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文献詳細

雑誌文献

臨床検査56巻5号

2012年05月発行

文献概要

今月の主題 成長と臨床検査値 話題

遺伝子診断の進歩―成果と今後の課題

著者: 登勉1

所属機関: 1三重大学大学院医学系研究科検査医学分野

ページ範囲:P.515 - P.520

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1.はじめに

 遺伝子診断は,疾患に特異的な遺伝子やゲノムの変化を検出し,疾患を診断することである.国際ヒトゲノム計画の完了によってもたらされた臨床的に有用な発見のうち,単一遺伝子異常に関する知識は,単一遺伝子疾患の診断と治療を改善し,いわゆるgenetic medicineという分野を発展させてきた.その後の生命科学の進歩は,健康や病気に関連する全ゲノムと環境因子などの相互反応を解明しつつあり,多因子疾患である生活習慣病の新しい診断・治療の方法を実践するgenomic medicineの時代の到来が予想される.また,病原体の核酸検査による感染症の遺伝子診断は日常診療で実施されている.遺伝子診断では,遺伝子やゲノムに関する情報を得るための検査法や技術が必須であり,遺伝子診断の進歩は,新規の解析技術や検査キットの開発と臨床応用なしには実現不可能である.

 遺伝性疾患の場合,発症に関連する遺伝子変異の種類に合った適切な解析技術を使用することが正確な診断のために重要である.発症機序の解明が進んでいる単一遺伝子疾患では,遺伝子検査が利用可能な疾患の数は年々増加し,Gene Tests databaseでは2011年に2,500疾患を超えている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/GeneTests/static/whatsnew/labdirgrowth.shtml).一方,これらの遺伝子検査サービスを提供している検査室の数は2005年以降600で一定している.社団法人日本衛生検査所協会が実施したアンケート調査によれば,受託した遺伝子検査のうち,“単一遺伝子疾患の診断に関する遺伝子検査”は,4,082件(2001年)をピークに,2010年の調査では2,645件であった(表1).

 単一遺伝子疾患であっても,表現型と遺伝型の相関はかならずしも1対1ではない.すなわち,同じ診断名(表現型)であっても遺伝子変異は同じでなく,人種や家系によって,原因遺伝子の遺伝子変異に違いがみられる場合もある.さらに,多因子疾患である癌や生活習慣病では,それぞれの遺伝子多型の寄与度に差があるため,検査対象の遺伝子多型の種類が異なることによって疾患リスクの診断予測が一致しない場合も報告されている1)

 本稿では,遺伝子診断の進歩を解析技術の進歩から解説し,単一遺伝子疾患の診断のみならず多因子疾患のリスク診断など,個別化医療を目指した日常診療で遺伝子検査を活用する場合の課題について述べる.

参考文献

1) Ng PC, Murray SS, Levy S, et al : An agenda for personalized medicine. Nature 461:724-726,2009
2) Schmidtke J, Cassiman JJ : The EuroGentest clinical utility gene cards. Eur J Hum Genet 18:1068,2010
3) 宋碩林,一戸敦子,菅野純夫:シークエンス技術開発の歴史といま,そして未来―個のゲノム解読に向けた飽くなき挑戦.実験医学 28:1442-1448,2010
4) 社団法人日本衛生検査所協会遺伝子検査受託倫理審査委員会:第6回遺伝子・染色体検査アンケート調査報告書,社団法人日本衛生検査所協会,2011
5) 登 勉:臨床検査からみたゲノム医療の現状と課題.臨床病理 56:387-394,2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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