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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査59巻8号

2015年08月発行

雑誌目次

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化

フリーアクセス

山内 一由

pp.723

 自然界における現象はあまねくエントロピーが増大する方向へ進みます.エントロピーとは“乱雑さ”,“不可逆性”を表す物理量です.私たち人間も,この世に生を受けた瞬間から,エントロピーが増大する方向へと着実に進んでいきます.どんなに努力しても,皮膚にはしわが刻まれ,髪は抜け落ちます.そして最終的には生命活動を終えることになります.飛躍的に進歩し続ける科学の力をもってしても,この自然の摂理に逆らうことはできません.時間は絶対であり,加齢は不可避です.一方,老化の進行を遅らせること,つまりアンチエイジングは十分に可能です.社会のアンチエイジングに対する期待は絶大で,予防医学の観点からも注目されています.疾患の多くは,老化をその発症の一因としているからです.科学的根拠に基づいたアンチエイジングを実践していくためには,老化の進行程度を的確に捉えうるバイオマーカーの開発と,それを活用した臨床検査が不可欠です.そして何よりも,まずはその基盤となる老化の概念とメカニズムについて理解を深めることが肝要です.

老化のメカニズム

石神 昭人

pp.724-728

Point

●加齢とは,ヒトが生まれてから死ぬまでの時間経過,すなわち暦年齢を示す.一方,老化とは,性成熟期以降,全てのヒトに起こる加齢に伴う生理機能の低下である.

●老化に対する遺伝子の寄与率は25〜30%程度であり,残りの70〜75%は生活・環境要因であると推測されている.

●老年期疾患の最大のリスクファクターは,加齢に伴う生理機能の低下,つまり老化である.

●高齢者では,定期的に検診を受診して検査値が個人の基準範囲から逸脱していないかによって疾患や病気の可能性を探ることが望ましい.

甲状腺機能の老化と甲状腺機能低下症

志村 浩己

pp.730-735

Point

●加齢は,血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の上昇,下垂体における甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に対するTSHの反応性低下,末梢組織におけるT4からT3への変換の低下をきたす.

●高齢者における潜在性甲状腺機能低下症による動脈硬化性疾患や認知機能低下のリスクについては,若年成人と比較して軽度である.

●若年者を対象者として設定された基準値を高齢者の診断に適応すると,甲状腺機能低下症を過剰に診断してしまう危険があるため,加齢によるTSHの上昇を考慮して診断することが必要である.

副甲状腺機能および代謝性骨疾患と老化

竹内 靖博

pp.736-742

Point

●老化によって二次性副甲状腺機能亢進症が生じる.

●二次性副甲状腺機能亢進症は,骨吸収を促進することによって骨粗鬆症をもたらす.

●老化による腎機能低下は,線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の分泌亢進を端緒として骨ミネラル代謝の障害をもたらす.

●老化によるさまざまな内分泌障害が骨脆弱性の原因となる.

心臓の老化と心不全

上村 史朗

pp.744-750

Point

●人口の高齢化に伴って心不全患者が増加している.

●加齢に伴う心不全の主な原因は,虚血性心疾患,高血圧性心肥大,弁膜症である.

●心機能障害を反映する脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は加齢に伴って上昇するため,高齢者における心不全の有用なマーカーである.

●老化に伴う血管障害のマーカーとして,血中蛋白糖化最終産物(AGEs)と,その可溶性受容体(soluble RAGE)が注目されている.

胃の老化と慢性胃炎

赤松 泰次

pp.752-756

Point

●慢性萎縮性胃炎は純粋な老化現象ではなく,胃粘膜萎縮の広がりや程度はHelicobacter pylori(以下,ピロリ菌)の感染期間の長さが大きな要因である.

●高齢者であっても,ピロリ菌感染がなければ萎縮性変化はほとんど認めない.

●ピロリ菌除菌療法は胃粘膜のアンチエイジングに有用であるが,萎縮性変化の進行が少ない若い世代で行うほうがより有効である.

