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雑誌目次

雑誌

臨床検査59巻11号

2015年10月発行

雑誌目次

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

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山内 一由

pp.1039

 臨床検査では,夜間や休日に行う時間外緊急検査を称して“当直”と呼んでいます.当直業務の難しさは,普段は専門としていない検査をスペシャリストと遜色なく全うしなければならないという点にあります.さらに,人命に直結し,決して失敗が許されないという緊迫感がその難易度をいっそう高めます.どんなにベテランであっても,不安や緊張は少なからずパフォーマンスを低下させるからです.担当者の精神的負担を軽減して,安全で信頼性の高い時間外緊急検査を提供するためには,ミスが起きにくい盤石な検査体制を構築することに加えて,傍らにおいていつでも手軽に参照することができるマニュアルを備えておくことが肝要です.

 本増刊号の基本コンセプトは“実用性の高いマニュアル本”です.緊急検査のエッセンスをできる限り図表にまとめることによって,瞬時の判断が求められる状況下でも安全かつ質の高い検査を行えるように配慮しました.加えて,時間内検査と時間外検査との間にある,本来あってはならないギャップを少しでも埋めることができたらという願いを込めて,これまでの当直マニュアルでは取り上げてこなかった項目や事柄についてもプラスαとして盛り込みました.なかには,“そんなこと,当直時には必要ない!”と反論を受けるかもしれない事項も含まれていますが,そこには前述の願いが込められているのだとご理解ください.

Ⅰ章 安全で信頼性の高い緊急検査体制の構築

安全で信頼性の高い24時間緊急検査体制の構築

池田 勝義

pp.1044-1049

Point

●使用する機器・試薬,医療情報システムの点検簿,精度管理を完備し,トラブル対応を定義する.

●冷蔵庫,恒温槽などの周辺機器および空調などの環境管理と,そのダウン対策を構築する.

●実施する検査工程および検査結果判定のスキル評価と維持管理を徹底する.

●検査依頼と検体採取(容器)情報の提供を行い,問い合わせと苦情処理対応を明確にする.

●法令に基づく勤務体制を構築し,災害対策と非常時連絡網を完備する.

Ⅱ章 検査前に必要なチェック 〔検体検査〕

検体編

佐藤 真由美

pp.1050-1056

Point

●検体の採取・取り扱いについては,業務に不慣れなスタッフが,時間的な制約と緊張のなかでも確実に実施できる手順を構築しておくことが重要である.

●検体の不適切な取り扱いから発生する検査値の変動について,検査室側,臨床側の双方で知識を共有しておく必要がある.

●過誤のなかでも,容器違い,他者のラベル混入,輸液混入などのヒューマンエラーは発生頻度が高いので,検体採取をするときは,日ごろからオーダ内容と容器や本数の照合,容器やラベルのダブルチェック,複数回の患者認証を習慣付けるべきである.

分析装置編—生化学,免疫汎用装置

金原 清子

pp.1057-1062

Point

●夜間,休日の当直時に機器に問題が発生しないように,常日ごろから装置の保守・メンテナンスを徹底する.

●装置の精度管理(x-Rs-R管理図,個別データ管理など)を充実させる.

●緊急検査と日常検査の分析値の互換性と一元管理が必須である.

分析装置編—血液検査自動分析機

三島 清司

pp.1063-1072

Point

●測定開始前に,検体(検体凝固,採血量,採血管の種類)と分析装置の動作状態(警報音,異常音,液漏れなど)を確認する.

●血球計数(CBC)では検体吸引前の攪拌が,凝固検査では血漿分離のための遠心条件が重要である.

●CBCでは,赤血球恒数〔平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)と平均赤血球容積(MCV)〕,血小板数,ヒストグラム,スキャッタグラムの確認が重要である.

●凝固検査では凝固・反応カーブやフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)/D-ダイマー比の確認が重要である.

Ⅱ章 検査前に必要なチェック 〔生体機能検査〕

生体機能検査

町田 幸雄 , 西村 とき子

pp.1073-1079

Point

●直接,患者と接する生体機能検査においては,患者自身やその家族に対する過誤も存在する.

●患者取り違え防止のため,患者確認と個人情報保護を徹底しなくてはならない.

●患者急変時や患者トラブル発生時の対策手順の作成と周知が必要である.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔血液学検査〕

赤血球系血算値

近藤 直美 , 清水 長子

pp.1080-1083

はじめに

 自動血球計数装置における赤血球系血算値には,赤血球数(red blood cell:RBC),ヘモグロビン濃度(hemoglobin:Hb),ヘマトクリット値(hematocrit:Ht),平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV),平均赤血球Hb量(mean corpuscular Hb:MCH),平均赤血球Hb濃度(mean corpuscular Hb concentration:MCHC),赤血球粒度分布幅(red cell distribution width:RDW),網赤血球数(reticulocyte:RET)などの項目が含まれ,貧血や赤血球増加症の診断,治療効果の判定に用いられる.

白血球数と白血球分画

関根 久実 , 大畑 雅彦

pp.1084-1088

緊急性

 白血球数は,白血球分画のいずれかの増加または減少,異常細胞の出現などから,種々の疾患や造血器腫瘍の診断のきっかけとなる.緊急性の高い白血球数としての目安は,おおよそ15,000/μL以上または1,500/μL以下とするとよい.

