;CPBA法)で測定したUIBC値も低かった.そのため,DFXが通常血清鉄やUIBCの測定に使用される比色系に対して直接的に影響を与えている可能性を考え,検討を行った1)

感染症と鉄代謝

三好 秀征 , 森屋 恭爾

pp.1120-1122

1.はじめに

 鉄は病原微生物を含め生体において酸素運搬や各種酵素活性にかかわる必須の微量金属元素である.一方鉄が過剰に存在するとFenton反応によるフリーラジカル産生が引き起こされるため,生体内での鉄代謝は厳密に調節されている.慢性感染症の場合,炎症性サイトカインによって肝臓におけるヘプシジン(hepcidin;HAMP)合成が低下し,腸管からの鉄吸収低下がもたらされ最終的に貧血を認めることとなる.Helicobacter pylori菌持続感染と鉄欠乏性貧血の関連,Vibrio vulnificusが肝硬変患者に感染した際にみられる重症化,C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)感染では肝臓への鉄沈着が亢進し肝臓内酸化ストレス亢進がもたらされるなど,多くの感染症において鉄代謝と病態形成が関与している.

あいまにカプチーノ

Coffee Paradox

宮島 栄治

pp.1114

 「苦い!」高原の透明な空気に似合わない大きな声を発した微かな記憶が蘇る.私とコーヒーの出会いは半世紀以上前に遡る.「大人には良いが,子どもの体には悪い」との父の説明が,一休さんと和尚との“水あめ問答”に聞こえたかどうか定かではないが,「大人だけずるい」とダダをこね,味わったのは良いが,あまりの苦さのためか,早すぎた出会いのためか,再会までに10有余年を要した.再会した後は,コーヒー豆の種類,焙煎程度,引き方,入れ方,そして飲むカップの形状までこだわりのある時期を経て,ごく普通のコーヒー愛飲者に至るのは諸兄と同じである.

 コーヒーのカフェインは,「心臓に,血圧に良いのか,悪いのか」,循環器専門医,高血圧指導医としては,しばしば受ける質問であり,患者さんご本人にとっては,切実な問題に違いない.コーヒーで血圧が上がる,胸がドキドキすると訴える患者さんは少なくない.実際,私も濃い目のコーヒーを多飲すると動悸がすることがある.

シリーズ-感染症 ガイドラインから見た診断と治療のポイント・6

HIV感染症

鯉渕 智彦

pp.1123-1128

はじめに

 近年,日本国内のHIV(human immunodeficiency virus)感染者/AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)患者の報告数の伸びはやや鈍化しているが,明らかな減少の兆しはない.2011年エイズ発生動向(厚生労働省エイズ動向委員会)によると,2011年のHIV感染者/AIDS患者の報告者数は1,529件で,過去3位の報告数であった.HIV感染者/AIDS患者を合わせた報告数(累計)は2012年初めに20,000件を超えた.HIV感染者の診療を行うことは決して珍しいことではなく,あらゆる病院や診療所でHIV感染者に遭遇する可能性がある.

 抗HIV療法は著しく進歩したため,HIV感染症は長期生存が可能な“慢性ウイルス感染症”になり患者の高齢化が進んでいる.加齢に伴う様々な合併症にどのように対処していくかが今後の大きな課題である.早期発見,適切な時期での治療開始,良好なアドヒアランス(服薬)の維持が患者のQOL維持には極めて重要であり,そのための指針が抗HIV治療ガイドライン1)に記載されている.

 本稿では,ガイドラインの考え方やHIV診療の現状を概説したい.

シリーズ-標準化の国際動向,日本の動き・10

日本臨床衛生検査技師会の動向

細萱 茂実

pp.1129-1131

1.はじめに

 臨床検査は,いつ,どこで実施されても検査結果の信頼性が保証されていなければならない.2008年にスタートした標準的な健診・保健指導プログラムでは,健診の精度管理として,トレーサビリティを含む十分な内部精度管理と,外部精度管理を定期的に受け,精度保証された検査値であることを規定している.また,これらは近年各国で導入が進んでいる臨床検査室の認定,認証制度における要求事項でもある.日本臨床衛生検査技師会(日臨技,Japanese Association of Medical Technologists;JAMT)は,臨床検査データの標準化と信頼性保証を社会的責務と捉え長年取り組んできている.ここでは,外部精度管理調査事業および臨床検査データ標準化事業について主に取り上げる.