腎臓の老化とCKD

佐藤 稔

pp.758-764

Point

●末期腎不全と加齢腎には類似の病理組織学的変化が認められ,腎障害の共通した進行過程が存在する.

●加齢腎のバイオマーカーには腎障害マーカーが有用であり,血中マーカーとしてクレアチニン,シスタチンCが,尿中バイオマーカーとしてβ2ミクログロブリン,N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ,L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)が用いられる.

●慢性炎症は,加齢による腎機能低下の増悪因子となり,腎機能の低下は老化を促進する.

●レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬の使用,カロリー制限食は,腎のアンチエイジングにつながる可能性がある.

老化と非アルコール性脂肪肝炎

荒生 祥尚 , 川合 弘一 , 寺井 崇二

pp.766-772

Point

●非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は,メタボリックシンドロームの肝臓における表現型であり,進行性の病態をとる.

●老化は,加齢性変化,テロメア長の変化,サーチュイン蛋白,細胞老化などを介してNASHの病態に関与しており,肝臓の脂肪化,炎症,線維化,発癌に重要な役割をもっている.

●老化がNASHの病態を進展させるメカニズムを明らかにすることで,新たな診断法や治療法を開発できる可能性がある.

今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

フリーアクセス

岩田 敏

pp.773

 2012年4月の診療報酬改定で感染防止対策加算が算定されるようになり,感染制御活動における施設内外での連携が,よりいっそう強く求められるようになりました.また,2014年4月の診療報酬改定においては,感染管理加算1を取得する条件として,厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)などのサーベイランスへの参加が義務付けられることになり,検査部門の感染症サーベイランスにおける役割がこれまで以上に重要視されてきています.本特集では,JANISのほか,日本環境感染学会JHAIS(Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance)委員会が行うサーベイランス,日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会が三学会合同で行う抗菌薬感受性サーベイランス,国公立大学附属病院感染対策協議会が行う感染症サーベイランス,感染症法の下に行われている感染症サーベイランスなど,現在,わが国で行われているさまざまな感染症サーベイランスの意義と検査部門とのかかわりについて解説していただきました.

厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業—検査部門の概要

筒井 敦子 , 鈴木 里和

pp.774-779

Point

●JANIS事業への参加医療機関は原則として,自動検査機器による同定および微量液体希釈法による薬剤感受性結果を提出できることが必要である.

●JANIS事業は2015年1月に,CLSI 2012(M100-S22)に準じた薬剤感受性判定基準に切り替えた.

●200床未満の医療機関への参加要件緩和と感染防止対策加算1の算定要件化に伴って,検査部門参加医療機関は急増しており,データの精度管理体制を強化している.

日本環境感染学会JHAIS委員会が行うサーベイランス事業

藤田 烈

pp.780-786

Point

●日本環境感染学会JHAIS委員会では,手術部位感染症と医療器具関連感染症に関するサーベイランスデータの収集と集計結果の公表を行っている.

●手術部位感染サーベイランス部門には約80施設が参加し,年に一度のデータ集計とフィードバックを行っている.

●医療関連感染サーベイランス部門には約90施設が参加し,半年ごとのデータ集計とフィードバックを行っている.

●医療関連感染サーベイランス部門では,従来,対象としてきた集中治療室(ICU)に加え,2015年に新生児集中治療室(NICU)と急性期一般病棟のサーベイランスデータの収集を開始した.

三学会(日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会)合同による抗菌薬感受性サーベイランス事業─10年間の歩み

渡辺 彰

pp.788-794

Point

●三学会(日本化学療法学会・日本感染症学会・日本臨床微生物学会)による合同サーベイランスには全国の300以上の医療機関が参加している.

●原因菌の抗菌薬感受性を集中測定する公的で厳密な学会主導のサーベイランスであり,単なる感受性成績の集約ではない.

●参加施設へ還元される成績は適正抗菌薬療法推進の大きな参考になるとともに,全体の成績は国内外の学会で発表され,かつ英文論文として報告されている.

●得られた成績と保存菌株は,学術研究を含むさまざまな目的での再利用が可能である.