血小板数

千葉 拓也 , 鈴木 啓二朗 , 諏訪部 章

pp.1089-1093

緊急性

 一般的に,血小板数が50×103/μL以下になると出血傾向を示すといわれている.さらに,20×109/L以下では頭蓋内出血や消化管出血など,深刻な出血を引き起こす可能性がある.血小板輸血を含む治療を行ううえでも,その原因の特定は緊急を要する.

血液像(非腫瘍性疾患)

安藤 秀実

pp.1094-1100

緊急性

 夜間,休日などで,日常は血液検査を担当していない臨床検査技師が行う血液一般検査は,ほとんどの施設で自動血球計数器(分析装置)を用いて行われ,白血球分画も自動的に5分画されている.大多数の施設では,この結果がそのまま報告されているのが現状である.異常な白血球分画のときには異常メッセージが出されるが,日常に血液検査を担当していない臨床検査技師は,血液塗抹標本を作製し,観察することはほとんどない.

 血液像検査は,白血球系の形態異常から細菌性疾患,ウイルス性疾患の手掛かりを得ることが可能であり,赤血球形態の変化からは播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC),溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome:HUS),血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)などにおいて鑑別の手助けとなることがある.

血液像(造血器腫瘍)

小笠原 篤 , 田中 由美子 , 宮地 勇人

pp.1101-1107

血液像検査の緊急性

 造血器腫瘍のなかでも,腫瘍細胞〔白血病,悪性リンパ腫(malignant lymphoma:ML)〕の著増に伴う腫瘍崩壊症候群(リスク)による電解質異常や急性腎不全1),急性前骨髄球性白血病での播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)による出血症状2)は致死的な病態であるため,血液像による迅速な目視確認が重要である.

 血算や生化学検査などから造血器腫瘍が疑われた場合は,当直時においても血液像で,緊急病態を示唆する細胞形態異常を確認する必要がある.基礎疾患の手掛かりとなる血球形態や腫瘍細胞の出現の有無,血液細胞の異形成の有無などを確認することは,疾患の発見・診断・治療において極めて重要な情報となる.

PT,APTT

小宮山 豊

pp.1108-1112

緊急性

 プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)は止血機能のスクリーニング検査として,術前管理,出血の原因検索,治療方針の検索に重要である.生命予後に直結する可能性もあり,緊急性が高い1).入院時検体は治療介入が少ない段階での採血と考えられるが,検査技師として,クエン酸ナトリウム(natrium:Na)との混合比(表1「2.技術的要因」)は緊急時であっても重要であることを認識しておきたい.また,偽延長を防ぐため,採血管に規定量きっちり採血する必要があることを臨床現場にお願いしていただきたい.

フィブリノゲン

田中 秀磨

pp.1113-1115

緊急性

 フィブリノゲンは凝固反応の最終段階で生じるフィブリン繊維の原材料であり,また,血小板の凝集にも関与している.炎症時には急性期反応蛋白として増加するが,むしろ低下のほうが重要である.その低下(約60mg/dL未満)は止血異常につながり,プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)も延長する1).すなわち,フィブリノゲンの低下はPTやAPTTの延長の原因となるので,フィブリノゲンは重要なスクリーニング検査といえる.

 ほとんどの施設で利用されているフィブリノゲンの測定原理はトロンビン時間法と呼ばれ,希釈された血漿検体に一定量のトロンビン試薬を加え,凝固時間を測定する.その凝固時間の対数値とフィブリノゲン濃度の対数値が逆相関することを利用して検量線から濃度を求める.ほかに,PT測定時の光学的な吸光度(信号強度)変化がフィブリノゲン濃度に依存することを利用してPT測定と同時に算出する方法もある.

FDP,D-ダイマー

徳永 尚樹

pp.1116-1120

緊急性

 フィブリン・フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation product:FDP)および,その一部である活性化ⅩⅢ因子によって架橋化された2つのD分画をもつフィブリン分解産物(D-dimer:DD)は,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)や深部静脈血栓症などの血栓症の診断,およびその重症度判定や,血栓溶解療法の治療効果判定に用いられる1).これらの増加は,線溶亢進による止血困難や血栓による臓器不全,その両方を併せもつDICなど,さまざまな病態を反映するため,的確な凝固線溶状態の評価と早急な対応が必要である.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔一般検査〕

尿検査

久野 豊

pp.1121-1126

緊急性

 尿検査は,腎・尿路系の出血や炎症性疾患の診断および脱水症状や意識障害(昏睡)などの原因を推測するためのスクリーニング検査として行われる.

便ヘモグロビン検査

岡田 茂治

pp.1127-1129

緊急性

 便中にみられる出血の検出は,食道・胃・十二指腸・小腸(空腸・回腸に区別)・大腸(結腸・直腸)を含む消化管での出血を示唆する.便ヘモグロビン検査は,これら消化管のどこかで出血を起こしている状態を判断し,緊急性を要する疾患の診断や大腸内視鏡検査もしくは注腸X線造影検査が必要かの判断に必須の検査である.