検査の花道・10

私たちの目指す道

大槻 知美

pp.1132-1133

はじめに

 検査技師として働き始めて18年,今年で2回目の成人式(40歳)を迎えました.多少の学会発表は経験したものの,アカデミックな研究などには携わることもなく平々凡々と過ごしてきましたが,ご縁があって3年前から札臨技(札幌臨床検査技師会)の常任理事を務めています.

 仕事・家庭の両立…どころか,プラス常任理事の三点倒立.忙しくも楽しい技師会活動と,そこから見えるこれからの働き方について,私が考えていることをお話したいと思います.

学会だより 第53回日本臨床細胞学会総会

細胞診断学のトランスレーションを目指して―いちスタッフとして参加して

戸田 敏久

pp.1134

 第53回日本臨床細胞学会総会は,佐々木寛先生(東京慈恵会医科大学附属柏病院産婦人科)の主宰で2012年6月1日(金)~3日(日)の3日間,幕張メッセ国際会議場において開催されました.東日本大震災から1年が経過し,少し落ち着きを取り戻してきたもののまだまだ復興には程遠いなかで,幕張メッセで行う学会にどのくらいの方が参加してくださるのかと心配していましたが,6,030人の方々にご参加いただき,大盛況のうちに終えることができました.

 医学の進歩の多くは,一見医学と関係ない新しい技術,知見が取り入れられていくことで飛躍的に発展していく可能性があると考えます.今学会のメインテーマは「細胞診断学のトランスレーションを目指して」ですが,これは形態学のみにとらわれずに幅広い知識を取り込み,新しい発想をもって取り組んでいくことを期待して選ばれました.高次元解析技術やバーチャルリアリティ技術を応用した手術中のナビゲーションシステム,ロボット手術などの最先端技術を取り入れた医療についての講演では,映画のワンシーンを見ているかのような世界が,もう現実に行われていることに驚きを感じました.また,東日本大震災については,その当時の支援活動や今後の対策,原発による放射線障害についてなど,当事者の方々にご講演いただけたことはとても有意義であり,それらを教訓として今後の医療活動にどれだけ活かしていけるかが重要であると強く感じました.

学会だより 第61回日本医学検査学会

個別医療と臨床検査技師

中垣 茂男

pp.1135

 第61回日本医学検査学会が,2012年6月9日(土),10日(日)の両日にわたり,三重県津市にて開催された.メインテーマは,検査技師としての使命と姿勢を再認識することを目的とし,さらに三重県担当を意識して“重”を3回使用した「命の重み・重なる技術・重ねる想い」とした.津市の三重県総合文化センターをメイン会場に,メッセウイング・みえを機器展示およびうまいもの市場,一般市民向けの無料検査・健康展会場とした.敷地面積は合わせて125,000m2におよぶ広大なものとなった.教育講演,シンポジウムなどの特別企画は38題,一般演題は584題を数えた.さらに,前日の8日には「行列ができるスキルアップ研修会 Part III」を開催した.

 公開講演では伊勢神宮の20年に一度の式年遷宮が2013年に行われることから,神宮禰宜であられる神宮司廳文化部長の小堀邦夫先生から日本の神とは何か,お祭りとは何か,伊勢神宮がなぜ存在するのかを1,300年間続いている式年遷宮を通じて講演していただき,改めて日本文化の奥深さを知ったところである.また,もう一題の公開講演ではテレビドラマにもなった高校生レストランの県立相可高等学校食物調理科教諭の村林新吾先生に“技術より心を磨く”をモットーに,常より高校生に指導されている夢に向かって努力することの大切さ,仕事の意味合いなどを講演していただき,実際に高校生が作った600食の弁当を学会会場での昼食に提供していただいた.