●三学会合同サーベイランスは,日本化学療法学会が要望して実現した,わが国の各種抗菌薬の高用量化が,感受性の回復につながったことを証明している.

国公立大学附属病院感染対策協議会が行う感染症サーベイランス事業

高倉 俊二

pp.796-800

Point

●国公立大学附属病院感染対策協議会では,その中核事業としてデバイス関連感染や手術部位感染,抗菌薬使用状況調査,耐性検出状況(耐性率,緑膿菌感受性)等の多施設サーベイランスを行っている.

●本サーベイランスの結果は部分的にしか公表されていないが,病院の性格や規模,診療体制の似た病院群である国公立大学附属病院におけるサーベイランスであるため,結果がベンチマークとして参加施設が比較・参照しやすいものになっている.

●サーベイランス結果の公表,細菌検査部門における検査方法やデータ抽出の高いレベルでの標準化,各サーベイランスの部門間サポートの拡充,が今後の課題である.

感染症法によるサーベイランス事業

大石 和徳

pp.802-808

Point

●感染症サーベイランスの目的は,収集した感染症情報を解析し,発生動向の監視,疾病対策の評価,発生動向の予測を行うことである.

●病原体の感染力と,罹患した場合の疾患の重篤度などから,感染症は1〜5の類型に分類されており,2015年1月の時点では110疾患が届け出疾患となっている.

●インフルエンザサーベイランスでは,約5,000の医療機関からなるインフルエンザ定点からの患者数が集計され,ウイルス検査は,地方衛生研究所,国立感染症研究所などで実施されている.

地域で取り組むサーベイランス事業

八木 哲也

pp.809-814

Point

●地域で連携して行う感染症サーベイランスには,さまざまな方法や組み合わせがあり,その目的によって選択が必要である.

●地域連携サーベイランスの意義は,お互いの顔が見える施設間でサーベイランスデータの情報を共有することによって,自施設のベンチマーキングや感染対策の質向上に役立つことである.

●カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の感染制御のためにも,今後,地域連携サーベイランスの重要性は増していくであろう.

今月の表紙

Langerhans島はなぜ膵臓内にあるの?(腺房)

島田 達生

pp.722

 Paul Langerhans(1847〜1888年)は,ベルリン大学の医学生のときに膵臓の伸展標本で未知の細胞集団(膵島)を発見し,それはのちに,Langerhans島と呼ばれようになった.表皮内に散在するLangerhans細胞(樹状細胞)も,彼が塩化金を用いた染色で見いだしたものである.

 写真は,ラット膵臓外表面の走査電子顕微鏡像.小さな膨らみをもった多くの腺房が見える.三角形の膵小葉をよくみると,腺房間に細い毛細血管が走っている.膵島は小葉内に分布し,写真では腺房に隠れて見えない.膵臓の微小循環を見てみると,血液は膵小葉内の細動脈からまず膵島の毛細血管網を流れ,続いて膵島を出て,周囲の腺房毛細血管に入り,細静脈に達する.すなわち,膵島のB細胞から分泌された高濃度のインスリンは,膵島の毛細血管から腺房の毛細血管に流れ,腺房に作用して膵液の分泌を促す.

元外科医のつぶやき・8

前立腺生検を受けて

中川 国利

pp.815

 私は生来,健康であり,還暦を過ぎた現在まで入院を経験したことがなかった.しかし,職場健診でPSAが5.1ng/mLと基準値を超えたため,前立腺生検を受けることにした.今回,初めて入院患者となった体験談を報告する.

 以前勤めていた病院の泌尿器科医の助言に従い,外来でMRI検査を受けた.放射線科医がすぐに画像を見て,前立腺に小さなhigh spotを指摘した.不安気な私に対して,「炎症でも生じることがありますし,癌であっても被膜を越えていないため早期でしょう」と,慰めてくれた.しかし,私自身にとっては青天のへきれきであり,狼狽せざるを得なかった.

検査説明Q&A・8

左房に流入する4本の肺静脈は,心エコーではどこに描出されるのでしょうか?

種村 正

pp.816-819

■肺静脈の解剖

 図1は,左心房を後上方からみたものであるが,左心房は心臓のほぼ真裏側にあり,左右2本ずつの肺静脈がつながっている.それぞれ,左上肺静脈,左下肺静脈,右上肺静脈,右下肺静脈と名付けられている.図2にCT画像を示す.左右の肺静脈は離れているが,上下の入口部はとても近いことがわかる.

研究

脳波上3Hz棘徐波複合が出現したときの心電図R-R間隔変化—意識障害の客観的指標への取り組み

横田 進 , 鈴木 ななみ , 糸井 正枝 , 益子 明子 , 油座 博文

pp.820-827

 脳波記録中に,3Hz棘徐波複合(3HzSW)が過呼吸賦活(hyperventilation:HV)中や睡眠中に誘発されたときの心電図R-R間隔変化を検討した.HV中のR-R間隔は,吸気時に短縮し呼気時に延長する呼吸に同期したリズムが認められたが,呼吸動作が停止したときはリズムが減弱した.睡眠中に誘発されたときは,自発呼吸に伴うR-R間隔変化が継続した.以上から,HV中の3HzSW出現時のR-R間隔解析は,動作停止を伴う意識障害を推測する客観的に有用な方法になりうると考えられた.

遺伝医療ってなに?・8

米国の学会で感じたこと

櫻井 晃洋

pp.828-829

今年の3月に米国ユタ州ソルトレイクシティーで開催された,米国臨床遺伝学会(American College of Medical Genetics and Genomics)の学術集会に出席してきた.ソルトレイクシティーは1840年代に末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)徒が入植してできた街で,今でもユタ州住民の7割はモルモン教徒だと聞いている.モルモン教は本来,教義で飲酒を禁じているので,スーパーではワインや蒸留酒を置いていない.筆者にとっては幸いなことにビールは普通に買えるが,陳列棚にまるで危険物であるかのような注意書きがある.いかにも保守的であまり面白みはないが,(米国にしては)安全な印象のする街である.長野オリンピックの4年後の2002年には冬季オリンピックも開催され,最近はスキーリゾートとしての知名度も上がっているらしい.

 モルモン教徒は子だくさんで,かつデータベース化された家系図情報を備えていることから,遺伝学研究には理想的な集団で,教団も研究に積極的に協力してきた歴史がある.そんなわけで,ユタ大学は過去も現在も人類遺伝学のメッカともいうべき大学なのである.家族性大腸ポリポーシスの原因遺伝子APCを発見した中村祐輔シカゴ大学教授も,遺伝性乳癌卵巣癌の原因遺伝子BRCA1を発見した三木義男東京医科歯科大学教授も,これらの研究をユタ大学で行っているし,それ以外にも,日本の人類遺伝学をけん引する多くのリーダーたちが,かつてこの大学に留学していた.ついでにいえば,BRCA1/2の特許を取得したMyriad Genetics社の本社も,ユタ大学キャンパスのすぐ隣にある.

書評 みるトレ リウマチ・膠原病 フリーアクセス

徳田 安春

pp.729

爪と指の微細な点状の病変や隆起がまるで3Dのようにみえる

これだけの美しい爪と指の病変写真集はかつてない

 好評の『みるトレ』シリーズの1つ,リウマチ・膠原病編.しかし,この領域のアトラス集によくあるSLE(全身性エリテマトーデス)の蝶形紅斑などの写真集がまた出た,ということではない.この本は『リウマチ・膠原病の指と爪』というタイトルにしてもよいくらい,これでもかこれでもかというほど爪と指の所見が出てくる.しかも超高画質で高倍率.これだけの美しい爪と指の病変写真集はかつてなかった.微細な点状の病変や隆起がまるで3Dのようにみえる.

書評 みるよむわかる生理学—ヒトの体はこんなにすごい フリーアクセス

荒賀 直子

pp.743

誰が読んでも楽しめる,生理学の新しいサブテキスト

 このたび医学書院から『みるよむわかる生理学─ヒトの体はこんなにすごい』が発刊されました.著者の岡田隆夫先生は長年にわたって生理学の教育,研究をされていて多くの書物を執筆されています.長年の経験の中で培われた,わかりやすい生理学の講義がこの書に集約されています.

 医療職を目指す学生が専門科目を習い始めて最初の難関が,生理学・解剖学ではないでしょうか.私が看護学を学んだころは解剖生理学という名前で,教師が人体の各部所の名前や働きを述べていき(時々は事例を入れながら),学生はそれを覚えていくという授業内容であり,授業中にはそれを覚える間もなく次々に新しいことが展開していくので私自身は不得意科目の一つでした.しかし本書を開いて最初に感じるのは美しい色彩で生き生きとした絵が描かれていることで,今までの生理学の本とは違った優しい印象を受けます.

書評 みるトレ 感染症 フリーアクセス

徳田 安春

pp.787

スマホ時代の勉強会

プロたちのケースをシェアしよう

 医師一人が経験できるケースは限られている.一方で,みたこともないようなケースの患者さんがどんどん受診してくる.いったいどうすればよいか? 院内のケースカンファレンスでは検査所見と画像所見のダブルチェック作業が中心であり,病歴や身体所見を吟味し解釈するトレーニングは困難である.一方で,院外の勉強会を覗きに行くと,詳細な病歴聴取をしたかどうかのツッコミが参加者から投げかけられ,症例提示者は鍵となる病歴を隠そうとして慌てる姿をさらけだす.このような会に出ているだけで臨床能力はほんとうにアップするの?という質問を聞くことがよくある.

書評 外科医のためのエビデンス フリーアクセス

森 正樹

pp.830-831

偏見・常識に囚われない公平な文献の解析

 医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に,安達洋祐先生による「臨床の疑問に答える─ドクターAのミニレクチャー」が連載されていた.2012年から2015年のことである.すこぶる評判が良いためこの連載を本にしてほしいと思っていたが,それが現実となった.『外科医のためのエビデンス』として書籍化されたのである.しかし,本書は単にこれまでのミニレクチャーをまとめただけではない.短期間のうちに最新の文献が加えられ,また大幅に加筆された.

あとがき フリーアクセス

山田 俊幸

pp.834

 総合診療医が,ある症例の診断に至るプロセスを,研修医を指導しながら披露するテレビ番組をご存じでしょうか.先日,勤務している大学の卒業生で,この番組の常連でもあるH医師が,飛行機のなかで遭遇した2つの事例を取り上げた回を観ました.どちらも呼吸困難が主訴で,結論をいいますと,過換気(過呼吸)症候群と緊張性気胸(胸膜が破れて空気が入り,肺を圧迫する病気)でした.前者は予想が当たり,家族に自慢しましたが,実はほめられたものではありません.多くの鑑別すべき重要疾患を否定してたどり着くものなのに最初からそれしか疑えなかったからです.それはともかく,航空機のなかという医療器材が不十分な状況で気胸の診断に至り,応急措置までやってのけたH医師の腕前にはただただ感服するのみで,若い人は憧れるだろうなと思いました.

 ただ,自分の専門から思ったのは,簡単な検査機器があったらな,ということで,例えばハンディエコーなどがあってもよいかもしれないし,ハンディタイプの血液検査機器があったらどうでしょう? 取り上げられた事例においても,血液ガスのデータや,急性心筋梗塞や肺塞栓血栓症を鑑別する検査データがあれば役にたつかもしれません.番組のコンセプトは,問診と基本診察だけでどこまで迫れるか,ですが,このような状況においても基本検査所見が使えればよいと思います.誰がやるかが当面の問題になりますが,客室乗務員に特別にトレーニングしてもらってもよいかもしれません.街角での検査よりこちらの特例のほうが重要だと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

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64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

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今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

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今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

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今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
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今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

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今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

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63巻4号(2019年4月発行)

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63巻3号(2019年3月発行)

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63巻2号(2019年2月発行)

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今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
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59巻6号(2015年6月発行)

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今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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