髄液検査

石山 雅大

pp.1130-1133

緊急性

 髄液検査は脳・脊髄腔内の病態を知るうえで,重要な検査である.その適応は,感染症や出血性疾患,脱髄疾患,腫瘍性疾患など多岐にわたる1).脳炎や髄膜炎では死亡率や後遺症が残る率が高く,検査結果によって治療が左右される.このため日当直においても迅速で正確な判断が求められる.

穿刺液(髄液以外)

早津 かおり

pp.1134-1140

緊急性

 胸腔,腹腔,心膜腔には正常な状態で漿液性の液体が10〜15mL程度認められる.これらの液体は,毛細血管の静水圧の上昇,膠質浸透圧の低下,血管透過性亢進,リンパ系による漿液の吸収低下などによって生成と吸収のバランスが崩れることで貯留し,穿刺の対象となる.この貯留した液体を胸水,腹水,心囊液(水)という.原因としてはさまざまな疾患が考えられるが,緊急検査にかかわる病態としては感染症,炎症,外傷,悪性腫瘍,循環障害などが挙げられる.特に感染症の場合は緊急な処置が必要となる場合があるので,検査の意義は高い.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔生化学検査〕

蛋白(総蛋白,アルブミン)

村本 良三

pp.1141-1145

緊急性

 各種蛋白の変動のうち,最も危険な因子はアルブミンの低下である.アルブミンは生体の血漿膠質浸透圧維持に重要な役割を果たしており,低アルブミン血症では血管内の水分が間質に漏出し浮腫や肺水種を招きやすくなる.また,体腔内液に貯留した場合は胸水や腹水を招く.

含窒素(尿素窒素,クレアチニン,尿酸,アンモニア)

北村 弘文

pp.1146-1151

含窒素成分の代謝

 血清中の含窒素化合物のうち,尿素窒素(urea nitrogen:UN)は蛋白,クレアチニン(creatinine:CRE)は筋肉のクレアチン,尿酸(uric acid:UA)はプリン体(核酸)のそれぞれ最終代謝産物である.アンモニア(ammonia:NH3)はアミノ酸の代謝産物で(尿素に合成されたのち),いずれも主として腎臓から排泄される.これらの項目は代謝系〔図1〕が順調に機能している場合は,血中濃度がほぼ一定に保たれ,生理的個体内変動が小さい〔表1〕.

電解質—Na,K,Cl

猪田 猛久

pp.1152-1159

緊急性

 一般的に,細胞は至適の電解質濃度の環境下でなければ生存できない.したがって,生体は電解質を至適濃度に保つために極めて巧妙に調節している.この調節機構が破綻すると生命の危険に及ぶことになる.

電解質—Ca,iP,Mg

川崎 健治

pp.1160-1170

緊急性

 カルシウム(calcium:Ca),無機リン(inorganic phosphorus:iP),マグネシウム(magnesium:Mg)の濃度異常は,意識障害,呼吸障害,心不全などの致死的症状や合併症を示すことがあるため1〜3),異常値が出現した際は電子カルテで状況を確認し,依頼医へ速やかに報告すべきである.これらの測定値は高くても低くても異常値として報告する必要がある.

 Caは血液ガス装置で全血中のCaイオン濃度を測定することがあり,Mgも全血中のMgイオン濃度を測定する機器が存在する.これらの装置は救急部に設置されていることがあるため,すでに依頼医がこれらの異常を把握している場合や,血清Ca値の報告よりも前に血液ガスの結果異常を依頼医に報告する場合がある.

血液ガス分析

福田 篤久

pp.1171-1177

緊急性

 動脈血血液ガス分析(arterial blood gas analysis:ABG)は,バイタルサインの一環として,初期診療・急変時・術中などの場面で,今現在の状態が生命危機に陥っていないかを知るために測定される,緊急性・重要性ともに高い検査である.その意義は,生命維持に必要な酸素化および換気に関する情報と,生命維持を困難にする因子である酸塩基平衡に関する情報を短時間に得ることにある.したがって,臨床検査技師だけでなく,救急外来や初療室,集中治療室や手術室などにかかわる全職種の共有患者情報として習得すべきものである.

 最近では,血液ガス項目に加えて,電解質,血糖,乳酸,クレアチニンなどの項目が同時に測定できる血液ガス分析装置も増えており,“多機能急性期検査装置(multi-functional acute-care testing system:MFACTS)”ともいわれている.

浸透圧(血漿,尿)

猪田 猛久

pp.1178-1180

緊急性

 浸透圧が極端な低値,または高値では,頭痛,錯乱,昏睡などが生じることがある.また,電解質異常の鑑別診断に有用な情報が含まれることがある.

 高浸透圧血症で,実測浸透圧と推定値〔ナトリウム(natrium:Na),血糖,尿中尿素窒素(urea nitrogen:UN)から求める〕との差が大きい場合には,急性アルコール中毒や,乳酸性アシドーシス,ケトアシドーシスなどの重篤な疾患の可能性が高いため,緊急を要する.