書評 構造と診断 フリーアクセス

春日 武彦

pp.1136

 本書は,診断するという営みについて徹底的に,根源的なところまでさかのぼって考察した本である.それはすなわち医療における直感とかニュアンスとか手応えといった曖昧かつデリケートな(しかし重要極まりない)要素を「あえて」俎上に乗せることでもある.昨日の外来で,ある患者を診た際に感じた「漠然とした気まずさや躊躇」とは何であったのか.やぶ医者,残念な医者,不誠実な医者とならないように留意すべきは何なのか.どうもオレの診療は「ひと味足らない」「詰めが甘い」と不安がよぎる瞬間があったとしたら,どんなことを内省してみるべきか.本書はいたずらに思想や哲学をもてあそぶ本ではない.しっかりと地に足が着いている.極めて現実的かつ実用的な本である.そして,とても正直な本である.「ぼくら臨床医の多くはマゾヒストである.自分が痛めつけられ,苦痛にあえぎ,体力の限界まで労働することに『快感』を覚えるタイプが多い」といった「あるある」的な記述もあれば,うすうす思っていたが上手く言語化できなかった事象を誠に平易な言葉で描出してみせてくれたり,「ああ,こういうことだったんだ」と納得させてくれたり,実に充実した読書体験を提供してくれる.

 蒙を啓いてくれたことがらをいくつか記しておこう.「患者全体が醸し出す全体の雰囲気,これを前亀田総合病院総合診療・感染症科部長の西野洋先生は『ゲシュタルト』と呼んだ」「パッと見,蜂窩織炎の患者と壊死性筋膜炎の患者は違う.これが『ゲシュタルト』の違いである」.蜂窩織炎と壊死性筋膜炎,両者の局所所見はとても似ているが,予後も対応も大違いである.そこを鑑別するためにはゲシュタルトを把握する能力が求められる.わたしが働いている精神科では,例えばパーソナリティ障害には特有のオーラとか独特の違和感といったものを伴いがちだが,それを単なる印象とかヤマ勘みたいなものとして排除するのではなく,ゲシュタルトという言葉のもとに自覚的になれば,診察内容にはある種の豊かさが生まれてくるに違いない.ただし「ゲシュタルト診断は万能ではない.白血病の診断などには使いにくいだろう.繰り返すが,万能の診断プロセスは存在しない.ゲシュタルトでいける時は,いける,くらいの謙虚な主張をここではしておきたい」.

あとがき フリーアクセス

岩田 敏

pp.1138

 このあとがきを書いているのは,セミの鳴き声が漸く本格化してきた7月の終わりです.今年は何時になくセミの鳴き始めが遅く,東京でも梅雨明けしてしばらくしてからのことでした.通常首都圏ではアブラゼミのジージーという声に始まり,続いてミンミンゼミのミーンミンミンミンミーが聞かれるようになり,子どもたちの夏休みも終わりに近づき,宿題の提出が気になる頃になるとツクツクボウシのオーシーツクツクが聞こえてきます.箱根や日光など避暑地では,ヒグラシのカナカナカナが涼感を感じさせます.同じ日本でも九州などの西日本ではクマゼミが主流派ですが,近頃は気候温暖化のためにクマゼミの生息域が北上し,首都圏でもシャーシャーシャーという独特の鳴き声が聞かれるようになってきました.しかし昨年は聞こえていたクマゼミの鳴き声が,今年は聞こえて参りません.

 そういえば先日朝のイヌの散歩で,夜が明けたばかりの六本木界隈を歩いていたときのこと,少し控えめなチッチッチ,ニィニィニィという声が聞こえてきたので,植え込みの木の幹に目をやると,他のセミたちと較べて明らかに小振りのニイニイゼミの姿を見つけることができました.このニイニイゼミ,私がまだ小さかった頃は,夏休みにセミ取りに行くと,必ずセミかごがいっぱいになるほど捕れたものでしたが,この10数年間ほとんど目にしたことがございませんでした.久しぶりの対面に懐かしい気持ちになりましたが,それにしてもニイニイゼミはどうして減ってしまったのでしょうか?

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら