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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査58巻4号

2014年04月発行

雑誌目次

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値

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山内 一由

pp.405

 チーム医療の実践には職種間の垣根を越えた連携が求められます.確かにそうですが,まずは,検査部自体が盤石なチーム力(組織力)を有していることが前提ではないでしょうか.診療の場において臨床検査部がさらに存在感を発揮し,臨床検査を大いに活用してもらうためには,個々の検査室の専門性を高めることはもちろんのこと,検査室間の連携を強固にし,検査部の組織力を高めることが肝要であると痛感します.特に,各検査室で得られた断片的な検査結果を検査室間で共有し,ほかの検査情報と併せて,診断に有用なインテグレートされた情報として提供することは,臨床検査の付加価値を高めるうえで極めて重要であり,それこそがチーム医療の実践にほかならないと思います.

 本特集では,検査部内のセクショナリズムがもたらす問題点とそれを打破する具体的な取り組みを中心に,診療効率の向上につながる理想的な検査室間連携について論じていただきました.ご参考にしていただけると幸いです.

検査部長が考える理想の検査室間連携

本田 孝行

pp.406-410

●臨床検査部スタッフは,各部門の一員である前に臨床検査部の一員であることを自覚する.

●臨床検査部内にはひとつの部門のみでは行えない役割が存在する.

●臨床検査部スタッフは,果たさなければならない検査部共通の役割と専門性を発揮しなければならない役割の2つを有する.

●認定臨床検査技師制度を検査部内ローテーションの妨げにしてはいけない.

ICTの機能を高める検査室間連携

遠藤 史郎 , 賀来 満夫

pp.411-415

●微生物検査室は検査結果が全て集約する部署である.

●微生物検査室は病院内で最も早く微生物検査結果を知り得る部署である.

●微生物検査室は検体の品質管理に精通している.

●微生物検査室は微生物検査の意味合い・結果の解釈ができる.

●微生物検査室は病院全体の微生物検査結果を一覧することができる.

栄養サポートチーム(NST)の機能を高める検査室間連携

大林 光念 , 安東 由喜雄

pp.417-421

●栄養サポートチーム(NST)は,院内横断的な医療提供体制の一つである.

●NST活動に携わる臨床検査技師は,栄養障害度の判定に必要な各種生化学検査データの提供のみならず,感染症の合併の有無,重症度の評価を担う微生物学的な検査情報,さらには胃電図検査法をはじめとする生理学的検査データの提供を心掛ける必要がある.

●NSTは,検査室内外での活動を通して臨床検査技師の技量を生かし,存在意義を示す格好の場であり,今後NSTへの臨床検査技師のさらなる積極的参加が望まれる.

病理診断の精確性向上につながる検査室間連携─外科病理医の立場から

岡部 英俊

pp.422-426

●昨今の腫瘍を対象とした精確な病理診断には,形態学的所見に加え,病理部外で実施される非形態学的な手技による分子生物学的情報が不可欠なものがかなり多数存在する.

●それらの症例では,腫瘍組織の形態および非形態学的手技を含めた包括的な検索方法を適切にデザインして検査前の検体処理を的確にすることが,精確な病理診断をするデータを得るうえでの前提条件となる.

●そのためには,病理医は分子生物学的な検索を担当する検査部門と適切な業務連携を構築する必要がある.

造血器疾患の診断精度向上に向けた検査情報連携

宮地 勇人

pp.427-435

●血液検査室では,血液形態検査の精度を確保したうえで,ほかの検査情報や患者情報を踏まえ,付加価値のあるサービスを提供し,良質な診療に貢献することが望まれる.具体的な活動として,造血器疾患などの総合診断がある.

●総合診断とその報告書作成は,病院情報システム(医師電子カルテや部門システム)の状況や既存のシステム(病理診断システムなど)利用の可能性を踏まえて,各施設の事情に合った体制を構築する.

●骨髄,体腔液,リンパ節など血液形態を対象とする総合診断の報告書を作成する場合は,形態検査所見に加え,免疫形質,生化学,血清学,画像検査などの所見を加味し,治療内容と臨床経過を踏まえて総合的に病態診断するとともに,遺伝子検査などの追加検査の推奨を行う.

ハブ検査室としての機能を担う遺伝子検査室

登 勉

pp.437-443

●遺伝子関連検査は3つに分類されているが,施設の方針やビジョンによって,実施する遺伝子検査の範囲を決めることが重要である.

●その機能が明確になれば,同一施設内での遺伝子検査室の役割が決まってくる.

●保険収載されている項目は限定的であり,研究支援,地域連携による遺伝子検査室の発展が望まれる.

―臨床検査の付加価値①―採血室から発信する情報

髙城 靖志

pp.444-448

●採血室を孤立させないためにリアルタイムに状況を発信し,検査部全体でサポートする体制が必要である.

●安全で安心な採血技術の継承のために,採血室から情報を発信することが重要である.

●採血室は正確な検査データを保証するための最初の関門であり,適切に血液を採取することが求められている.

―臨床検査の付加価値②―一般検査室から発信する尿沈渣検査情報

宿谷 賢一 , 田中 雅美 , 久末 崇司 , 川口 直子 , 影山 祐子 , 大久保 滋夫 , 下澤 達雄 , 矢冨 裕

pp.450-454

●自施設で運用可能な尿沈渣教育訓練カリキュラムを作成し,教育を実施する.

●自施設で運用可能な尿沈渣別紙報告書を作成し,付加価値を付けた検査結果を臨床へ提供する.

―臨床検査の付加価値③―臨床検査技師と臨床検査医の連携による検査データ解析

弘島 大輔

pp.455-459

●医師の専門分化が進み,臨床医が検査情報を適切に解釈,活用することは困難である.

●検査室の主たる業務である“分析”に“解析”を加え,検査情報の付加価値を高めることが,検査室と臨床検査技師の存在意義の向上につながる.

●後方診療支援は医療の質と患者安全(医療過誤防止)の向上に寄与する有意義な活動である.

―臨床検査の付加価値④―止血検査室からの情報発信

小宮山 豊 , 吉賀 正亨

pp.460-464

●止血系検査成績異常症例は情報発信の重要対象である.

●予期せぬ血小板減少症での治療方針決定に,ADAMTS13活性やHIT抗体は重要である.

●濃厚血小板(PC)利用の適正化には,輸血検査室との連携・協力体制が重要である.

●外注検査結果の結果解釈に,止血検査室の技師としての解釈が重要である.

今月の特集2 話題の感染症2014

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岩田 敏

pp.465

 衛生環境の整備,抗微生物薬の進歩,ワクチンによる感染症予防法の普及により,感染症は克服されつつあるようにはみえるが,発展途上国においては依然として多くの伝染性疾患が蔓延している.また,HIV感染症,SARS,新型インフルエンザ(A/H1N1),重症熱性血小板減少症候群(SFTS),多剤耐性グラム陰性桿菌感染症など,近年になって新たに出現した新興感染症は少なくない.また,抗癌剤や免疫抑制剤による治療法の進歩による影響,ヒトの免疫保有状況の変化などにより,以前にみられていた感染症が再度問題となる再興感染症も増加している.

 本特集では,最近話題となった新興感染症,再興感染症を取り上げ,その問題点と対策について解説していただく.

重症熱性血小板減少症候群

谷 英樹 , 西條 政幸

pp.467-473

●重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はマダニが媒介する新興ブニヤウイルス感染症で,中国,日本,韓国でその流行が確認されている.

●血球貪食症候群,多臓器不全,血液凝固系異常が認められ,致死率が高い.

●日本では,SFTS virusは三種病原体〔バイオセーフティレベル(BSL3)対応〕に,SFTSは四類感染症として指定されている.

●日本では,RT-PCR法および蛍光抗体法による検査・診断が行われている.

鳥インフルエンザA(H7N9)

菅谷 憲夫

pp.474-478

●鳥インフルエンザA(H7N9)は,パンデミックを起こす可能性が高い.

●H7N9は弱毒ウイルスであるが,人が感染すると重症化する.

●H7N9は,ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性があるが,すでに耐性ウイルスが出現した.

●安全性の高いH7N9ワクチンの開発が望まれる.

中東呼吸器症候群コロナウイルス感染症

砂川 富正

pp.479-484

●2012年9月以降出現した中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者は,2014年1月現在,全て中東地域への渡航歴のあるもの,もしくはその接触者であった.

●臨床症状としては,軽微なものから急性呼吸促迫症候群(ARDS)などまで認められ,下痢や播種性血管内凝固症候群(DIC)の合併例もあった.潜伏期間の中央値は7.6日であった.

●医療機関における感染例が約3割程度を占めることから,平常時からの院内感染対策強化が必要である.

●国内では現時点で中東地域への渡航者が検査の対象となっている.重症急性呼吸器感染症(SARI)全般への注意が必要である.

風疹

奥野 英雄 , 多屋 馨子

pp.485-490

●風疹は,一般的に予後良好な疾患と考えられているが,頻度は低いながら重篤な合併症を起こしうる.

●風疹ウイルスに感受性のある妊娠20週ごろまでの妊婦が風疹ウイルスに感染すると,胎児にも風疹ウイルスが感染し,児が先天性風疹症候群(CRS)を発症する可能性がある.

●風疹は発症すると特異的な治療法がないため,ワクチン接種による予防が最も重要である.

マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ感染症

成田 光生

pp.492-498

●マイコプラズマの薬剤耐性菌は全てリボソームに変異をもっており,感受性菌に比べて増殖力は劣っている.

●リボソームのオペロンを1組しかもたないマイコプラズマにおいては,遺伝子変異の種類(genotype)と実際の薬剤感受性(phenotype)がよく一致している.

●耐性菌対策の観点からも,マイコプラズマ感染症自体を正確に診断することが重要である.

●新しく導入された抗原検出キットについては,感度が今後の課題である.

多剤耐性グラム陰性桿菌感染症

松本 哲哉

pp.499-504

●多剤耐性グラム陰性桿菌は,国内ではESBL産生菌などの腸内細菌科の菌や,多剤耐性緑膿菌(MDRP)や多剤耐性アシネトバクター(MDRA)などのブドウ糖非発酵菌が重要である.

●多剤耐性グラム陰性桿菌は近年,国内外で増加傾向にあり,特にアジア地域など海外で顕著に増加している.

●海外ではさらにカルバペネム分解酵素(NDM-1やKPC)産生菌など高度な多剤耐性菌が広がっており,深刻な状況となっている.

●多剤耐性グラム陰性桿菌に有効な抗菌薬は限定されており,さらに国内では承認されていない抗菌薬もある.

今月の表紙

γ-GTP gamma-glutamyltranspeptidase 1

pp.404

 2014年表紙のテーマは“生命の森”.生命活動を支える重要な物質である蛋白質のうち,実際の臨床検査でも馴染みの深い12種類の蛋白質を厳選.その3D立体構造をProtein Data Bankのデータから再構築.大いなる生命のダイナミズムを感じさせるようにそれぞれの蛋白質を配置し,並べたときには蛋白質による“生命の森”を表現します.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーF1 フリーアクセス

pp.443

「マクロファージの多彩な機能と疾患」

日 時:2014年5月28日(水)10:00~16:10

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル

    5階ライフホール

UBOM(簡易客観的精神指標検査)技術講習会・2014 フリーアクセス

pp.484

 臺 弘先生(元 東大教授,現 坂本医院)の提唱による簡易客観的精神指標検査(Utena’s Brief Objective Measures:UBOMと略称)は,精神活動を情報受容・意思・行動・観念表象という機能の視点から,簡易かつ客観的に評価するための精神生理検査バッテリーです.これは,機能障害の視点を精神科臨床実地に取り入れ,症状評価と脳機能を結びつける役割を担うものです.UBOMは医療・福祉に従事する誰もが実施可能です.

主 催:NPO法人UBOM研究会

日 時:2014年8月23日(土),24日(日)

千里ライフサイエンス技術講習会 第60回 フリーアクセス

pp.490

次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現解析の実際

日 時:2014年5月16日(金)10:00~16:30

場 所:千里ライフセンタービル

    5階501・502・503号会議室

Advanced Practice

問題編/解答・解説編

pp.505,516-517

「Advanced Practice」では,臨床検査を6分野に分け,各分野のスペシャリストの先生方から,実践的な問題を出題いただきます.

知識の整理や認定技師試験対策にお役立てください.

異常値をひもとく・16

薬剤の干渉によりフィブリノゲンが異常高値を示した症例

片岡 美香

pp.506-511

はじめに

 血液凝固検査において異常値が出た場合,検体の確認,時系列の確認,再検(希釈再検,増量再検,用手法)の実施,依頼科,使用薬剤など患者情報の確認,関連項目の検査結果の確認などを実施する.

 今回提示する症例はフィブリノゲン(fibrinogen;Fbg)が異常高値を示し,希釈再検でも矛盾しない結果であったが,時系列,関連項目などとは合致しなかったため凝固波形を確認し,異常反応と判断したものである.また,異常反応の原因について患者情報より,抗真菌薬として用いられた薬剤によるものと推測し,検索を進めた.臨床検査の自動化が進み結果を導き出すプロセスがわかりづらくなってきているが,凝固検査項目においては凝固波形から推定できることも多く,波形を確認することを勧めたい.

次代に残したい用手法検査・10

寄生虫検査

伊瀬 恵子 , 澤部 祐司 , 野村 文夫

pp.512-515

はじめに

 わが国においても土壌伝播寄生虫症が蔓延していた時代があったが,公衆衛生対策の徹底で寄生虫症が激減した.寄生虫症は過去の疾病とされがちであるが,近年の国際化に伴い以前はみられなかった輸入寄生虫症が増加している1).寄生虫検査は,主に用手法で行われており,技師の技術力によるところが大きいため,寄生虫について熟知したうえで検査を行うことが大切である.

 本稿では,寄生虫検査のなかで腸管寄生虫検査について述べる.

短報

ヘパリン起因性血小板減少症の診断における抗血小板第4因子/ヘパリン複合体抗体測定の意義

松尾 武文

pp.518-522

 ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の検査薬として,専用の全自動分析装置に用いる3種類の製品が承認された.化学発光免疫測定法として,ヒーモスアイエルアキュスターHIT-Ab(PF4-H)とヒーモスアイエルアキュスターHIT-IgG(PF4-H)の2種類がある.また,ラテックス凝集法として,ヒーモスアイエルHIT-Ab(PF4-H)がある.臨床現場からの3種の測定結果に関する報告はわずかで,そのHIT診断に対する有用性は十分に解明されていない.ただ,ベットサイドで簡便に結果が得られるゲル粒子免疫測定法やイムノクロマト法と同様に,その迅速性の点は評価されている.しかし,3種ともに測定結果は数値単位(U/mL)として印字されるが,その単位の高低に関する臨床的意義は知られていない.ヘパリンの使用中の血小板減少や血栓の発生といったHITを十分に疑うに足る根拠がない限り,3種ともに検査の適応とはならない.すなわち,“念のため”として安易に検査を実施すると偽陽性結果に悩まされることになる.現在,その臨床的有用性に関して,3種の測定法ともにHITの疑い例のHIT除外診断に有用であるとのコンセンサスが得られている.

病理診断報告書における精度管理─誤記載の検討から

坂本 寛文 , 大鹿 均 , 竹中 麻紀代 , 石川 裕子 , 日比野 智博 , 山岡 可奈子 , 川口 阿珠沙 , 牛丸 一樹

pp.523-525

 病理診断報告書の誤記載内容を分析した結果,電子カルテ化に伴うと思われるスペルミスや変換ミスが多かった.報告書の内部チェック体制の重要性,ならびに防止対策としてのシステム構築の必要性が示唆された.

樋野興夫の偉大なるお節介・4

いのちの言葉~「人生のリセットの形成的刺激」~

樋野 興夫

pp.526-527

 最近の大きなニュースは,なんといっても「刺激だけで新万能細胞~STAP(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)」(朝日新聞1月30日付)であろう.「マウスの体の細胞を,弱酸性の液体で刺激するだけで,どんな細胞にもなれる万能細胞に変化する」とのことである.今後,追試を含めて,検証されることであろう.もし,本当なら,外部からの「形成的刺激」によって,細胞は,簡単に「初期化・リセット」されることになる.「がん細胞の良性化」・「がん細胞のリハビリテーション」の現実性の実証ともなろう.「がん哲学=がん細胞で起こることは,人間社会でも起こる」から生まれた,「がん哲学外来=言葉の処方箋」は,まさに「人生のリセットの形成的刺激」でもある.

 2014年2月8日は,東京は記録的な大雪であった.種々のものが,キャンセルとなり,外出することもなく,自宅で思いのほか,静かな勉学の時が与えられた.25年前の自分の文章に触れた.驚くべきことに基軸は,なんの進歩もなく,ただただ,文章の語彙に肉付けが付いた程度である.「人間存在」の何たるかを,静思する時となった.

書評 がん診療レジデントマニュアル(第6版) フリーアクセス

堀田 知光

pp.491

レジデントによるレジデントのためのがん診療マニュアル

 『がん診療レジデントマニュアル』の書評を書くのは二度目である.1997年に創刊された本書は3年ごとに改訂され,今回が第6版になる.前回の書評は2003年の第3版であるから,10年が経過した.そこで前回の書評をあらためて読み返してみたが,基本的な印象は変わっていない.すなわち,初版以来本書のコンセプトである①国立がん研究センターの現役レジデントが執筆を担当し,各専門分野のスタッフがレビューする編集方針をとっており,極めて実践的かつ内容的には高度であること,②最新の情報をもとに治療法のエビデンスのレベルが★印の数により一目でわかるように記載されていること,③単なるクックブックのようなマニュアル本でなく,腫瘍医学を科学的・倫理的に実践するための必要かつ不可欠の要素がコンパクトにまとめられていることなどである.特に,がん腫別の診断や治療,予後についての最新のデータに基づく解説はもちろんであるが,インフォームド・コンセント,臨床試験のあり方,化学療法の基礎理論,疼痛対策と緩和医療,感染症をはじめとする化学療法の副作用対策についてもバランスよく記載されていることが特徴である.また,外形や様式も白衣のポケットに収まるサイズでありながら,活字は8ポイントの大きさで読みやすく,二色刷で要所を強調しているなど使い勝手の良さも受け継がれている.一方,内容としては第5版から3年間のがん診療とがん臨床研究の進歩が漏れなく盛り込まれている.今日のがん診療とがん臨床研究の進歩のスピードと豊富さから言えば,版を重ねるごとにボリュームが増えそうなものだが,内容がよく吟味され既に常識として定着している事項はできるだけ簡素にして全体のボリュームがコントロールされている.随所にある「Memo」には新しい用語の解説やトピックスが紹介されており,医療の進歩や変化が端的に表れているのを実感できる.

 近年のがん薬物療法は切れ味鋭いが毒性にも特別な注意が必要な薬剤が主体となっており,薬物の作用機序,薬物動態,毒性の管理や効果判定などにおいて十分に訓練された医師の下で行われる必要性が増してきている.そのような背景にあって,国立がん研究センターはがん診療の専門家を養成するレジデント制度を含む教育研修プログラムを整え,多くのがん専門医を輩出してきた.本書は国立がん研究センターの腫瘍内科レジデントによるレジデントのための診療マニュアルである.常に携帯して参照できる実践的指南書であり,がん診療にかかわる若手医師にぜひ薦めたい一冊である.

あとがき フリーアクセス

佐藤 尚武

pp.530

 今年は2月に入って,東京をはじめとする関東地方に2度にわたる記録的な大雪がありました.この原稿はその残雪がまだ大量に残っている時期に書いていますが,本号が発刊される頃にはさすがに跡形も残っていないことでしょう.

 私事で誠に恐縮ですが,今回の大雪に関連したエピソードを少し書かせていただきます.2度目の大雪の夜,帰宅するために乗っていた電車が,降りる予定の駅の6つ手前の駅で立ち往生し,全く動かなくなりました.運転再開のめどが立たないとのアナウンスがあり,距離的には十分歩くことができる範囲なので,意を決して電車を降りました.一応タクシー乗り場を確認しましたが,長蛇の列であり,諦めて歩き始めました.結局なんとか自宅にたどり着くことができましたが,私にとっては映画「八甲田山」を連想させる死の行軍でした.雪道を歩くことの困難さを痛感した一日でしたが,雪に不慣れであるという要因も大きかったと思われます.本誌の編集主幹を務める山田先生は豪雪地域出身なので,鼻で笑われそうです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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