生体色素(T-Bil,D-Bil)

吉田 俊彦

pp.1181-1184

緊急性

 血清ビリルビンが高値となると黄疸をきたす.早期には眼球結膜の黄染が認められ,皮膚への黄染へと進展し,2.0〜3.5mg/dL以上になると全身の黄疸となる.黄疸症状があるような肝実質性や胆汁うっ滞型の急性肝障害や肝炎は重症である.閉塞性黄疸で胆管炎や胆囊炎などが疑われる場合は,ドレナージや手術などの処置が必要となる1)

 一方,新生児においては,産生や再吸収の上昇と抱合作用の減少によって,生後24時間の時点で5.0mg/dL,36時間までに7.0mg/dL程度になることが判明しており,“新生児の生理的黄疸”といわれている2).このように,黄疸症状があるからといっても,緊急性が伴わない場合もある.しかし,新生児においても表1のような高ビリルビン血症を示す場合は,非抱合型ビリルビンが血液脳関門を超えて基底核や小脳の神経細胞に侵入し“核黄疸”や“ビリルビン脳症”と呼ばれる脳障害を引き起こす可能性が高まる.その場合は,光療法や交換輸血などの治療を実施する必要が生じる.

LD

石川 仁子 , 前川 真人

pp.1185-1189

緊急性

 乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LD)は解糖系最終段階の酵素で,H(B)とM(A)の2種のサブユニットからなる4量体であり,5種のアイソザイムを形成する.ほとんど全ての細胞の可溶性分画に局在し,細胞の傷害・変性などによって,直接もしくはリンパ管経由で間接的に血流に流入する逸脱酵素である.したがって,血清LD上昇はどこかに異常が生じていることを示す高感度なサインである.軽度上昇する病態では必ずしも緊急とはいえないが,心筋梗塞,横紋筋壊死,急性肝炎などでも血清LDが上昇するため,他の検査と一緒に測定することで鑑別診断が容易になる.

 基本的には,血清LDが高ければ高いほど,たくさんの細胞が傷害を受けていることを示すため,特に極端な高値は予後重篤な所見であり,多臓器不全,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC),心肺停止,心筋梗塞,劇症肝炎などでみられる.循環不全や心不全,腎不全などの合併症も考慮されるべきである1).また,癌や白血病・リンパ腫などの血液悪性腫瘍でも血清LD高値を示す.

AST,ALT

嶋田 昌司

pp.1190-1194

緊急性

 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase:AST)は全身の多くの臓器に分布し,アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase:ALT)はほぼ肝細胞に由来する.両者とも細胞障害によって血中濃度が上昇するため,細胞障害の程度を知るために利用する.肝機能という表現は使用しない.

 AST,ALTが低値を示した場合の有用性は少ないが,高値の場合は心筋梗塞や筋炎,重症型肝炎,ショック肝やうっ血肝などショック状態を示していることがある.

ALP,γGT

多田 正人

pp.1195-1199

緊急性

 アルカリ性ホスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)は,アルカリ性(pH9.8付近)でリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり,活性中心にZn2+がある.血清ALPの異常高値は悪性腫瘍の肝・骨転移が多く(成人),一過性高ALP血症(小児)を引き起こす1,2)

 γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-glutamyl transpeptidase:γGT)はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase:AST)〔グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(glutamic oxaloacetic transaminase:GOT)〕やアラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase:ALT)〔グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(glutamic-pyruvic transaminase:GPT)〕と同様に,蛋白質を分解する酵素の1つであり,アルコールや薬物は酵素誘導作用があり,肝内のγ-GTP蛋白量を増加させる.血清γGTの異常高値の原因には肝内胆汁うっ滞や閉塞性黄疸があり,急性アルコール性肝炎では上昇が著しい3)

ChE

刈米 和子

pp.1200-1204

緊急性

 血清アルブミン(albumin:Alb)の値が正常であるにもかかわらず,コリンエステラーゼ(cholinesterase:ChE)が35U/L以下を示すときは,患者が非常に危険な状態である可能性を表しているので,即刻,臨床への報告が必要である1,2).患者所見として低体温,めまい,目のかすみ,嘔吐,呼吸困難,意識障害,失禁などがみられるようなら,医師に対して何らかの中毒の可能性があることを伝える3)

 対処に緊急を要する低ChE血症は,以前は農薬や,殺虫剤の過誤または故意の摂取による有機リン中毒によるものが多かったが,近年は高齢者の排尿障害や筋無力症などの治療薬である間接型コリン作動薬(可逆的ChE阻害剤)の過剰投与によるものもある.低ChE血症はこの間接型コリン作動薬の重篤な副作用“コリン作動性クリーゼ”の危険域を示す唯一の検査項目であるため,大変重要である〔表1〕1,4).代表的な間接型コリン作動薬を表2に示す.

CK,CK-MB

藤田 孝

pp.1206-1207

緊急性

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)は骨格筋や心筋に多量に存在する酵素であり,エネルギー代謝において極めて重要な役割を果たしている.細胞傷害によって血中に逸脱することから,心筋や骨格筋の傷害を反映し,なかでもCK-MBは急性心筋梗塞の診断に重要である.

AMY,P-AMY

青木 義政

pp.1208-1212

緊急性

 アミラーゼ(amylase:AMY)は消化酵素の1つであり,膵臓,唾液腺をはじめ卵管,肝,腎,肺などで産生される.アイソザイムは2種類あり,膵臓にのみ存在する膵型AMY(pancreatic AMY:P-AMY),それ以外の臓器(主には唾液腺)には唾液腺アミラーゼ(salivary AMY:S-AMY)が存在する.

 血中AMY活性の上昇は臓器特異性が低く,唾液腺疾患をはじめ種々の病態で認められるが,直ちに膵疾患,特に急性膵炎との鑑別が必要となるため,その由来臓器の推定にP-AMY活性測定が有用である.

血糖

山崎 家春

pp.1213-1217

緊急性

 血糖は意識障害やショックなど重篤な症状がみられるとき,検査する重要な項目である.生体内ではエネルギー源として重要な要素であり,基準値は75〜109mg/dL程度に調節されている.パニック値は施設によって異なり,臨床医師と協議のうえ定める必要があるが,一例を挙げると,外来患者は60mg/dL以下,350mg/dL以上,入院患者では60mg/dL以下,500mg/dL以上としている.

 緊急時に異常低値や異常高値を放置しておくと生命に危険があるため,採血時の瞬間値を迅速に把握することが正しい初期診断・治療のために必要である.測定値がパニック値の場合は再検の必要性はあるが,再検をする前に,まず検査依頼医師に所定の方法で中間報告を行うことを優先する.さらに,これから再検する旨を伝えることも重要である.

CRP

中川 央充

pp.1218-1221

緊急性

 C反応性蛋白質(C-reactive protein:CRP)は,炎症性サイトカインによって肝臓での産生が誘導される生体防御物質であり,炎症の強さとその値は相関する.しかし,CRPの上昇を伴わない炎症も存在するため,注意が必要である.また,狭義の炎症性疾患だけでなく,循環障害,悪性腫瘍などでも上昇する場合があることに注意したい.

急性冠症候群における心筋マーカー(CK-MB以外)

藤田 孝

pp.1222-1224

緊急性

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)-MB以外で心筋マーカーとして多く利用されている項目は,トロポニン,心臓由来脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein:H-FABP),ミオグロビンである1).いずれの項目も急性心筋梗塞の診断で重要な役割を果たしている.特に心筋トロポニンは心筋に高い特異性を示すことから,急性冠症候群の微小心筋傷害や心不全患者の潜在性心筋傷害を検出することが可能である.

 近年,トロポニンの高感度測定が可能となり,発症早期の検出能力が上がっている2).H-FABPとミオグロビンは急性心筋梗塞の発症早期から上昇を認めるため,早期診断に有用である.

BNP,NT-proBNP

藤田 孝

pp.1226-1227

緊急性

 B型ナトリウム利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide:BNP)は心室への負荷によって分泌が亢進することから,心不全の診断および重症度評価に有用とされているが,急性冠症候群においても発症早期から血中濃度が上昇する.

薬物・毒物

宮城 博幸

pp.1228-1231

緊急性

 一般的に薬物・毒物検査を当直で行う場合,2つの目的に大別される.1つは,汎用機器を用いた治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)を目的とする検査であり,もう1つは,救急外来などを受診した患者が薬物・毒物によって急性中毒を起こしているか否かの鑑別診断を目的とする検査である.

 TDMを目的とする検査では,薬物ごとに定められている有効血中濃度の範囲内に検査値が入っていることが重要となる.低値の場合は薬物の効果が期待できないことによる症状の悪化を,高値の場合は腎不全・心不全などの薬物による各種副作用症状を引き起こす危険性がある.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔免疫血清検査〕

感染症迅速抗原・抗体検査

日高 裕介

pp.1232-1235

緊急性

 当直時に必要な病原微生物の検出を目的とした感染症迅速抗原・抗体検査は,イムノクロマトグラフィー法を原理としたPOCT(point of care testing)検査を中心に,さまざまな試薬が市販されている.感染症におけるPOCT検査は誰でもどこでも簡単に測定できる有用な補助診断法であるが,免疫学的反応を利用した検査であるため,非特異反応・異常反応があることと,感染時期,検体の採取法,使用している試薬の検出感度・特異性によって結果が大きく左右されることをよく理解したうえで使用しなければならない.

プロカルシトニン

蓑田 誠治

pp.1236-1240

緊急性

 プロカルシトニン(procalcitonin:PCT)値は,主に救急医療の現場でウイルス感染か細菌感染かを判別する早期診断マーカーに利用されている.敗血症の疑いなどで測定され,細菌性とわかれば,より早期に的確な抗菌薬を投与でき,患者の予後に大きく影響するため重要な検査である1,2)

腫瘍マーカー,ホルモンなどの迅速検査—hCG,甲状腺関連ホルモンを中心に

阿部 正樹

pp.1241-1245

はじめに

 筆者自身の認識として,当直時の腫瘍マーカーやホルモン検査の必要性と実態が不明確であることから,実態調査を実施した.東京近郊を中心とした400床以上の総合病院の20施設にご協力いただいた結果,腫瘍マーカーの恒常的な当直時測定は1施設のみ,ホルモンに関してはhCG(human chorionic gonadotropin test)の実施施設が70%(14/20)うち3施設は定性のみ,FT3(free triiodothyronine)・FT4(free thyroxine)・甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone:TSH)をオンコールも含めた何らかのかたちで実施している施設が20%(4/20)となり,hCGを除いた腫瘍マーカーやホルモンの夜間測定が,いまだ一般的でないことが判明した.

 本稿ではこれを踏まえて,hCGと甲状腺関連ホルモンについて簡単に触れ,それ以外の項目については測定時に影響を与える要因について解説する.

ABO,Rh血液型

岸野 光司

pp.1246-1251

緊急性

 ABO,Rh血液型検査は,輸血前に実施する必須の検査である.緊急輸血の対応では,輸血用血液製剤の選択のため迅速で正確な血液型判定が求められる.血液型判定の誤りは血液型不適合輸血につながり,患者に多大なる影響を与える〔図1,2〕.

クロスマッチ

友田 豊

pp.1252-1255

緊急性

 緊急検査で依頼されるクロスマッチは,すぐ患者に輸血を行いたい,もしくは,これから輸血を必要とする緊急手術が始まるときに依頼される.特に,夜間・休日に依頼されるクロスマッチは,できるだけ速やかに,正しく検査を行うことが重要である.もし,不適合の結果となった場合には,検査担当者は,その原因〔表1〕を特定し,適合する輸血用血液の確保に努めなくてはならない1)

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔免疫血清検査〕 Memo

製剤管理

岸野 光司

pp.1256-1257

■輸血の管理体制

 当直帯も含めて,輸血療法を実施する場合は,輸血用血液製剤や輸血業務の管理体制を構築する必要がある.そのためには,輸血部門を設置し整備することが推奨されている1,2).それによって安全な輸血の対応が可能となり,また,輸血用血液製剤も一元管理されるため,適正使用の向上にもつながる.

 血漿分画製剤(特にアルブミン製剤)に関しても,輸血用血液製剤と同様に輸血部門で管理することが望ましい.輸血部門が血漿分画製剤を保管していない場合でも,使用動向を把握できる管理体制を築く必要がある.

免疫血清検査で非特異反応が疑われたときの対応

阿部 正樹

pp.1258

 免疫血清検査で非特異反応が疑われた際に実施する第1の確認試験は,日常検査と異なる試薬で同一項目を測定することであり,外注でもよい.これは,測定試薬が異なると抗体や原理の違いによって多くの非特異反応検体で測定結果が異なり(正しく),かなりの確率でその有無が確認できるからである.

 ここで異なる結果が示されれば,追加の確認試験を実施する.特殊な器具や試薬を必要とせずに実施できる方法として,偽高値が疑われる場合には希釈試験を行い,偽低値が疑われる場合には添加回収試験を行う.希釈試験はヒト抗マウス抗体(human anti-mouse antibody:HAMA)など試薬成分に干渉を及ぼす免疫グロブリンの関与の確認に有効であり,添加回収試験は自己抗体の確認に有効である.さらに,特異抗血清による免疫グロブリン吸収試験が実施できれば非特異反応をほぼ確認することが可能であるが,これら追加試験の詳細は専門書を参考にしていただきたい1)

輸血過誤,輸血副作用時の対応

友田 豊

pp.1259

 輸血副作用は,担当医や看護師からの連絡で検査室に情報として入ってくる.輸血副作用の情報が入った場合,検査室がまず行うことは,一連の輸血準備において事務的,技術的な過誤がなかったかを検証することと,輸血用血液製剤を血液センターから受け取った後,輸血部門で保管し病棟に出庫するまでの保管管理が正しく行われていたかを検証することである.

 輸血副作用の連絡・報告を受けてすぐに行うべきことを以下に記す.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔微生物検査〕

塗抹染色の見方

山本 剛 , 河野 香織 , 長谷 朋子 , 池町 真実

pp.1260-1271

 微生物検査は,血液検査や生化学検査に比べると日単位で作業が進み,時間がかかる検査であるが,Gram染色をはじめとする塗抹検査は検査開始から結果の報告までに時間を要さない.また,1回当たりの試薬代も安価であり,大型機器も必要とせず小規模施設や診療所でも手軽にできる微生物検査の1つでもある.イムノクロマト法を原理とした迅速検査によって簡単に微生物の同定が可能になったが,検査材料に対象微生物が存在しない場合には陰性となってしまう.

 塗抹検査は,対象となる微生物を染色し検査を行うものであり,特にGram染色は対象微生物の種類にもよるが,その染色性や形態の特徴を確認することで微生物の推定が可能である.患者背景や臨床経過に微生物の推定を加えることで,より効果的な抗菌薬を絞りこむことが可能で,感染症診療において有用な検査である.特に外科的処置を必要としない肺炎や髄膜炎では抗菌薬治療が開始されるまで短時間であるほど予後がよく,また,感染症の発症は昼夜を問わず発生し,緊急検査としてのニーズは高くなる.それは重症疾患であるにつれてその必要性が高まってくる.緊急検査で行う塗抹検査は,適切な感染症治療のために必要である.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔微生物検査〕 培養の際の注意点(検体の採取と材料の質の評価・培養の仕方・判定の仕方)

血液培養

結城 篤

pp.1272-1275

検体の採取と材料の質の評価

[1]血液培養の対象者

 血液培養は,一般的に敗血症が疑われ,悪寒戦慄,38℃以上の発熱,白血球増多が認められる患者について行われることが多いが,36℃以下の低体温や好中球減少患者も検査の対象となる場合がある.

穿刺液培養(髄液,胸水,腹水,関節液)

宮本 仁志

pp.1276-1280

 髄液,胸水,腹水および関節液といった無菌的な検体は,血液培養と同様に,可能であればGram染色と並行して培養同定・薬剤感受性検査を行うことが重要であり,臨床検査の質が維持できるように,相応の訓練や体制の整備が必要である.

 本稿では,穿刺液の培養検査を行う場合のポイントについて述べる.

喀痰培養

口広 智一

pp.1281-1283

はじめに

 喀痰培養は下気道感染症の原因菌検索に必要不可欠な検査であるが,適切な検査工程(検体採取,保存,前処理,培養,判定)のもとで実施されないと,誤った検査結果を導くことがある.また,喀痰による二次感染防止の観点からも,喀痰培養は微生物検査の十分な経験を有する検査技師が実施すべきである.

尿培養

吉田 弘之

pp.1284-1288

はじめに

 感染症の診断のためには,感染臓器から適切に採取された検体を速やかに処理することが望ましい.診断価値の高い検体は治療前,すなわち抗菌薬投与前に限局されるといっても過言ではない.上記のように検体を処理するには,専門的な知識をもった微生物担当の技師が24時間体制で常勤しなければ対応は困難であると思われる.しかし,国内における検査体制は全ての検査室がそれに対応しているとはいえず,現在行われている通常の検査体制は,通常勤務帯(平日9〜17時)以外は交替制の夜勤者,もしくは当直者が対応しているのが現状である.

 尿路感染症は,腎臓から尿管などの上部と,膀胱から尿道に至る下部臓器とで感染症は区別され,原因微生物もそれぞれによって異なっている.また,状態が急性か慢性か,および単純性か複雑性かによっても検出される微生物に相違がみられる.

便培養

堀 光広

pp.1289-1292

はじめに

 糞便の培養検査は,腸管感染症の原因微生物検索を目的として行われる.外来患者では食中毒起因菌を原因とした下痢症やウイルス性下痢症が多く,時に赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムなどの原虫類を起因とした下痢症もある.入院患者ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)やClostridium difficileによる下痢症が考えられる.このように検査の対象となる微生物の範囲は広い1)〔表1〕.目的とする微生物によって検体保存法や培養法が変わるので,検査依頼時において検査目的を入手することが必要である.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔微生物検査〕 TOPICS

当直時における遺伝子検査法を用いた結核の迅速診断

赤松 紀彦 , 栁原 克紀

pp.1293-1295

■はじめに

 当直時において,感染管理上,緊急性が求められる代表的な疾患として結核が挙げられる.これまで結核の迅速診断には塗抹検査が主に用いられてきた.しかし,塗抹検査は迅速・簡便であるが,判定には熟練を要するため,経験の浅い,しかも普段,細菌検査を行っていない技師が実施することは難しい.また,塗抹検査で抗酸菌の判別は可能であるが,鏡検所見から形態学的に結核菌の判定はできない.さらには,緊急時によく用いられる直接塗抹法は,遠心による集菌を行っていないため,検出感度の低下が否めない.したがって,後日,集菌塗抹法1)で再度確認する必要がある.以上の要因から,結核は当直時においても検査が求められているにもかかわらず,実施し難い状況であった.

 一方,核酸増幅検査は核酸抽出などの前処理を含めて,結果判明に少なくとも3時間以上を要し,操作手順も複雑で技術を必要とするため,これまで当直時などの緊急時に求められることはほとんどなかった.ところが,近年の核酸増幅技術の進歩とともに,最近では次世代型の全自動核酸増幅検査機器が開発され,世界的に普及しつつある.これらの核酸増幅検査法は感度および特異度に優れており,しかも迅速・簡便なことから,その有用性が期待されている.

 本稿では,当直時において実際に使用することが可能な結核の迅速遺伝子検査法について紹介する.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔心電図検査〕

ST変化(ST低下,ST上昇)

菊地 隆司 , 石綿 清雄

pp.1296-1301

緊急性

 ST部分の評価は,心筋虚血を示唆する胸部症状を有する場合,特にそれが救急外来では,患者到着時の最優先確認事項である.心筋虚血の広がりが心内膜下にとどまればST低下を,虚血が高度で心外膜下筋層まで及ぶ貫壁性虚血であればST上昇を示す.ST上昇は,迅速に再灌流療法の適応を検討すべき徴候であり,心筋救済の観点から,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)では治療戦略の中心的役割を担う指標である.

 生理的な変動要因など,心筋虚血以外の因子によってもST変化は生じうる.何の患者情報もなく,たった1枚の心電図の微弱なST変化のみから虚血診断を確定することは困難である.実際は病歴聴取,身体所見,生化学心筋障害マーカー,心臓エコーなどから総合的に診断され,微弱なST変化でも病歴から心筋虚血を疑えば,有意なST変化として捉えられる.一方,迅速な治療が要求されるST上昇型心筋梗塞(ST elevation myocardial infarction:STEMI)は,心電図のみから判断できる病態である.

頻脈性不整脈

杉本 健一 , 河合 昭人

pp.1302-1306

緊急性

 心室性の頻拍でも血行動態が安定して自覚症状の少ない場合がある一方,上室性の頻拍でも急激に血行動態が破綻してDC(direct current)ショックを含む緊急治療が必要となる場合もある.しかし,安定した上室性頻拍症ならば余裕をもって対処できるが,心室性頻拍症では,突然血行動態が悪化したり,心室細動へ移行したりする危険があり,速やかな対応が必要である.したがって,幅広いQRS頻拍は上室性か心室性か鑑別する必要があるが,診断が確信できない場合には,より危険性の高い心室性と初期診断して対応する.

徐脈性不整脈

松本 直也 , 横山 勝章

pp.1307-1310

緊急性

 徐脈とは脈拍50/分以下の状態であり,徐脈性不整脈は失神の原因(Adams-Stokes症候群)の1つである.特に症状を伴う徐脈性不整脈はペースメーカ治療の適応となることがあるため,早期の対応が必要かどうかを見分けなければならない.図1に,持続性徐脈の分類を示す.

電解質異常関連を示唆する心電図

菅原 利昌 , 佐川 俊世 , 古川 泰司

pp.1311-1315

緊急性

 電解質異常は心電図に影響を及ぼす.特に,不整脈を引き起こす電解質異常で臨床的に頻度が高く注意を要するのはカリウム(kalium:K)である.高K血症は患者の生命を脅かす心室性不整脈や心停止を引き起こすので,迅速な初療が必要になる.電解質異常によって認める心電図変化を理解するには,心筋細胞の活動電位を知ることが重要である.活動電位の形成に重要な役割を担っているのがNa,K,Ca2+イオンである.つまり,電解質異常が活動電位に影響を及ぼして心電図に変化が生じ,不整脈の原因となる.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔超音波検査〕

心臓超音波

松﨑 つや子 , 本間 博

pp.1316-1321

緊急性

(1)当直時などに直面する緊急性のある症状として,呼吸困難,胸痛,意識喪失,動悸,浮腫,チアノーゼがある.これらにおいて,問診,バイタルサイン,身体所見,心電図,胸部X線写真,血液生化学検査(緊急用)の結果は重要な情報である〔図1,表1〜3〕.

(2)許される時間内(5〜10分間であっても)で最低限の重要な画像・指標を記録する.

腹部超音波

小山 里香子 , 竹内 和男

pp.1322-1329

はじめに

 緊急検査として腹部超音波検査(ultrasonography:US)を施行する場合の主訴は,腹痛,肝障害・黄疸,発熱・炎症反応高値などが多い.このような病態を示す疾患を表1に示す.

 本稿では,診断にあたって知っておかなければならない超音波所見とポイントを述べる.なお,検査にあたっては,問題部位だけでなく,腹部全般の検索を心掛けるようにすることが大切である.

頸動脈超音波

早川 幹人

pp.1330-1335

緊急性

 脳梗塞・一過性脳虚血発作では,頭部CT/MRIによって脳実質病変が,頭・頸部MR血管造影(MR angiography:MRA)やCT血管造影(CT angiography:CTA)によって血管病変が検索される.その結果に基づいて,超急性期で適応を有せば再灌流療法〔アルテプラーゼ静注療法(4.5時間以内)や血管内治療(おおよそ8時間以内)〕が施行され,また,病型に則した急性期治療が行われる.

 頸動脈狭窄症で,狭窄率やプラーク脆弱性が高度で再発リスクが高い場合は,緊急頸動脈血行再建療法(頸動脈内膜剥離術・ステント留置術)を行うこともある.MRI/MRAやCTAが遅滞なく撮像できるのであれば緊急頸動脈超音波検査の意義は乏しく感じられるかもしれないが,頸部血管病変を非侵襲的にリアルタイムで評価でき,超急性期再灌流療法や急性期の血行再建療法の適応決定に直結する情報が取得できるため,欠くことのできない検査である1)

下肢静脈超音波

八鍬 恒芳

pp.1336-1340

緊急性

 下肢静脈超音波検査は,肺血栓塞栓症および奇異性脳塞栓症の塞栓源検索として重要である.また,重篤な肺血栓塞栓症を未然に防ぐ意味でも,深部静脈血栓症の診断は重要である.

Ⅲ章 報告前に必要なチェック 〔脳波検査〕

意識障害診断と脳波検査—非痙攣性てんかん重積状態の脳波検査の重要性

野沢 胤美

pp.1341-1350

はじめに

 今日のCT(computed tomography)やMRI(magnetic resonance imaging)など画像検査の進歩は,中枢神経疾患,特に脳病変の早期診断と治療に多大に貢献している.しかし,画像検査と脳波検査はその目的は異なり,前者は形態検査,後者は機能検査であり,両者の結果を総合することによって正しい診断が可能になる.

 緊急検査は昼夜に関係なく,それが可能な体制が必要になる.勤務時間外(夜間)に脳波検査が常時行われる体制を準備することは,脳波検査に精通した検査技師と経験豊富な脳波判読医の常駐が必要である.欧米の一部の医療機関では脳波検査を24時間施行できる体制がとられており,検査のオーダ後,1時間以内に検査が施行されている.日中の勤務時間以外(午後6時から午前8時30分)はオンコールで検査技師は直ちに検査に対応するようになっている.

 本稿では,緊急の脳波検査が必要となる意識障害を中心に,脳波検査の手技,脳波所見の疾患特異性などについて記載する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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